受動喫煙防止に関する条例
(令和6年12月15日更新)
【改正健康増進法】
〇 平成30年7月に「健康増進法」の一部が改正された(平成30年7月25日改正公布)。同改正健康増進法は、「望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の区分に応じ、当該施設等の一定の場所を除き喫煙を禁止するとともに、当該施設等の管理について権原を有する者が講ずべき措置等について定める」(同法案提出理由)ものであり、主なポイントは、以下の通りである。
① 国及び地方公共団体の責務等
a 国及び地方公共団体は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進するよう努める。
b 国、都道府県、市町村、多数の者が利用する施設等の管理権原者その他の関係者は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙を防止するための措置の総合的かつ効果的な推進を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努める。
② 多数の者が利用する施設等における喫煙の禁止等
a 多数の者が利用する施設等の類型に応じ、その利用者に対して、一定の場所以外の場所における喫煙を禁止する。
・ 第1種施設(学校・病院・児童福祉施設等、行政機関)、旅客運送事業自動車・航空機
禁煙(敷地内禁煙―屋外喫煙場所設置可)
・ 第2種施設(ⅰ以外の多数の者が利用する施設)、旅客運送事業船舶・鉄道
原則屋内禁煙(喫煙専用室(喫煙のみ)内でのみ喫煙可)
・ 既存特定飲食提供施設(飲食店のうち、個人又は中小企業(資本金又は出資の総額5000万円以下)かつ客席面積100㎡以下のもの)
標識の掲示により喫煙可(別に法律で定める日までの間の措置)
b 喫煙をすることができる場所については、施設管理権原者による標識の掲示が必要。
c 旅館・ホテルの客室等、人の居住の用に供する場所は、aの適用除外とする。
d 喫煙をすることができる室には20歳未満の者を立ち入らせてはならない。
e 都道府県知事(保健所設置市区にあっては、市長又は区長)は、違反している者に対して、喫煙の中止等を命ずることができる。
f 改正健康増進法の規定に違反した者について、所要の罰則規定を設ける。
〇 法律と制度の内容等については、厚生労働省HP「受動喫煙対策」を参照されたい。また、法律の改正経緯や主な論点等については、上田倫徳「受動喫煙防止対策の推進と課題-健康増進法の一部を改正する法律案-」(立法と調査400号(平成30年5月8日)が、参考になる。
【条例制定状況その1-改正法制定以前】
〇 改正健康増進法が制定される以前から、国の取組に先行して、一部の自治体においては、受動喫煙防止のための条例が制定され、運用されてきた。改正法制定以前に制定された受動喫煙防止に関する条例は、以下のとおりである。
神奈川県 | 平成21年3月31日公布 | 平成22年4月1日施行 (一部、平成23年4月1日施行) 令和2年4月1日改正施行 令和6年4月1日改正施行 |
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栃木県芳賀町 | 平成22年9月6日公布 | 平成23年4月1日施行 |
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兵庫県 | 平成24年3月21日公布 | 平成25年4月1日施行 (一部、平成25年10月1日施行) 令和2年4月1日改正施行 |
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広島県 | 平成27年3月16日公布 | 平成27年3月16日施行 (一部、平成28年4月1日施行) 令和2年4月1日改正施行 |
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北海道美唄市 | 平成27年12月11日公布 | 平成28年7月1日施行 令和2年4月1日改正施行 |
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東京都 | 平成29年10月13日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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奈良県香芝市 | 平成30年3月6日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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福岡県志免町 | 平成30年3月22日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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広島県福山市 | 平成30年3月27日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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兵庫県尼崎市 | 平成30年6月22日公布 | 平成30年6月22日施行 (一部、平成30年10月1日施行) |
〇 このうち、全国で最初に制定されたのが、「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」である。
平成21年制定当時の条例の主なポイントは、以下のとおりである。
① 公共的施設のうち、
a 第1種施設(学校、百貨店、官公庁、病院、劇場等)
禁煙(空間全部を非喫煙区域とすること)
b 第2種施設(飲食店、宿泊施設等)
禁煙又は分煙(喫煙区域と非喫煙区域に分割すること)
c 第2種施設のうち、風営法対象施設(パチンコ店、マ―ジャン店等)及び小規模飲食店(100㎡以下)
努力義務
d 適用場外認定施設(専ら特定の者のみが利用する施設やたばこ店等で、知事が認定する施設)
規制対象外
② 何人も、非喫煙区域内においては、喫煙をしてはならない。
③ 立入調査、指導及び勧告、公表、命令の規定を置く。
④ 知事の命令に違反した者等は、5万円以下の過料、非喫煙区域において喫煙をした者は、2万円以下の過料に処する。
平成21年制定当時の条例については、自治体法務研究2009年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」を参照のこと。
神奈川県条例は、改正健康増進法を踏まえ令和2年4月1日に改正施行され、また、令和6年4月1日の改正施行により喫煙や受動喫煙の定義が健康増進法と同一のもの等とされている。
神奈川県の条例の内容等については、神奈川県HP「受動喫煙防止」を参照されたい。
〇 受動喫煙に対して、神奈川県条例と同様に、罰則規定を置いている条例は、
兵庫県「受動喫煙の防止等に関する条例」である。
平成24年制定当時の条例の主なポイントは、以下のとおりである。
① 対象施設と規制措置
a 幼稚園、保育所、小・中・高校
敷地内・建物内のすべてを禁煙
病院・診療所、官公庁の庁舎、児童福祉施設
建物内のすべてを禁煙
大学、専修学校、薬局
建物内の公共的空間を禁煙
b 公共交通機関、図書館・博物館・美術館、社会福祉施設、飲食店(100㎡超)、宿泊施設(共用部分等)など
