放射性廃棄物に関する条例
(令和6年12月1日更新)
【北海道及び北海道幌延町の条例】
〇 令和2年8月、「北海道寿都町が13日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地の選定をめぐり、調査の第1段階に当たる『文献調査』の受け入れを検討していると明らかにした」、そして「北海道は条例で放射性廃棄物については『受け入れ難い』と宣言しており、鈴木直道知事は『私としては、条例を順守しなければならないと考える』との談話を発表した」と報じられた(時事通信令和2年8月13日配信記事)。
〇 上記記事で放射性廃棄物を「受け入れ難い」と宣言しているとされる北海道の条例とは、どのようなものか。まず見てみる。
北海道 | 平成12年10月24日公布 | 平成12年10月24日施行 |
である。参考までに、条例本文の全文を紹介する。
「北海道は、豊かで優れた自然環境に恵まれた地域であり、この自然の恵みの下に、北国らしい生活を営み、個性ある文化を育んできた。
一方、発電用原子炉の運転に伴って生じた使用済燃料の再処理後に生ずる特定放射性廃棄物は、長期間にわたり人間環境から隔離する必要がある。現時点では、その処分方法の信頼性向上に積極的に取り組んでいるが、処分方法が十分確立されておらず、その試験研究の一層の推進が求められており、その処分方法の試験研究を進める必要がある。
私たちは、健康で文化的な生活を営むため、現在と将来の世代が共有する限りある環境を、将来に引き継ぐ責務を有しており、こうした状況の下では、特定放射性廃棄物の持込みは慎重に対処すべきであり、受け入れ難いことを宣言する。」
まさに、宣言文といってよい内容である。「こうした内容は、通常、条例の前文ないし本則中の基本理念で規定されるものである。本則に条文番号がない条例は、きわめてめずらしい。」(北村喜宣「放射性廃棄物対応条例の変遷」(横浜法学27巻3号(2019年3月)248頁)とされる。
〇 条例が制定されたのは、核燃料サイクル開発機構(当時 現日本原子力研究開発機構)が北海道幌延町において高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する調査研究(深地層研究)を実施することとなった経緯が、その背景にある。
この問題に関連して、調査研究実施箇所である幌延町は、条例を制定している。すなわち、
北海道幌延町 | 平成12年5月11日公布 | 平成12年5月11日施行 |
である。
同条例は、2条1項で「幌延町は、核燃料サイクル開発機構・・・から立地の申し入れを受けた深地層の研究施設について、原子力政策の推進と地域の振興に資することから、これを受け入れるものとする。」としたうえで、同条2項で「幌延町は、深地層の研究を円滑に推進するために、研究の期間中及び終了後において、町内に放射性廃棄物の持ち込みは認めないものとする。」と規定している。すなわち、深地層の研究施設は受け入れるが、町内に放射性廃棄物の持ち込みは認めない、とするものである。深地層研究に対する幌延町の考え方を、議会の議決を経た条例という形で示したといえる。
〇 また、北海道は、「深地層研究所(仮称)計画を認める場合は、放射性廃棄物を持ち込ませないための担保措置方策等が必要である」とし、その担保措置として、幌延町における深地層研究所(仮称)計画については「当事者間の契約行為である協定」を締結することとし、また、協定の対象外となる地域については「道内に放射性廃棄物を持ち込ませる意思がないことについて、・・・その意思を内外に明らかにするための方策(条例、宣言、声明など)」に取り組む必要がある(北海道「幌延町における深地層研究所(仮称)計画に対する基本的な考え方」(平成12年6月))とした。
これを踏まえて、「幌延町における深地層の研究に関する協定書」が北海道、幌延町及び核燃料サイクル開発機構の3者で平成12年11月16日に締結され、また、上記「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」が平成12年10月24日に制定されたのであった。
〇 幌延町における深地層研究の経緯及び現状については、幌延町HP「幌延町における深地層の研究について」及び北海道HP「幌延町における深地層研究計画について」を参照されたい。
放射性廃棄物の最終処分に関しては、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(平成12年法律117号)が制定されている。なお、同法4条5項は「経済産業大臣は、第二項第三号に掲げる概要調査地区等の所在地を定めようとするときは、当該概要調査地区等の所在地を管轄する都道府県知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならない。」としている。
放射性廃棄物の最終処分に関する政府の考え方、取組み等については、経済産業省資源エネルギー庁HP「放射性廃棄物について」を参照されたい。
