まちづくり・土地利用関係条例
(令和7年1月8日更新)
【はじめに】
〇 「まちづくり条例」とされるものがある。これまで「まちづくり条例」について論じた著書、論文等は極めて多い。
例えば、小林重敬編著「地方分権時代のまちづくり条例」(学芸出版社 平成11年 以下「小林編著書①」という。)、小林重敬編著「条例による総合的なまちづくり」(学芸出版社 平成14年 以下「小林編著書②」という。)、礒崎初仁「まちづくり条例の可能性(1)―その現状と制度設計の視点」(北村喜宣編著「分権条例を創ろう!」(ぎょうせい 平成16年)147頁以下 以下「礒崎論文」という。)、内海麻利「まちづくり・開発規制条例」(礒崎初仁編著「政策法務の新展開―ローカル・ルールが見えてきた」(ぎょうせい 平成16年)306頁以下 以下「内海論文①」という。)、東京弁護士会公害・環境特別委員会「まちづくり条例を考えよう!」(2006年度環境シンポジウム報告書 平成19年 以下「東京弁護士会報告書」という。)、野口和雄「まちづくり条例の作法 ―都市を変えるシステム」(自治体研究社 平成19年 以下「野口論文」という。)、内海麻利「まちづくり条例の実態と理論―都市計画法制の補完から自治の手だてへ」(第一法規 平成22年 以下「内海論文②」という。)、松本昭「分権最前線に見るまちづくり条例―多元的土地利用規制における法律と条例の新しい関係」(大西隆編著「人口減少時代の都市計画―まちづくりの制度と戦略」(学芸出版社 平成23年)167頁以下 以下「松本論文」という。)などである。
平成10年代、平成20年代前半に論じられたものが多い。
〇 しかし、これらの著書、論文等を見ても、「まちづくり条例」とはどのような条例を指すのかは、必ずしも明確でない。「『まちづくり』の意味が多義的であることに対応して、その意味・範囲も多様であり、まだ定着した定義はない。」(礒崎論文147頁)とされる。
そのうえで、例えば、「まちづくり条例」について、小林編著書①は「建築物の建築行為及び開発行為、さらに土地利用ならびに環境、景観を対象としている条例を主な対象とする」(11頁)とし、礒崎論文は「市町村が自らのまちづくりの理念・目標を掲げ、それを実現するために開発事業の規制、建築行為に係る調整、住民活動への支援等の総合的な措置を定める条例を指すものとしたい」(147頁)とし、内海論文①は「まちづくり・開発規制条例」を「都市計画及び建築行政に関する条例、すなわち『狭義のまちづくり』に関する条例であるといえる」(307頁)とし、東京弁護士会報告書は「まちづくり条例」に係るアンケート調査の対象を「『開発、建築、景観』に関するまちづくりに関する条例」(109頁)としている。
また、礒崎初仁「自治体政策法務講義(改訂版)」(第一法規 平成30年)は、「まちづくり条例(市町村が自らのまちづくりの理念・目標を掲げ、それを実現するための総合的な措置を定める条例)」、「土地利用条例(土地利用の規制、誘導、調整を図るための条例)」及び「景観条例(景観の保全や形成を目的として建築行為等の規制、誘導等を行う条例)」を含めて「土地利用関係条例」としている(39頁以下)。
〇 本稿では、土地利用・都市計画・建築行政に関する条例を「まちづくり・土地利用関係条例」として、概観することとしたい。景観に関する条例は「景観条例」で、屋外広告物に関する条例は「屋外広告物条例」でそれぞれ概観しているので、これらの条例は対象としない。また、単に法律による委任条例に過ぎないものは原則として対象していない。他方で、市区町村の条例のみならず、都道府県の条例も対象とする。
なお、さまざまな「まちづくり」の条例については、「さまざまな「まちづくり」の条例」を参照されたい。
〇 「まちづくり条例」の制定状況については、かつて、旧自治省官房地域政策室や「まちづくり条例研究センター」が調査していた。旧自治省官房地域政策室は、「まちづくり条例」を「地方公共団体による土地利用、建築、屋外広告物等への規制等を規定する条例(ただし、法律の委任によるものを除く。)」としたうえで、「まちづくり条例に係る調査」(平成12年5月)を行い、その結果、669団体(都道府県43、政令市11、市区町村615)が1080(都道府県108、政令市38、市区町村934)の条例を制定している(礒崎論文154頁)とし、「まちづくり条例研究センター」は、「平成12年度調査」において、まちづくりに関する条例・要綱を策定している自治体(条例だけを制定している自治体は283、要綱のみを制定している自治体は257、条例・要綱ともに制定している自治体は221)を紹介している(内海論文①325頁)。
現在では、国等の機関が「まちづくり条例」の制定状況を調査していることは確認できず、また、「まちづくり条例研究センター」の存在も確認できない。
【まちづくり・土地利用関係条例の変遷】
〇 まちづくり・土地利用関係条例の変遷について、上記の著書、論文等を参考としつつ、昭和40年代、昭和50年代、昭和60年代・平成1ケタ年代、平成10年代、平成20年代以降に分けて、概観する。
なお、この項で例示する条例等は、すべて制定当時のものを指す(制定後、廃止や全部改正され、また、一部改正により条例の性格が変わったものは少なくない。)。なお、( )内に示す制定年は公布日を基準としている。
(昭和40年代)
〇 高度成長期において、大都市圏を中心に、急速な宅地開発と人口の急増により、多くの市町村は、公共施設の整備等による財政負担を強いられる状況となった。このため、昭和40年代に入り、一定規模以上の宅地開発に対して市町村への協議や公共施設の整備等を義務づける指導要綱が市町村により制定されるようになった。
「川崎市団地造成事業施行基準」(昭和40年)、「川西市宅地開発指導要綱」(昭和42年)、「横浜市宅地開発要綱」(昭和43年)等がその先駆的なものとされるが、昭和43年には都市計画法が制定され、開発許可制度が導入されたものの、こうした法令では十分な対応ができないとして、指導要綱の制定は全国の市町村に波及していった。また、指導要綱と同様の性格と内容を持つ条例も、制定されている。
都道府県においても、大都市圏を中心に、宅地開発の規制のため条例(千葉県「宅地開発事業の基準に関する条例」(昭和44年)、「茨城県宅地開発事業の適正化に関する条例」(昭和45年)等)が制定され、また、列島改造ブームにより開発構想の乱立、土地の買い占め等が顕著になると、地方においても、大規模開発の規制のための条例(「岡山県県土保全条例」(昭和48年)、「山梨県ゴルフ場等造成事業の適正化に関する条例」(昭和48年)、「群馬県大規模土地開発事業の規制等に関する条例」(昭和48年)、「沖縄県県土保全条例」(昭和48年)等)が制定されている。
