失踪した職員に対する分限免職処分

当市の職員であるAは、本年10月10日から失踪し、行方不明となっています。家族の話によれば、10月10日夜、自宅に置き手紙があり、探さないで欲しい旨の内容であったそうです。それでも、家族は、心当たりに電話連絡しましたが、手がかりはなく、翌11日に、職場に、Aの所在が不明であることを連絡するとともに、警察に捜索願を提出しました。
職場の上司も、連日、本人の携帯電話にメールを送る等して、Aの所在の手がかりを求めましたが、全く、連絡を取ることができない状態で、既に1月を経過しました。
そこで、当市の職員課では、Aに対し、分限免職を行うことを検討しはじめましたが、次の疑問が生じてきました。

(1)分限免職処分をする際に、Aの所在が不明なため、辞令はどのような形で交付したらよいですか。当市では、行方不明の職員に対する辞令の交付方法を定めた条例・規則はありません。過去に、行方不明となった職員もいませんので、先例もありません。

(2)失踪を理由に分限免職処分をする場合でも、解雇予告手当の支給は必要ですか。

(1)辞令交付の方法

(結論)

民法98条所定の方法による意思表示を行うべきです。

(理由)

ア 地方公務員の場合

御市においては、分限処分の辞令の交付方法に関する条例規則がないとのことです。行政手続法にも、行政処分の送達方法に関する規定はありませんから、意思表示に関する一般法たる民法の規定によることとなり、次の手続をすることとなります。

① A職員の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に、意思表示の公示送達申立書を1通提出します。裁判所の手数料は1000円で、収入印紙を申立書に貼付します。手数料以外に郵便切手を予納することとなりますが、簡易裁判所によって若干、金額や郵便切手の種類が異なりますので、申立前に、簡易裁判所に問い合わせるとよいでしょう。

申立書には、A職員の所在が不明であることを明らかにする書類を添付することとなります。住民票の写し、戸籍の付票、所在不明となった経緯やその後の調査結果等を記載した調査報告書が必要となります。置き手紙の写しも入手できれば、添付するとよいでしょう。

② 公示送達は、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載して行うのが原則ですが(民法98条2項本文)、裁判所が相当と認めるときは、官報への掲載に代え、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準じる施設に掲示すべきことを命ずることができるとされ(民法98条2項ただし書)、簡易裁判所において、市役所、区役所、町役場に掲示することを命ずることの方が多いようです。

③ 公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなされます(民法98条3項)。

④ 相手方に到達したものとみなされた後に、簡易裁判所に対し、意思表示が到達した旨の証明書の申請を行い、証明文書を受けとります。この証明申請には、手数料150円が必要で、これも収入印紙を申請書に貼付して支払います。イ 民法98条による公示送達以外の送達方法

判例上、懲戒免職処分について、「従前から、所在不明となった職員に対する懲戒免職処分の手続について、「辞令及び処分説明書を家族に送達すると共に、処分の内容を公報及び新聞紙上に公示すること」によって差し支えないとしている昭和30年9月9日付け自丁公発第一五二号三重県人事委員会事務局長あて自治省公務員課長回答を受けて、当該職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法で行ってきた」という事案について、処分の到達を肯定したものがあります(最高裁平成11年7月15日判決、判例時報一六九二号一四〇頁)。

この方法は、同じく行政処分である分限免職処分においても、妥当します。

ウ 国家公務員の場合

国家公務員については、人事院規則八―一二、第54条及び56条において次のように規定しています。

第54条 任命権者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、職員に通知書を交付して行わなければならない。

一 職員を降任させる場合

二 職員を休職にし、又はその期間を更新する場合

三 職員を免職する場合

第56条 第五四条の規定による通知書の交付は、これを受けるべき者の所在を知ることができない場合においては、その内容を官報に掲載することをもってこれに代えることができるものとし、掲載された日から二週間を経過した時に通知書の交付があったものとみなす。

さらに「分限処分に当たっての留意点等について」(平成21年3月18日人企―五三六)(人事院事務総局人材局長発)において、次のように規定しています。

Ⅳ 行方不明の場合の留意点(法第78条第3号関係)

原則として1月以上にわたる行方不明の場合は、法第78条第3号による免職とする。被処分者となる職員の所在を知ることができない場合においては、人事院規則八―一二(職員の任免)第56条に基づき、官報に処分内容を掲載するものとする。

この結果、国家公務員の場合には、民法98条による意思表示の公示送達は不要となります。地方公共団体においても、条例又は規則で意思表示の方法を規定してあれば、国家公務員と同様に、民法98条による意思表示の公示送達を不要とすることも可能です

なお、人事院規則は、国家公務員について適用される規則ですから、地方公務員に適用される余地はありませんが、どの程度の期間、職員の所在が不明であれば、分限免職処分を行うべきかについては、参考になります。すなわち、職員が行方不明になって1月以上経過したときは、分限免職処分を行ったとしても、処分権限の濫用にはならないのが原則と考えることができます。

(2)解雇予告手当

(結論)

解雇の予告又は解雇予告手当の支給が必要となります。

(理由)

地方公務員には、地方公務員法58条によって、適用が除外されている労働基準法の規定以外は、労働基準法が適用となります。したがって、分限免職処分を行うときには、労働基準法20条の規定に従って、30日前に分限免職処分の予告をするか、30日分の解雇予告手当を支給しなければなりません。