条のない条例

(令和6年4月8日更新)

【はじめに】

〇 「条例の動き」で全国の自治体の条例を紹介しているが、全体の数としては少ないものの、「条のない条例」がある。1条だけの条例であるが、その場合条番号は付されない。正確に言うと、本則は一般に条建てとされるが、条建てにするまでもないものと考えられる場合には項建てにされ、項建てにされる場合で1項だけの場合は、項番号は付さない(石毛正純「法制執務詳解 新版Ⅲ」(ぎょうせい 令和2年3月)43頁)とされている。したがって、この場合、「条のない条例」ということになる。例えば、「本則で規定する事項が、一つの文章で済んでしまう」場合(石毛著書43頁)などである。

〇 本稿では、こうした条例の具体例を、備忘録的な意味も込めて、紹介する。

 

【自主条例の場合】

〇 自主条例で「条がない条例」として見られるのは、宣言、憲章、市町村章、市町村旗、市町村歌、市町村の花、木、鳥などを定める条例である。多くの自治体では、こうしたことは告示等で定めているが、条例の形式で定める自治体がある。例えば、

群馬県吉岡町

核兵器廃絶平和の町宣言

平成7年12月21日公布

平成7年12月21日施行

京都府京田辺市

京田辺市非核平和都市宣言条例

平成23年2月21日公布

平成23年3月20日施行

北海道妹背牛町

妹背牛町ゼロカーボンシティ宣言

令和3年12月16日公布

令和3年12月16日施行

北海道

北海道における特定放射性廃棄物に関する条例

平成12年10月24日公布

平成12年10月24日施行

東京都渋谷区

渋谷区多様性を認め合う社会を推進する条例

令和6年3月7日公布

令和6年4月1日施行

北海道小清水町

小清水町民憲章

昭和43年9月20日公布

昭和43年9月20日施行

長野道池田町

池田町民憲章

昭和60年4月25日公布

昭和60年4月25日施行

茨城県稲敷市

稲敷市章条例

平成17年3月22日公布

平成17年3月22日施行

北海道厚真町

厚真町町旗条例

昭和43年3月26日公布

昭和43年3月26日施行

福島県平田村

平田村「村民の歌」条例

昭和60年11月7日公布

昭和60年11月7日施行

愛知県岡崎市

岡崎市の花、木及び鳥を定める条例

平成28年6月27日公布

平成28年7月1日施行

広島県尾道市

尾道市の市技を定める条例

平成17年12月21日公布

平成18年1月10日施行

山形県長井市

長井市けん玉を市技に定める条例

令和2年10月1日公布

令和2年10月1日施行

愛知県蒲郡市

蒲郡市議会議場国旗及び市旗掲揚条例

平成22年5月13日公布

平成22年5月13日施行

などである。

〇 多くの自治体では、平和宣言、交通安全宣言、人権尊重宣言、暴力追放宣言、環境都市宣言、健康都市宣言などの宣言を行っている。その大半は告示、議決、決議、首長決裁などにより行っているが、ごく一部の自治体では条例の形式をとって定めている。こうした宣言条例のうち、条がないものとしては、吉岡町、京田辺市及び妹背牛町の3条例を確認することができる。

〇 北海道条例は、条例名を「特定放射性廃棄物に関する条例」としているが、内容は、特定放射性廃棄物の北海道内への持込みは受け入れ難い旨宣言するものである。「こうした内容は、通常、条例の前文ないし本則中の基本理念で規定されるものである。本則に条文番号がない条例は、きわめてめずらしい。」(北村喜宣「放射性廃棄物対応条例の変遷」(横浜法学27巻3号(2019年3月)248頁)とされる。同条例については、「放射性廃棄物に関する条例」を参照されたい。

〇 渋谷区条例は、条例名を「多様性を認め合う社会を推進する条例」としているが、条例の最後の部分は「あらゆる人々の様々な多様性を認め合い、人権を尊重し、誰もが等しく参加し、自分らしく安心して生きることができる社会 を推進することを宣言する。」と締めくくっており、実質的には宣言条例であると言える。同条例については、渋谷区HP「渋谷区多様性を認め合う社会を推進する条例」を参照されたい。

〇 多くの自治体は、市民憲章、町民憲章、村民憲章などの憲章を定めている。その大半は、宣言と同様、告示、議決、首長決裁などにより定めているが、十数団体の自治体では条例の形式をとっている。憲章条例のうち、条がないものは、小清水町条例、池田町条例など十程度である。

