成年後見制度に関する条例
(令和6年11月17日更新)
【成年後見制度と条例】
〇 成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等の理由により、十分な判断能力を有しない者を保護し、支援するための制度である。民法(明治29年法律89号)が平成12年4月1日に改正施行され、従前の禁治産・準禁治産制度が廃止され、それに代わるものとして、ノーマライゼーションや自己決定権の尊重等の理念と本人保護の理念との調和の観点から、制度化された。
成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の二つがあり、法定後見制度は、家庭裁判所によって選任された成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、法律行為の代理、同意または取消を行うものであり、任意後見制度は、本人が十分な判断能力あるうちに、自ら選んだ任意後見人に自己の生活、療養看護及び財産管理に関する事務についての代理権を与える契約を結ぶものである(詳しくは、法務省HP「成年後見制度・成年後見登記制度」を参照のこと)。なお、任意後見制度は、任意後見契約に関する法律(平成11年法律150号)に規定されている。
〇 平成12年4月1日から施行された介護保険法(平成9年法律第123号)と同時に、この成年後見制度は施行された。介護保険制度が開始されることによって、公的介護サービスの多くは、老人福祉制度等による措置から、介護保険制度による契約へと制度利用の手続きが変更されることになったが、利用者が契約を行う能力が無い場合には、成年後見制度を利用し成年後見人等が契約を行うこととなった。このため、成年後見制度は介護保険制度とともに高齢社会を支える「車の両輪」とも言われている。
また、成年後見の保護を必要とする者が放置されないようにとの社会的要請に基づき、市区町村長は、65歳以上の者または知的障害者、精神障害者について、その福祉を図るため特に必要と認めるときは、法定後見の開始の審判の請求をすることができる(老人福祉法(昭和35年法律133号)32条、知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)28条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律123号)51条の11の2、いずれも平成12年4月1日改正施行)とされている。
ここに、福祉的機能を持つ成年後見制度における、市区町村長の役割が制度的に位置付けられている。
〇 こうした成年後見制度の利用に関する条例を制定している市区町村が十数団体ある。これらの条例は、大きく分けると、2つのタイプに分かれる。
① 平成10年代に制定された「成年後見制度利用支援条例」
② 平成28年以降制定された「成年後見制度の利用を促進するための条例」
以下、これらの条例を概観する。
【成年後見制度利用支援条例】
〇 平成10年代に制定された「成年後見制度利用支援条例」としては、以下のようなものがある。
滋賀県大津市 | 平成13年3月21日公布 | 平成13年4月1日施行 |
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東京都江東区 | 平成15年3月12日公布 | 平成15年4月1日施行 |
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滋賀県栗東市 | 平成15年3月26日公布 | 平成15年4月1日施行 |
〇 いずれも、成年後見制度の制定後比較的早い時期に、制定され、施行されている。
〇 大津市条例と栗東市条例は、ほぼ、同様の内容を持つ。
いずれも、条例の趣旨を、「成年後見制度の利用が必要であるにもかかわらずその利用が困難な認知症高齢者、知的障害者及び精神障害者・・・が成年後見制度を利用することができるように支援し、もってノーマライゼーションの理念に基づいた認知症高齢者等の自己決定の尊重を図るとともに、認知症高齢者等の権利の擁護を図るものとする。」(1条)としている。そして、市長は、「成年後見制度の利用が必要であるにもかかわらず身寄りがない等の理由により他に審判の請求をする者がいない認知症高齢者等があるときは」、後見開始等の審判の請求を行う(2条1項)とし、その費用は市が支弁し(2条2項)、成年被後見人等となる認知症高齢者等が生計を維持するのに足りる資力を十分有するときは、費用を請求することができる(3条)としている。
なお、大津市の取組の状況等については、大津市HP「成年後見制度について」を参照のこと。
〇 江東区条例は、条例の目的を、「区長が行う審判の請求の手続及び成年後見制度の利用に係る経費の助成に関し必要な事項を定めることにより、高齢者、知的障害者及び精神障害者が地域において安心して生活を営むことができる環境づくりを推進し、もって福祉の増進を図ること」(1条)とし、審判請求の手続と経費の助成に関して定めた条例であることを明確にしている。
法律では、市区町村長は「その福祉を図るため特に必要と認めるときは」審判の請求を行うとしているが、本条例では、区長は、審判の請求を行うに当たっては、①審判の対象者の事理を弁識する能力、②本人の生活状況及び健康状況、③本人の親族の存否、当該親族による本人保護の可能性及び当該親族が審判の請求を行う意思の有無、④区又は関係機関等が行う各種施策及びサービスの活用による本人に対する支援策の効果、を総合的に考慮するもの(2条)とし、審判請求の要件を具体的に規定している。
また、審判請求に要する費用は、後見人等を通じて、本人に求償する(3条)とする一方で、一定の者に対しては、費用を助成することとし、その対象者、対象経費、助成金額、申請手続等を定めている(5条~13条)。
なお、江東区の取組の状況等については、江東区HP「成年後見制度」を参照のこと。
【成年後見制度の利用を促進するための条例】
〇 平成28年以降制定された「成年後見制度の利用を促進するための条例」としては、以下のようなものがある。
埼玉県志木市 | 平成29年3月24日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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大分県臼杵市 | 平成31年3月19日公布 | 平成31年4月1日施行 |
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徳島県阿南市 | 平成31年3月26日公布 | 平成31年4月1日施行 |
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青森県深浦町 | 平成31年3月29日公布 | 平成31年4月1日施行 |
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群馬県渋川市 | 令和元年9月11日公布 | 令和元年10月1日施行 |
