捜査関係事項照会書に基づく警察への資料提供について

当市に所在する要介護施設(高齢者向け施設)について、本年1月に虐待通報があり、当施設を調査した結果、本年3月に当市では当該施設に対し、虐待認定を行い、指導を行いました。しかし、当該施設では、指導にもかかわらず、虐待の実態が改善されず、当該施設の職員が虐待をしている状況が続いており、引き続き指導を続けているところです。

 ところが、今月に入って、警察から当該施設の虐待行為に関する捜査関係事項照会書が当市宛に送付され、次のような事項について回答が求められました。
 1 調査の背景(通報等があれば、その内容)
 2 関係者の人定事項
 3 調査に関する一切の経過
 4 行政指導の有無及び指導内容等
 5 調査予定の事項
 6 その他、参考事項
 しかし、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、「高齢者虐待防止法」という。)第23条によれば、市町村は虐待の通報を受けたときには、通報をした者を特定させるものを漏らしてはならない旨の規定があり、また、調査に応じた施設の職員の氏名を教えると、今後の調査ができなくなる恐れが強く、市役所内部の調査報告書、施設に対する指導書でも個人名の特定は避けています。

この照会書に対し、当市としてはどこまで資料提供できるのかを教えてください。

(結論)
 通常回答できるものだけを資料提供し、それ以外は、任意捜査で提出できない理由を説明し、令状による捜査を求め、任意捜査で提供できない資料をあらかじめ準備しておくという方法がよいでしょう。

(理由)
 行政調査の場合、法律に基づき外部に提供することを許されていない調査内容があります。高齢者虐待防止法第23条の規定や、個人情報保護条例による開示が制限される情報、行政調査の必然から、得た情報を開示すると次回以降、同種の調査が困難になる情報等があります。
 まず、法令に外部に漏らしてはならない旨の規定がある場合は、どの情報がこれに当たるのかは、条文上明らかです。高齢者虐待防止法第23条は、虐待の通報をした者を特定させる情報は漏らしてはならないと規定していますから、貴市に対する照会事項のうち調査の背景としての通報者の氏名は、これに当たります。
 個人情報保護条例からすれば、関係者の人定事項は、原則として外部に漏らすことは許されませんし、調査の際、誰が何を話したかを外部に漏らしたことが他の施設に情報として流したことが伝わると、他の調査の時、調査協力が得られなくなります。
 したがって、これらの情報は、任意捜査で外部に漏らすことはできません。
 これに対し、調査結果の報告書や、今後の調査の予定などは、任意捜査に応じて、情報提供しても何ら問題ありません。特に、指導をした後も、虐待行為が成されているとの情報を提供することは、法令により守秘義務を課されているもの以外は、警察に提供することには問題はありません。
 任意捜査の段階では、法令等による守秘義務を説明し、任意提供を拒否することはできますが、警察には、令状捜査があります。すなわち、刑事訴訟法第218条第1項は、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」との規定があり、この規定に基づき、警察は、裁判官から令状の交付を受け、強制的に捜査・押収ができます。多くの場合、任意捜査で情報が提供されない場合には、警察は、令状による捜査に切り替えることになります。
 令状による捜査が行われると、捜査が終わるまでの間、市役所の一定部門は仕事ができません。そこで、照会書が来た段階で、市役所としては、どの書類が任意では提供できないかを明らかにし、令状捜査があれば、いつでも差押えができるようにしておく旨を警察に伝え、令状による捜査をお願いするという方法がよいでしょう。そうすれば、警察も令状の交付を受け、市役所が任意では提供できない資料を押収していくことになります。
 市役所では、原本を提供することになりますので、その写しを事前に作っておけば、仕事の差し支えも少なくて済みます。
 このような事態が起こるのは、警察が市役所の仕事の内容を熟知していないからです。したがって、照会書が来た段階での説明が重要になります。

○高齢者虐待防止法
第23条 市町村が第21条第1項から第3項までの規定による通報又は同条第4項の規定による届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。都道府県が前条第1項の規定による報告を受けた場合における当該報告を受けた都道府県の職員についても、同様とする。

○刑事訴訟法
第197条 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
2 捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
3~5 略