補助金返還金についての回収

当市では、補助金交付規則に基づき、産業廃棄物処理業者に対して、補助金を交付していますが、平成23年9月に9000万円の補助金を交付した業者が経営がうまくいかずに、大幅に事業を縮小し、簿価2億円の補助金対象物件である機械設備が稼働していないことが判明しました。そこで、平成25年9月17日に、当該業者に対し、補助金の返還決定を行い、その納期限を平成25年10月7日にしましたが、納期限までに、補助金の返還金は納付されませんでした。
ただし、補助対象物件については、担保権等は設定されていませんが、他の資産については、担保権が設定されていることが判明していましたので、補助対象物件について、動産の仮差押を行いたいと考えていますが、いつの時点から仮差押は可能でしょうか。
また、仮差押前に、督促状を送る必要はありますか。

(結論)

仮差押の申立ては、①被保全権利の存在と②保全の必要性が備わったときから可能です。この要件が備わっていれば、督促状を送っていなくても、仮差押は可能です。

 

(理由)

 普通地方公共団体の長は、債権について、政令の定めるところにより、その督促、強制執行その他その保全及び取立に関し必要な措置をとらなければならないとされ(地方自治法240条2項)、債権を保全するため必要があるときは仮差押の手続を取らなければならないとされています(地方自治法施行令171条の4第2項)。
 仮差押命令は、民事保全法に定められた保全手続で、①金銭の支払いを目的とする債権について、②強制執行することができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行するのに著しい困難を生じるおそれがあるときに発することができるとされています(民事保全法20条1項)。この命令の発令を求めて、仮差押の申立てが行われるわけですが、その要件としては、①債権者が債務者に対して金銭の支払いを目的とする債権を有し(被保全債権の存在)、今仮差押をしなければ将来強制執行が不能又は著しく困難になるおそれがあること(保全の必要性)が求められます。
 本件では、補助金返還決定がなされていますが、この決定は、行政処分ではありません。すなわち、行政規則に基づくものですから、住民の権利義務に対する影響力を持ち得ないからです。したがって、補助金返還金の決定は、契約に基づく解除権の行使です。この解除が有効か否かは、裁判所で決定されるわけですが、そのような手続を踏んでいる暇がありませんから、金銭債権については、存在していると考えてよいでしょう。そして、事業者は、大幅な事業縮小を余儀なくされていますから、いつ何時倒産するかどうか分かりません。本案訴訟を提起していたのでは、担保がついていない補助対象物件についても、他の債権者が差し押さえたりして、回収が困難となります。この意味で、被保全権利の存在及び保全の必要性という仮差押の申立て要件を充足しております。したがって、いつでも、仮差押命令の申立をすることができます。
 ところで、地方自治法施行令171条は、履行期限までに履行しないものがあるときは、期限を指定してこれを督促しなければならないとしていますから、まず督促をすべきではないかとの考え方もあり得ます。通常の債権であれば、まず原則通り、督促をすべきでしょう。しかしながら、本件では、補助金返還決定をした時点において、既に業者は債務を履行することができず、現に履行期限までに債務を履行しておらず、このまま督促手続をしてから、仮差押を申立てていたのでは、強制執行が不可能又は著しく困難なときですから、督促手続を経ることなく、仮差押を申し立てることができます。