歴史的建築物保存及び活用に関する条例
(令和6年12月1日更新)
【歴史的建築物の保存・活用と法律・条例】
〇 地域には、それぞれの地域固有の歴史的、文化的な価値を有する建築物がある。こうした歴史的建築物を適切に保存し、活用することが、地域の活性化や魅力あるまちづくりを行ううえでも、重要となっている。歴史的建築物といっても、寺社、仏閣、城郭、武家屋敷、民家、町家、洋風建築、学校校舎、工場、鉄道・港湾施設など様々なものがあるが、法律や条例等などで規制や支援の対象となっているものとしては、以下のようなものがある。
① 文化財保護法に基づく文化財である建築物
② 文化財保護法に基づく文化財保護条例で定める文化財である建築物
③ 文化財保護法に基づく伝統的建造物群保存地区の伝統的建造物
④ 地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律(歴史まちづくり法)に基づく歴史的風致形成建造物
⑤ 景観法に基づく景観重要建造物
⑥ 自治体の自主条例で定める歴史的建築物等
⑦ その他自治体の要綱等で定める歴史的建築物等
などである。
〇 歴史的建築物は、当然ながら建設されてかなりの年数が経っており、建築基準法等の法令は当該建築物の建設以降に制定されたか又は幾度かの改正を経ていることとなるため、これらの現行規定には適合しないこととなる。このことについて、国民の権利義務に影響を与える法令は遡及適用されないことが原則とされており、建築基準法も3条2項でその旨規定している。しかし、古い建築物であっても、主要構造物を大規模に修繕、模様替えをする場合、大規模な増築をする場合、一定の用途変更をする場合は、現行規定に適合させなければならない(6条、87条)としており、その場合には、歴史的建築物の価値が大きく損なわれることが想定される。
そこで、建築基準法3条1項は、①文化財保護法の規定によって国宝、重要文化財、重要有形民俗文化財、特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物として指定された建築物、②文化財保護法182条2項の条例(文化財保護条例)その他の条例の定めるところにより現状変更の規制及び保存のための措置が講じられている建築物であって、特定行政庁が建築審査会の同意を得て指定したもの 等については、建築基準法の規定は適用除外としている。
すなわち、国宝、重要文化財、重要有形民俗文化財、特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物として指定された建築物等か、または、「文化財保護条例」か「その他の条例」で「現状変更の規制及び保存のための措置」が講じられた建築物で特定行政庁が建築審査会の同意を得て指定したものであれば、歴史的建築物もその歴史的価値を維持しながら保存、活用できることとなる。
〇 国土交通省は、「その他の条例」で「現状変更の規制及び保存のための措置」が講じられるものを対象として、平成30年3月16日「歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)を発表しているが、ガイドラインでは、「その他の条例」で「現状変更の規制及び保存のための措置」が講じられるものには、2つのタイプがあるとしている。すなわち、①独自条例タイプ(独自条例の制定)と②既存条例タイプ(景観条例等の改正)である。本稿は、この分類に従って、こうした歴史的建築物保存及び活用に関する条例を紹介する。
〇 なお、ガイドラインの内容や活用の具体例などについては、国土交通省HP「「歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドライン」について」を参照されたい。また、自治体法務研究2018秋号は、「自治体のおける歴史的建築物の活用」を特集しているので、あわせて参考にしていただきたい。
【独自条例タイプ】
〇 独自条例タイプとして、以下のようなものがある。
京都市 | 平成24年3月30日公布 | 平成24年4月1日施行 |
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福岡市 | 平成27年3月19日公布 | 平成27年4月1日施行 |
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埼玉県川越市 | 平成28年3月18日公布 | 平成28年10月1日施行 |
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神奈川県鎌倉市 | 平成28年10月24日公布 | 平成28年10月24日施行 |
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兵庫県豊岡市 | 平成29年3月29日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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群馬県富岡市 | 平成29年3月30日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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岡山県津山市 | 平成29年6月27日公布 | 平成29年10月1日施行 |
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福島県喜多方市 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 |
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石川県金沢市 | 平成31年3月25日公布 | 令和元年10月1日施行 |
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千葉県佐倉市 | 平成31年3月25日公布 | 平成31年4月1日施行 |
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大阪府羽曳野市 | 令和元年6月28日公布 | 令和元年7月1日施行 |
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奈良県奈良市 | 令和元年10月10日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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兵庫県姫路市 | 令和元年12月24日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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熊本市 | 令和2年6月24日公布 | 令和2年6月24日施行 |
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神奈川県大磯町 | 令和2年10月5日公布 | 令和2年12月1日施行 |
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岡山県勝央町 | 令和2年12月8日公布 | 令和2年12月8日施行 |
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新潟県長岡市 | 令和2年12月14日公布 | 令和3年2月1日施行 |
