死者に対する生活保護法第63条に基づく返還請求

当市は、Aさんに対し、平成27年10月6日まで、生活保護を行っていましたが、その間に収入があることが分かり、調査を行い、保護廃止後の平成27年12月24日付で、手当の未申告を理由に、生活保護法第63条を適用して返還請求を行いました。しかし、請求書が返送され、Aさんが死亡していたことが分かりました。そこで、相続人に対し、返還請求をしようと考えています。この場合、次の事項について、教えて下さい。

(1) Aさんに対する返還請求は、有効でしょうか。
(2) 有効ではない場合に、どのような手続をすべきでしょうか。
(3) 相続人が複数いる場合、どのような請求をすべきでしょうか。


(費用返還義務)
第63条  被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

(結論)
(1) 返還通知は効力を発生していません。
(2) 改めて、相続人に対し、返還通知をして下さい。
(3) 同順位の相続人が複数いる場合には、法定相続分に応じて費用の返還を求めて下さい。


(理由)
(1) 生活保護法第63条による返還通知は、行政処分です。行政処分が効力を発生するためには、被処分者に対する通知が届いていなければなりませんが、この事案の場合、返還通知を発送するときは、存命しているものと思っていた被処分者のAさんが、既に、死亡していたということになります。そうしますと、死亡者に対する通知は、到達の効力は発生しません。
(2) まず、Aさんの戸籍をとってください。Aさんがおおむね16歳の戸籍以降のものでよいでしょう。そして、お子さんがいれば、現在のお子さんの戸籍もとります。このように、戸籍により、Aさんの法定相続人を探し出し、同順位の法定相続人に対し、生活保護法第63条による返還通知を行います。この返還通知が相続人に対し到達することにより、相続人に対する返還通知が効力を発生します。
(3) 同順位の法定相続人が複数いる場合は、返還請求額の総額を記載した上で、当該返還請求を受け取る法定相続人に相続分を記載し、相続分に応じて、請求額を記載します。これは、相続において、法定相続分に相当する債務は、法定相続分に応じて分割して相続されるからです(大決昭和5年12月4日民集9巻1118頁。ただし、学説上は、当然分割説をとらない立場が大勢といわれています。)。
ただし、法定相続人に対し、請求した後に、相続放棄をする人がいた場合、放棄をしなかった法定相続人に対する請求額は、増大します。すなわち、相続放棄をした相続人がいると、その人は相続していないこととなり、他の相続人の法定相続分が増えるからです。