2015年 夏

公法上の行為と民法第108条(双方代理)

Question

当市では、街づくり条例を定め、大規模開発事業を行うとする開発事業者には、事前に市長への届出及び協議が義務付けられています。一方、当市には、近隣市で構成する一部事務組合が存在し、現在、その組合の管理者には当市市長が選任されています。一部事務組合では、駐車場を新設しようとしており、その規模が街づくり条例に規定する大規模開発事業に当たります。
そこで、一部事務組合から管理者たる当市市長名で、届出書が提出されました。
この届出書を受け取ったとしても、双方代理の制限には抵触しませんか。
また、同条例第17条による指導・助言を行うことに問題はありませんか。
なお、当市の街づくり条例中、関連する条文は、次のとおりです。

(土地利用構想の届出等)
第12条 次の各号のいずれかに該当する開発事業(以下「大規模開発事業」という。)を行おうとする開発事業者(以下「大規模開発事業者」という。)は、あらかじめ大規模開発事業における土地利用構想(以下「土地利用構想」という。)を規則で定めるところにより市長に届け出て、協議しなければならない。
(1)開発面積が5、000平方メートル以上の開発事業
(2)共同住宅で計画戸数が100戸以上又は戸建住宅の計画区画数が100区画以上の開発事業
(3)床面積の合計が10、000平方メートル以上の建築物を建築する開発事業
2 前項に規定する届出は、第25条に規定する開発事業事前協議書の提出日の3月前までに、行わなければならない。

第13条 市長は、土地利用構想の届出があったときは、速やかにその旨を公告するとともに、当該公告の日の翌日から起算して2週間、当該届出の写しを公衆の縦覧に供するものとする。
2 大規模開発事業者は、前項に規定する期間内に、当該大規模開発事業の開発区域に接する道路その他見やすい場所に土地利用構想及び土地利用構想に係る説明会についての標識を設置し、近隣住民に対して説明会を開催しなければならない。
3 大規模開発事業者は、前項の説明会を開催したときは、説明会終了の日の翌日から起算して1週間以内に、当該説明会の開催内容等について、規則で定めるところにより市長に報告しなければならない。

(意見書の提出等)
第14条 近隣住民は、大規模開発事業について、周辺の住環境等を考慮し、人にやさしいまちづくりを実現するために、前条第1項に規定する公告の日の翌日から起算して3週間以内に、市長に対し意見書を提出することができる。
2 市長は、前項の規定による意見書の提出があったときは、同項に規定する期間満了後、速やかに当該意見書の写しを大規模開発事業者に送付するものとする。

(見解書の提出等)
第15条 大規模開発事業者は、前条第2項の規定により意見書の写しの送付を受けたときは、当該意見書に記載された近隣住民の意見に対する見解を記載した書面(以下「見解書」という。)を、当該意見書の写しの送付を受けた日の翌日から起算して2週間以内に、市長に提出しなければならない。
2 市長は、前項の規定による見解書の提出があったときは、速やかにその旨を公告するとともに、当該公告の日の翌日から起算して2週間、当該見解書の写し及び前条第1項に規定する意見書の写しを公衆の縦覧に供するものとする。

(土地利用構想の変更の届出)
第16条 大規模開発事業者は、土地利用構想に変更が生じたときは、規則で定めるところにより、速やかにその旨を市長に届け出なければならない。
2 市長は、前項の規定による届出があった場合で、変更の内容が著しいときは、当該大規模開発事業者に対し、改めて第12条から前条まで及び次条の規定による手続の全部又は一部を行うよう求めることができる。

(指導又は助言)
第17条 市長は、土地利用構想の届出があった場合は、基本理念に照らし、必要な指導又は助言を行うことができる。
2 市長は、前項の指導又は助言を行うに当たっては、あらかじめ協議会の意見を聴くものとする。

Answer

(結論)

民法第108条は、この場面では適用がありません。したがって、市長が、一部事務組合の管理者たる市長から、大規模開発事業の届出を受理し、協議すること及びこれに対し、指導・助言することに問題はありません。

 

(理由)

 双方代理に関する民法第108条は、私法上の法律行為に関して適用される条文です。すなわち、契約を典型とする相対立する当事者間における法律行為については、その契約内容を原則自由に決められるのですから、対立する当事者が相手方の代理人となること、あるいは、双方の代理人となることができると、本人の利益を損ねる可能性が大であるからです。このような場合には、民法第108条は、「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。」と規定し、代理権を否定しています。ただ、本人の利益を損ねるおそれが大であるというのが立法理由ですから、同条ただし書で「債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」としているほか、双方代理行為、自己代理行為の後に、本人が当該行為を追認したときは、通常の無権代理行為と同じくその効力を認めています(民法第113条、第116条)。
 これに対し、公法上の行為、特に法律、条例に基づく行為の場合、住民側からの届出・申請等の行為に応じて行政側が行う行為については、法律、条例に基づくことが要請されます。また、住民側の行為も法律・条例に基づく行為であり、住民側の行為があれば、行政側が対応しなければならないという義務が発生します。
したがいまして、相対立する当事者間で行われる行為ではありますが、恣意的な判断が入る余地は極めて限られます。そのような場合まで、私法は規制していませんから、双方代理の規定は適用されませんし、準用すべき必要も生じません。
 本質問においては、街づくり条例第12条に基づく届出・協議と同条例第17条に基づく指導・助言ですから、行為の内容は同条例に従うもので、恣意的な対応が可能な場面ではありません。すなわち、届け出は、条例に規定される大規模開発事業に当たるので土地利用構想を届け出るだけのものであり、何らかの合意が成立するものではありません。また、協議にしても、土地利用計画の内容の説明、これに対する行政側からの疑問の提示等がなされるもので、そこで、法律行為がなされるわけではありません。
 次に、指導・助言ですが、これは、意見書等の提出を受けた場合、受けない場合のいずれも、行政が条例に適合しないあるいは好ましくない土地利用計画を是正することを求めるために行うものです。一方的な公権力の行使の場面です。ここでも、相対立する当事者間の合意を考える余地はありません。
 また、条例第17条の規定に基づく指導・助言に組合が応じ、対応するとしても、そこにも、契約でいう合意はありません。指導・助言に応ずるか否かにつき、それに応じるか否かの意思を表示するだけだからです。