自動契印機導入について

複数の枚数に及ぶ契約書が一体のものであることを証明する方法として、①契約書を袋とじとし、袋とじの綴目の部分に知事印及び相手方の印章を押印する方法、又は②契約書の各葉のとじ込みの間に二葉にまたがって知事印および相手方の印章を押印する方法があるが、

(1)
自動契印機による打刻をもって、①②に替えることができるか。
(2)
(1)が可能である場合、打刻するのは契約当事者のいずれか一方のみが行えばよいのか、それとも双方がそれぞれ別のデザインによる打刻をする必要があるか。
(3)
(2)において双方の打刻が必要であるとした場合において、一方が打刻できないときは、その当事者は、逆に打刻に替えて押印をしなければならないか。

(1)に対して・・・不可

(2)に対して・・・打刻で代替することが不可

(3)に対して・・・打刻で代替することが不可

【理由】

第1 (1)に対して

民法施行法第6条2項の趣旨

 民法施行法第6条2項が「証書カ数紙ヨリ成レル場合ニ於テハ前項ニ掲ケタル印章ヲ以テ毎紙ノ綴目又ハ継目ニ契印ヲ為スコトヲ要ス」

 と規定しているのは、複数枚にわたる私製証書における文書の一体性(一体の契約書であること)を担保するために、他にも方法があるにもかかわらず、契印による方法がもっとも適切であることに基づきます(なお、このことは確定日付を付する場合に限らないと考えられます。)。

 とすると、法は、文書の一体性を担保するためには、私製証自治体法務研究2011・春◆ 116書に対して契印を打つことが必要と考えていると解釈せざるを得ません。

 したがって、打刻機による契印打刻で民法施行法6条2項を代替可能であると解釈するのは困難であると考えます。

 なお、この点について調査した限りにおいては、直接の記述やその根拠が明記されている文献は見つかりませんでした。

判決書等との違い

 住民票や登記事項証明書、判決書においては、自動契印機を採用しており、現実には契印をしていません。

 これは、民法施行法第6条2項は「私署証書」の場合を規定していると読めること、また、契約書のように作成者が複数の当事者である場合と異なって、それらの書類は、作成者が単独である点で決定的に異なることに基づくと考えられます。

 なお、非公式に裁判所や自動契印機メーカーに対し、自動契印機による契印の法的根拠について問い合わせをしてみたところ、いずれも明確な回答を得ることはできませんでした。

契印は成立要件ではなく文書の証拠力(信用性)の問題であること

 民法は契約自由の原則を採用しており、同原則の内容の一つとして方式の自由が導かれます。したがって、契約を締結する際、原則として契約書の作成は要求されておりません。民法上、契約のほとんどが文書の作成が成立要件とされていない契約=諾成契約と規定されています。

 したがって、極論すれば、契約書自体が単なる証拠ですし、畢竟、複数枚にわたる契約書の契印は成立要件ではなく文書の一体性を担保するという証拠の信用性の問題に過ぎません。

 この観点からすると、自動契印機による契印でも現実の契印に代替可能できるとの解釈の余地もあると思われます。しかし、自動契印機による契印は、少なくとも民法施行法第6条2項の要請を完全には満たさないと言わざるを得ません。したがって、裁判官の心証形成の点においては、自動契印機による契印と現実の契印では証拠力(証拠の信用性・証拠としての価値)において決定的な差異が生じると考えられます。


第2 (2)に対して

 上記の通り、契約書において自動契印機による契印は不適切であると考えますが、仮に契約書に対しても自動契印機による契印で処理する場合を想定して、以下の通り付言します。

 文書の一体性の担保という民法施行法第6条2項の趣旨からは、契印は証書の「作成者全員」が行うことが不可欠です。もし、作成者の一部のみの契印だけで足りるとしてしまうと、一部の差し替えや抜き取りが可能となってしまい、文書の一体性は全く担保されません。

 したがって、仮に契約書に対しても自動契印機による契印で処理する場合、打刻するのは契約当事者のいずれか一方のみでは足りず、双方がそれぞれ別のデザインによる打刻をする必要があります。


第3 (3)に対して

 文書の一体性の担保という民法施行法第6条2項の趣旨からは、契印は証書の「作成者全員」が行うことが不可欠であることは既述の通りです。

 したがって、(2)において双方の打刻が必要である以上、一方が打刻できないときは、打刻できない当事者は、打刻に替えて押印をしなければならないと考えられます。