学校給食費の債権者

2006年春号88頁【市税等の時効】では、「学校給食費については普通地方公共団体の収入ではありません。」としながら、2008年春号103頁【学校給食費の債権者と消滅時効の期間】では「このように考えれば学校給食費の債権者は市となり」とされていますが、この二つの見解は正反対の結論のように読み取れますが、どのように理解すればよいのでしょうか。

私費会計で行っている学校給食費については、市町村の債権と考えるには、市町村の収入として取り扱われていないこと及び給食費を児童生徒の保護者の債務とする明示的な法律行為ないし行政処分が存在しないことから、2006年春号では「学校給食費については普通地方公共団体の収入ではありません。」としました。すなわち、「教科書代同視説に従って学校給食を私費として取り扱っている限り、学校給食費支払請求権は校長個人と保護者との契約により発生していると考えるほかはない」(東京弁護士会業務改革委員会自治体債権管理問題検討チーム編「自治体のための債権管理マニュアル」285頁)との考えからです。

しかし、学校給食費の性質を検討する中で、学校を設置している市町村を債権者としなければ、実態にそぐわないとの考えが強く主張されるようになりました。すなわち、学校給食法4条は、「義務教育諸学校の設置者は、当該義務教育諸学校において学校給食が実施されるように努めなければならない。」とし、学校給食を実施する場合においては、同法11条1項は「学校給食の実施に必要な施設及び設備に要する経費並びに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるものは、義務教育諸学校の設置者の負担とする。」、同条2項は「前項に規定する経費以外の学校給食に要する経費(以下「学校給食費」という。)は、学校給食を受ける児童又は生徒の学校教育法第16条に規定する保護者の負担とする。」と規定していることからすれば、学校給食の実施者は「義務教育諸学校の設置者」すなわち、市町村であり、市町村が自らの事務事業として行い、食材費のみを児童又は生徒の保護者の負担としているのですから、市町村が食材費相当額を保護者から給食費として徴収していると考えるべきであるとするものです。そこで、2008年春号の【学校給食費の債権者と消滅時効の期間】では、昭和32年12月18日及び昭和33年4月9日の行政実例等を紹介しつつも、市町村を債権者とするための法律構成を行いました。

2006年春号【市税等の時効】の記載は、私費会計として給食費が取り扱われている現状を素直に表現したものであるの対し、2008年春号【学校給食費の債権者と消滅時効の期間】の記載は、給食費の債権者は市町村であるべきであるとの考えに基づき、これに適合するように解釈しようとしたものです。このように、解釈が分かれているのは、本来存在すべきではない私費会計という処理を認めている現状を前提としているからです。そのため、ご質問の通り、結論として、正反対の回答となっていますが、この回答の執筆担当者は2008年春号の解釈を支持するものです。

さらに、給食費について、市町村の収入として予算に計上しない私費会計の存在自体が自治法210条に規定する予算総計主義に違反するものと考えていますので、名古屋市の包括外部監査人も指摘されているとおり、私費会計の廃止に向けた動きが起きてくることが望ましいと考えています。この点については、給食費の債権者が市町村ではないとする前記「自治体のための債権管理マニュアル」も公会計による管理を提唱しています。

なお、平成21年11月20日松山市(会場松山全日空ホテル)で開催される日本弁護士連合会業務改革シンポジウム第二分科会では「自治体財政の健全化と弁護士の役割─自治体の収入確保とその法的手法─」のテーマの中で、給食費の問題点も取り上げます。自治体職員の方には是非参加していただきたいと思っています。お問い合わせは、日本弁護士連合会業務第1課電話03─3580─9332までお願いします。