家賃を滞納している入居者が行方不明となった場合の対応

当市では、市営住宅を設置管理していますが、6ヶ月分の家賃を滞納していた入居者であるAさんの勤務先の会社から、Aさんが無断欠勤し連絡が取れないので、自宅で事故があったのではないかという連絡が入りました。

(質問1)
市営住宅の管理者としては、Aさんの自宅に行って、安否の確認をしたいのですが、その際、気をつけるべき点を教えて下さい。
(質問2)
市営住宅条例には、正当な事由によらないで15日以上市営住宅を使用しなかったときは、当該住宅の明け渡しを求めることができると規定されていますので、Aさんが、失踪し、15日以上市営住宅に戻ってこない場合には、住宅の明け渡しを、Aさんの連帯保証人Bさんに請求してもよいですか。
(質問3)
当市では、市営住宅家賃滞納整理事務処理要綱を定めており、その中で、滞納家賃が6月分以上になった場合で必要があると認められるときには連帯保証人に対して納付履行の協力を求め、8月分以上となったときは連帯保証債務の履行請求をすることとなっていますが、8月分以上となっていない時点において、Bさんに対し連帯保証債務の履行を請求してもよいですか。請求できる場合には、どのような手続で行えばよいでしょうか。

(質問1)

Aさんが、自宅内で事故に遭っている可能性がありますから、市営住宅の設置管理者である市は、Aさん宅に赴き、解錠して、Aさんの安否を確認することができます。この場合の、法律的根拠は、緊急事務管理です(民法698条)。本来であれば、市が設置管理する市営住宅といえども、Aさんに賃貸しているのですから、居宅内に立ち入るには、居住者であるAさんの承諾が必要ですが、ご質問のケースでは、勤務先の会社を無断欠勤し、連絡も取れないということですから、Aさんの安否を確認するために、施錠を解錠して、Aさん宅内に立ち入ることは、「本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を避けるため」という要件を充足します。

しかし、Aさんに事故がある可能性があると判断しているのですから、市の職員のみでAさん宅に立ち入るのは避けるべきでしょう。事故の可能性があることを説明して、警察官立ち会いの下に、解錠し、Aさんの安否を確認すべきです。


(質問2)

建物の賃貸借契約における連帯保証債務には、家賃債務、共益費債務等は含まれますが、建物の明け渡し債務は入居者本人がなす債務ですから含まれません。したがって、Aさんが市営住宅から失踪して15日以上市営住宅に戻らないときは、法的な手続きとして、市はAさんを被告として、市営住宅の明け渡し訴訟を提起し、訴状を公示送達した上で判決を得て、強制執行することになります。

法的な手続きをとる前に、連帯保証人に、これ以上、Aさんの債務を増加させないために、事務管理として、市営住宅の明け渡しを要請することは可能です。本件では、連帯保証人であるBさんが、市からの要請に応えて、市営住宅の明け渡しをするのであれば、市は、事務管理者たるBさんから市営住宅の返還を受けることができます。


(質問3)

市では、市営住宅家賃滞納整理事務処理要綱を定め、滞納家賃を適正に管理しているものと理解しますが、同要綱はあくまでも標準的な処理基準を示すものに過ぎません。

本件事例では、Aさんは既に6ヶ月分の家賃を滞納し、かつ失踪しているのですから、滞納家賃をAさんから回収することは事実上期待することはできません。したがって、直ちに、連帯保証人であるBさんに対し、保証債務の履行を請求することとなります。同要綱にあるように、8月分の滞納が発生することを待つ必要はありません。

具体的には、Bさんに対し、督促を行い(自治法施行令171条)、納付交渉を行い、Bさんが任意に保証債務を履行しない場合には、さらに訴訟手続をとることとなります(自治法施行令171条2)。Bさんに関して、徴収停止事由があるとき(自治法施行令171条の5)や、履行期限を延長する特約をした場合(自治法施行令171条の6)以外は、督促、訴訟手続をとることは、市の法律上の義務であることに注意して下さい。