行政財産の使用許可を受けた者の破産

当市では、市民の自主的な文化活動の場を提供するとともに、文化の普及と振興を図るために複数のホール、展示室等を有する文化施設を設置しており、この文化施設の一部に来場者のために、行政財産の使用許可により、レストランを営業させています。ところが、平成20年1月に、行政財産の使用許可を受けていたA社が、経営状態が悪化し、民事再生法に基づき、民事再生の申立てを行いました。
その際のA社の代理人の話によれば、A社が保有する店舗を同業他社に営業譲渡することにより、再生計画は認可される見通しとのことで、行政財産の使用料、光熱給水費等市に対し支払うべきものは支払っていくとのことでした。そのため、平成20年度の使用許可も行うこととし、その条件として、民事再生計画が不認可になったときは、使用許可を取り消すことを明記した使用許可を行いました。ところが、平成20年7月にいたって、A社の代理人から、債権者集会において、金融機関からの協力が得られず、再生計画が否決されたため、破産手続に移行する旨の連絡があり、裁判所からも、破産法に基づき、財産保全管理人が選任された旨の通知が来ました。
平成20年度の行政財産の使用許可条件通りに、A社に対する使用許可を取り消してしまうと、新たに、使用許可を受けるものを公募しなくてはならず、少なくとも4ヶ月間は、レストランの営業を停止しなければならなくなり、文化施設の利用者に多大な迷惑をかけることになります。
破産手続の中で、営業譲渡の話を承認して、他の業者に営業を引き継いでもらえば、レストランの営業停止期間は大幅に短縮することができると思いますが、このようなことをすることに問題はありませんか?

1 民事再生とは

民事再生手続は、ご案内の通り、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の協力の下に、再生計画を定め、当該債務者の事業又は経済生活の再生を図る制度です。債務者は、再生計画を作成し、これを裁判所に提出し(民事再生法165条)、裁判所の決定をもって、債権者集会の決議に伏すこととなります(民事再生法169条)。しかしながら、債権者集会において、再生計画が否決されたときは、裁判所は、再生手続き廃止の決定をし(民事再生法191条)、破産手続に移行します(民事再生法249条、250条)。破産の申立てがあり、債務者の財産の管理及び処分が失当であるとき、その他債務者の財産の確保のため特に必要があると認めるときは、裁判所は、破産開始の決定があるまでの間、債務者の財産に関し、保全管理人による管理を命ずる処分をすることができます(破産法91条1項)。本件では、財産保全管理人が選任されているということですから、A社の財産を確保する必要があるという判断を裁判所がしたものと思います。

2 保全管理人の権限

保全管理人は、債務者の財産を管理処分する権限を有しますが(破産法93条1項)、営業の譲渡をするためには、裁判所の許可を必要とします(破産法93条3項で準用する78条2項)。しかも、保全管理人の性質上、破産管財人と違って、緊急を要する場合以外には、営業譲渡のように積極的に債務者の財産を処分することはしないものと思われます。したがって、A社の営業譲渡が行われるとしても、破産開始決定後となるのが通常でしょう。さらに、A社が自社で所有する店舗に関する営業譲渡であれば、経済的価値がありますが、行政財産の使用許可による店舗は、行政財産の使用許可を受けたものの地位が当然には承継できませんから、経済的価値はほとんどないものといえます。まして、本件では、再生計画が不認可になったときは、行政財産の使用許可を取り消すこととなっていますから、経済的価値はないと言っていいでしょう。したがって、破産手続の中で、営業譲渡を受ける事業者が現れる可能性はきわめて低いといえ、営業停止期間が短縮される可能性は低いといわざるを得ません。

3 使用許可の取消

以上は、営業譲渡の可能性という事実上の問題について説明しましたが、次に、法的な説明をします。行政財産の使用許可の取消事由が発生した場合に、それまでの使用者がその地位を他者に譲渡することができないのは当然です。行政財産の使用許可を受けた者には、行政財産を本来の目的に使用するとき等の公益上の必要性があるときは、当然にその地位を失うという制約のある使用権原に過ぎないからです。

したがって、市としては、再生計画が認可されなかったA社については、使用許可条件に従って、使用許可を取消し、速やかに、他の事業者を公募することとなります。その際に、4ヶ月程度のレストランの営業停止が生じたとしても、やむを得ないものと考えます。

次に、使用許可取消通知を送付する相手方ですが、前記の通り、破産開始決定までの間は、保全管理人が債務者の財産を管理処分する権限を有していますから、保全管財人あてに通知すれば足ります。その際には、行政財産の取消通知のみならず、使用許可部分の明け渡しを求めることとなります。

4 使用許可部分の明渡請求

保全管理人(破産手続開始の決定後は破産管財人)が、速やかに、使用許可部分を明け渡さないときは、保全管理人(破産管財人)を被告として、使用許可部分の明け渡し訴訟を提起することとなります(破産法96条、85条)。ただし、訴えの提起は議会の議決事項ですので(自治法96条1項12号)、その前に裁判所に対し、保全管理人(破産管財人)が財産の管理及び処分を適切に行っていないとして、裁判所に保全管理人(破産管財人)の解任を申し立てるのが(破産法96条、75条)、有効なときもあります。