性の多様性に関する条例

 

【性の多様性に関する用語】

〇 性の多様性に関しては、LGBT、性的少数者、性的指向、性自認、性同一性障害などの用語が使われている。最初に、用語の整理をしておく。

〇 LGBTとは、Lesbian(レズビアン:女性の同性愛者、Gay(ゲイ:男性の同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル:両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー:こころの性とからだの性との不一致)の頭文字を組み合わせた言葉である。

  法律及び自治体の条例において、「LGBT」の使用例はない。

〇 性的指向とは、英語のSexual Orientationの日本語訳で、どのような性別の人を好きになるかということであり、LBGTのうち、L,B,Gがその類型に入るとされている。また、性自認とは、英語の日本語訳(は、「性同一性」とも訳される)で、自分の性をどのように認識しているかということであり、LBGTのうち、Tがその類型に入るとされている。国連では、平成23年6月に人権理事会が「性的指向及び性自認に関する決議」を採択するなど、性的指向・性自認の概念が使われている。性的指向と性自認のそれぞれの頭文字をとって、SOGIという言葉も使われている。

  法律において、「性的指向」や「性自認」の使用例はない。

〇 最近自治体が制定する性の多様性に関する条例では、一般的に「性的指向」及び「性自認」が使われている。「性的指向」は平成15年に制定された小金井市男女平等基本条例 などで使用されているが、「性的指向」及び「性自認」を併せて使用した最初の条例は平成25年に制定された文京区男女平等参画推進条例多摩市女と男の平等参画を推進する条例 である(なお、文京区条例は「性自認」ではなく「性的自認」と表記している)。また、平成元年10月に制定された大阪府の条例では、条例名にも使用されている(大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例)。ちなみに、大阪府条例では、「性的指向」を「自己の恋愛又は性愛の対象となる性別についての指向」と、「性自認」を「自己の性別についての認識」と定義づけている。

〇 性的少数者とは、英語Sexual Minorityの日本語訳であり、性的マイノリティなどともいわれる。

  一部の自治体の条例では、「性的少数者」や「性的マイノリティ」が使用されている。ちなみに、渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例は「性的少数者」を「同性愛者、両性愛者及び無性愛者である者並びに性同一性障害を含め性別違和がある者」と、 世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例 は「性的マイノリティ」を「性自認、性的指向等のあり方が少数と認められる人々」と、 鳴門市男女共同参画推進条例は「セクシュアル・マイノリティ」を「同性愛者、両性愛者、性同一性障がい者、インターセックス等の性的少数者」と定義づけている。

〇 性同一性障害とは、英語のGender Identity Disorderの日本語訳で、医学的な疾患名であり、性自認が一致しないため、社会生活に支障がある状態とされる。

  平成15年に性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律が制定され、法律用語となっている。法律では、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているもの」(2条)と定義されている。

  「性同一性障害」を使用する条例は、平成14年に制定された堺市男女平等社会の形成の推進に関する条例や平成16年に制定された 八女市男女共同参画のまちづくり条例など、少なくない。

〇 以上に関し、法務省HP「多様な性を考えてみよう!−性的指向と性自認−」を参照のこと。 また、少し古くなるが、LGBTに関する概念や自治体や法制化の動き等については、中西絵里「LGBTの現状と課題−性的指向又は性自認に関する差別とその解消への動き−」 立法と調査 2017.11 No.394)が詳しい。

 

【条例の制定状況】

〇 性的指向・性自認及び性的少数者に対する差別的な取扱いを禁止することなどを規定している条例として、以下のようなものがある。

東京都文京区

文京区男女平等参画推進条例

平成25年9月27日公布 平成25年11月1日施行
東京都多摩市

多摩市女と男の平等参画を推進する条例

平成25年9月30日公布 平成26年1月1日施行
東京都台東区

台東区男女平等推進基本条例

平成26年12月17日公布 平成27年4月1日施行
徳島県鳴門市

鳴門市男女共同参画推進条例

平成27年3月24日公布 平成28年1月1日施行
東京都渋谷区

渋谷区男女平等及び多様性を尊重する

社会を推進する条例

平成27年4月1日公布

平成27年4月1日施行

(一部、平成27年10月28日施行)

