街路樹の損傷と加害車両の所有者との損害賠償請求における過失相殺

平成29年8月に、市道内街路樹にトラックが衝突し、街路樹が倒れるという事故が発生しました。トラックは運送会社が所有し、その会社の運転手がトラックを運転していましたが、荷物下ろしのため、バックして停車させようとしたところ、街路樹にぶつかったとのことです。
市は、直ちに運送会社に連絡し、街路樹損傷に関する賠償金の説明をしたところ、運送会社は対物保険を使用する、との返事でした。ところが、保険会社は、国家賠償法第2条第1項に規定される「公の営造物の設置又は管理」の「瑕疵」があったとして、過失割合は運送会社6、市が4の割合であると主張し、過失相殺を認めた判例3件ほどを送りつけてきました。

市では車道内の建築限界の範囲を侵さないよう、年2回の剪定を行い、街路樹の管理を行っています(「建築限界」とは、線路・道路に対して建築物を設置してはならない空間をいい、道路に関しては、道路構造令第12条で、車道、歩道、自転車道について規定されており、車道については高さ4・5メートルが建築制限とされています。)。現に、事故直後の事故現場に立ち会い、写真を撮りましたが、倒れた街路樹の前後の街路樹は、根は歩道内にあり、枝は路上に出ていましたが、建築限界の範囲内にありました。
市は過失そのものがないと考えていますが、いかがでしょうか。

○国家賠償法
第2条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

(結論)
道路の管理瑕疵はありませんので、過失相殺の対象とはなりません。
(理由)
 国家賠償法第2条第1項に規定される「公の営造物の設置又は管理」の「瑕疵」とは、「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」を意味します(最高裁昭和45年8月20日第1小法廷判決(民集24巻9号1268頁、判例時報600号71頁、判例タイムズ252号135頁))。そして、営造物が通常有すべき安全性を欠くか否かは、「当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきものである」とされています(最高裁昭和53年7月4日第3小法廷判決(民集32巻5号809頁、判例時報904号52頁、判例タイムズ370号68頁))。
 この観点から御質問を検討すると、街路樹は歩道内に根があり、建築限界内の範囲内にあったと思われますから、通常有すべき安全性は維持しており、「公の営造物の設置又は管理」の「瑕疵」はありません。
 確かに、保険会社の指摘のとおり、判例を見ますと2例ほど過失相殺が認められたものがありますが、いずれも街路樹の設置又は管理に瑕疵が認められた事例です(千葉地裁平成15年2月26日判決、判例時報1818号143頁、横浜地裁平成23年12月27日判決、判例地方自治363号74頁)。また1件は街路樹ではなく、庭木です(広島地裁昭和55年12月16日判決、交民15巻3号592頁)。したがって、これらの判例と御質問の事例を同様に考える必要はありません。逆に、東京地裁平成16年6月25日の判決では、街路樹の設置又は管理に瑕疵がないとして、運転者からの損害賠償請求を棄却しています。
 これらからいえることは、街路樹の管理をきちんとしておけば、自動車による街路樹の損傷に対して、自治体が損害賠償請求をすることが可能であるということです。