〇 なお、令和2年10月9日、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」6条1項に規定する文献調査について、北海道寿都町は原子力発電環境整備機構に対して応募し(原子力発電環境整備機構HP「北海道寿都町からの文献調査応募書の受領について」)、北海道神恵内村は原子力発電環境整備機構からの申し入れに対して受諾した(同機構HP「北海道神恵内村による文献調査申し入れ受諾について」)。同機構は、同年11月17日から、寿都町及び神恵内村において文献調査を実施し(同機構HP「文献調査中の地域」)、令和6年11月22日に文献調査の報告書が作成された(同機構HP「北海道寿都郡寿都町及び北海道古宇郡神恵内村における文献調査の報告書及び要約書の作成並びに同説明会開催の公告」)。また、佐賀県玄海町は令和6年5月10日文献調査の受け入れを表明し(同機構HP「佐賀県玄海町長の文献調査実施に係る受け入れ表明について」)、同年6月10日から玄海町において文献調査が実施されている(同機構HP「佐賀県玄海町における文献調査の実施について」)。
寿都町は、「寿都町における特定放射性廃棄物最終処分の概要調査及び精密調査に係る意見に関する住民投票条例」(令和3年3月10日公布・施行)を制定し、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」4条5項に規定される意見として概要調査地区の選定及び精密調査地区の選定についての意見書を経済産業大臣へ提出しようとするときに、あらかじめ住民投票を行う(同条例4条1項)としている。住民投票条例については、「住民投票に関する条例」を参照されたい。
【その他の放射性廃棄物に関する条例-平成23年東日本大震災発生以前制定の条例】
〇 北海道及び幌延町の条例以外にも、放射性廃棄物に関する条例を制定している自治体が少なくない。まず、平成23年3月の東日本大震災発生以前に制定された条例を見てみる。
岐阜県土岐市 | 平成11年3月30日公布 | 平成11年3月30日施行 |
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鹿児島県西之表市 | 平成12年7月6日公布 | 平成12年7月6日施行 |
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鹿児島県中種子町 | 平成12年9月28日公布 | 平成12年9月28日施行 |
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鹿児島県十島村 | 平成13年3月23日公布 | 平成13年3月23日施行 |
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鹿児島県南種子町 | 平成13年6月27日公布 | 平成13年6月27日施行 |
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島根県西ノ島町 | 平成16年7月2日公布 | 平成16年7月2日施行 |
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高知県東洋町 | 平成19年5月21日公布 | 平成19年5月21日施行 |
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鹿児島県宇検村 | 平成19年6月22日公布 | 平成19年6月22日施行 |
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宮城県大郷町 | 平成20年3月18日公布 | 平成20年3月18日施行 |
である。
〇 以上の条例のほか、市町村合併により失効した条例として、岡山県湯原町(現真庭市)「湯原町放射性廃棄物の持ち込み拒否に関する条例」(平成3年4月1日制定)、鹿児島県屋久町(現屋久島町)「放射性物質等の持込み及び原子力関連施設の立地拒否に関する条例」(平成12年3月30日制定)、鹿児島県上屋久町(現屋久島町)「放射性物質等の持込み拒否及び原子力関連施設の立地拒否に関する条例」(平成12年12月26日制定)、宮崎県南郷町(現日南市)「放射性廃棄物等の持込み及び原子力関連施設の立地拒否に関する条例」(平成17年3月25日制定)、鹿児島県笠沙町(現南さつま市)「放射性物質等の持込み拒否及び原子力関連施設の立地拒否に関する条例」(平成17年3月30日制定)がある。
〇 これらの条例は、核燃料サイクル開発機構が検討する放射性廃棄物の最終処分場やその他の原子力関連施設に関して当該自治体や近隣自治体に立地に係る何らかの動きがあることに対して、施設立地や放射性廃棄物等の持ち込みを拒否することを内容としている。条文は、「すべての施設の建設を拒否する」、「射性廃棄物の持ち込みを拒否する」、「調査等を拒否する」などと規定しており、全体的に内容は類似している。条例名も、土岐市条例を除き、「持ち込み拒否」または「立地拒否」という文字が含まれる。「第三者に対する法的拘束力を有する規定を持たない『宣言条例』である」(前記北村論文247頁)とされる。なお、土岐市条例、西ノ島町条例及び東洋町条例は、「権限」に関する規定を置き、市(町)は立ち入り調査や操業等の即時停止の求めをすることができるとしている。
〇 市町村合併により失効したが、湯原町条例が平成3年の制定で最も古い。次に制定されたのは平成11年の土岐市条例であるが、土岐市条例も含めそれ以降に制定された条例は、その内容は概ね湯原町条例を倣ったものとなっている。
