公道上に伸びてきた樹木の剪定について

市道上に、個人所有の土地から樹木の枝が伸び、歩行者や自動車が当該枝を避けて通行せざるを得ない状況になっているため、道路管理者として、当市は数回にわたり土地所有者に対し樹木の剪定の依頼を行いましたが、土地所有者は市の依頼に応じようとしません。
市が、個人所有の土地から伸びてきた枝を剪定することができますか。

 民法233条1項は、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」旨を規定していますから、市は、土地所有者に対して、樹木の枝を剪定するように請求することができます。しかしながら、土地所有者が市の請求に任意に応じてくれない場合には、樹木の剪定を求める訴えを提起し、判決を取得した上で、強制執行手続によらなければなりません。
 また、市道に張り出した枝により、市道の通行が著しく困難になっているようなときは、裁判所に枝の剪定を求める仮処分申請をすることも可能です。この場合には、仮処分により、訴訟手続で判決を得たのと同じ結果を得ることになりますから、仮処分手続で審尋(相手方を呼び出して紛争に関し相手方の主張を述べさせる手続)が必要になります。また、仮処分命令を発してもらうためには、保証金を供託する必要も出てきます。
 このように、民事手続によっても、市道上に出てきた枝を剪定することは可能ですが、裁判所の力を借りる必要があり、時間的にも短時間に処理することが難しいといわざるを得ません。
 ご質問の場合のように、道路の交通に危険を及ぼす竹木、工作物の存在に対応するため、道路法44条は、条例で定める基準に従い沿道区域を指定することができる旨を規定しています。
 沿道区域を指定する目的は「道路の構造に及ぼすべき損害を予防し、又は道路の交通に及ぼすべき危険を防止するため」です。そして、条例で定める基準に従い沿道区域を指定した場合には、沿道区域内にある土地、竹木又は工作物の管理者に損害予防義務及び危険防止義務が発生し(道路法44条3項)、道路管理者は、道路構造に及ぼすべき損害又は道路交通に及ぼすべき危険を防止するために、特に必要があると認める場合においては、当該土地、竹木又は工作物の管理者に対して、その損害又は危険を防止するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができます(道路法44条5項)。この措置命令に従わないと、10万円以下の罰金に処せられる(道路法104条)共に、必要に応じて行政代執行を行うことができます。
 したがって、沿道区域を指定している場合には、道路管理者の判断で、迅速な対応が可能となります。
 しかしながら、沿道区域を指定する基準を定めた条例を指定している地方公共団体は、あまり多くないようです。樹木の枝だけではなく、老朽化した擁壁・塀などにより、道路の構造に損害を及ぼしたり、道路の交通に危険を生じさせる可能性は相当に高いものと考えられますので、是非、条例の制定を検討して下さい。ちなみに、東京都で制定している沿道区域の基準に関する条例は次のとおりです。

沿道区域指定の基準に関する条例
(昭和28年3月31日条例第73号)
(目的)
第1条
 この条例は、道路法(昭和27年法律第180号)第44条第1項の規定に基づき、東京都がその管理する道路(以下「道路」という。)について行うことのできる沿道区域指定の基準を定めることを目的とする。
(沿道区域指定の基準)
第2条
 沿道区域指定の基準は、次の各号の一にあてはまる場合を除き、道路に接続する区域の各一側について、その路面総幅員の2分の1の範囲内とする。
道路の屈曲部で中心半径が特に小さいとき。
並木又は密生した樹木が路傍にあるとき。
道路に隣接して高擁壁又は採石場等の危険な場所があるとき。
前各号のほか、知事が特に必要があると認めたとき。