和歌山県橋本市

橋本市男女共同参画推進条例

平成27年9月25日公布平成27年10月1日施行
埼玉県戸田市

戸田市男女共同参画推進条例

平成28年9月30日公布 平成28年10月1日施行
鳥取県日野町

日野町男女共同参画推進条例

平成29年3月21日公布 平成29年3月21日施行
東京都武蔵野市

武蔵野市男女平等の推進に関する条例

平成29年3月22日公布 平成29年4月1日施行
東京都国立市

国立市女性と男性及び多様な性の平等

参画を推進する条例

平成29年12月28日公布 平成30年4月1日施行
東京都世田谷区

世田谷区多様性を認め合い男女共同

参画と多文化共生を推進する条例

平成30年3月6日公布

平成30年4月1日施行

東京都

東京都オリンピック憲章にうたわれる

人権尊重の理念の実現を目指す条例

平成29年12月28日公布平成30年4月1日施行
兵庫県宝塚市

宝恷s男女共同参画推進条例

   平成31年3月29日改正施行
奈良県大和郡山市

大和郡山市男女共同参画推進条例

平成30年12月20日公布 平成31年4月1日施行
岩手県北上市

北上市男女共同参画と多様性社会を推進

する条例

平成31年3月22日公布 平成31年4月1日施行
岡山県総社市

総社市多様な性を認め合う社会を実現

する条例

平成31年3月22日公布

平成31年4月1日施行

茨城県

茨城県男女行動参画推進条例

  平成31年4月1日改正施行
東京都豊島区 

豊島区男女共同参画推進条例

   平成31年4月1日改正施行
神奈川県横須賀市 

横須賀市男女共同参画及び多様な性を

尊重する社会実現のための条例

   平成31年4月1日改正施行
岡山市 

岡山市男女共同参画社会の形成の

促進に関する条例

   平成31年4月1日改正施行
岩手県盛岡市

盛岡市男女共同参画推進条例

令和元年6月28日公布 令和元年6月28日施行
大阪府

大阪府性的指向及び性自認の多様性に

関する府民の理解の増進に関する条例

令和元年10月30日公布 令和元年10月30日施行
東京都港区

港区男女平等参画条例

令和2年4月1日改正施行

 

【文京区条例と多摩市条例】

〇 以上の条例のうち、早い段階で制定されたのが、文京区条例及び多摩市条例である。

〇 文京区男女平等参画推進条例は、性的指向又は性的自認に起因する差別的な取扱いに関して、「何人も、配偶者からの暴力等、セクシュアル・ハラスメント、性別に起因する差別的な取扱い(性的指向又は性的自認に起因する差別的な取扱いを含む。)その他の性別に起因する人権侵害を行ってはならない」(7条1項)と規定している。

  なお、本条例では、「性的指向」及び「性的自認」という用語を使用している一方で、「性的指向」及び「性的自認」の定義規定は置いていないが、これに関しては、「LGBT概念に入らない、例えばXジェンダー、クエスチョン、インターセックスという類型の人たちを排除することにもなるおそれ」を危惧し、LGBT概念は使用せず、「国連でも使われていたSOGI(Sexual OrientationGender Identity)概念すなわち性的指向・性自認の用語を用いることとし、禁止規定に位置づけることで、定義付けはあえて行わなかった」((谷口洋幸編著「LGBTをめぐる法と社会」(日本加除出版 2019年)76頁)とされている。

  また、「区民及び事業者は、区に対し、区が関与する男女平等参画に関する施策に係る苦情を申し立てることができる」(15条1項)として、苦情申立ての規定を置いている。

  なお、現在の文京区のSOGIに関する取組は、文京区HP「SOGI(性的指向と性自認)」を参照のこと。

〇 多摩市女と男の平等参画を推進する条例は、 基本理念として「すべての人が、個人として尊重され、性別並びに性的指向及び性自認にかかわらず、個人の能力及び個性を発揮し、意欲及び希望に沿って、社会的責任を分かち合うこと」(3条1号)及び「すべての人が、性別による差別的取扱い並びに性的指向及び性自認による差別を受けることなく、固定的な性別役割分担意識に基づく社会制度や慣行を解消されること」(3条2号)を掲げたうえで、性的指向及び性自認による差別に関して、「市、市民、事業者及びその他の団体は、社会のあらゆる場において、性別による差別的取扱い並びに性的指向及び性自認による差別を行ってはなりません」(7条1項)とし、また、「市、市民、事業者及びその他の団体は、情報を公表する際には、それらの情報が、男女平等参画社会の実現を阻害し、性別による差別的取扱い並びに性的指向及び性自認による差別を助長し、又は暴力的行為を誘発することのないように配慮しなければなりません」(8条)と規定している。