〇 土岐市条例は議員提案により制定されているが、同時に市長提案により「土岐市生活環境保全に関する条例」の改正が行われている(市の責務に「放射性廃棄物の持込み禁止等」を追加)。なお、土岐市条例は、条例名に(案)がついたままとなっているが、土岐市例規類集においてもそのような扱いとなっている。
【その他の放射性廃棄物に関する条例-平成23年東日本大震災発生以降制定の条例】
〇 次に、東日本大震災発生以降に制定された条例を見てみる。
鹿児島県南大隅町 | 平成24年12月25日公布 | 平成24年12月25日施行 |
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栃木県塩谷町 | 平成26年9月19日公布 | 平成26年9月19日施行 |
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宮城県加美町 | 平成26年9月25日公布 | 平成26年9月25日施行 |
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平成26年12月15日公布 | 平成26年12月15日施行 |
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京都府宮津市 | 平成27年4月1日公布 | 平成27年4月1日施行 |
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鹿児島県錦江町 | 平成27年12月10日公布 | 平成27年12月10日施行 |
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鹿児島県大和村 | 平成29年10月16日公布 | 平成29年10月16日施行 |
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鹿児島県東串良町 | 平成29年12月21日公布 | 平成29年12月21日施行 |
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鹿児島県肝付町 | 平成30年3月5日公布 | 平成30年3月5日施行 |
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北海道美瑛町 | 平成30年3月16日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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北海道浦河町 | 平成30年6月20日公布 | 平成30年6月20日施行 |
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鹿児島県屋久島町 | 平成30年9月14日公布 | 平成30年9月14日施行 |
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和歌山県白浜町 | 令和元年12月19日公布 | 令和元年12月19日施行 |
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鹿児島県南さつま市 | 令和2年3月18日公布 | 令和2年3月18日施行 |
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岩手県宮古市 | 令和2年6月23日公布 | 令和2年7月1日施行 |
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岩手県釜石市 | 令和2年6月26日公布 | 令和2年6月26日施行 |
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岩手県岩泉町 | 令和2年12月8日公布 | 令和3年1月1日施行 |
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岩手県普代村 | 令和2年12月11日公布 | 令和2年12月11日施行 |
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岩手県野田村 | 令和2年12月11日公布 | 令和2年12月11日施行 |
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北海道島牧村 | 令和2年12月16日公布 | 令和2年12月16日施行 |
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岩手県田野畑村 | 令和3年3月8日公布 | 令和3年3月8日施行 |
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北海道積丹町 | 令和3年3月15日公布 | 令和3年3月15日施行 |
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北海道黒松内町 | 令和3年3月17日公布 | 令和3年3月17日施行 |
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岩手県久慈市 | 令和3年3月19日公布 | 令和3年3月19日施行 |