(昭和50年代)
〇 オイルショック後、宅地開発も落ち着きを取り戻したが、日照等生活環境に関する住民意識の高まりを背景にして、中高層建築物等の建築に伴う紛争が増加していった。昭和51年に建築基準法が改正され、日影制限基準が導入されたが、紛争の予防と調整に関する条例や要綱が多く制定されている。「東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」(昭和53年)、「練馬区中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」(昭和53年)等である。
また、昭和55年に都市計画法が改正され、地区計画制度が導入された。都市計画法は、地区計画の原案作成の手続を条例に委任しているが、委任事項以外の内容を付加した条例が制定されている。「神戸市地区計画及びまちづくり協定等に関する条例」(昭和56年)、「世田谷区街づくり条例」(昭和57年)等である。
(昭和60年代・平成1ケタ年代)
〇 昭和60年代に始まったバブル経済は、地方におけるリゾート開発やそれに伴う地価高騰を引き起こしたが、それに対応するため、各市町村独自のまちづくりの理念を定めるとともに開発行為の規制、誘導等の措置を規定する条例が制定されるようになった。その代表的なものとして、湯布院町「潤いのある町づくり条例」(平成2年)、「掛川市生涯学習まちづくり土地条例」(平成3年)、「真鶴町まちづくり条例」(平成5年)等があげられる。
他方、都市部においては、住環境の整備を図る観点から、共同住宅やワンルームマンション等の規制誘導、市街地整備の推進等を定める条例が制定されるようになる。「尼崎市住環境整備条例」(昭和59年)、「神戸市民の住環境等をまもりそだてる条例」(平成6年)等である。
また、平成4年都市計画法が改正され、市町村は都市計画マスタープランを定めることとされたが、マスタープラン実現に向けて、まちづくりを住民参加のもとで進めることを内容とする条例が、都市部の市町村を中心として、制定されるようになった。「豊中市まちづくり条例」(平成4年)、「鎌倉市まちづくり条例」(平成7年)、「箕面市まちづくり推進条例」(平成9年)、「大和市みんなの街づくり条例」(平成10年)等である。
(平成10年代)
〇 平成12年の地方分権一括法の施行により、土地利用規制に関する事務の多くが自治事務となり、自治体が独自の基準や手続を定める余地が広がるとともに、同じく平成12年の都市計画法改正により、開発許可基準等について条例委任事項が多くなった。また、行政手続法の施行(平成6年)とそれに伴って制定された各自治体の行政手続条例により、行政の公平の確保・透明性の向上の観点から、従前の指導要綱は見直しが迫られるようになった。
こうしたことを背景に、従前の指導要綱を見直すとともに、地方分権改革により拡大された法律の委任事項等を活用しつつ、住民参加のもとに自主的・自立的なまちづくりや土地利用規制・誘導を総合的に展開する観点から、新たな条例を制定する動きが活発化した。
この場合、自治体の対応としては、まちづくり・土地利用の基本理念、行政、住民及び事業者の役割と連携、基本計画の作成、地区レベルでのまちづくりの推進、住民参加の手続、土地利用の調整・規制、開発事業の基準、紛争の調整等について、概ね一つの条例(地区計画の作成手続、開発事業の基準等は、法律の委任事項を含む)で規定するような条例を制定するタイプと、いくつかの条例を制定し、それらの条例を相互に関連づけて運用するタイプとに分かれる。
前者のタイプの条例としては、「大磯町まちづくり条例」(平成13年)、「逗子市まちづくり条例」(平成14年)、 「鎌倉市開発事業における手続及び基準等に関する条例」(平成14年)、「狛江市まちづくり条例」(平成15年)、「国分寺市まちづくり条例」(平成16年)、「練馬区まちづくり条例」(平成17年)等がある。
後者のタイプの条例としては、鎌倉市の「鎌倉市まちづくり条例」(平成7年制定・平成23年全部改正)、「鎌倉市開発事業における手続及び基準等に関する条例」(平成14年)、「鎌倉市特定土地利用における手続及び基準等に関する条例」(平成23年)等の条例、横須賀市の「横須賀市土地利用基本条例」(平成17年)、「適正な土地利用の調整に関する条例」(平成17年)、「特定建築等行為に係る手続き及び紛争の調整に関する条例」(平成14年)等の条例等がある。
なお、平成10年代以前に、まちづくり・土地利用に関して何らかの条例を制定した自治体も、地方分権の進展、都市計画法等の改正、行政手続条例の施行等を踏まえ、既存の条例の改正、新規条例の制定等を行っている。
(平成20年代以降)
〇 上記のような条例制定・改正による分権的・総合的なまちづくりや土地利用規制・誘導の取組みは、主として平成10年代に見られるが、平成20年代以降も、都市構造の変化、法改正の動向、条例の運用状況等により、既存条例については必要に応じて改正が積み重ねられた。また、一部の自治体では全部改正や新規改正がなされている。
【まちづくり・土地利用関係条例の類型と紹介】
〇 まちづくり・土地利用関係条例について、上記の変遷を踏まえつつ、現行の条例を、いくつかの類型に分けて、その具体例を紹介する。
まちづくり・土地利用関係条例は全国の自治体で極めて多くのものが制定されているが、これらの個々の条例は、各自治体の置かれている状況やその方針等により、それぞれの内容は様々である。また、改正が積み重ねられているものが多く、改正により性格・内容が大きく変化しているもの少なくない。
したがって、これらの条例をいくつかの類型に整合的に区分することは困難であるが、本稿では、便宜上、①主として地区レベルでのまちづくりについて定める条例、②主として紛争調整について定める条例、③主として住環境整備やマンション等規制を定める条例、④地方部における土地利用規制について定める条例、⑤都市計画マスタープランの実現に向けて制定された条例、⑥個別条例で主として土地利用の調整、規制又は基準について定める条例、⑦同一条例で総合的にまちづくり・土地利用規制を定める条例、⑧都道府県による土地利用規制条例とに分けることとする。
(主として地区レベルでのまちづくりについて定める条例)
〇 地区レベルでのまちづくりを推進するため、地区計画等の策定手続やまちづくり協議会等の住民活動の支援を定めることを主たる内容とする条例について、具体例をいくつか紹介する。