〇 ほとんどの自治体は、自治体の旗や紋章(都道府県章・市町村章)を定め、また、少なからぬ自治体は、自治体の歌、花、木、鳥などを定めている。これらは、通常、告示などにより定められるが、数は少ないながら条例で定めているものもある。上記の表では、その具体例として、稲城市、厚真町、平田村及び岡崎市の条例を掲載している。

〇 尾道市条例及び長井市条例は、市技を定める条例である。市町村では、特定のスポーツ競技などを市技、町技、村技などとして定めることがあるが、これも通常は告示などで定めている(なお、「スポーツ振興・推進に関する条例」では、条例で町技等を指定する根拠となる規定を置いているものがある。例えば、倶知安町スポーツ推進条例3条、積丹町スポーツ推進条例2条など)。尾道市条例は囲碁を、長井市はけん玉を、それぞれ市技と定めているが、いずれも「条のない条例」である。

〇 蒲郡市条例は、「蒲郡市議会議場に国旗及び市旗を掲揚する。」のみを規定している。市議会の議場に、国旗と市旗を掲揚することを宣言し、定めている。同様の条例は、全国で10数条例を数えることができる。

 

【法律の規定に基づいて制定される条例の場合】

〇 法律の規定に基づいて制定される条例であって「条のない条例」は少なくない。例えば、地方自治法は、地方公共団体の組織や運営に関する一定の事項について条例で定めることを求めているが、こうしたもののうち、地方公共団の名称や位置、議員や副知事・副市町村長の定数、議会の定例会の回数などは、形式的には短い文章で済む簡単なの内容であり、これらを定める条例は「条のない条例」となることが多い、

 地方自治法の規定に基づいて制定される条例のうち、「条のない条例」として制定されることがあるものとしては、例えば以下のようなものがある(括弧内は、地方自治法の根拠条文)。

・地方公共団体の名称に関する条例(3条3項)   

・地方公共団体の事務所の位置に関する条例(4条1項)   

・町としての要件を定める条例(8条2項)   

・議会議員の定数に関する条例(90条1項、91条1項)   

・議会の議決を要する契約を定める条例(96条1項5号)   

・議会の議決事項を定める条例(96条2項)   

・議会の定例会の回数を定める条例(102条2項)   

・市町村の議会事務局の設置に関する条例(138条2項)   

・副知事又は副市町村長を置かないことを定める条例(161条1項)   

・副知事又は副市町村長の定数を定める条例(161条2項)   

・市町村の監査委員事務局の設置に関する条例(200条2項)

 また、地方自治法以外にも、地方教育行政の組織及び運営に関する法律公職選挙法などの法律も地方公共団体の組織、運営等に関する一定の事項について条例で定めることを求めているが、こうした法律の規定に基づいて制定される条例であって「条のない条例」もある。

〇 以下、法律の規定に基づいて制定される条例であって「条のない条例」の具体例を紹介する。

兵庫県篠山市

市の名称を変更する条例

平成30年11月27日公布

令和元年5月1日施行

北海道網走市

網走市役所の位置を定める条例

令和2年9月25日公布

規則で定める日(未施行)

栃木県

地方自治法第八条第二項の規定による町としての

要件に関する条例

昭和23年3月20日公布

昭和23年3月20日施行

石川県能美市

能美市議会議員定数条例

令和2年3月23日公布

令和2年3月23日施行

神奈川県小田原市

小田原市議会の議決すべき事件に関する条例

令和2年6月26日公布

令和2年6月26日施行

徳島県上勝町

上勝町議会定例会の回数を定める条例

令和元年9月20日公布

令和元年9月20日施行

岩手県花巻市

花巻市議会事務局条例

平成18年1月12日公布

平成18年1月12日施行

富山県舟橋村

舟橋村に副村長を置かない特例に関する条例

平成31年3月15日公布

平成31年4月1日施行

東京都

東京都副知事の定数条例

昭和22年6月3日公布

昭和22年6月3日施行

奈良県大和高田市

大和高田市監査委員事務局設置条例

昭和39年3月31日公布

昭和39年4月1日施行

堺市

堺市教育委員会委員定数条例

平成20年9月30日公布

平成20年10月1日施行

東京都新宿区

新宿区教育に関する事務の職務権限の特例に

関する条例

平成19年12月12日公布

平成20年4月1日施行

青森県六戸町

六戸町記号式投票に関する条例

平成30年9月14日公布

平成30年9月14日施行



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