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岩手県矢巾町 | 令和元年12月5日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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京都府南丹市 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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秋田県羽後町 | 令和2年9月28日公布 | 令和2年10月1日施行 |
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大分県別府市 | 令和3年3月12日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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東京都豊島区 | 令和3年12月8日公布 | 令和3年12月8日施行 |
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愛知県大府市 | 令和3年12月22日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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京都府与謝野町 | 令和4年12月14日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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茨城県大子町 | 令和5年3月10日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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群馬県川場村 | 令和6年3月8日公布 | 令和6年3月8日施行 |
〇 成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律29号)が、議員立法により、平成28年4月15日に公布され、平成28年5月13日に施行された。
本法は、「認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理又は日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資すること及び成年後見制度がこれらの者を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていないことに鑑み、成年後見制度の利用の促進について、その基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及び基本方針その他の基本となる事項を定める」(1条)ものである。
いみじくも1条の目的規定に明記している通り、成年後見制度が「十分に利用されていないこと」が、本法の制定の背景にある。その要因として、①社会生活上の大きな支障が生じない限り、制度があまり利用されていない、②後見人による本人の財産の不正使用を防ぐという観点から、親族よりも法律専門職等の第三者が後見人に選任されることが多くなっているが、そうしたケースの中には、意思決定支援や身上保護等の福祉的な視点に乏しい運用がなされている、③後見人を支援する体制が不十分である、④このため、利用者が利用のメリットを実感できていない、ことが指摘されている(成年後見制度利用促進基本計画2頁)。
そこで、基本理念(3条)、国の責務(4条)等を明らかにしたうえで、基本方針(11条)を規定し、成年後見制度利用促進基本計画の策定(12条)等を定めている。
また、地方公共団体は、「基本理念にのっとり、成年後見制度の利用の促進に関する施策に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(5条)とするとともに、特に市町村は、「成年後見制度利用促進基本計画を勘案して、当該市町村の区域における成年後見制度の利用の促進に関する施策についての基本的な計画を定めるよう努めるとともに、成年後見等実施機関の設立等に係る支援その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」(23条1項)とし、また、「当該市町村の区域における成年後見制度の利用の促進に関して、基本的な事項を調査審議させる等のため、当該市町村の条例で定めるところにより、審議会その他の合議制の機関を置くよう努めるものとする。」(23条2項)としている。
なお、12条に基づき、平成29年3月24日に成年後見制度利用促進基本計画(平成29年度~令和3年度)が、令和4年3月25日に第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年度~令和8年度)が閣議決定されている。
本法の内容や関係施策等については、厚生労働省HP「成年後見制度利用促進」を参照のこと。
〇 志木市条例以下の上記条例は、この成年後見制度の利用の促進に関する法律が制定され、地方公共団体の責務が定められたことを踏まえて制定された。いずれも、「成年後見制度の利用の促進に関する法律の趣旨にのっとり、成年後見制度の利用の促進について、その基本理念を定め、及び市(町)の責務等を明らかにする」とともに、「成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進する」こと等を目的としている。
そのうえで、基本理念、市(町)の責務、関係者の努力(協力、役割)及び関係機関等の連携を定めている。
また、法律で努力義務とされた計画の策定と審議会等の設置について規定を置き、また、成年後見制度利用促進基本計画において定められた地域連携ネットワークの構築についても明記している。
さらに、志木市、深浦町、渋川市、南丹市、羽後町、大府市、与謝野町、大子町及び川場村の条例は成年後見等実施機関の設立に係る支援等について、臼杵市及び別府市の条例は成年後見制度の利用に関する支援等について、阿南市及び矢巾町の条例は財政上の措置について、それぞれ規定している。南丹市条例は、権利擁護・成年後見センターの設置(8条)及び権利擁護・成年後見センター運営委員会の設置(9条)についても、規定している。
なお、臼杵市は、本条例の制定に伴い、臼杵市成年後見制度利用支援条例(平成18年臼杵市条例27号)を廃止している。
〇 志木市条例の内容、取組等については自治体法務研究2019年夏号条例制定の事例CASESTUDY「志木市成年後見制度の利用を促進するための条例」及び志木市HP「後見制度」を、阿南市の取組等については阿南市HP「成年後見制度」参照のこと。
なお、自治体法務研究2019年夏号は「成年後見制度の利用促進に向けて」を特集にしているので、参考にされたい。