神戸市 | 神戸市地区計画及びまちづくり協定等に関する条例 | 昭和56年12月23日公布 | 昭和57年2月15日施行 |
東京都世田谷区 | 世田谷区街づくり条例 | 平成7年3月10日公布 | 平成7年4月1日施行 |
大阪府豊中市 | 平成4年10月7日公布 | 平成5年1月1日施行 | |
神奈川県大和市 | 平成10年3月26日公布 | 平成10年10月1日公布 | |
神奈川県小田原市 | 平成18年3月30日公布 | 平成18年4月1日公布 |
〇 これらの条例の嚆矢となるのは、昭和55年に都市計画法に地区計画制度が導入されたことを踏まえて制定された神戸市条例(昭和56年)と世田谷区条例(昭和57年制定、平成7年全部改正)とされる。都市計画法が条例に委任する地区計画の原案作成手続のほか、まちづくり協議会の認定、支援措置、まちづくり協定の締結等が規定されている。松本論文は、まちづくり条例の歴史は、この二つの条例に始まるとし、「当時、地区計画の手続という『都市計画法の委任条例』とまちづくりのルールや支援の仕組みを定める『地方自治法の自主条例』を複合させる発想は、1つの条例は1つの法令の下位にあるという霞が関の常識を超えた画期的なものであった。」(173頁)としている。
この後、地区レベルでのまちづくりを推進するための条例が全国の自治体で制定されるようになった。
〇 神戸市条例は、昭和56年に「各地区の発意によるまちづくりを、市民との役割を明確にした上で行政が支援しようとするもの」(神戸市HP「まちづくり条例」)として制定された。まちづくり協議会の認定等(2章)、協議会によるまちづくり提案の策定と市長の配慮 (3章)、まちづくり協定の締結と事業者による届出・市長による協議(4章)、地区計画等の作成と説明会の開催等(5章)、協議会やまちづくりに対する助成等(6章)、まちづくり専門委員の設置(7章)等を規定している。
本条例については、神戸市HP「まちづくり条例」を参照されたい。
〇 世田谷区条例は、昭和57年に制定されたが、平成7年に「地区街づくり制度」の導入に伴う全部改正がなされ、また、平成22年改正により「区民街づくり協定」、「建築構想の調整」及び「大規模土地取引行為の届出」の制度等が導入されており(世田谷区HP「世田谷区街づくり条例」)、その内容・性格は大きく変わってきている。
現行条例は、街づくりに関する方針等の策定(2章 都市整備方針等の策定、地区街づくり計画の策定、地区計画等の案の作成、街づくり誘導指針の策定)、街づくりの推進等(3章 地区街づくり事業、街づくり誘導地区、街づくり推進地区)、良好な建築構想の誘導(4章 大規模土地取引行為の届出等、建築構想の調整等)、街づくりの支援(5章 区民街づくり協定、街づくり活動の支援)等を規定している。なお、都市整備方針は、都市計画法に基づく都市マスタープランでもある(8条1項)としている。
本条例については、世田谷区HP「街づくり条例」を参照されたい。
〇 豊中市条例は、平成4年に「まちづくり条例」として制定されたが、平成24年に改正され、条例名は「地区まちづくり条例」とされた。
現行条例は、地区まちづくり活動団体の登録(2章)、まちづくり協議会の認定(3章)、協議会によるまちづくり構想の策定・提案と市長の配慮(4章)、法制度等を活用した地区まちづくり、地区まちづくりルールの登録等(5章)、協議会や地区まちづくり活動への助成(6章)、まちづくり委員会の設置(7章)等を規定している。
本条例については、豊中市HP「豊中市地区まちづくり条例と地区まちづくり支援制度について」を参照されたい。
〇 大和市条例は、平成10年に制定されたが、平成21年の「第8次総合計画」の策定、平成22年の「大和市都市計画マスタープラン」の改訂等を踏まえ、平成24年に改正されている(大和市HP「大和市みんなの街づくり条例の一部改正について」)。
現行条例は、地区街づくり準備会の登録(2章)、地区街づくり協議会の認定等(3章)、地区街づくり計画の認定(4章)、地区街づくり協定の認定と地区計画等の住民原案の申出(5章)、街づくりへの支援等(6章)等を規定している。
本条例については、大和市HP「大和市みんなの街づくり条例」を参照されたい。
〇 小田原市条例は、昭和62年に制定された「小田原市地区計画等の案の作成手続に関する条例」を廃止して、平成18年に制定された。「地域における自主的なルールとして、建築基準法による建築協定や都市計画法による地区計画(・・・)などの制度の他に、『街づくりルール形成促進条例』では、『地区街づくり基準』の認定制度や策定しようとする地元リーダーや住民団体の登録・認定制度などを定めています。」(小田原市HP「街のルールをつくる活動を支援しています」)とされる。
街づくりルール改革計画の策定(2章)、地域における街づくりルールの形成の促進(3章 街づくりプロジューサーの登録、地区街づくり基準形成協議会の認定、地区街づくり基準の策定・認定・特別認定、行為の届出、地区計画等への移行等)、都市計画法に基づく都市計画の決定又は変更の提案等(4章 計画提案、地区計画等の案の作成手続等)、支援及び表彰(5章)等を規定している。
本条例については、小田原市HP「街のルールをつくる活動を支援しています」を参照されたい。
(主として紛争調整について定める条例)
〇 建築物の建築等を巡る事業者と住民と間の紛争に際して、あっせん、調停等により利害の調整を図ることを主たる内容とする条例について、具体例をいくつか紹介する。
東京都 | 東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に 関する条例 | 昭和53年7月14日公布 | 昭和53年10月12日施行 |
東京都練馬区 | 練馬区中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に 関する条例 | 昭和53年10月6日公布 | 昭和53年10月12日施行 |
横浜市 | 保全等に関する条例 | 平成5年6月25日公布 | 平成6年1月1日施行 |
川崎市 | 調整等に関する条例 | 平成7年12月26日公布 | 平成8年4月1日公布 |
〇 東京都条例及び練馬区条例は、昭和51年の建築基準法改正による日影制限基準の導入に呼応して、制定された。中高層建築の建築に伴って生じる日照、電波障害等の問題に関する建築主と関係住民との紛争について、紛争の予防のための標識の設置、説明会の開催等、紛争の調整のためのあっせん、調停等の手続を定めている。