建物内の公共的空間を禁煙、厳格な分煙のいずれかに
c 飲食店(100㎡以下)、宿泊施設(100㎡以下のフロントロビー)
建物内の公共的空間を禁煙、厳格な分煙、時間分煙、喫煙のいずれかに
d 劇場、映画館等
建物内の公共的空間を禁煙、厳格な分煙、時間分煙のいずれかに
② 何人も、受動喫煙防止区域において喫煙してはならない。
③ 指導及び助言、勧告及び命令、立入検査等の規定を置く。
④ 知事の命令に違反した者は、30万円以下の罰金、受動喫煙防止区域において喫煙をした者は、2万円以下の過料に処する。
本条例は、「改正健康増進法が施行され、兵庫県においても、県民の健康の維持増進を図るため、とりわけ20歳未満の者及び妊婦を受動喫煙から守る観点を強化することを中心に、条例を改正し、令和2年4月1日から全面施行され」た。改正後の条例の内容等については、兵庫県HP「受動喫煙の防止等に関する条例」を参照のこと。
〇 「広島県がん対策推進条例」は、受動喫煙防止対策の規定を置き、一定の施設に対して施設の管理者がとるべき措置を義務化し,また,遊具のある公園等の利用者に対して喫煙しないことなどを努力義務とする措置を講じていたが、令和元年7月に、改正健康増進法を踏まえ、改正された(令和2年4月1日改正施行)。なお、罰則規定は置いていない。本条例における受動喫煙対策の内容等については、広島県HP「なくそう受動喫煙!」を参照のこと。
〇 芳賀町条例は、公共施設の建物内及び喫煙禁止区域内においての喫煙を禁止し(3条)、香芝町条例及び志免町条例は、それぞれ受動喫煙防止対策について努力義務を課している。また、東京都条例(子どもを受動喫煙から守る条例)は、子どもを受動喫煙の悪影響から保護するため、保護者等に対して努力義務を課し、福山市条例は、子どもと妊婦を受動喫煙の悪影響から保護するため、市民や保護者の責務等を定めている。
【条例制定状況その2-東京都の条例】
〇 改正健康増進法制定の直前に、制定されたのが、
東京都 | 平成30年7月4日公布 | 令和2年4月1日施行 (一部、平成31年1月1日、令和元年9月1日施行) |
である。「近年のオリンピック・パラリンピック開催都市では、屋内を全面禁煙とするなど、法律や条例で罰則を伴う受動喫煙防止対策を講じており、IOCが唱えるスモークフリーへの取組は世界の潮流となって」いることなどを踏まえ、「都民の健康増進の観点から、また、オリンピック・パラリンピックのホストシティとして、受動喫煙防止対策をより一層推進していくため」(「東京都受動喫煙防止条例(仮称)の基本的な考え方」平成29年9月8日)、条例制定の検討が進められ、議会での審議のうえ、平成30年7月に制定された。
改正健康増進法と比較した、条例の主なポイントは、以下のとおりである。
① 幼稚園、保育所、小・中・高校などは、法律では屋外喫煙場所の設置を可としているのに対して、条例では不可(努力義務)
② 飲食店のうち、法律では、既存特定飲食提供施設(飲食店のうち、個人又は中小企業(資本金又は出資の総額5000万円以下)かつ客席面積100㎡以下のもの)は、標識の掲示により喫煙可(別に法律で定める日までの間の措置)としているのに対して、条例では、既存特定飲食提供施設であっても、従業員を使用している場合は、禁煙(従業員を使用していない場合は、標識の掲示により禁煙、喫煙を選択)
③ 標識の掲示は、法律では喫煙場所のみ掲示が必要であるが、条例では禁煙の飲食店も掲示が必要
改正健康増進法を踏まえ、平成元年6月に改正され、改正法と重複する部分等の規定が削除され、条例独自の上乗せ部分等の規定は維持された(東京都受動喫煙防止条例の一部を改正する条例)。
条例の内容等については、東京都HP「東京都受動喫煙防止条例」を参照されたい。
【条例制定状況その3-改正法制定以後】
〇 改正健康増進法制定後に、制定されたもの(令和6年12月1日時点で確認できているもの)として、
千葉県千葉市 | 平成30年9月21日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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広島県廿日市市 | 平成30年10月1日公布 | 平成31年4月1日施行 令和2年4月1日改正施行 |
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千葉県習志野市 | 平成30年10月4日公布 | 平成31年1月1日、 平成31年4月1日施行 |
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山口県 | 平成30年10月16日公布 | 平成30年10月16日施行 |
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静岡県 | 平成30年10月23日公布 | 平成31年4月1日施行、 令和2年4月1日施行 |
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大阪府 | 平成30年12月13日公布 | 平成30年12月13日施行 |
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大阪府四條畷市 | 平成30年12月13日公布 | 令和元年10月1日施行 |
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山形県 | 平成30年12月25日公布 | 令和元年7月1日、 令和2年4月1日施行 |
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北海道士別市 | 平成31年2月20日公布 | 平成31年4月1日施行 |
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長野県松本市 | 平成31年3月15日公布 | 令和元年7月1日施行 |
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大阪府 | 平成31年3月20日公布 | 令和元年7月1日、 令和2年4月1日、 令和4年4月1日施行 |
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東京都調布市 | 平成31年3月26日公布 | 令和元年7月1日施行 |
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愛知県豊橋市 | 平成31年3月27日公布 | 令和元年7月1日、 令和2年4月1日施行 |
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東京都多摩市 | 平成31年3月29日公布 | 令和元年10月1日施行 |
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福島県田村市 | 令和元年6月21日公布 | 令和元年7月1日施行 |
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長野県箕輪町 | 令和元年6月24日公布 | 令和元年7月1日施行 |
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秋田県 | 令和元年7月2日公布 | 令和2年4月1日、 令和6年7月12日施行 |