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富山県高岡市 | 令和3年3月24日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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神奈川県小田原市 | 令和3年3月31日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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大阪府泉佐野市 | 令和3年9月30日公布 | 令和3年10月1日施行 |
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滋賀県近江八幡市 | 活用に関する条例 |
令和4年12月23日公布 | 令和5年4月1日施行 |
北海道厚真町 | 令和5年2月10日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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千葉県野田市 | 令和5年12月15日公布 | 令和6年1月1日施行 |
〇 これらの中で、最初に制定されたのは、京都市条例で平成24年3月であり、その後、平成27年から平成29年に6市が制定している。また、平成30年3月のガイドライン作成以降では15市町が制定していることが確認できる。条例名は、金沢市条例及び奈良市条例を除くほかは「歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」となっている。また、豊岡市条例は、対象地域を「城崎温泉地区」と限定しているが、他の条例は限定せず市域全体としている。
〇 これらの条例は、条例によって差異はあるが、概ね、①総則(目的、定義)、②対象建築物の登録等(登録、登録の申請・変更・抹消)、③保存建築物等に関する制限(増改築等の許可、中間・完了検査、管理義務、維持管理の報告、助言・勧告・命令、権利義務の承継)、④雑則(建築物の設計・工事監理、違反建築物の設計者等に対する措置、報告・資料提出、消防長の意見聴取、監督処分、立入調査、規則への委任)、⑤罰則で構成されている。
〇 対象建築物として、①文化財保護法57条1項の規定により登録された登録有形文化財、②景観法19条1項に規定する景観重要建造物、③地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律12条1項に規定する歴史的風致形成建造物、④当該市が所在する都道府県の文化財保護条例に規定する登録文化財、⑤当該市の文化財保護条例に規定する登録文化財、⑥伝統的建造物群保存地区保存条例に規定する伝統的建造物、⑦当該市の自主条例(景観条例等)に規定する歴史的建築物、⑧その他市長が条例の目的に適合するものとして指定した建築物、の中から規定されている。
このうち⑦当該市の自主条例(景観条例等)に規定する歴史的建築物としては、京都市条例は「京都市市街地景観整備条例」38条に規定する「歴史的意匠建造物」を、金沢市条例は「金沢市こまちなみ保存条例」12条1項の規定する「こまちなみ保存建造物」及び「金沢市における美しい景観のまちづくり関する条例」35条1項の規定する「保存対象物等」を、姫路市条例は「姫路市都市景観条例」22条1項に規定する都市景観重要建築物等を、熊本市条例は「熊本市景観条例」16条1項に規定する景観形成建造物を、それぞれ規定している。
〇 京都市条例は、平成24年制定当時は、京町家等の伝統的な木造建築物を対象としており、条例名も「京都市伝統的な木造建築物の保存及び活用に関する条例」であったが、平成25年には条例の対象建築物を木造以外の建築物にも拡大する条例改正を行い,条例名称も現行の「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」となった。京都市条例については、京都市HP「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」を参照のこと。
また、豊岡市条例は自治体法務研究2018年秋号条例制定の事例CASESTUDY「豊岡市城崎温泉地区における歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」を、津山市条例は自治体法務研究2018年秋号条例制定の事例CASESTUDY「津山市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」を、それぞれ参照されたい。
【既存条例タイプ】
〇 既存条例タイプとして、以下のようなものがある。
山口県萩市 | 平成17年3月6日公布 | 平成17年3月6日施行 平成19年4月1日改正施行 |
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神戸市 | 昭和53年10月20日公布 | 昭和53年11月20日施行 平成23年1月20日改正施行 |
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兵庫県 | 昭和60年3月27日公布 | 昭和60年4月1日施行 平成25年10月1日改正施行 |
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横浜市 | 平成18年2月15日公布 | 平成18年4月1日施行 平成26年7月1日改正施行 |
などである。
〇 萩市は、昭和50年の文化財保護法改正により伝統的建造物群保存地区(伝建地区)制度が創設されたことを受け、昭和51年に「萩市伝統的建造物群保存地区保存条例」を制定した(現行条例は、市町村合併に伴い、平成17年に制定されている)。また、伝建地区内の伝統的建造物の外観を保持して修繕ができるよう、建築基準法85条の3に基づき「萩市伝統的建造物群保存地区内における建築基準法の制限の緩和に関する条例」を制定した。しかし、伝建地区内にある「旧山村家住宅」を「町並み交流館」として活用するため、外観だけでなく、内部の歴史的価値を維持しながら模様替え、用途変更等をする必要があり、建築基準法3条1項に規定する「その他の条例」により対応することとなった。そのため、平成19年に既存の「萩市伝統的建造物群保存地区保存条例」を改正し、あらかじめ市長及び教育委員会の許可を受けなければならない現状変更行為として「伝統的建造物であって建築基準法・・・第2条第2号に規定する特殊建築物に該当するもののうち、文化財的価値を有するものとして内部を公開する用途に供するものの修繕、模様替え又は色彩の変更でその内部を変更することとなるもの」(6条1項7号)を追加した。こうした経緯等については、自治体法務研究2018年秋号条例制定の事例CASESTUDY「萩市伝統的建造物群保存地区保存条例~伝統的建造物の活用に向けた条例の一部改正~」を参照されたい。
〇 神戸市条例及び横浜市条例は、景観に関して景観法施行条例事項部分と自主条例事項部分との両方含んだ統合条例であり、また、兵庫県条例は景観に関する自主条例である。神戸市条例は28条の3に規定する「景観形成重要建築物」について、兵庫県条例は21条の10に規定する「景観形成重要建造物」について、横浜市条例は14条の2に規定する「特定景観形成歴史的建造物」について、保存計画の作成や現状変更の規制等の規定整備を行い(神戸市条例28条の3~28条の8、兵庫県条例21条の10~21条の21、横浜市条例14条の2~14条の6)、建築基準法3条1項に規定する「その他の条例」の役割を持たせている。なお、神戸市の「景観形成重要建築物」、兵庫県の「景観形成重要建造物」及び横浜市の「特定景観形成歴史的建造物」は、すべて景観法に基づく景観重要建造物等ではなく、それぞれ独自の制度である。