道路工事に伴う営業補償について

当市では、道路工事として、老朽化した橋梁の掛け替えを行うこととし、仮橋を築造し、工事期間中は、仮橋に迂回することとしています。ところが、架け替える橋の近くで、商店を経営している市民から、仮橋へ迂回する市道の道筋から外れてしまうため、店の売り上げが落ちるので、売り上げ減少分を補償して欲しいとの申し入れがありました。当市としては、当該店舗への誘導看板を設置し、自動車の転回広場も確保していることから、当該店舗へ与える悪影響は最小限度にとどめる方策をとっています。このような場合であっても、売り上げが減少する場合には、営業補償をしなければなりませんか。

図

市道は、道路管理者としての市が一般交通の用に供する道です(道路法2条1項)。言い換えれば、市道は、住民ないし一般公衆の通行の用に供するものであり、住民ないし一般公衆は、その行政上の措置の反射的効果として、これを自由に通行できることとなります。このような住民ないし一般公衆が、市道を利用できる関係を、「一般使用」といい、市道を使用する住民ないし公衆に特別の権利を付与するものではなく、したがって、住民ないし一般公衆は、市道を利用することができる特定の権利又は法律上の利益を有するものではありません。

このことは、市道に接して、店舗を設置し、営業している市民にとっても変わることはなく、市道に接して、店舗を営業していることにより、その営業利益について特定の権利又は法律上の利益を有するものではありません。

したがって、本件におけるように、橋梁の掛け替え工事を行うために、市道を迂回させた結果として、橋を渡るために、店舗の前を通過する人、車両がいなくなったとしても、店舗を営業する市民は、道路管理者たる市に対し、損失補償を請求する権利はありません。

下級審の判例では、道路に接して店舗を営業しているものからの、売り上げが減少としたことに対する損害賠償を請求した事例において、公道に接していたことによる特定の権利又は法律上の利益の存在を否定しています(大阪高裁昭和56年10月21日判決。判例時報1102号73頁)。

ただし、道路工事を行うにあたっては、道路を利用する住民ないし一般公衆に対する悪影響を最小限度にとどめる対策をとる必要があります。それにもかかわらず、必要な対策をとらず、その結果として、住民に損害を与えたときは、不法行為による損害賠償債務が発生することもあり得ます。

本件では、誘導看板を設置し、通行できなくなる橋の付近に自動車の回転広場を設けていますから、店舗営業者に対する影響を最小限度にとどめる措置を講じていると評価できます。したがって、不法行為となることもないと考えます。