水道料金債権の督促

平成15年10月10日の最高裁の決定の後、2005年秋号90頁【水道料金債権の督促手数料】において、水道料金に関し自治法231条の3第1項の規定に基づいて行った督促について「すでに行った督促行為は、私法上の催告と考えることができ、民法153条の要件を充足すれば、時効中断の効力を有するものと考えて良いと思います。」との記載がありますが、当該当初の督促については施行令171条の督促ととらえて、時効中断の効力を有すると考えることはできないでしょうか。

自治法231条の3第1項に基づく督促は、自治法236条4項により、時効中断の効力を有するほか、強制徴収することができる債権にあっては滞納処分の前提要件となり、また、強制徴収力を有しない債権にあっても、条例に定めるところにより手数料及び延滞金を徴することができますから、行政処分と考えられています。しかし、平成15年10月10日の最高裁の決定により、水道料金が231条の3に規定する使用料ではないということになりましたから、同条に基づき行った行為は、法律上の根拠を誤った行為といわざるを得なくなりました。

ところで、ある行政行為としては瑕疵があるが、これを他の行政行為としてみればその要件を満たしている場合、当該他の行政行為としての効力を認めることを違法行為(処分)の転換と呼び、これを認めることができる場合があります。しかし、違法行為の転換が問題となるのは、住民側が行政行為の瑕疵を主張するのに対し行政側が行政行為の有効性を維持しようとする場合であるのが一般的ですから、行政行為の転換が認められる場合は、住民側不測の不利益を与えることがないような場合に限定すべきです。

水道料金に関する督促においては、行政処分の形で行われたものが、行政処分としての効力を有しない場合ですから、これを、違法行為の転換と同様に考えることが可能であれば、自治法231条の3の規定による督促を施行令171条の規定による督促として、時効中断の効力を認めることができることとなります。

ところで、施行令171条の規定によれば、同条が適用になる債権は自治法231条の3第1項に規定する歳入に係る債権を除く債権とされていますから、水道料金債権も施行令171条の適用を受けるものとなります。そして、督促の主体は、ともに、地方公共団体の長であり、相手方は、「納期限までに納付しない者」、「履行期限までに履行しない者」と債権の性質に応じて表現の違いはありますが、意味するところは同じであり、行うべき行為はともに「期限を指定して督促」ですから、231条の3第1項の規定に基づく督促を、施行令171条の督促とすることに、督促の要件上の問題点はないものと考えます。

そこで、次に検討すべきは、本来法律上の根拠を誤った督促を、施行令171条の督促とすることにより効力を認めることにより、相手方に不測の不利益を与えるか否かですが、施行令171条の督促には、時効中断効力以外に、相手方に不利益となる効力はありませんから、転換を認めることに支障はないこととなります。

以上のことから、ご質問者の指摘の通り、水道料金について自治法231条の3第1項に基づいて行った督促は、施行令171条の督促として効力を認めることができると考えることができます。したがって、2005年秋号90頁【水道料金債権の督促手数料】の回答は、「すでに行った督促行為は、施行令171条の督促と考えることができ、当初の督促に時効中断の効力を認められ、さらに、その後の催告(事実上の督促)が民法153条の要件を充足することにより民法上の中断の効力が生じる。」と訂正いたします。