同様の条例が、東京都の他の特別区でも制定され、全国に広がっていったが、あっせん、調停等の紛争調整制度の対象が中高層建築物のみならず開発事業等にも拡大される傾向にある。
〇 東京都条例は、昭和53年に、建築基準法56条の2第1項に基づく委任条例である「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」と同時に制定されている。
標識の設置等(5条)、説明会の開催等(6条)、あっせん(7条・8条)、調停(9条・10条)、調停委員会の設置(11条)等を規定している。
本条例については、東京都HP「中高層建築物に関する紛争の予防と調整」を参照されたい。
〇 練馬区条例は、昭和53年に制定されているが、練馬区が昭和49年に定めた「練馬区中高層建築物に関する指導要綱」を条例化したものである(新山一雄「練馬区中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」(「ジュリスト増刊・新条例百選」(有斐閣 平成4年)60頁)。
基本的には東京都条例と同様に、標識の設置等(5条)、説明会等の開催(6条)、あっせん(9条・10条)、調停(11条)、建築紛争調停委員会の設置・調停手続(12条~22条)等を規定しているが、建築主は隣接地住民の了解を得るように努めること(7条)や説明内容や了解に努めた状況を区長に報告しなければならない(8条)等東京都条例にない規定も置いている。なお、東京都条例が適用される建築物は、適用外(附則2項)としている。
本条例については、練馬区HP「中高層建築物等における紛争の予防と調整」を参照されたい。
〇 横浜市条例は、平成5年に「横浜市中高層建築物等の建築に係る住環境の保全等に関する条例」として制定され、中高層建築物等の建築に関し、計画の事前公開(標識の設置、計画の説明)、あっせん、調停等を定めていたが、平成16年に「横浜市開発事業の調整等に関する条例」が制定されたことに伴い、改正され、あっせん及び調停については開発事業に関するものも対象とされ、条例名も「横浜市中高層建築物等の建築及び開発事業に係る住環境の保全等に関する条例」とされた。
計画の事前公開(3章 標識の設置、計画の説明)、あっせん(5章)、調停(6章 建築・開発紛争調停委員会の設置、調停手続)等のほか、建築主等の配慮等(2章 建築主等の配慮等、工事中の措置、電波障害対策)や計画の報告等(4章 電波障害対策や計画の説明について建築主から市長への報告、市長の審査)、標識の設置、計画の説明等を行わない者に対する措置命令(27条)についても規定し、措置命令違反等に対して罰則(31条)を科している。
本条例については、横浜市HP「横浜市中高層建築物条例」を参照されたい。
〇 川崎市条例は、平成7年に「川崎市中高層建築物等の建築に係る紛争の予防及び調整に関する条例」として制定され、中高層建築物等の建築に関し、標識の設置、計画の説明、あっせん、調停等を定めていたが、平成15年に、「川崎市建築行為及び開発行為に関する総合調整条例」の制定と併せて、改正され、開発事業にも対象拡大され、条例名も「川崎市中高層建築物等の建築及び開発行為に係る紛争の調整等に関する条例」とされた。
計画上の配慮事項(7条)、テレビ電波受信障害対策(8条)、標識の設置等(9条)、計画等の説明(10条)、報告等(11条)、あっせん(12条、13条)、調停(14条~16条)、調停委員会の設置(19条)、措置命令(21条)、公表(22条)等を規定している。罰則規定は置いていない。
本条例については、川崎市HP「中高層建築物等の建築及び開発行為に係る紛争の調整等に関する条例(紛争調整条例)の手続きについて」を参照されたい。
(主として住環境整備やマンション等規制を定める条例)
〇 住環境の整備やマンション等の規制を定めることを主たる内容とする条例について、具体例をいくつか紹介する。
兵庫県尼崎市 | 尼崎市住環境整備条例 | 昭和59年12月24日公布 | 昭和59年12月24日施行 |
神戸市 | 神戸市民の住環境等をまもりそだてる条例 | 平成6年3月31日公布 | 平成6年4月1日施行 |
東京都世田谷区 | 平成13年12月10日公布 | 平成14年4月1日施行 | |
東京都江戸川区 | 平成17年12月22日公布 | 平成18年4月1日公布 |
〇 尼崎市条例は、従前から制定されていた各種指導要綱を統合し、良好な住環境の整備を図ることを目的として、昭和59年に制定された(高見沢実「既成市街地を対象とする誘導手法の地区的・総合的運用実例の分析と評価」(都市計画論文集25巻 平成2年 187頁以下)参照)。
「尼崎市住環境整備条例は開発協議のプロセスに、開発協定の締結、あっせん・調停制度の採用、違反者に対する氏名の公表など、1990年(平成2年)代の開発コントロール型のまちづくり条例の原型となる仕組みを採用している。」(秋田典子「まちづくり条例の発展プロセスに関する研究」(都市計画報告集7巻2号 平成20年 以下「秋田論文」という。)38頁)とされる。
住環境の向上(2章 公共施設の整備改善・老朽住宅密集地域の解消・市街地の整備)、開発行為の適正化(3章 開発事業者による公共施設整備の基準、市街化区域の住宅の最低敷地面積基準等)、中高層建築物の建築及びワンルームマンションの新築に関する措置(4章)、事前協議制度(5章 事前協議・協定締結・紛争防止(表示板の掲出、意見書の提出等)・紛争調整(調停))、住宅の整備(6章)、地区計画(7章2節)、助成・表彰(8章)、罰則(10章)等を規定しているが、平成16年改正により大規模開発構想の協議制度(2章の2)、平成24年改正により開発区域内において予定される建築物の敷地面積の最低限度(5章の2)、平成28年改正によりまちづくり活動団体の登録(7章1節)、まちづくりルールの認定制度(7章3節)等が追加されている。
本条例については、尼崎市HP「尼崎市住環境整備条例に基づく手続及び基準について」を参照されたい。
〇 神戸市条例は、平成6年に、総合的かつ計画的な住環境等の保全及び育成を図ることを目的として、従前個々に運用してきた住環境保全を趣旨としたいくつかの委任条例、自主条例及び要綱を統合し、法令の委任規定(特別用途地区内における建築制限、地区計画等の区域における建築制限、日影規制、建築協定等)と自主規定(ワンルームマンション等の規制、指定建築物制度、日照等調停委員、助成等)を一体的に定め、制定された(小林編著書②168頁以下参照)。
