2009年 夏

市の都合で工事請負契約を解除したときの損害賠償請求について

Question

当市では、幅員約1・8mの赤道にも水道管を必要に応じて敷設しています。平成20年12月中旬に、既に官民境界の確定が終わっている赤道に敷設された水道管が老朽化し、漏水の恐れがあることから、工期を平成21年2月末日とし、請負代金を240万円とする水道管の取り替え工事(工事請負契約)をA社に発注しました。水道管の取り替え工事はすべて、赤道(市有地)内で行うため、発注に先立って、赤道沿線の住民に対する説明・了解は取っていません。

ところが、A社の担当者が、工事着工前に、赤道沿線の住民に工事を開始する旨の挨拶に歩いたとき、赤道沿線の居住者であるBさんから、母親が自宅で療養中であるので、工事を行われては困ると強硬に反対されました。その後、数回にわたり当市の職員もBさん宅を訪問し、水道管が老朽化しており、いつ何時漏水してもおかしくない状態であることを説明し、さらに、工事を行う時間帯や騒音振動には配慮することなど説明し、工事に対する理解を求めましたが、平成21年1月中旬に至っても、Bさんは、納得しませんでした。

当市の担当課長は、市民の反対を押し切ってまで工事に着手するべきではなく、これ以上工事の着手が遅れると、平成20年度内に工事が完成しない可能性が出てきたことから、平成20年度における工事を断念し、A社との契約を解除することとし、その旨をA社に伝えるとともに、契約締結後、工事の準備に要した費用の明細を提出するように求めました。

しかし、A社は、工事契約の解除は、当市の都合によるものであるから、工事の準備に要した費用の外、本件工事請負契約により得られたであろう利益として、工事代金の10%を解除に伴う損害賠償として支払うように求めてきました。

当市としては、工事の準備のために現実に要した費用を賠償すれば足りると考えていますが、問題はありませんか。

Answer

民法641条本文によれば、請負契約においては、注文者は、請負人が仕事を完成するまでの間はいつでも契約を解除することができるとされ、契約解除の理由は問われません。ただし、注文者がこの解除権を行使するためには、請負人に発生した損害を賠償する責任があるとされています(同条但し書き)。

したがって、ご質問のケースでも、市が市民の要求に配慮して、平成20年度内の工事完成をあきらめ、A社との契約を解除することができます。

問題は、注文者たる市の都合により工事を解除した場合に、市がA社に対して支払うべき損害賠償の範囲です。

この点については、下級審の判例ですが、東京地裁昭和60年5月28日判決(判例時報1158号200頁)は次のように述べています。

「民法641条は、注文者に対し、請負人が仕事を完成する前である限り、何時でもその理由いかんを問わず請負契約を解除することを認めた規定であるが、右規定が注文者に対しかかる自由を認めた趣旨は、注文者に対して不要な仕事の完成を強制することは酷であり、かつ、社会経済的見地から見ても不相当である反面、請負人に損害を賠償すれば請負人にとってもなんら不利益はないから中途解約を否定する必要がないことにある。そうだとすれば、請負人は、注文者の側の一方的事情により請負契約を工事中途で解除されるのであるから、これによる積極損害の賠償を請求しうることはもとより、工事完成により得べかりし利益をも損害として請求することができるものと解すべきである(但し、公平の見地上、請負人が中途解約により節約できた労力を他の仕事に転用しこれによって利益をあげたような場合には、請負人は右未完成部分の工事完成によって得べかりし利益から他の仕事によってあげた利益を控除した残額についてのみ損害賠償の請求をすることができるものと解すべきである。)。」

この判例が判示するとおり、民法641条に基づく契約解除の場合には、注文者は請負人に対して、契約履行のため支出した費用とその得べかりし利益の合計額が損害となるものと考えることとなります。現実に、工事に着手した後に、契約が解除された場合には、解除の時までに請負人がなした仕事に照応する請負代金(報酬)相当額をもってこれを算定することになりますが(名古屋高裁昭和63年9月29日判決、金融・商事判例811号15頁)、ご質問の場合においては、未だ工事に着工していませんから、出来高により賠償するということはできません。工事の準備に要した費用は、積極損害として容易に算定することができると思いますが、得べかりし利益については、A社が過去において受注した同種の請負工事における利益率を契約代金に乗じて算出し、この金額から他の仕事によってあげた利益を控除した額になりますが、この利益率及び控除すべき利益の算出も現実には困難な場合があるものと思われます。そのような場合に備えて、あらかじめ、契約書において、損害賠償の予約を行っておくもの一つの方法です。