SDGsに関する条例
(令和7年4月19日更新)
【SDGsに関する条例】
〇 SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2001年(平成13年)に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年(平成27年)9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において記載された2016年から2030年までの国際目標である。SDGsにおいては、17のゴール、169のターゲットが設定されるとともに、進捗状況を測るための約230の指標(達成度を測定するための評価尺度)が提示されている。日本政府は、持続可能な開発目標(SDGs)推進本部を設置するとともに、SDGs実施指針を決定し、SDGsを総合的かつ効果的に推進することとしている(SDGsの内容や日本政府の取組等については、外務省HP「JAPAN SDGs Action Platform」参照)。
また、内閣府は、「持続可能なまちづくりや地域活性化に向けて取組を推進するに当たっては、SDGsの理念に沿って進めることにより、政策全体の全体最適化、地域課題解決の加速化という相乗効果が期待でき、地方創生の取組の一層の充実・深化につなげることができるため、SDGsを原動力とした地方創生を推進します。」とし、SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業を選定するなどして、自治体におけるSDGsの取組の推進を図っている(内閣府HP「地方創生SDGs」参照)。
こうしたことを受けて、自治体においても近年SDGsの取組が進められているが、一部の市町村では「SDGs」または「持続可能な開発目標」を規定する条例を制定するようになっている。以下、紹介する。
【SDGsに基づくまちづくりを目指す条例】
〇 SDGSに基づくまちづくりを目指す条例として、以下のような条例がある。
北海道下川町 | 平成30年6月22日公布 | 平成30年7月1日施行 |
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群馬県桐生市 | 平成31年3月19日公布 | 平成31年3月19日施行 |
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鹿児島県大崎町 | 平成31年3月20日公布 | 平成31年3月20日施行 |
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茨城県下妻市 | 令和3年6月25日公布 | 令和3年6月25日施行 |
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京都府京丹後市 | 令和4年10月6日公布 | 令和4年10月6日施行 |
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新潟県妙高市 | 令和4年12月23日公布 | 令和4年12月23日施行 |
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新潟県佐渡市 | 令和5年3月27日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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北海道登別市 | 令和5年3月31日公布 | 令和5年4月1日施行 |
〇 下川町条例は、SDGsを推進するための関係機関の設置根拠となる条例であるといえる。7条から構成されている。
「下川町における持続可能な開発目標(以下『SDGs』という。)の達成に向け、推進体制を整備し、『2030年における下川町のありたい姿』・・・の具現化を図り、誰ひとり取り残されず、しなやかに強く、幸せに暮らせる持続可能な地域社会を実現すること」(1条)を目的としたうえで、「SDGsパートナーシップセンター(SDGsに係る事業の実施及び普及展開等のための拠点)」の設置(3条)、「SDGs推進町民会議(SDGsに係る計画の策定及び実施を町民との協働により推進する組織―町民から構成)の設置(4条)、「SDGs評議委員会(SDGsに係る計画の実施内容、進捗等について評価し、助言等をする組織-町内外の者から構成)」の設置(5条)、「SDGs推進本部(町長をはじめとする全ての町の執行機関から構成)」の設置(6条)等について、定めている。
1条に規定されている「2030年における下川町のありたい姿」とは、SDGsの考え方を取り入れて町の将来像を描いたものであり、これを基にして町の総合計画及びSDGs未来都市計画を策定し、下川版SDGsの実現に向けた取組を進めようとするものである(平成30年4月23日策定)。
下川町は、平成29年12月16日に第1回ジャパンSDGsアワード総理大臣賞を受賞した。「『下川町自治基本条例(平成18年10月3日公布 平成19年4月1日施行)』に『持続可能な地域社会の実現』を位置付け、①森林総合産業の構築(経済)、②地域エネルギー自給と低炭素化(環境)、③超高齢化対応社会の創造(社会)、統合的に取り組んでいる。」として、下川町のこれまでのSDGsの実現に資する取組が評価されたものである。さらに平成30年6月15日には、内閣総理大臣により、SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定を受けた。下川版SDGsを実現するため、総合計画及びSDGs未来都市計画を策定し、町内外の多様な人々が連携をして、林業の川上から川下までのシームレス産業化、中心市街地最適居住空間計画、森林バイオマス利用拡大による脱炭素社会構築などのモデル的な事業を積極的に進めるとする下川町の提案が、採択されたものである。こうしたことを受けて制定された本条例は、関係する計画の策定と事業の推進を着実に進めるため、下川町における必要な体制整備を図ろうとするものであり、町として下川版SDGs達成に向けた取組への決意を表わすものと言える。