条例制定後ほぼ毎年度改正が積み重ねられているが、現行条例は、確認申請等に係る届出等(1章の2)、住環境の保全等(2章 ワンルームマンション及び特定共同住宅に係る指導、指定建築物の標識の設置・説明の実施・届出・勧告・公表等、紛争の調整等)、建築物の用途、敷地及び構造に関する制限等(3章 特別用途地区内における建築物の建築の制限、斜面地建築物の構造の制限、延べ面積に算入しない地階の部分に係る地盤面の指定、日影による中高層の建築物の高さの制限、地区計画等の区域内における建築物の用途等に関する制限等)、建築協定(4章)、近隣住環境計画(4章の2)、助成等(5章)、日照等調停委員の設置(6章)、罰則(8章)等を規定している。
本条例については、神戸市HP「神戸市の建築に関する条例・規則」を参照されたい。
〇 世田谷区条例は、従前制定されていた「集合住宅等建設指導要綱」と「ワンルームマンション等建築物の建築に関する指導要綱」を整理・統合し、特定商業施設を適用建築物に加えて、これらの建築物の建築を1つの条例で規制することとして、平成13年に制定された(世田谷区HP「世田谷区建築物の建築に係る住環境の整備に関する条例(住環境条例)」)。なお、世田谷区は、昭和53年に「世田谷区中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」を、平成2年に「世田谷区住宅条例」を制定しており、本条例と併せて施行されている。
指定建築物(集合住宅等建築物、ワンルームマンション建築物、特定商業施設及び長屋の建築計画の届出及び協議等(2章)、住環境の整備及び周辺環境への配慮(3章 敷地の道路状の整備、隣地からの壁面等の後退、外壁等の色彩、生活環境への配慮、雨水対策等)、集合住宅等建築物に関する措置(4章 防火等水槽の設置、環境空地の設置、店舗・事務所の設置等)、ワンルームマンション建築物に関する措置(5章 居住水準の確保、ファミリー向け住戸の設置等)、特定商業施設に関する措置(6章 交通渋滞の防止、道路から壁面等の後退)、長屋に関する措置(7章 隣地からの壁面等の後退、自転車等駐車施設の附置、廃棄物等保管場所の位置、居住水準の確保等)、勧告・公表(37条)等を規定している。罰則規定は、置いていない。
本条例については、世田谷区HP「世田谷区建築物の建築に係る住環境の整備に関する条例(住環境条例)」を参照されたい。
〇 江戸川区条例は、従前制定されていた「住宅等整備指導要綱」を見直し、平成17年に制定された。
「江戸川区として条例に期待した点は、江戸川区の住環境を維持・改善させるため、指導要綱で運用してきた独自の基準を事業者等に遵守させるための実効性であった。そのため、条例化にあたって新たに加えた項目には、『都市計画法に定める開発許可の基準』(第6章)と要請、勧告、公表等の規定(第7章)がある。つまり、指導要綱で運用されてきた協議手続に加え、法令で委任されている基準と独自の基準の義務履行を確保する規定を盛り込むことで、条例による実効性を確保しようとした。」(内海論文②135頁)とされる。
一定規模以上の共同住宅その他の建築物の建築、墓地の新設等を行う場合の事前協議・協定締結等(2章)、建築物の敷地に係る基準等(3章 戸建て開発の区画面積の最低限度、路上地敷地の配慮、駐車場の整備等)、公共公益施設等の整備に係る基準等(4章)、その他の基準等(5章 戸当り住居専用面積、防犯対策、地域コミュニティの形成、窓ガラスの落下対策等)、都市計画法に定める開発許可の基準(6章)、雑則(7章 表彰、要請、勧告、公表等)等を規定している。罰則規定は、置いていない。
本条例については、江戸川区HP「江戸川区住宅等整備基準条例」を参照されたい。
(地方部における土地利用規制について定める条例)
〇 地方部においては、都市計画区域外、非線引き区域、市街化調整区域等都市計画法上の規制が緩い区域が多いことを踏まえ、リゾート開発やその他の開発の抑制、誘導を図る観点から土地利用規制について定める条例が制定されている。具体例をいくつか紹介する。
これらの条例は、まちづくり方針・計画や土地利用基本計画等を策定することとしたうえで、具体の土地利用規制措置を定めているものが多い。
大分県旧湯布院町 | 潤いのある町づくり条例 | 平成2年9月5日公布 | 平成2年9月5日施行 |
静岡県掛川市 | 掛川市生涯学習まちづくり土地条例 | 平成17年4月1日公布 | 平成17年4月1日施行 |
神奈川県真鶴町 | 平成5年6月16日公布 | 平成6年1月1日施行 | |
沖縄県恩納村 | 平成3年2月1日公布 | 平成3年2月1日公布 | |
長野県安曇野市 | 安曇野市の適正な土地利用に関する条例 | 平成22年9月30日公布 | 平成23年4月1日施行 |
神戸市 | 人と自然との共生ゾーンの指定等に関する条例 | 平成8年4月15日公布 | 平成8年5月21日施行 |
兵庫県丹波篠山市 | 平成22年12月24日公布 | 平成23年4月1日施行 | |
平成26年6月27日公布 | 平成26年7月1日施行 | ||
石川県能美市 | 平成24年12月21日公布 | 平成25年8月2日施行 | |
三重県伊賀市 | 平成29年9月29日公布 | 平成30年4月2日公布 | |
栃木県那須烏山市 | 令和2年12月11日公布 | 令和3年4月1日公布 |
〇 旧湯布院町条例については、旧湯布院町が「自然環境保護条例」(昭和47年)及び「住環境保全条例」(昭和59年)を制定していたが、リゾート法施行を背景にリゾート開発が活発になったものの、これらの条例では開発を十分にコントロールできないとして、両条例を廃止したうえで、平成2年に制定された(小林編著書①145頁以下参照)。
「本条例の特色は、・・・リゾートマンション等を中心とする極めて広範な開発事業について全庁的に町長の同意を要するものとする一方、その同意の要件として、その高さ・空地率・壁面及び道路後退などについて建築基準法の規制をかなり上回る基準を定めていることにある。・・・このような規制は、条例としてはもちろん、おそらく指導要綱としても全国的にあまり例を見ないものと思われる。」(山田洋「潤いのある町づくり条例(湯布院町)」(「ジュリスト増刊・新条例百選」(有斐閣 平成4年)75頁)とされる。
町づくりの方針(2章 町づくりの方針の策定、地区の町づくり計画の策定、成長の管理、開発の抑制等)、開発事業の審査等(3章 事前相談、事前環境調査、事前公開、説明会の開催、近隣関係者等の理解、事前協議、指導・助言・勧告、申請、開発協定、同意等)、開発の基準(4章 公共公益施設の整備、公園・緑地・緑地の整備、駐車場・防犯灯・消防用施設・ごみ処理施設・給水施設の設置、地下水採取の基準、道路の整備、雨水及び生活雑排水の基準、分譲宅地の基準、建築物の基準、リゾートマンション等の建築制限等)、まちづくり審議会及び公聴会(5章)等を規定している。
