市長選挙の公開討論会に関する条例

(令和6年1月15日更新)

【愛知県新城市の条例】

〇 愛知県新城市は、令和2年6月26日、市長選挙立候補予定者の公開政策討論会の実施に関して、

愛知県新城市

新城市市長選挙立候補予定者公開政策討論会条例

令和2年6月26日公布

令和2年6月26日施行

を制定した。

〇 本条例は、市長は、長の任期満了50日前から市長選挙告示日の前日まで公開政策討論会の開催をするものとする(2条)としている。

〇 手続等は、①市長が、市民自治会議の意見を聴き、開催予定日、開催予定場所等を決定・公表(4条)、②公開政策討論会に参加する立候補予定者は、開催予定日の30日前までに申出(5条)、③市長が、参加申出者の提案を尊重して、議題を決定・公表(6条)、④公開政策討論会の運営は、参加する立候補予定者の承認を得て市長が指名する者が主宰(9条1項)、⑤公開政策討論会は、テレビ放映、インターネットの利用その他の適切な方法により広報(9条5項)、などとしている。

〇 本条例の制定の経緯は、「市では合併前の2003年の市長選から、新城青年会議所(JC)が立候補者による討論会を開催してきた。しかし17年の市長選では、メンバーの減少などからJCによる開催が難しくなったため、立候補者3陣営の推薦する住民で組織された実行委員会が開催した。このため、市の自治基本条例に基づいて設置された住民による諮問機関『市民自治会議』は、討論会の開催を条例化して継続開催すべき旨を19年に答申。これを受け、今年の6月議会で条例が可決された。」(時事通信社「官庁速報」令和2年7月19日記事)とされる。

〇 本条例の制定にあわせて、本条例の附則で「新城市自治基本条例」の一部を改正し、14条の2第1項として「市長は、公の選挙のうち市長の選挙に当たっては、候補者となろうとする者が掲げる市政に関する政策及びこれを実現するための方策を市民が聴く機会として市長選挙立候補予定者公開政策討論会を開催するものとします。」、同条第2項として「前項の討論会の実施に必要な事項は、別に定めます。」を追加した。そのうえで、本条例は、新城市自治基本条例第14条の2第2項の規定に基づき、必要な事項を定めるもの(1条)として位置付けている。

〇 選挙告示前の公開討論会の開催と公職選挙法との関係については、「公開討論会での立候補予定者の演説等は、あくまでも自らの政治上の主義主張を述べるもの、すなわち政治活動の一環として行われるものである。したがって、選挙運動とは異なり、その開催について公職選挙法上特段の制限はない。もっとも、公開討論会に出席した立候補予定者の発言等が選挙運動にわたるときは、事前運動の禁止規定(第129条)に抵触することとなるし、仮に公開討論会が特定の立候補予定者に有利な方法で運営されるようなことがあれば、その立候補予定者の選挙運動と認められ、事前運動の禁止規定(第129条)に抵触するおそれが出てくる。」(笠置隆範「公開討論会・合同個人演説会の開催の法的位置づけ」(「私たちの広場307号」(明るい選挙推進協会 2009年7月)5頁)とされる。

 このため、本条例では、基本原則として、

① 公開政策討論会は、立候補予定者の市政に関する政策及びこれを実現するための方策について、市民の理解を深めることを目的として行われるものとする。

② 公開政策討論会に関係する全ての者は、公職選挙法129条の規定に違反しないよう留意しなければならない。

③ 立候補予定者は、公開政策討論会の趣旨を理解し、これに参加するものとする。この場合において、参加の申出は、立候補予定者の意思に基づくものとし、不当に義務を課するものであってはならない。

④ 公開政策討論会の開催に必要な手続及び運営は、公平かつ公正に行われることを基本とし、市民の視点で分かりやすい内容及び方法で行われるものとする。

ことを規定している(3条)。

〇 本条例は、市長選挙の候補者ともなりうる現職市長が公開政策討論会を開催し、開催日、開催場所及び議題を決定するとともに、市長が指名する者が公開政策討論会主宰する、としている。そのため、公平性、公正性が確保できるのか、現職が有利になるのではないか、との懸念が生じる。このことについて、開催予定日、開催予定場所等は市民自治会議の意見を聴き決定する(4条)、議題は参加申出者の提案を尊重して決定する(6条)、公開政策討論会の主宰者は参加する立候補予定者の承認を得て市長が指名する(9条1項)、さらに公平性及び公正性の確保のために「市長は、自らが立候補予定者として公開政策討論会に参加することができる権利を有することに鑑み、公開政策討論会を開催するに当たっては、市民、学識経験を有する者等の協力を得て、第4条から前条までに定める手続及び運営が公平かつ公正に行われるよう配慮しなければならない。」(10条)と規定しているなど、「悪用」に対する「抑止装置」を講じている(前穂積亮次新城市長ブログ「山の舟歌・第4章」2020年7月10日)とされる。

〇 知事や市町村長選挙の公開討論会に関する条例としては、新城市条例は全国初のものといえる。令和4年2月24日時点においても、同様の条例は他に確認できない。

〇 本条例については、自治体法務研究2021年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「新城市市長選挙立候補予定者公開政策討論会条例」を参照されたい。

〇 なお、参考までに、新城市は平成26年12月に「新城市若者議会条例」を制定している。同条例については、自治体法務研究2015年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「新城市若者条例及び新城市若者議会条例」を参照されたい。




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