下川町のSDGsの取組みについては、下川町HP「下川町のSDGs(持続可能な開発目標)の達成にむけた取組み」を参照されたい。
〇 桐生市条例は、議員提案により制定されている。目的(1条)、理念(2条)、市の責務(3条)、事業者及び関係団体の役割(4条)、市民の役割(5条)、議会及び議員の役割(6条)、施策の基本方針(7条)、市民等の意見の反映(8条)、財政上の措置(9条)及び実施状況の公表及び情報発信(10条)の10条から構成されている。
条例推進の基本理念として、①SDGsに掲げる「誰一人取り残さない」という基本理念及び17の目標を取り入れること、②①の観点を市及びステークホルダー(市民、関係自治体、民間企業、NPO等の広範で多様な主体及び関係者)が事業及び活動に取り入れ、その達成に向けて、力を合わせて取り組んでいくこと、③経済、社会及び環境を統合的に向上させ、市民が安心して暮らせる持続可能なまちを目指すこと、の3点を示す(2条)とともに、市の施策の基本方針として、SDGsの特徴を生かした政策ビジョンの策定、SDGsに関する研修や講演会・イベント等を実施等を掲げている(7条)。
本条例は、桐生市議会が議会改革の一つとして、各常任委員会においてそれぞれの所管事務における政策提案・提言や条例制定を目指す活動に取り組んできたなかで、総務委員会が、SDGsに着目して、「視察や協議を重ね、また、 パブリックコメントを実施して、市民の方の意見募集を行い、頂いたご意見を反映させるなどして」、委員会提出議案として提出し、制定されたものである(桐生市HP「持続可能な開発目標(SDGs)を桐生市のまちづくりに生かす条例の制定」参照)。本条例の制定に向けた議会としての考え方や条例の内容等については、自治体法務研究2019年冬号CLOSEUP先進・ユニーク条例「桐生市のまちづくりに生かす条例」を参照されたい。
桐生市のSDGsの取組みについては、桐生市HP「桐生市のSDGsに関する取り組み」を参照されたい。
〇 大崎町条例は、前文で、「地球規模でも、グローバル経済の進展により、社会,環境及び経済の面において大きな課題に直面しており、こうした課題に対処するため、2015年9月、国連は持続可能な開発目標を掲げ、2030年に向けて世界全体で取り組むべき優先課題及びあるべき姿を示し、日本においても持続可能な開発目標実施方針が2016年に閣議決定され、地方自治体においても積極的に取り組むこととされました。」としたうえで、「私たち大崎町民がこれまで住民力を発揮し、焼却に頼らず徹底した分別による低コストのごみ処理方式「大崎システム」の構築で、社会・環境・経済をつなぐ、持続的な取組を行ってきた経験を糧に、町民が一体となって美しいふるさと大崎町を次の世代に引き継ぐため、持続可能なまちづくりを推進することを決意し、この条例を制定します。」としている。
目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、町の責務(4条)及び町民及び団体の役割(5条)の5条から構成されている。
大崎町のSDGsの取組みについては、大崎町HP「大崎町のSDGs(持続可能な開発目標)に関する取組」を参照されたい。
〇 下妻市条例は、目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市の責務(4条)、ステークホルダーとの連携(5条)、計画等とSDGsとの調和(6条)、施策の評価等(7条)、職員の研修(8条)、広報及び啓発(9条)、市民の役割(10条)及び委任(11条)の11条から構成されている。
基本理念を「本市におけるまちづくりは、SDGsで掲げる持続可能な開発を基本とし、環境保護、社会的包摂及び経済開発の観点から、その調和を図ることを旨として、市民との協働により推進されなければならない。」(3条)とし、市は「SDGsの達成に資する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施するものとする」(4条)としたうえで、「SDGsの達成に資する施策を推進するため、市の総合計画その他の市の基本的政策を定める計画等にSDGsで掲げる17の目標(・・・)を取り入れるよう努めなければならない。」(6条1項)等と規定している。
下妻市のSDGsの取組みについては、下妻市HP「SDGsの達成に向けた下妻市の取り組み」を参照されたい。
〇 京丹後市条例は、前文で、「私たちは、令和3年、国から「SDGs未来都市」に認定された自覚も深め、令和12年(2030年)に向けて、SDGsの理念を共有し、その達成に向けた取り組みを推進することにより、地球と世界の未来にしっかりと貢献すること、そして、持続可能で、夢と希望にあふれるまちの創生・発展を目指すことを決意し、この条例を制定します。」としている。
目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市の責務(4条)及び市民等の役割(5条)の5条から構成されている。
京丹後市のSDGsの取組みについては、京丹後市HP「SDGs」を参照されたい。
〇 妙高市条例は、目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市民の自覚と行動(4条)、コミュニティ及び事業者の役割(5条)、滞在者の協力(6条)、市の責務(7条)、SDGsに関する計画及び施策(8条)、財政上の措置(9条)、施策の評価(10条)及び委任(11条)の11条から構成されている。