旧湯布院町は平成17年に他の2町と合併し、由布市となったが、本条例については、「暫定条例として引続き運用」されている(由布市HP「潤いのある町づくり条例」)。
〇 旧掛川市は平成3年に、「東海道新幹線掛川駅が開業した昭和63年前後から、当市にも地価高騰の波が押し寄せ、土地の投機と乱開発が始まりました。活発な土地売買が行われ、平成3年まで地価は異常な高騰を続け」たことを背景として、「土地利用をコントロールすることがまちづくりのベースであるとの考えの基に」、「掛川市生涯学習まちづくり土地条例」を制定した。「条例の内容は、地域住民が土地の利用方法を中心とした『まちづくり計画』を策定し、土地所有者の8割以上の同意を得られれば、市と地元住民代表と地権者代表の3者でまちづくり計画協定を締結するもので、協定を締結した区域(特別計画協定区域)内においては、計画以外の土地利用を認め」ないとするものであった(掛川市HP「掛川市生涯学習まちづくり土地条例」)。
旧掛川市は平成17年に近隣の2町と合併し、新掛川市が発足したが、同一の名称と同様の内容を有する条例が制定されている。
現行条例は、土地に関する施策(2章 特別計画協定促進区域の指定、まちづくり計画案の策定、まちづくり計画協定の締結、特別計画協定区域の指定、届出、勧告、公表、まちづくり資金の納付、土地に関する権利の買取り請求等)、土地に関する生涯学習の奨励等(3章)、開発者等の責務(4章)、掛川市生涯学習土地審議会(5章)等を規定している。
〇 真鶴町条例は、リゾートマンションの建設を規制するため、平成5年6月に制定された。本条例は、「美の条例」とも言われるが、まちづくりに関するルールの特徴として、①「土地利用規制基準」を作成し、町全域の土地利用をコントロールするために必要な制限を定めること、②「美の基準」を作成し、より創造的に美しい建築を誘導するためのデザインコードを定めていること、③建設計画の是非や条例の制限に対する異議申し立て制度として、公聴会と議会議決の請求という手続きを定めていること等を有している(卜部直也「美の条例と地域主権」(季刊まちづくり30号(平成23年) 57頁以下)参照)とされる。
まちづくり計画(2章 まちづくり計画の策定、土地利用規制基準の作成、保全区域及び誘導区域の設置、「美の原則」に基づく「美の基準」の作成、まちづくり審議会の設置)、建設計画の基準(3章 公共公益施設の整備、文化財の保護、日照の確保等)、建設行為の手続(4章 届出、事前公開、説明会等の開催、事前協議、公聴会の開催、建設行為の当否に関する議会の議決、公表等)、まちづくりの推進(まちづくり組織への支援、表彰、助成)等を規定している。
〇 恩納村条例は、恩納村では昭和50年の海洋博覧会以降リゾートホテルが相次いで開設されたが、バブル発生に伴うリゾートブームによりさらに土地の買い占めと地価高騰が進んだため、リゾート開発から住民生活を守るため、平成3年に制定された(桜井良治「沖縄県リゾート開発における土地利用と税収ー恩納村における海浜条例の適用を中心としてー」(法経論集69・70号 平成5年 83頁以下)参照)。
土地利用用域として、農業用域、保安制限林用域、特定用域、漁業用域、公共施設用域、集落用域、準集落用域、中層住居用域、リゾート用域及び地域環境保全用域の10用域に区分・指定し(6条、7条)たうえで、開発事業者は規則で定める「土地利用規制のための基準」に添って村長の承認を得なければならない(9条、11条)とし、承認に当たって事前審査(10条)、承認後の開発協定の締結(12条)、立入調査、助言、勧告等(13条)、土地開発審議会(14条)、公表(15条)等の規定を置いている。
本条例については、恩納村HP「恩納村環境保全条例・施行規則 恩納村開発指導要綱」を参照されたい。
〇 安曇野市条例は、安曇野市は平成17年に旧穂高町を含む5町村の合併により発足したが、旧穂高町が平成11年に制定した「穂高町まちづくり条例」を基本部分としては踏襲している。
穂高町条例については、「当時、穂高町では、農業振興計画と重なる非線引き白地地域での農地のミニ開発、広域農道沿道の開発による土地利用の拡散が問題となりこの条例が制定された。穂高町条例の特徴は、条例に『土地利用調整基本計画』を規定している点と、この計画を実現する手段が定められている点にある。前者の点については、市全域で6種の基本区域(ゾーニング)を定める土地利用基本計画を策定している。また、後者の点については、計画が定めるゾーニングに応じて、建てられる用途や、基準が規定されており、開発事業などの土地利用に際しては、市による事前承認が必要となり、その履行担保措置として、違反者に対する懲役、罰金、過料を規定している。」(内海麻利「自主的かつ総合的な土地利用の実現 ―条例にみる自治体の取組みを素材として―」(「超高齢・人口減少時代の地域を担う自治体の土地利用行政のあり方」(日本都市センター 平成29年) 以下「内海論文③」という。)106頁)とされる。
安曇野市条例は、計画策定(2章 土地利用基本計画、地区土地利用計画)、開発事業の実施(3章 開発事業の承認、開発事業の完了検査、特定開発事業の認定、権利の保護)、土地利用審議会(4章)、罰則(6章)等を規定している。
本条例については、安曇野市HP「土地利用制度(安曇野市の適正な土地利用に関する条例)」を参照されたい。
〇 神戸市条例は、平成8年に制定された。「市街化調整区域の農地を細分化する開発行為に対して制定された条例」(内海論文③ 106頁)とされる。
人と自然との共生ゾーン(2章 整備基本方針、指定等)、農村用途区域・農村景観保全形成地域(3章 指定、届出、勧告、命令等)、里づくり協議会(4章 里づくり協議会の認定、里づくり計画の認定、里づくり地域協議会の設置等)、表彰及び支援施策(5章)、人と自然との共生ゾーン審議会(6章)等を規定している。
本条例については、神戸市HP「人と自然との共生をめざして 人と自然との共生ゾーン」を参照されたい。
〇 丹波篠山市は、平成11年に制定した「篠山市まちづくり条例」を全部改正して、平成22年に「丹波篠山市まちづくり条例」を制定し、平成26年には「丹波篠山市土地利用基本条例」を制定した。
