2012年 秋

戦前に締結された土地使用貸借契約を賃貸借契約に改めることについて

Question

当県では、戦前から、防火水槽を設置する目的で私人の土地の地下部分を無償で貸与を受け、工作物として防火水槽を設置し維持管理してきたものがいくつかあります。このたび、無償提供の土地所有者が死亡し、その相続人から、無償の使用貸借から70年以上経過しており、契約を終了させ土地の地下部分を原状回復し返還するか、正当な対価の賃貸借契約を締結してほしいとの要望を受けました。賃貸借契約の締結を検討していますが、使用貸借契約は現在も存続していると考えてよいでしょうか。

Answer

使用貸借契約の存続を主張できる材料はありますが、契約の事実関係が不明な部分も多く、法的判断としては、終了理由も十分成り立ちますので、公共の利益と会計規律から判断して正当な対価での賃貸借契約の締結が妥当です。

(理由)

自治体の契約に関するご質問ですが、個別の根拠法に基づくいわゆる公法上の契約ではなく、私人と対等な当事者として締結する私法上の契約であり、根拠法規としては民法から考えることになります。地方自治法234条に自治体の契約締結の定めがありますが、本件は不動産の借入契約ですので(地方自治法施行令167条の2第1項2号)、随意契約であり、性質は長期継続契約(地方自治法234条の3、同法施行令167条の17)ですね。

まず、土地所有者は貴県が無償で土地の地下部分を使用することを、そして貴県は収益した後に当該土地を返還することを約して土地の地下部分を借り受けていますので、亡くなった土地所有者と貴県の間では、当該土地の地下部分についての使用貸借契約(民法593条)が成立していたと考えられます。戦前は、土地所有者に防火水槽の必要性が強く意識されていたこともあり、公費で作ってもらえるならと無償での土地提供も頻繁にあったものと思われます。本件では幸い契約書も存在していました。

次に貸主である土地所有者の死亡により、相続人が土地所有者となった点について検討すると、借主の死亡による使用貸借の終了の定めはありますが(民法599条)貸主の死亡は契約の終了原因とはされていませんので、土地所有者が死亡して相続人に土地所有権が移ったことで当然契約が終了するというものではありません。使用貸借契約については相続人との間で現在も存続していると考えられます。

しかし、相続人からの要望は返還請求と考えられますので、返還義務が生じているかの検討が必要となります。民法の使用貸借では、借用物の返還時期について契約に定めた時期(民法597条1項)あるいは返還時期の定めがない場合には、契約に定めた目的に従い使用収益を終わったときに返還しなければならない(同2項)とし、使用収益が終わる前であっても、使用収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主が直ちに返還を請求できる(同項ただし書)と定めています。

本件では特に契約書や契約締結時のその他の書類等を見ても返還時期の定めが認められませんでした。契約書上も防火水槽の設置は明示されていたこと及び現実に当該防火水槽が設置維持されてきましたので、当該地域での当該防火水槽の必要性、当該防火水槽の保存状態、今後の存続期間(設置場所や状態によるようですが100年近く使用できるものもあるそうです)から、目的に従った使用収益が終わっていないとは言えそうです。

他方で、貸主が直ちに返還請求できる場合である「使用収益をするのに足りる期間の経過」(民法597条2項ただし書)を検討すると、契約である使用貸借とは異なりますが、一般論としては、同様に地下に工作物を所有するために上下の範囲を定めて目的とすることのできる地上権(民法265条、269条の2第1項)について、期間の定めのないとき裁判所が認定できる存続期間として「20年以上50年以下の範囲内において、工作物……の状況その他の地上権の設定当時の事情を考慮して、その存続期間を定める」(民法268条2項)としていることや使用貸借契約当時の旧借地法下で堅固な建築物の存続期間は60年とされていたことなどを参照すると、契約から70年以上経過した本件使用貸借契約については、使用収益するのに足りる期間は経過しているとも考えられます。

新たに当該地域に防火水槽を設置するための負担及び設置の可能性、当該防火水槽を維持すること及び原状回復して返還する場合の負担等総合的に考慮して判断することになりますが、公物としての当該防火水槽が十分機能し存続することが見込まれるとのことであり、相続人から賃貸借の意向が示されているところでもありますから、必要性が認められる限り、正当な対価で、当該相続人と本件土地の地下部分についての賃貸借契約を締結することは妥当な解決策でしょう。契約終了時の原状回復等についてもこの機会に合意しておいてください。