審査請求における代理人の資格と弁護士法72条

当県では、宅地建物取引業者である株式会社Aが、不動産の購入者の依頼を受けて、県税事務所長が行った不動産取得税の賦課処分に対し、不動産購入者の代理人として、審査請求を申し立てる事案が、最近1年間で5件に及んでいます。1件目の審査請求に対しては、A社が仲介した物件について、代理人として審査請求をしたものと思い、特に、代理人資格について疑問を感じることもなく、審査請求を棄却する旨の裁決をしてしまいました。しかしながら、その後、立て続けにA社を代理人とする4件の審査請求が申し立てられましたので、この取り扱いについて、どうすべきか悩んでいます。

1 弁護士法72条

弁護士法72条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定しています。この条項の立法趣旨について、最高裁大法廷は、昭和56年7月14日判決(刑集25巻5号690頁、判例時報6 3 6 号26頁) において、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。しかし、右のような弊害の防止のためには、私利をはかつてみだりに他人の法律事件に介入することを反復するような行為を取り締まれば足りるのであつて、同条は、たまたま、縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもつて目すべき行為までも取締りの対象とするものではない。」としています。


2  宅地建物取引業者が行う行政庁に対する不服申立ての代理行為

この最高裁判決の趣旨からすれば、弁護士又は弁護士法人ではない、宅地建物取引業者が、報酬を得る目的で、業として法律事務を取り扱うことは許されません。したがって、たまたま、宅建物取引業者が、自らが仲介した不動産につき、あらかじめ予想していた不動産取得税の額より高額な不動産取得税を賦課された購入者のために、アフターサービスとして無報酬で審査請求の代理人となった場合には、弁護士法72条には抵触しないものと考えるべきでしょう。

しかしながら、ご質問のケースは、A社を代理人とする審査請求が1年間で5件も出ているということですから、報酬を得る目的で業として審査請求の代理をしていると考えるのが合理的でしょう。 ただし、弁護士法72条は、但し書きにおいて「ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定していますから、宅地建物取引業者について、この但し書きの適用の有無を検討する必要があります。すなわち、税金に関する不服申立てについては税理士が、建築審査会に対しうる審査請求については建築士が代理人となること等については、この但し書きの適用があると考えられているからです。

しかしながら、宅地建物取引業法に規定する宅地建物取引業とは「宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行なうものをいう。」と規定されていますから(宅地建物取引業法2条2号)、行政庁に対する不服申立ては含まれません。また、ご質問の事例は、不動産取得税に関するものですから、税理士法52条にも違反します。すなわち、税理士法52条は「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。」と規定し、同法2条1号は税理士の業務として税務代理行為を規定し、税務代理行為には行政不服審査法の規定に基づく不服申立てが規定されているからです。


3  弁護士法72条違反の行為の効力

弁護士法72条に違反して行われた審査請求の申立て行為の効力に関しては、残念ながら、判例はありませんが、訴訟行為に関しては、弁護士法72条に違反する訴訟行為は無効であって追完を許さないとする判決があります(東京高等裁判所昭和46年5月21日判決、判例時報633号71頁)。「行政庁に対する不服申立事件」は訴訟事件と並列して明文で定められた法律事務ですから、訴訟行為と同様に考えてよいと思います。すなわち、弁護士又は弁護士法人ではない者が行った行政庁に対する不服申立て行為は無効と考えるべきです。


4 審査庁としての対応

宅地建物取引業者が、報酬を得る目的で業として審査請求の代理人として申し立てた審査請求に対して、審査庁としては、どのように対応すべきかですが、前記3記載東京高裁の判例に準じて考えれば、審査請求の申立ては無効であって、追完も許されないということになりますから、ただちに、審査請求を無効な申立てによるものとして却下することも可能でしょう。しかし、行政庁に対する不服申立てという性質を考えるとただちに却下するのではなく、行政不服審査法21条に基づき、相当な期間を定めて補正を求めるべきです。その際には、審査請求人に対し、弁護士法72条を摘示した上で、審査請求の代理人となり得る資格のある者を代理人に選任するように補正を求めることとなります。なお、この場合には、補正を求める相手方は、無資格の代理人ではなく、審査請求人本人になります。仮に、補正を求めた期間内に、補正がなされなかった場合は、無効な代理行為による審査請求として却下することとなります。


5 刑事告発

弁護士法77条は、弁護士法72条に違反した者については2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する旨を規定しています。また、刑事訴訟法239条2項は「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と規定しています。この告発義務には、ある程度の裁量が認められていますが、補正を求めても、なお、宅地建物取引業者が、代理行為を続けるような場合には、刑事告発も検討すべきでしょう。