「丹波篠山市土地利用基本条例」は、全域を対象に「土地利用計画」を策定し(5条)、土地利用区域の区分、土地利用の方針及び開発行為等に関する立地の基準等を定める(6条)ことやまちづくり審議会(9条)等を規定し、「丹波篠山市まちづくり」は、 開発行為等の事前協議・説明会の開催等(2章)、開発行為等の許可等(3章)、まちづくり協定の締結等(4章)、指導・勧告・公表等(5章)等を規定している。
これらの条例については、丹波篠山市HP「丹波篠山市土地利用基本計画」及び「丹波篠山市まちづくり条例の手続き」を参照されたい。
〇 能美市条例は、平成24年に制定された。「都市計画区域のうち、用途地域を除いた区域」を対象としている(8条1項)。
土地利用計画(2章 策定、内容、開発可能区域・開発規制区域・特定用途制限区域等の設定・計画方針等)、開発事業の実施(3章 承認申請、承認、特認事業の認定手続(計画書案の説明、意見書の提出・縦覧、公聴会の開催、認定等)、命令、報告・立入調査等)、特定用途制限地域内の建築物等の用途の制限(4章 基準、建築物の用途制限等)、審査(6章)、罰則(8章)等を規定している。
本条例については、能美市HP「能美市の適正な土地利用に関する条例に基づく手続き」を参照されたい。
〇 伊賀市条例は、平成29年に制定された。「『多核連携型の都市構成』(伊賀市都市マスタープランの都市づくりの目標)を目指して制定された」(伊賀市HP「伊賀市の適正な土地利用に関する条例について」)とされ、市内全域を対象にしている。
計画策定(2章 土地利用基本計画(策定、内容、基本区域の設定・方針、策定手続等)、拠点土地利用計画(策定、内容、策定手続等)、地区土地利用計画(策定、内容、認定、策定手続等))、建築開発事業の実施(3章 基本計画との整合、承認申請、案の提出、標識の設定、説明、意見書の提出、適合承認、建築開発事業の完了検査・使用収益制限、是正命令、報告・立入調査等、特定開発事業の認定・手続等)、土地利用審議会(4章)、罰則(6章)等を規定している。
本条例については、伊賀市HP「伊賀市の適正な土地利用に関する条例について」を参照されたい。
〇 那須烏山市条例は、令和2年に制定された。一定規模以上の土地利用に関する事前協議制度を定めている。市内全域を対象にしている。
事前協議(6条)、説明会の開催等(7条)、土地利用対策審議会への諮問・答申(8条、9条)、事前指導(10条)、開発協定の締結(11条)、立入調査等(16条)、指導・勧告(17条)、公表(18条)等を規定している。
本条例については、那須烏山市HP「土地利用に関する事前協議制度」を参照されたい。
(都市計画マスタープランの実現に向けて制定された条例)
〇 平成4年の都市計画法の改正により都市計画マスタープランが制度化されたが、各自治体が策定したマスタープランの実現に向けてまちづくりを住民参加のもとで進めることを内容とする条例が制定されている。具体例をいくつか紹介する。
松本論文は、こうした条例の代表例として、「豊中市まちづくり条例」(平成4年)、「鎌倉市まちづくり条例」(平成7年)、「世田谷区街づくり条例」(平成7年全部改正)、「箕面市まちづくり推進条例」(平成9年)、「大和市みんなの街づくり条例」(平成10年)を掲げている(174頁)が、これらの条例の多くは、その後条例改正がなされ、性格・内容等が変わっている。
「豊中市まちづくり条例」は平成24年に改正され、条例名は「豊中市地区まちづくり条例」となり、また、「世田谷区街づくり条例」は平成22年、「大和市みんなの街づくり条例」は平成24年に改正されているが、本稿では、これらの現行の条例は「主として地区レベルでのまちづくりについて定める条例」において紹介している。また、「鎌倉市まちづくり条例」は平成23年に全部改正されており、本稿では、他の鎌倉市の条例とともに、「個別条例で主として土地利用の調整、規制又は基準について定める条例」において紹介している。
大阪府箕面市 | 箕面市まちづくり推進条例 | 平成9年3月31日公布 | 平成9年4月1日施行 |
神奈川県秦野市 | 秦野市まちづくり条例 | 平成11年12月21日公布 | 平成12年7月1日施行 |
〇 箕面市は、昭和52年に開発指導的な要素の強い「箕面市環境保全条例」を制定したが、平成8年の「箕面市都市計画マスタープラン」の策定を機に、その実現に向けて市民参加のまちづくりを進めるとともに、あわせて環境保全条例で規定する建設基準を取り込み、平成9年に本条例が制定された(小林編著書①240頁以下参照)。本条例の制定と同時に、「箕面市まちづくり理念条例」と、環境保全条例が全部改正され「箕面市環境保全条例」が制定されている。
まちづくりの推進に関する施策(2章 まちづくり基本計画の策定、公共施設の整備、市街地開発事業の促進、計画的な土地利用の誘導、都市景観の形成)、建設行為の適正化(3章 建設行為の基準等、建設行為の手続等(計画書の提出・協議、事前協議書の提出及び協議、標識の設置、説明会等の開催、着手の制限、指導・勧告・命令、公表、寄附金等))、まちづくり検討地区(4章 指定等、まちづくりについての協議)、市民の自主的なまちづくり(5章 市長への提案、まちづくり活動の支援)、補則(6章)等を規定している。
本条例については、箕面市HP「箕面市まちづくり推進条例に基づく協議」を参照されたい。
〇 秦野市は、昭和47年制定の「秦野市開発指導要綱」に基づく行政指導によって開発規制を行ってきたが、平成11年の「秦野市都市計画マスタープラン」の策定を踏まえて、これを実現するために、平成11年に「秦野市まちづくり条例」を制定した(礒崎初仁「まちづくり条例の可能性(2)ー秦野市まちづくり条例を題材にー(北村喜宣編著「分権条例を創ろう!」(ぎょうせい 平成16年)155頁以下)参照)。
本条例は、事業者に事前協議義務と基準適合義務を課し、手続に対する違反者に対し市長が是正命令を行い、是正命令に従わない場合には罰則を科しているが、「これまで条例は実効性に課題があると考えられていたが、『秦野市まちづくり条例』(・・・)は地方自治法に基づき6ケ月以内の懲役と50万円以下の罰金を位置づけており、その後に制定された条例にも同様の罰則が採用されている」(秋田論文39頁)とされる。
環境創出推進地区基本計画の策定等(2章)、市民によるまちづくりの推進(3章 支援、地域まちづくり基本構想の公表等、地域まちづくり協定の締結等、借地権の申告等)、良好な環境創出のための手続等(4章 事前協議、近隣住民への周知等、事前協議確認通知書の交付、行為着手等の制限、特定環境創出行為の手続(計画書の提出・周知等、意見書の提出等、見解書の提出等、公聴会の開催等)、水とみどり豊かな暮らしよい環境の創出のための基準等)、環境創出行為に係る紛争調整(5章 あっせん、調停等)、雑則(6章 まちづくり審議会の設置、是正命令、立入検査等、公表等)、罰則(7章 命令違反に対する懲役・罰金)等を規定している。