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北海道せたな町 | 令和3年6月9日公布 | 令和3年6月9日施行 |
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北海道占冠村 | 令和3年6月17日公布 | 令和3年6月17日施行 |
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北海道中川町 | 令和3年6月21日公布 | 令和3年6月21日施行 |
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北海道豊浦町 | 令和3年9月17日公布 | 令和3年9月17日施行 |
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北海道蘭越町 | 令和3年12月16日公布 | 令和3年12月16日施行 |
である。
〇 東日本大震災発生以降制定の条例には、東電福島原発事故により放出された放射性物質を含む廃棄物の処分場の立地に係る議論や動きが影響を与えているものが少なくない。また、これまでの「宣言条例」だけではなく、水源保全の手続の中で立地規制を図ろうとするものや立地の許可制を取るものなど「規制条例」を制定する自治体も見られる。
〇 塩谷市条例及び加美町条例は、それぞれの自治体に所在する土地が福島原発事故に伴う指定廃物物(一定濃度(1㎏当たり8000ベクレル)を超え、環境大臣が指定したもので、国が処分を行う)の処分場の調査候補地となったことが契機となり、制定されたとされる。
塩谷市条例は、水道水源保護条例(条例の動き「水道水源保護条例」を参照のこと)として制定されている。町長は湧水等保全地域を指定し(5条)、同地域内で一定の事業活動を行う者は町長の許可が必要である(7条)とし、その対象となる事業活動に「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法第17条第1項の規定による指定に係る廃棄物の処分場の設置」を含めている。
また、「加美町水資源保全条例」も塩谷町条例とほぼ同様な構成となっている。なお、「加美町自然環境を放射能による汚染等から守る条例」は、「指定廃棄物の最終処分場に関する宣言」のもと水源及び里地里山を保全することを基本理念として規定している。
〇 宮津市条例及び白浜町条例は、平成26年9月に関西電力が使用済み核燃料の中間貯蔵施設の立地場所について福井県を除く発電所敷地内において探している旨の表明をしたことが契機で、制定されたとされる。
このうち、宮津市条例は議員提案により制定されているが、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律・・・第2条に定める核原料物質若しくは核燃料物質を貯蔵又は原子炉を設置しようとする施設その他これに類する施設」を立地しようとする者は市長の許可を得なければならない(4条及び別表)としている。
白浜町条例は、町は、安心・安全なまちづくりに影響を及ぼすと危惧される事項を認めないものとする(7条1項)とし、その対象となる事項に「放射性物質(原子力発電所など原子力関連施設の核燃料並びにこれから生ずる使用済み核燃料及び放射性廃棄物をいう。)の町内への持ち込み、及びこれらを貯蔵又は処分する施設を町内に建設すること」(7条2項2号)を含めている。
〇 南大隅町条例は、南大隅町が福島原発事故の除染廃棄物の最終処分場の候補地として報じられたことが契機として、制定されたとされる。町内持込み拒否の対象として、「原子力発電所の事故により汚染された放射性物質」(2条1項)を含めている。
錦江町、東串良町、肝付町、南さつま市釜石市,普代村、野田村及び中川町の各条例も、原発事故により汚染された放射性物質を持ち込み等の拒否の対象に明示的に含めている。
〇 経済産業省は平成29年7月に「科学的特性マップ」(資源エネルギー庁HP「科学的特性マップ公表用サイト」を参照のこと)を発表した。平成29年10月に制定された大和村条例以降の条例(白浜町条例を除く)は、このマップにおいて当該自治体の区域の全部または一部が「輸送面でも好ましい地域」または「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域」に該当したことを契機として、制定されたとされる。
〇 島牧村、積丹町、黒松内町、せたな町、占冠村、中川町、豊浦町及び蘭越町の条例は、令和2年11月に北海道寿都村及び神恵内村で文献調査が実施されることが契機となって、制定されている。
〇 塩谷市条例、加美町水資源保全条例及び宮津市条例を除く各条例は、基本的には「宣言条例」であるが、このうち鹿児島県内市町村の条例は大和村条例を除き、権限(立ち入り調査や操業等の即時停止の求め等)の規定を置いている。
宮古市、岩泉町及び田野畑村の条例は、議会の責務の規定を置いている。
【参考】
〇 こうした条例の制定状況や制定経緯については、末田一秀(はんげんぱつ新聞編集委員)HP「環境と原子力の話」中「資料 核関連施設・廃棄物拒否条例」が詳しい。また、上記北村論文はこれらの条例の変遷や塩谷町条例、加美町条例及び宮津市条例等の法的論点等を詳しく論じている。本稿は、これらを参考にしている。