学童クラブ育成料の滞納者への対策

当市では、就労などの理由で保護者が日中家庭にいない市内在住の児童に対し、放課後に適切な遊び場を与えて、健全な育成を図るために必要な生活指導等を行うものとして、学童クラブ事業を実施しています。この学童クラブ事業については、後記条例のとおり、学童クラブに登録した児童の保護者は、児童一人につき5000円の育成料を納付しなければならないと規定されていますが、支払いをしない保護者に悩まされています。そこで、こうした保護者・児童に対して、次のような対策を取ることは可能でしょうか?

(対策1)

育成料の滞納によって、学童クラブの登録を制限すること。

(対策2)

督促状など保護者に渡す文書において「滞納がある場合登録をお断りする場合があります。」などと明文化すること。

(対策3)

育成料を滞納している保護者から、新たに学童クラブ登録の申請があった場合に、登録不承認とする決定をすること。

(対策4)

現に学童クラブを利用している児童に対して、育成料の滞納を理由に年度の途中で強制的に登録抹消決定をすること。

(対策5)

兄弟で学童クラブを利用する世帯において、兄の分の育成料を滞納したまま兄が小学校を卒業した場合、兄の分の滞納を理由に弟の登録不承認決定や登録抹消決定をすること。

(対策6)

滞納者の最新の情報を調べるにあたり、同意書を得ることなく、住民基本台帳の閲覧や通学校からの情報収集を行い、住所、電話番号、世帯構成、課税情報などの個人情報を調査すること。

(対策7)

保護者が支払った直近月分の育成料を、保護者の同意を得ずに、より消滅時効に近い過去の滞納月分に充当すること。ただし、育成料の支払いは、銀行口座等からの自動振替によっているが、自動振替ができなかったときには、納入通知書によっている。

■当市の学童クラブ事業条例(抜粋)

第四条 学童クラブ事業に登録した児童の保護者は、児童一人につき月額5000円の育成料を納付しなければならない。

第七条 この条例で定めるもののほか、学童クラブ事業の利用に関し必要な事項は、規則で定める。

■当市の学童クラブ事業施行規則(抜粋)

第四条 学童クラブ事業に登録することができる児童は、市内に住所を有し、次の各号のいずれかに該当する者であって、当該児童の保護者が就労等の理由により家庭において適切な保護を受けることができないものとする。b

一 市立小学校に在学する児童 

二 市立小学校の通学区域内に住所を有する児童であって、市長が適当と認めるもの

第六条 市長は、第四条に規定する登録資格に該当しない等の理由で登録に適さないと認めるときは、登録を承認しないことができる。

(基本的な考え方)

 学童クラブ事業は、児童福祉法6条の2の規定に基づき、家庭において保護者の適切な保護を受けることのできない児童に対し、健全な育成を図るために必要な生活指導を行うものです。この事業によって確保すべきは、保護者の適切な指導を受けることができない児童に対し、放課後の生活指導等をすることです。

育成料の未納に対して、地方税の例により滞納処分ができるか、それとも民事上の強制執行を要するかは、現在の条例・規則の規定及び事業の運営から直ちに結論を導くことは困難ですが、いずれにしても、今回ご相談の対策案については、かかる学童クラブ事業の本旨に基づいて検討する必要があります。即ち、最優先すべきは、保護を必要としてる児童への放課後の生活指導です。

(対策1)

原則としてできないものと考えます。

前記「基本的な考え方」に従えば、仮に、学童クラブ事業の利用を市と保護者の私法上の契約と考えたとしても、育成料を単なるサービスの対価と見ることはできません。滞納された育成料については、民事上の法的措置を執り、強制的債務の履行をさせるべきです。

もし、育成料を強制徴収が可能な公債権である分担金と考えるならば、強制徴収という手段が与えられている以上その方法で回収を図るべきで、なおのこと登録制限という対策は取り得ないことになります。

(対策2)

督促状にそのような文章を記載することは不適当です。

督促状に記載すべきは、育成料を分担金と位置付ける場合には、地方税法の例により滞納処分をすること、私法上の債権と位置付ける場合には、民事上の法的措置を執ることであると考えます。

(対策3)

登録を不承認とすることができるのは、規則4条の規定する登録資格がない場合、あるいは、登録資格の有無を判断するのに必要な資料を添付しなかった場合に限られます。したがって、育成料の未納を理由として登録を拒否することは違法と考えます。

この点、規則6条の規定する「登録資格に該当しない等の理由」における「等」に含まれるものとしては、学童クラブ事業の目的から見て、登録申請にかかる児童を受け入れることが事業の支障となる場合に限られると考えます。育成料の未納については、原則としてそのような場合にあたらないでしょう。

(対策4)

強制的に登録を抹消することはできません。

この点、登録抹消の制度が条例・規則上見当たらないものの、規則6条に該当する事由が年度途中で発覚したり、発生したりした場合には、たとえ年度途中であっても登録を抹消することが可能と考えます。

しかし、育成料の未納が登録抹消の事由に該当しないため、これを理由とした登録抹消をすることはできません。

(対策5)

登録不承認、登録抹消のいずれもすることができません。

弟において登録の要件を具備している以上、登録を承認しなければなりません。滞納育成料の回収については、それはそれとして別に行う必要があります。

(例外の可能性)

以上は原則論です。条例または条例の委任を受けた規則により、一定の場合に限って例外を設けることは可能と考えます。

例えば、保護者に、あえて日中就労しなくても足りる資産・収入がありながら、育成料を支払わず、かつ、滞納処分または民事上の強制執行を免れるために資産を隠匿しているような場合には、登録を不承認とし、年度途中で登録を抹消し、または二人目以降の児童の登録を不承認とすることができる旨の規定を置くことは許されるでしょう。このような場合には、育成料を徴収しえないばかりでなく、他の保護者との衡平を著しく阻害するからです。

いずれにしても、こうした条例・規則がない場合に、主管課の判断で例外を創設することはできません。

(対策6)

 育成料を分担金と考えるときは、国税徴収法141条以下に基づく調査権があるから、こうした調査をすることは可能です。

他方、育成料を私法上の債権と考えるときは、原則として個人情報保護条例に違反するものと考えます。これを可能とするためには、条例または条例の委任を受けた規則において、学童クラブへの登録に際し、住民基本台帳の閲覧や、通学校からの情報収集を行うことができ、住所、電話番号、世帯構成などの個人情報を登録に際し提供すべき情報として規定しておく必要があるでしょう。条例・規則の根拠がないまま、登録の際に同意を求めることも個人情報保護条例の潜脱といえます。

(対策7)

 民法の488条の弁済充当の指定に関する規定により、納入通知書に支払いにかかる育成料が何月分のものかを記載する欄があり、市がその記載をして納入通知書を送付する場合は、原則として納入通知書に記載したとおりに弁済充当することができますが、支払者が直ちに異議を述べたときは、支払者の意思に従うことになります。

とはいえ、消滅時効が迫っている育成料債権については、直ちに法的措置を執るべきであって、弁済充当の問題として処理することは不適当です。