2008年 冬

 私道への下水道設置

Question

甲市では、私道への下水道設置については、公共下水道の私道に関する設置要綱に基づき整備を図っており、要綱では、私道所有者全員の土地支障承諾を得ることが設置の要件となっています。ところが、次のような事例が発生し、住民からは、下水道の設置を強く要請され、苦慮しています。どのように対応すべきでしょうか。

1 民間開発事業者が宅地開発をし、開発した宅地を分譲したが、開発によって設置した道路の敷地については開発業者が単独所有権を有している。ところが、開発業者は、すでに解散し、精算未了の状態のまま、清算人となっている代表者も所在が不明である。

このような場合、甲市として何らかの対応をすべきか。住民の自主的な活動を促す場合には、どのような助言をするのが適当か。

2 私道の敷地は、所有者6名が土地分6分の1ずつで共有持ち分を有しているが、そのうち、現実に居住していない共有者1名が私道に下水道を設置することに反対している。

このような場合、甲市としては、どのように対応したらよいか。

Answer

1 原則

原則として、私有地に私有地の所有者の承諾なく工事を行えば、所有権を侵害したとして、不法行為となり損害賠償責任を問われることになります。たとえ、それが公共性の高い下水道設置工事であっても同様です。

したがって、要網にあるとおり、設問1も設問2も、原則として私道所有者の承諾が必要です。

上へ戻る

2 導管袋地

しかし、下水道などの導管を設置するために、常に私道所有者の承諾が必要であるとすると、私道所有者が拒否した場合や行方不明の場合に導管を設置することができなくなります。このような状況は、下水道を設置することによって隣地を侵害する程度と、下水道管を設置できないために低下する土地の利用価値を比較すれば、明らかに不当です。

そこで、多くの裁判例では、民法209条、210条、220条及び下水道法11条を類推適用し、他人の土地対し導管や引込線を設置することを認めています(東京地判平4・4・28判時1455・101など)。

また、講学上も他人が所有する隣接地の上空あるいは地下に導管、引込線を通さなければ、水道・下水道・電気・ガス・電話等の本管、本線にたどり着けない土地を「導管袋地」と呼んで、このような土地所有者には隣接地所有者の同意なく導管を設置することができるという法定導管設置権があるとされています(「法定」というのは法律で定められたという意味ではなく、承諾が無くても当然に認められるという意味です)。

上へ戻る

3 法定導管設置権の要件

法定導管設置権が認められるには、①導管袋地であること、②導管を設置する必要があること、③囲繞地のために損害が最も少ない位置であること(民法211条類推)が考えられ、この要件を満たした箇所に関し、法定導管設置権が認められると考えられます。

但し、侵害を受ける隣地所有者に対し、償金を支払う必要があります(民法209条2項、212条類推。なお、導管袋地が民法213条の類推適用を受ける場合には償金を支払う必要はありません。)。

上へ戻る

4 市の対応(1について)

 以上の考え方によれば、導管袋地には法定導管設置権が当然に認められることになりますので、市や供給者事業者は住民の申込みに応じなければならなくなります。しかし、本当に導管袋地であるのか判断できないこともあると思われます。

そこで、判断が付きかねる場合は、行方不明の清算人に対し、導管設置権確認訴訟を提起し、導管設置権があるとの確認判決を得るよう住民に助言するほかありません(行方不明者に対し、訴訟を提起する場合は公示送達という方法がとられます)。

甲市は、その確認判決に基づいて下水道設置工事をすることになります。

上へ戻る

5 共同所有の場合(2について)

共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができます(民法252条)。一方、共有物に変更を加えるには他の共有者全員の同意が必要です(民法251条)。

では、下水道の設置は、共有物である私道の変更にあたるでしょうか、それとも管理行為にあたるのでしょうか。

この点についての裁判例はありません。しかし、私道の使用目的は通行であることを考えると、私道の使用目的を変更する場合ではない限り(下水道の設置が私道の通行を阻害する場合ではない限り)、下水道の設置は管理行為であるとして、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができると考えます。

そこで、甲市としては、本件私道の共有者6名のうち、下水道設置に反対する共有者以外の5名の共有者の持分の価格の過半数の同意を得て、反対している共有者に対しては、工事を行う旨の通知をした上で、下水道を設置することが可能であると考えます。

なお、反対している共有者が持分価格の過半数を有している場合には、その同意なくして下水道を設置することはできなくなります。

その場合には、共有物分割請求(民法256条)の訴えを起こし、分割の結果、賛成している共有者の敷地だけで下水道を設置する、または、分割請求の結果、賛成している共有者の敷地だけでは足りない場合は導管袋地として法定導管設置権を主張することになると考えられます。あるいは、他の共有者は反対している共有者相手に権利の濫用等の理由を立てて、下水道設置に同意するよう求めるしか方法がありません。

いずれの方法も共有者が裁判を提起する場合ですので、時間と費用がかかることになります。

上へ戻る