公の施設の使用不承認

当市では、公の施設として体育館を設置しています。市民であるAは、体育館を使用する都度、市職員及び他の利用者に対し、暴言を吐いたり、暴力行為を繰り返すため、他の利用者からの苦情が絶えません。体育館の職員は、Aに対し、その都度注意をし、改善を求めているのですが、その職員に対しても暴力行為に及んでいます。
体育館条例には、市長は「秩序又は風俗を乱す恐れがあると認めたとき」、「管理上支障があると認めたとき」等の場合には、施設の使用を承認しないとの規定があり、この条例規定を受けて、施行規則において、体育館の使用者及び入館者は、施設の使用等について、係員の指示に従うこととされ、この指示に従わない者及び従わない恐れがある者の立ち入りを拒み、又は退去を求めることができる旨を規定しています。
そこで、市長は、Aに対し、6ヶ月の間、体育館の使用を不承認とし、その期間内に、体育館に立ち入ろうとした場合には、立ち入りを拒否したいと考えてますが、このような処分は、地方自治法244条2項及び3項に違反しますか。
仮に、6ヶ月間の使用不承認ができるとして、Aが体育館の使用不承認期間経過後に、体育館の使用を承認するに当たって、暴言・暴力行為を再度行うようであれば、ただちに、使用不承認とすることはできますか。その場合、不承認の期間を長期間に設定することができますか。

地方自治法244条2項は「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない」とし、さらに、3項において「住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取り扱いをしてはならない」と規定しています。

判例は「集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであって、これらの点からみて利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。」としていますが(最高裁平成7年3月7日判決。民事判例集49巻3号687頁、判例時報1525号34頁、判例地方自治140号41頁)、このように厳格に考えるのは、集会という表現の自由に係わる公の施設の利用関係だからです。この点、体育館の利用は、集会のためではない限り、表現の自由とは関係しません。したがって、集会のように供される場合に当たらない公の施設の利用に関しては、当該施設の設置目的を阻害する場合には、その使用を拒否することができます。ただし、公の施設の利用を拒否する場合には、公の施設の設定目的を害するような事実があること、あるいは具体的な危険があることを証明する必要がありますので、立証のための資料は十分に用意する必要があります。

ご質問のケースは、体育館の使用を拒否する正当な理由といえるかどうかが問題になります。ご質問によれば、Aは、職員の注意、指導に従わず、暴言・暴力行為を繰り返していると言うことですから、体育館内の秩序を乱していると判断できます。したがって、その使用を拒否する正当な理由があります。

そして、その場合には、Aの暴言・暴力行為の存在を認定できる証拠、例えば、被害を受けた人の報告書、現場を確認した職員の報告書、あるいは、Aに対する指導記録などが必要になります。

しかしながら、Aに対し、今後一切、体育館の使用を認めないとすることは、「不当な差別」に該当する恐れがあります。その意味で、6个月間という期間を区切って、使用不承認とすることは妥当であると考えます。

次に、使用不承認期間が経過したときの対応ですが、期間経過に備え、あらかじめ、Aに対し、文書をもって、体育館の使用規則を遵守すること、施設等の使用に関する係委員の指示に従うこと、職員及び他の利用者に対し暴言を吐いたり、暴力行為を行わないことを指示し、万一、この指示が守れないときは、ただちに、体育館の使用承認を取り消し、退去求めることを警告しておく必要があります。もし、再び、Aが暴言・暴力行為に及んだ場合には、前回より、長期間の使用禁止期間を設定しても、「不当な差別」には当たりません。

なお、暴言・暴力行為の内容によっては、「緊急に不利益処分をする必要がある」場合に当たりますので、行政手続条例上の聴聞をする必要はありません。

また、使用不承認期間に、繰り返し、強引に、体育館内に立ち入ろうとした場合には、立ち入り禁止の仮処分を裁判所に求めることも有効です。仮処分命令が出されたにもかかわらず、体育館に立ち入ろうとすれば、住居侵入罪での告発も容易になりますし、警察の協力を得やすくなります。