指定管理者職員による交通事故

当市では、特別養護老人ホームを設置していますが、平成19年度から指定管理者制度を導入し、指定管理者として、A社会福祉法人を指定しています。
これまで、何の事故も発生していなかったのですが、今年8月に、A社会福祉法人の職員であるYが、入所者を提携先の病院に連れていくために、A社会福祉法人所有の自動車を運転中に、自転車と接触し、自転車を運転していた小学生にけがをさせてしまいました。幸い、けがの程度は軽く、一週間程度の治療で、治癒しました。
A社会福祉法人所有の自動車には、自賠責及び任意保険がかけてあり、保険により、治療費及び自転車の修理費用は支払われることとなっています。
また、当市では、損害賠償額の決定について、地方自治法180条の専決の議決がなされていません。

この場合、A社会福祉法人の職員は、国家賠償法1条1項の公務員に該当しますか。
仮に、A社会福祉法人の職員が、公務員にあたる場合には、当市も事故の責任を負うことになり、議会の議決が必要になると思われますが、保険で、損害が補填されるときも、議会の議決が必要でしょうか。

1 質問1について

国家賠償法1条における公務員の範囲

国家賠償法1条における公務員は、公務員法上の公務員に限定されず、法令により公権力の行使(純私経済的作用を除く非権力的な行為を含みます。)の権限を付与されていれば、身分上は私人であっても、公務員に含まれます。

指定管理者は、自治法244条の2第3項により、公の施設の管理を行うことができるものですから、指定管理者の職員が公の施設の管理のために行為を行った場合には、当該職員は国家賠償法1条に規定する公務員に該当します。


2 質問2について

自賠責の加入

自動車損害賠償保障法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定し、人損について民法715条の特別法となっています。そのため、国家賠償法1条との関係でも、特別法となり、自動車損害賠償保障法3条が適用される範囲では、国家賠償法1条の適用はありません。したがって、人損に関しては、御市はA社会福祉法人とともに、運行供用者責任を負うこととなります。

これに対して、物損については、自動車損害賠償保障法3条は適用になりませんから、原則通り、国家賠償法1条が適用になり、御市が損害賠償責任を負うこととなります。


議会の議決

人損については、自動車損害賠償保障法3条に基づく運行供用者責任が認められますので、損害賠償の額の決定の議決が必要になります。

また、物損については、指定管理者の職員が行った行為であっても、その行為が、公の施設の管理のために行われたものであり、純私経済的作用でない限りは、国家賠償法1条により、地方公共団体が被害者に対し損害賠償責任を負います。

したがって、損害の全額を賠償するときには、自治法96条1項13号により、損害賠償額の決定が必要になります。これに対して、過失相殺等で、互いに譲歩したときには、同項12号により、和解の議決が必要となります。


保険による補填と議会の議決

損害賠償の額の決定について、議会の議決が必要であるとしているのは、損害賠償金を支払うことは、地方公共団体にとって、異例の支出義務を負うものであると同時に、その責任の所在を明らかにし、適正な賠償額とするためです。その結果、現実に支払った賠償額が審議の対象となるのではなく、損害賠償額全額が審議の対象となります。

したがって、自賠責や任意保険によって、保険金が支給されたとしても、その保険金を含めた額全体について議決を得る必要があります。