家庭教育の支援に関する条例
(令和6年11月29日更新)
【家庭教育の支援について】
〇 家庭教育について、教育基本法(平成18年12月22日公布・施行)は、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。」(10条1項)及び「国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。」(10条2項)と規定している。現行の教育基本法は、昭和22年に制定された旧教育基本法が、平成18年に全部改正されて制定されているが、家庭教育に関する規定は、現行の教育基本法において新設されたものである。なお、教育基本法については、文部科学省HP「教育基本法について」を参照されたい。また、家庭教育の支援に関する文部科学省の取組等については、文部科学省HP「家庭の教育力の向上」及び「子供たちの未来をはぐくむ家庭教育」を参照されたい。
〇 地方自治体は、教育基本法10条2項の規定を踏まえ、家庭教育を支援するために様々な取組を実施している(取組状況については、文部科学省調査「令和2年度「地域における家庭教育支援の取組に関する調査結果」(都道府県・市区町村向け調査)」を参照のこと)が、家庭教育の支援に特化した条例(以下、「家庭教育支援条例」という。)を制定し、または、子ども・子育て支援条例等において家庭教育の支援に関する規定を置くなどして、条例で家庭教育の支援について定め、施策を推進する自治体がある。
【家庭教育支援条例の制定状況】
〇 家庭教育支援条例は、令和6年11月1日時点で、都道府県が10団体、市町村が6団体制定していることが確認できる。以下の条例である。
(都道府県)
熊本県 | 平成24年12月25公布 |
平成25年4月1日施行 |
議員提案 | |
鹿児島県 | 平成25年10月11日公布 |
平成26年4月1日施行 |
議員提案 | |
静岡県 | 平成26年10月28日公布 |
平成26年10月28日施行 |
議員提案 | |
岐阜県 | 平成26年12月22日公布 |
平成26年12月22日施行 |
議員提案 | |
徳島県 | 平成28年3月18日公布 |
平成28年4月1日施行 |
議員提案 | |
宮崎県 | 平成28年3月23日公布 |
平成28年4月1日施行 |
議員提案 | |
群馬県 | 平成28年3月29日公布 |
平成28年4月1日施行 |
議員提案 | |
茨城県 | 平成28年12月28日公布 |
平成28年12月28日施行 |
議員提案 | |
福井県 | 令和2年10月12日公布 |
令和2年10月12日施行 |
議員提案 | |
岡山県 | 令和4年3月22日公布 |
令和4年4月1日施行 |
議員提案 |
(市町村)
石川県加賀市 | 平成27年6月22日公布 |
平成27年6月22日施行 |
市長提案 | |
長野県千曲市 | 平成27年12月25日公布 |
平成28年4月1日施行 |
議員提案 | |
和歌山県和歌山市 | 平成28年12月15日公布 |
平成28年12月15日施行 |
市長提案 | |
鹿児島県南九州市 | 平成28年12月22日公布 |
平成29年4月1日施行 |
市長提案 | |
愛知県豊橋市 | 平成29年3月29日公布 |
平成29年3月29日施行 |
議員提案 | |
埼玉県志木市 | 平成30年3月16日公布 |
平成30年3月16日施行 |
市長提案 |
〇 家庭教育支援条例は、熊本県が平成24年に全国で最初に制定した。
熊本県条例は、家庭教育を「保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、子どもを現に監護する者をいう。・・・)がその子どもに対して行う教育」(2条1項)、子どもを「おおむね18歳以下の者」(2条2項)と定義づけ、基本理念を「家庭教育の支援は、保護者がその子どもの教育について第一義的責任を有するという基本的認識の下に、家庭教育の自主性を尊重しつつ、学校等、職域、地域その他の社会のあらゆる分野における全ての構成員が、各々の役割を果たすとともに、相互に協力しながら一体的に取り組むことを旨として行われなければならない。」(3条)としたうえで、県の責務(4条)、市町村との連携(5条)、保護者、学校等、地域及び事業者の役割(6条~9条)、財政上の措置(10条)及び年次報告(11条)を定め、家庭教育を支援するための施策として、親としての学びを支援する学習機会の提供(12条)、親になるための学びの推進(13条)、人材養成(14条)、家庭、学校等、地域住民等の連携した活動の促進(15条)、相談体制の整備・充実(16条)並びにび広報及び啓発(17条)について規定している。
熊本県条例の内容については「くまもと家庭教育支援条例逐条解説」、また、条例11条に基づく年次報告については「くまもと家庭教育支援条例(各年度議会報告)」を参照されたい。
〇 熊本県条例を含む上記の条例は、概ね、家庭教育の支援に関する基本理念を定め、自治体の責務、保護者、学校、地域、事業者等の役割を明らかにし、家庭教育を支援するための基本的な施策を規定している。
〇 このうち、都道府県の10条例は、すべて議員提案により制定されている。これらの10条例は、具体的な規定の仕方は異なるものの、ほぼ近い形の条文構成となっている。
なお、家庭教育の定義については、岐阜県条例は「保護者(・・・)がその子どもに対して行う次に掲げる事項等を教え、又は育むこと」(2条1項本文)としたうえで、各号で「基本的な生活習慣」、「自立心」、「自制心」、「善悪の判断」、「挨拶及び礼儀」、「思いやり」、「命の大切さ」、「家族の大切さ」及び「社会のルール」を列挙し、福井県条例は「保護者(・・・)が生活のために必要な習慣を身に付けさせる等その子どもに対して行う教育」(2条1項)としている。
また、岐阜県、群馬県、茨城県及び福井県の条例は「祖父母の(世代の)役割」を、岐阜県、茨城県及び福井県の条例は「家庭教育を実践する日(等)」を、岡山県条例は「家庭教育を応援する日」を、徳島県条例は「教育週間における事業の実施」を、茨城県条例は「家庭における就学前教育の充実」及び「幼稚園等に対する就学前教育の支援」を、福井県条例は「就学前教育の充実」をそれぞれ定めている。