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愛知県蒲郡市 | 令和元年9月26日公布 | 令和元年12月1日、 令和2年4月1日施行 |
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大阪府高石市 | 令和元年9月27日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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岐阜県多治見市 | 令和元年9月30日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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北海道苫小牧市 | 令和元年12月23日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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千葉県市原市 | 令和2年3月12日公布 | 令和2年4月1日、 令和2年10月1日施行 |
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滋賀県湖南市 | 令和2年3月24日公布 | 令和2年7月1日施行 |
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岡山県 | 令和元年3月24日公布 | 令和2年4月1日、 令和2年10月1日施行 |
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徳島県那賀町 | 令和2年1月7日公布 | 令和2年1月7日施行 |
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名古屋市 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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北海道 | 令和年3月31日公布 | 令和2年4月1日、 令和2年7月1日、 令和3年4月1日施行 |
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埼玉県 | 令和2年3月31日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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大阪府寝屋川市 | 令和2年4月1日公布 | 令和2年10月1日施行 |
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福島県福島市 | 令和2年6月19日公布 | 令和2年7月1日、 令和2年10月1日、 令和3年3月1日施行 |
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大阪府豊中市 | 推進に関する条例 |
令和2年6月19日公布 | 令和3年4月1日施行 |
東京都中央区 | 令和2年6月30日公布 | 令和2年7月1日、 令和2年9月1日施行 |
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東京都三鷹市 | 令和2年10月1日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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東京都清瀬市 | 令和2年10月1日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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山形県山形市 | 令和2年10月7日公布 | 令和3年3月1日施行 |
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静岡県袋井市 | 令和2年12月28日公布 | 令和3年7月1日施行 |
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福島県 | 令和3年3月23日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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奈良県広陵町 | 令和3年3月26日公布 | 令和3年10月1日施行 |
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広島県東広島市 | 令和3年12月21日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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長野県諏訪市 | 令和4年9月22日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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青森県 | 令和5年3月24日公布 | 令和5年3月24日施行 |
がある。
〇 これらの条例は、法律に比べて、法律の第1種施設に対して規制を強化するもの(屋外喫煙場所の設置を、幼稚園、保育所、学校等について、禁止するもの、努力義務で禁止するもの、それ以外の施設についても、努力義務で禁止するものなど)、第2種施設に対して規制を強化するもの(喫煙専用室の設置を、努力義務で禁止するもの、公共施設については禁止するもの、駅、空港等については禁止するものなど)、既存特定飲食施設に対して規制を強化するもの(従業員を使用している飲食店は、禁煙とするもの、努力義務で禁煙とするもの、喫煙可能室の設置を努力義務で禁止するものなど)、標識の掲示に関して規制を強化するもの(禁煙の飲食店も掲示を、義務付けているもの、努力義務で義務付けているものなど)しているものなどが少なくないが、それぞれの内容は、条例によって異なっている。
また、市町村の条例では、路上等の喫煙規制を設けているもの(習志野市、四条畷市、士別市、松本市、調布市、多摩市、田村市、高石市、市原市、寝屋川市、豊中市、三鷹市、清瀬市及び広陵町)も多い(「路上喫煙を禁止する条例」を参照のこと)。
なお、罰則規定を設けているのは、千葉市、習志野市、四條畷市、調布市、多摩市、市原市、埼玉県、寝屋川市、福島市、豊中市、三鷹市及び広陵町の各条例と大阪府受動喫煙防止条例である。
【法律と各条例の比較】
〇 釼持麻衣「受動喫煙対策をめぐる改正健康増進法の上乗せ・横出し条例」(「都市とガバナンス」第32号2019年9月15日)は、上記で示した条例のうち、令和元年8月までに筆者が収集しえた26条例について、法律に対する上乗せ・横出し規制の状況について紹介するとともに、一覧表を掲載している(183頁)。