  なお、「性的指向」を「人の恋愛感情や性的な関心がいずれの性別に向かうかの指向(この指向については、異性に向かう異性愛、同性に向かう同性愛、男女両方に向かう両性愛等の多様性があります。)をいいます」(2条6号)と、「性自認」を「自分がどの性別であるかの認識(この認識については、自分の生物学的な性別と一致する人もいれば、一致しない人もいます。)のことをいいます」(2条7号)と、それぞれ定義づけているが、これに関しては、「広く使用されている『性的マイノリティ』(性的少数者)という表現をせずに、『性的指向』、『性自認』として第2条に定義しました」(多摩市HP平成26年1月1日から、 「多摩市女と男の平等参画を推進する条例」が施行されました!)とされている。

  また、「市民、事業者及びその他の団体は、市が実施する男女平等参画社会の実現に関する施策又は男女平等参画社会の実現に影響を及ぼすと認める施策並びに性別による差別的取扱い、性的指向及び性自認による差別その他の男女平等参画社会の実現を阻害する人権侵害と認める事項に関し、市に対して、苦情の申し出をすることができます」(21条1項)として、苦情処理の規定を置いている。

 

【同性パートナーシップ制度を規定している条例】

〇 上記条例のうち、同性パートナーシップ制度を規定しているのは、渋谷区、総社市、豊島区及び港区の条例である。同性パートナーシップ制度とは、自治体が、同性カップルに対して、二人のパートナーシップを証明し、または、二人のパートナーシップの宣誓を受け取るなどの制度であるが、令和2年5月18日現在、全国の自治体のうち51団体が導入している(同性パートナーシップ制度がある、日本の自治体一覧)とされる。51団体のうち、渋谷区、総社市及び豊島区が条例を根拠とし、それ以外の団体は規則又は要綱を根拠としている。

〇 全国で初めて同性パートナーシップ制度を導入し、かつ、条例に規定したのは、渋谷区である。

   渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例は、特に、性的少数者の人権の尊重に関する規定(4条)を置き、性的少数者に対する社会的な偏見及び差別をなくし、性的少数者が、個人として尊重されること、性的少数者が、社会的偏見及び差別意識にとらわれることなく、その個性と能力を十分に発揮し、自らの意思と責任により多様な生き方を選択できること、学校教育、生涯学習その他の教育の場において、性的少数者に対する理解を深め、当事者に対する具体的な対応を行うなどの取組がされること等を理念として掲げている。

  そして、「パートナーシップ」を「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係」(2条8号)と定義づけたうえで、区長は、公序良俗に反しない限りにおいて、パートナーシップに関する証明をすることができる(10条1項)とし、パートナーシップ証明制度を設けている。

  証明にあたっては任意後見契約に係る公正証書及び共同生活の合意契約に係る公正証書による確認が必要である(10条2項)などの手続きを定めるとともに、区民及び事業者は、その社会活動の中で、区が行うパートナーシップ証明を最大限配慮しなければならないなどの配慮規定(11条)を置いている。

  なお、制度の内容は、渋谷区HP「 渋谷区パートナーシップ証明書」を参照のこと。また、条例の内容等は、渋谷区HP「 渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を参照のこと。

〇 総社市多様な性を認め合う社会を実現する条例 は、パートナーシップの宣誓制度を規定している。

  すなわち、「パートナーシップ」を「2人の者が,互いを人生のパートナーとし,相互の協力により継続的な共同生活を行っている,又は継続的な共同生活を行うことを約した関係」(2条4号)と、「宣誓」を「パートナーシップの関係にある者同士が,市長に対し,パートナーシップの関係である旨を誓うこと」(2条5号)と定義づけたうえで、パートナーシップの宣誓は,宣誓書を市長に提出することにより行い、市長は,パートナーシップの宣誓があった場合は,パートナーシップ登録簿への登録を行うとともに,登録証明書に宣誓書の写しを添えて交付する(12条)こととしている。