「市民の自覚と行動」として「市民は、前条の基本理念に基づき、SDGsへの関心及び理解を深めるとともに、家庭、学校、職場、地域等において、SDGsの達成に資する取組を自主的かつ自発的に実践するものとする。」(4条1項)等の規定を、「滞在者の協力」として「滞在者は、SDGsへの関心及び理解を深めるとともに、SDGsの達成に資する事業、活動等に協力するよう努めるものとする。」の規定等を置いている。
妙高市のSDGsの取組みについては、妙高市HP「妙高市のSDGsの取り組み」を参照されたい。
〇 佐渡市条例は、前文で、「私たちは、2022年5月に国から「SDGs未来都市」に選定された自覚を深め、2030年の目標達成に向けて、SDGsや地域循環共生圏の考え方を理解し、将来あるべき姿や希望を共有するとともに 、目標達成に向けた取組を推進し、人口減少や少子高齢化が進む中にあっても、あらゆる人たちが活躍できる持続可能な地域社会を築き、離島佐渡から日本の「SDGsモデル」を世界に発信していくことを決意して、この条例を制定する。」としている。
目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市の責務(4条)、市民の役割(5条)、事業者等の役割(6条)及び広報・啓発(7条)の7条から構成されている。
佐渡市条例の内容等については、佐渡市HP「佐渡市地域循環共生圏の創造による持続可能な島づくり推進条例が成立しました」を参照されたい。
〇 登別市条例は、議員提案により制定されている。目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市の責務(4条)、ステークホルダーの役割(5条)、市民等の役割(6条)、議会及び議員の役割(7条)、広報及び啓発(8条)、市民等の意見の反映及び財政措置(9条)並びに実施状況の公表及及び情報発信(10条)の10条から構成されている。
登別市のSDGsの取組みについては、登別市HP「みんなのSDGs」を参照されたい。
【その他SDGsに関する規定を置く条例】
〇 上記の条例のほか、SDGsに関する規定を置く条例として、
徳島県上勝町 | 令和元年9月20日公布 | 令和元年10月1日施行 |
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さいたま市 | 令和3年3月11日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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東京都江戸川区 | 令和3年6月30日公布 | 令和3年7月1日施行 |
等の条例がある。
〇 上勝町条例は、上記の条例とは異なり、SDGsの推進そのものを目的とするものではない。いわゆる景観条例であるが、景観形成の方針の一つとして、「町の景観形成は,地域の社会課題と環境課題を同時に解決する持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)の観点から推進する。」(3条2項6号)と規定し、SDGsの考え方を明示している。
上勝町は、平成25年3月に自治基本条例として、上勝町持続可能な美しいまちづくり基本条例(平成25年3月25日公布 平成26年4月1日施行)を制定し、「持続可能な美しいまちづくり」をめざすこととしている。町政推進の基本理念にSDGs的な考え方が既に位置付けられていたと見ることもできる。
〇 さいたま市条例は、SDGs企業認証審査会の設置、組織、運営等について定める条例である。同審査会は、「市長の諮問に応じ、持続可能な開発目標を達成するための取組を実践する市内企業等の認証について審査し、及び当該認証制度の推進に関し必要な事項について調査審議する」(1条)としている。
さいたま市は、「『SDGs未来都市』として、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた様々な施策を推進しており、また、日本経済新聞の「全国市区・SDGs先進度調査」(令和3年1月4日:日経グローカル誌掲載)において、総合評価で首位に選ばれています。」としているが、SDGsの達成に向けた取組をより一層後押しするため、令和3年4月に「さいたま市SDGs企業認証制度」を創設した(さいたま市HP「さいたま市SDGs企業認証制度」を創設します~令和3年4月1日(木)から募集開始~」)。同認証制度の内容等については、さいたま市HP「さいたま市SDGs企業認証制度」を参照されたい。
〇 江戸川区条例は、共生社会の実現を目指す理念条例である。条文上は、SDGsの文字も持続可能な開発という言葉も入っていない。
しかし、江戸川区は「SDGsの『誰一人取り残さない』という理念は、江戸川区の目指す共生社会の考え『誰もが安心して自分らしく暮らせるまち』と一致します。江戸川区は『SDGsの達成=共生社会の実現』に向けて、SDGsに積極的に取り組んでいきます。」(江戸川区HP「SDGs未来都市」)としており、本条例も広い意味では江戸川区におけるSDGsの考え方に基づき制定されていると言える。なお、江戸川区は部の一つとしてSDGs推進部を設置しており(江戸川区組織条例1条)、本条例はSDGs推進部が所管している。本条例の内容等については、自治体法務研究2021年冬号CLOSEUP先進・ユニーク条例「ともに生きるまちを目指す条例」を参照されたい。
【参考】
〇 なお、自治体のSDGs推進の具体的取組については、内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」(2021年7月)が詳しい。
〇 また、牧瀬稔「地方自治体におけるSDGsの現状と展望」(社会情報研究1号 2020年3月)は、自治体のおけるSDGsの状況を説明するとともに、下川町条例と桐生市条例のほかSDGs17の目標に関連する既存条例等を紹介しているので、参照されたい。