全部適用を受けた地方公営企業に対する使用料の賦課

甲市では、下水道事業について、今年度から地方公営企業法の全部適用を受けることとなりました。下水道事業では、従前から使用していた甲市庁舎の部屋をそのまま使用しています。そこで、財務部資産活用課では、下水道事業は公共性が高いとはいえ企業化した以上、下水道事業者から、庁舎の使用料を徴収すべきと考え、徴収する方向で検討しています。しかしながら、庁舎の使用料を徴収するためには、行政財産の使用許可が必要となりますが、甲市長は、下水道事業管理者に対し、庁舎の使用許可をすることができますか。

○地方自治法
(行政財産の管理及び処分)
第238条の4 行政財産は、次項から第4項までに定めるものを除くほか、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。 7 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。

○地方公営企業法
(管理者の設置)
第7条 地方公営企業を経営する地方公共団体に、地方公営企業の業務を執行させるため、第2条第1項の事業ごとに管理者を置く。(ただし書以下は省略)

(結論)
甲市は、下水道事業管理者に対し、庁舎の使用許可をすることはできません。

(理由)
 下水道事業者は、甲市から独立した別の法人格を有するわけではありません。あくまでも、甲市の行政機関の一つです。甲市の行政機関に、甲市が庁舎の使用許可を出すことはあり得ません。庁舎の使用許可を含め、行政財産の使用許可は、別法人に対して行うものです。現に、地方公営企業法には、別法人を設立する旨の規定はありませんし、同法第7条には、「地方公営企業を経営する地方公共団体に、地方公営企業の業務を執行させるため」管理者を設置せよとの条文があり、この条文を見ただけでも、地方公共団体内の行政機関に過ぎないのです。したがって、庁舎の使用許可を下水道事業者に対して出すことはあり得ないことです。だからこそ、下水道事業者は、庁舎内に執務室を持っているのです。
  庁舎の使用料を下水道事業者から得たければ、下水道事業者が使用している庁舎部分を普通財産にして、その部分の維持管理費を算出した上で、管理負担金を請求するとか、賃料を計算してこれを請求することは、法律上特に禁止されていませんので、可能でしょう。しかし、そのためには、単に普通財産として位置付けるだけでは足りず、条例で使用料を課す旨の規定を置く必要もあります。しかしながら、同一庁舎の一部を普通財産とし、さらに、同一法人格内で、管理料や賃借料を徴収することが、果たして政策判断として正しいものと言えるか、極めて疑問です。やはり、同一法人格内の一組織ですから、徴収することはやめるべきでしょう。