なお、制度の内容は、総社市HP「総社市パートナーシップ宣誓制度」を参照のこと。

〇 豊島区男女共同参画推進条例は、パートナーシップ制度を規定している。

  すなわち、「パートナーシップ」を「互いを人生の伴侶とし、日常の生活において、経済的又は物理的かつ精神的に相互に協力し合うことを約した、一方又は双方が多様な性自認又は性的指向の2人の者の関係」(2条7号)と定義づけたうえで、区長は、パートナーシップの届出があったときは、規則で定めるところにより、受理証明書を交付することができる(8条の2)とし、事業者は、その社会活動の中で、受理証明書を最大限に配慮し、必要な措置を講ずるよう努めるものとする(8条の3)としている。

  なお、制度の内容は、豊島区HP「豊島区パートナーシップ制度」を参照のこと。

〇 港区男女平等参画条例は、みなとマリアージュ制度を規定している。

  すなわち、区は、「みなとマリアージュ制度(性的指向又は性自認にかかわらず 、誰もが人生を共にしたい人と家族として暮らすことを尊重する施策を推進するための制度)」を設け、制度の利用に関し必要な事項は区規則で定める(9条の2)こととしている。

  なお、制度の内容は、港区HP「みなとマリアージュ制度をスタートします(制度の概要)」を参照のこと。

〇 なお、都道府県のうち、茨城県及び大阪府が同性パートナーシップ制度を実施している。

  茨城県は、 茨城県男女行動参画推進条例を改正し、性的指向や性自認を理由とする差別的な取り扱いを禁止する規定(19条3項)などを設けたが、その後、要綱により、パートナーシップ制度を令和元年7月1日から実施している。

  大阪府は、 大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例を制定したが、同条例7条2項は「府が実施する事務事業において、性的指向及び性自認の多様性に配慮するよう努めるものとする」と規定しており、それを踏まえ、パートナーシップ宣誓証明制度を令和2年1月22日から実施している。

 

【アウティング禁止の規定等を置く条例】

〇 本人の意思に反して第3者が性的指向、性自認等を周囲に公表する「アウティング」を禁止する規定等を置くものとして、国立市、総社市、豊島区及び港区の条例がある。

〇  国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例 は、基本理念として「性的指向、性自認等に関する公表の自由が個人の権利として保障されること」(3条2号)を掲げ、本人の公表の権利を規定したうえで、「何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない」(8条2項)とし、アウティング行為を禁止している。

  なお、国立市の条例については、自治体法務研究2018年冬号CLOSEUP先進・ユニーク条例「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」を参照のこと。

〇 総社市多様な性を認め合う社会を実現する条例 は、「カミングアウト」を「自らが性的マイノリティであることを公表することをいう」(3条3号)と定義づけたうけで、「性的マイノリティであることを,本人の意に反して公にすること」及び「カミングアウトを強制し,又は禁止すること」を禁止している(8条2号及び3号)。

〇 豊島区男女共同参画推進条例 は、「何人も、性自認又は性的指向の公表に関して、本人に対し強制又は禁止してはならない」(7条5項)とするとともに、「何人も、本人の同意なくして性自認又は性的指向を公表してはならない」(7条6項)と規定している。

  なお、豊島区の条例については、自治体法務研究2020年夏号条例制定の事例CASESTUDY「豊島区男女共同参画推進条例」を参照のこと。

〇 港区男女平等参画条例は、「何人も 、他人の性的指向又は性自認に関して、公表を強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない 。」(7条3項)と規定している。また、「何人も 、正当な理由がない限り 、他人の性別表現を妨げてはならない。」(7条4項)と規定し、「性別表現」(外面に表れる性別についての自己表現 2条5号)の自由を保障しているとしている。

 

【その他】

〇 性の多様性等に対する自治体の役割については、鈴木秀洋「性的マイノリティへの対応と自治体の役割」(自治体法務研究2020年夏号特集「ダイバーシティの推進と自治体」)を参照されたい。