公法上の行為に関する民法108条(双方代理規定)の摘要について

当市では、まちづくり条例を制定し、その12条において、大規模開発事業を行おうとする開発事業者は、あらかじめ大規模開発事業における土地利用構想を市長に届け出て、協議をしなければならないと規定しています。ところが、当市に所在する一部事務組合で、大規模開発事業に該当する事業を行うこととなり、当市長あてに、届出書を提出しようとしている。ところが、この一部事務組合の管理者には、現在当市の市長が選任され就任しております。
このような場合にも、民法108条が適用されるのでしょうか。

(結論)

類推適用の余地はありません。

 

(理由)

 民法108条は、その本文において「同一の法律行為については、相手方の代理人となり又は当事者双方の代理人となることはできない。」と規定しています。この規定は、当事者間の利益が相反する場合のみに適用となります。そのことは、同条ただし書きに「ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定していることから導き出されます。
すなわち、土地の売買契約を例に取れば、売り主は1円でも高く当該土地を売りたいと思うのが一般的ですし、買い主は当該土地を1円でも安く買いたいのが一般的です。このような場合に、一人の人間が双方の代理人として売買契約を締結しようとすると、売り主及び買い主の意思を正しく反映させた契約が締結できないため、双方の代理人となることはできないとしたものです。
民法108条は、個人についての規定ですが、法人の場合には、代表者が行為をしますので、会社法のように特別規定がない場合にも、同条が類推適用されます。
さらに、地方公共団体の行う契約行為についても、利益相反行為はあり得ます。これについては、住民が名古屋市を被告とする世界デザイン博覧会と締結した売買契約が無効であると主張した住民訴訟に関する最高裁平成16年7月13日判決及びその一審、二審判決が問題なく認めたうえで、最高裁は追認に関する民法116条の類推適用を認め、議会が長による双方代理行為を追認できるとしています。
ところで、本質問においては、市長に対する届出ですが、市長は行政庁であり、届出人は事業者としての一部事務組合です。この届出は、利益が相反するようにもみえますが、この場合は、対等な当事者関係ではありません。市長は権力的存在ですから、民法の利益相反関係にはあたりません。したがって、民法108条の類推適用はありません。