登記簿の表題部に旧村の名称が入っている墓地の所有者

甲市内にあるB墓地は、合併以前の甲町長名で、昭和23年4月9日に、県知事から経営許可を受けています。しかし、実態は、明治22年の町村制施行当時から、経営・墓地の維持管理は、墓地のC管理組合が行っております。また、土地の所有権は、登記簿上表題登記のみがなされ所有者が町村制施行以前の「甲村」であるもの、所有権保存登記のみがなされ所有者が町村制施行以降の「甲町」名義のものです。そして、甲市の財産台帳には、これらの土地は記載されていたことがありません。
そこで、甲市としては、B墓地をどのようにすれば良いかわからず、悩んでいます。

(回答)
 C管理組合に、法人格を取得してもらい、所有権移転契約を締結し、無償で所有権を移転することが適当です。なお、墓地の経営許可も、取り直してもらうことも当然のことです。

(理由)
 明治時代に現在の登記簿制度ができました。その際、所有権が明確な土地については、所有者が特定され、個人、法人の名義で登記がなされました。しかしながら、土地の所有者が明確でないものについては、国有地、公有地として表示登記がなされました。そのため、寺社の墓地や、入り会いの墓地などは、国有地、あるいは公有地として登記がなされました。この結果、国有地、公有地が社寺等の敷地として使用される事例が多数生じてしまいました。ところが、第二次大戦後、現行憲法は、政教分離原則を掲げましたので(憲法第20条、第89条)、国有地、公有地を宗教団体が無償で使用している状態が憲法に抵触することとなりました。そこで、国有地については「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」(昭和22年法律第53号)が公付され、期間を限定して、申請があれば無償で譲与する措置がとられました。公有地についても、国からの通知に基づき、同じく、無償で譲与するようにされました(注)。しかしながら、これらの手続きを経ても、全てが無償譲与されたわけではなく、御質問の墓地のような状態の土地が、まだ、全国的に存在しています。
 特に、公有地については、入り会い的なものや社寺による管理もなされていないものが多く、また、旧町村名で表示登記がなされているものは、地域の共同社会が総有状態で所有していたものが多かったものと思われます。そのために、旧町村名義で表示登記がなされたものです。そうだとすると、旧町村名で表示登記がなされていても、それは、その地域の共同社会のもので、便宜的に旧町村名を使わせていたものといえます。同時に、町村制施行後の町村の名前で登記されたものも、同様な性格を有しています。すなわち、地域社会の指導的立場にいた人が、自分の名前で表示登記をし、地域社会で総有的に所有していたものを、個人で所有していることが難しくなり、町村制施行後の町村名を借りたものです。そのため、現時点においても、市町村の財産台帳には載らない土地なのです。
 そこで、本来の所有者に登記簿上の所有権を戻すのが、最も適当な手段ということになります。ただ、法人格のないC管理組合なので、法人格を取得していただかないと、C管理組合の代表者個人名義での登記となってしまいますから、これは避けて下さい。その上で、市とC管理組合の後身たる法人が所有権移転契約を締結し、所有権を法人に移して下さい。
 また、墓地の経営権も、法人格を取得した法人名義で取り直して下さい。


(注) 最高裁大法廷 平成22年1月20日判決 民集第64巻1号128頁(市が町内会に対し無償で神社施設の敷地としての利用に供していた市有地を同町内会に譲与したことが憲法20条3項、89条に違反しないとされた。)