債務名義取得後の分割払いの合意

当市では、市民病院を設置していますが、平成23年9月19日から同月24日までに、出産のため、入院したAさんとその夫であるBさんが、自己負担部分の39万4550円を支払わないため、平成25年3月に給付の訴えを提起し、同年5月20日に、欠席判決を受け、債務名義を取得しました。
その後、A及びBから、分割で支払いたい旨の申し入れを受け、これに応じたいと考えていますが、その際に、取り交わす合意書では、どのような点に気をつけたらよいでしょうか。

(結論)

分割払いをしている間は強制執行を猶予し、支払いが遅れたときは、強制執行を行う旨の合意書を作成して下さい。

 

(理由)

 債務名義とは、強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書のことです。強制執行を行うには、この債務名義が必要です。この債務名義には、確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、和解調書、調停調書のほか、強制執行認諾文言つき公正証書などがあります。
 貴市では、欠席判決を受けたということですから、控訴期間の経過により、確定判決を得たものです。確定判決においては、「A及びBは、連帯して、金39万4560円及び平成23年9月25日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。」との記載がなされているのが一般的です。
 この確定判決文に、執行文を付与してもらい、強制執行が可能となります。ここで、執行文とは、債務名義に執行力が現存すること及び執行力の内容(執行当事者の氏名あるいは執行の対象)を執行文付与機関(判決の場合は書記官)が債務名義の正本の末尾に記載する公証文言をいいます(民執26条)。
 このほかに、強制執行を開始するためには、債務名義の送達報告書等が必要となります。これらの書類がそろうと、強制執行が可能となりますが、本件では、債務者が判決後に、任意に分割払いを希望し、貴市も、債務者の意向を尊重し、分割払いを認めることとしたものです。
 その際に、無条件で、分割払いを認め、強制執行を免除する旨を約束しますと、強制執行を行うとした場合に、請求異議の訴えを提起されることとなります。ここで、請求異議の訴えとは、債務名義に係る請求権の存在又は内容について異議がある場合に、債務者が、その債務名義による強制執行の不許を求める訴えをいいます。最高裁は、強制執行をしないという合意は、債権の効力のうち請求権の内容を強制執行で実現できる効力を排除又は制限する法律行為と解し、これが存在すれば、その債権を請求債権とする強制執行は実体法上不当なものとなるとしました。その上で、強制執行を受けた債務者が、その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張する場合には、請求異議の訴えによるものとしました(最高裁平成18年9 月11日決定、民集60巻7 号2622頁)。
 そうとすると、分割払いの合意をする際に、強制執行をしない旨の記載をする場合には、単純に強制執行をしない旨を記載すべきではなく、まず、合意書の前文において、「……の強制執行に関し、次の合意が履行される限りにおいて、(平成 年 月まで)強制執行を猶予する。」との趣旨を記載し、各条中で「第〇条 乙(債務者)が、次のいずれかに該当する事由が生じたときは、甲(御市)は、猶予した強制執行を直ちに開始する。」とし、該当事由を記載することとなります。