神奈川県生涯学習審議会の令和3年5月14日開催の会議の配布資料6-3「家庭教育支援条例の概要(条文構成比較)」は、熊本県条例から福井県条例までの9条例の条文構成の比較をしている。
〇 市町村の6条例は、4条例が市長提案、2条例が議員提案により、制定されている。このうち、加賀市、千曲市、和歌山市、南九州市及び豊橋市の条例についても、熊本県条例に近い条文構成となっている。
他方、志木市条例は、子どもを「学校教育法・・・第18条に規定する学齢児童及び学齢生徒」(2条2項)と定義づけ、基本理念(3条)、市、保護者、学校及び地域住民の責務(4条~7条)を定めるほか、「子どもの努力」として「子どもは、その発達段階に応じて、責任感を持ち、自らの生活を律するよう努めるものとする。」(8条)と規定し、また、施策としては、インターネット関連機器の利用等に関する取決めの重要性に関する理解の増進等(9条)、インターネットの利用に関する教育の推進等(10条)、フィルタリング機能を有するソフトウェアの利用の普及等(11条)など特にインターネットの利用に関する事項を中心に規定している。志木市条例については、自治体法務研究2018年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「志木市子どもの健やかな成長に向け家庭教育を支援する条例」を参照されたい。
〇 なお、家庭教育支援法案が自民党等を中心に検討されてきた経緯があり、これと関連して家庭教育支援条例が議論されることがある。家庭教育支援法案や家庭教育支援条例に関する議論の経緯を解説するものとしては友野清文「改定教育基本法制下における家庭教育の政策動向について─家庭教育支援条例・家庭教育支援法案・「親学」をめぐって─」(学苑929号 平成30年3月)、勝田美穂「家庭教育支援法の立法過程─政策波及の観点から─」(岐阜協立大学論集54巻1号 令和2年)等があり、また、家庭教育支援法案や家庭教育支援条例の制定を推進すべきとするものとしては平和政策研究所「家庭教育支援条例・支援法の意義と課題―子供の健全な発達を保障するための支援 ―」(IPP政策ブリーフVOL.16 令和2年5月)等があり、家庭教育支援法案等に反対の立場のものとしては木村涼子「家庭教育は誰のもの?―家庭教育支援法はなぜ問題か―」(岩波ブックレット965号 平成29年5月)等がある。
【子ども・子育て支援条例等において家庭教育の支援に関する規定を置くものの具体例】
〇 子ども・子育て支援条例等において家庭教育の支援に関する規定を置くものとしては、例えば、以下のような条例がある。
北海道 | 平成16年10月19日公布 | 平成16年10月19日施行 |
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宮城県 | 平成27年10月13日公布 | 平成27年10月13日施行 |
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山梨県 | 平成29年10月20日公布 | 平成29年10月20日施行 |
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愛媛県松山市 | 平成16年4月1日公布 | 平成16年4月1日施行 |
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岡山市 | 平成18年12月27日公布 | 平成19年4月1日施行 |
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神奈川県厚木市 | 平成24年12月25日公布 | 平成24年12月25日施行 |
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熊本県人吉市 | 平成25年12月25日公布 | 平成26年4月1日施行 |
〇 北海道条例は「教育環境の整備」(16条)において「道は、家庭及び地域社会における教育を充実するため、家庭、学校及び地域社会との連携の下、家庭教育への支援、多様な体験活動の機会の提供等を促進するものとする。」(同条3項)と、宮城県条例は「家庭教育に対する支援」(16条)として「県は、家庭教育を支援するため、保護者の親としての成長及び保護者と子どもとの良好な関係の構築に係る学習の機会及び情報の提供その他の必要な施策を推進するものとします。」と、山梨県条例は「家庭教育に対する支援」(15条)として「県は、家庭教育を支援するため、保護者と子どもとの良好な関係の構築に係る学習の機会及び情報の提供その他の必要な施策を推進するものとします。」と、それぞれ規定している。
〇 また、松山市条例は「家庭教育力の向上への支援」(11条)として「市は,保護者が家庭において子どもを育成するために必要とする情報及び学習の機会を提供するものとする。」(同条1項)等と、岡山市条例は「家庭教育への支援」(11条)として「市は,家庭に対して,子どもの育成に関する情報提供に努めるとともに,情報交換及び学習の機会を充実するものとします。」と、厚木市条例は「子どもの健全育成」(12条)として「市は、子どもの健全育成を推進するため、保護者に対しては家庭教育に関する学習機会の提供その他の必要な支援を行い、子どもに対しては多様な体験活動への参加及び地域社会との交流の機会を提供するものとする。」と、人吉市条例は「子育て家庭及び家庭教育への支援」(18条)として「市は、保護者が安心して子育てができるよう、子どもの成長及び子育てに関する情報の提供、必要に応じた子育てに係る経済的負担の軽減、地域の子育て支援体制の整備等家庭及び地域における子どもを育てる力の向上を図るものとする。」(同条1項)等と、それぞれ規定している。
〇 平成16年に制定された北海道条例や松山市条例は、平成18年の(現行)教育基本法の制定以前から、家庭教育の支援に関する規定を置いていたこととなる。
〇 なお、子ども・子育て支援条例等については「子どもに関する条例」を参照されたい。