本条例については、秦野市HP「まちづくり条例」を参照されたい。
(個別条例で主として土地利用の調整、規制又は基準について定める条例)
〇 個別条例で土地利用調整、規制、開発基準等について定める条例について、具体例をいくつか紹介する。
自治体では、まちづくり・土地利用に関して、いくつかの自主条例や都市計画法等の委任条例を制定し、それらを相互に関連づけて運用することが多い。以下紹介するものは、主として土地利用調整、規制、開発基準等について定める自主条例であるが、規定中に都市計画法等の委任事項が含まれているものもある。
石川県金沢市 | 平成12年3月24日公布 | 平成12年7月1日施行 | |
平成12年3月24日公布 | 平成12年7月1日施行 | ||
京都市 | 京都市土地利用の調整に係るまちづくりに関する条例 | 平成12年5月31日公布 | 平成12年6月1日施行 |
神奈川県鎌倉市 | 平成23年10月6日公布 | 平成24年4月1日施行 | |
平成14年9月25日公布 | 平成15年4月1日施行 | ||
平成23年10月6日公布 | 平成24年4月1日施行 | ||
川崎市 | 川崎市建築行為及び開発行為に関する総合調整条例 | 平成15年7月4日公布 | 平成16年1月1日施行 |
横浜市 | 横浜市開発事業の調整等に関する条例 | 平成16年3月5日公布 | 平成16年6月1日施行 |
兵庫県宝塚市 | 宝塚市開発事業における協働のまちづくりの推進に関する条例 | 平成17年3月31日公布 | 平成17年10月1日施行 |
神奈川県横須賀市 | 平成17年3月31日公布 | 平成17年7月1日施行 | |
平成17年3月31日公布 | 平成17年7月1日施行 | ||
平成14年10月1日公布 | 平成15年2月1日公布 |
〇 金沢市は、平成12年に「金沢市における市民参画によるまちづくりの推進に関する条例」及び「金沢市における土地利用の適正化に関する条例」を制定し、前者は市街化区域を対象にし、後者は市街化区域外を対象にしているが、「 市街化区域とそれ以外とでは、開発の規模や性格などに違いがあるため」(金沢市資料「金沢市まちづくり条例」)、それぞれ別個に条例を制定したとしている。
「金沢市における市民参画によるまちづくりの推進に関する条例」は、まちづくり審議会(2章)、住民等による自主的なまちづくり(3章 まちづくり計画の策定、まちづくり協定の締結、まちづくり協定の遵守、自主的合意形成、まちづくり協定の遵守に係る関係当事者間の協議の調整、地区計画等への要請等)、まちづくりにおける開発事業の施行手続(4章 開発事業の協議等、特定関係当事者間の意見等の調整、勧告、公表、大規模な開発事業の手続の特例等)、まちづくりの活動に対する支援(5章 援助、表彰)等を規定している。
また、「金沢市における土地利用の適正化に関する条例」は、土地利用基準の策定等(3条)、土地利用協定の締結(4条)、土地利用協定の遵守(5条)、自主的合意形成(5条の2)、土地利用協定の遵守に係る関係当事者間の協議の調整(5条の3)、開発事業の協議等(6条)、特定関係当事者間の意見等の調整(6条の2)、勧告(7条)、公表(8条)、大規模な開発事業の手続の特例(9条)、援助(11条)、表彰(12条)等を規定している。
いずれの条例も、罰則規定は置いていない。
これらの条例については、金沢市HP「まちづくり条例目次」を参照されたい。
〇 京都市条例は、平成12年に制定された。市街化区域内の1万㎡以上(集客施設の設置を含む場合は、千㎡以上)の開発事業を対象に、土地利用調整手続を定めている。
開発事業の構想についての届出、公告・縦覧、説明会の開催、意見書の提出、見解書の提出等(2章)、指導及び助言、勧告等(3章)、書類の閲覧(4章)、土地利用調整審査会(5章)、特例及び適用除外(6章)等を規定している。罰則規定は置いていない。
本条例については、京都市HP「京都市土地利用の調整に係るまちづくりに関する条例」を参照されたい。
〇 鎌倉市は、平成7年に、従来からの開発指導要綱の運用を存続させながら、まちづくりの基本理念、基本計画、市民参画、土地利用の誘導及び調整などを定める「鎌倉市まちづくり条例」を制定し、平成14年に、開発指導要綱を条例化し開発事業の手続及び基準を定める「鎌倉市開発事業における手続及び基準等に関する条例」を制定した(内海論文②144頁以下参照)。さらに、平成23年に、関連する指導要綱を条例化し特定土地利用(墓地、スポーツレクリエーション施設、コインパーキングの設置等)の手続及び基準を定める「鎌倉市特定土地利用における手続及び基準等に関する条例」を制定し、あわせて「鎌倉市まちづくり条例」は全部改正している。
「鎌倉市まちづくり条例」は、まちづくりについての施策(2章 まちづくり基本計画、まちづくり施策の推進)、まちづくり審議会(3章)、市民主体のまちづくりの推進(4章 まちづくり市民団体、自主まちづくり計画、自主まちづくり協定の締結、開発事業等に係る事前届出等)、都市計画等の決定等における住民参加(5章 都市計画の決定等の提案に関する手続、地区計画等の住民原案の申出に関する手続、都市計画の案及び地区計画等の案の作成に関する手続)、土地利用の調整(6章 大規模土地取引行為の届出、大規模開発事業の手続、中規模開発事業の手続)、まちづくりの支援等(7章)等を規定している。罰則規定は置いていない。
また、「鎌倉市開発事業における手続及び基準等に関する条例」は、 開発事業の手続(2章 開発事業の計画の策定、事前相談、標識の設置、近隣住民等への説明、周辺住民等への説明、市長との協議、開発事業の申請、開発基準の適合審査、協定締結等)、開発事業の基準等(3章 開発事業の基準等、斜面地建築物の建築及び特定斜面地における宅地造成の基準、指定建築物の基準、公共公益施設の整備の基準等)、工事、検査、管理及び帰属(5章)、雑則(6章 報告、勧告、是正命令、立入検査、公表等)、罰則(7章 命令違反に対する懲役・罰金)等を規定し、「鎌倉市特定土地利用における手続及び基準等に関する条例」は、特定土地利用の手続(2章)、特定土地利用の基準等(3章)、行為の施行、検査及び管理(4章)、雑則(5章)、罰則(6章)等を規定している。
これらの条例については、鎌倉市HP「鎌倉市まちづくり条例について」、「鎌倉市開発事業における手続及び基準等に関する条例について」及び「鎌倉市特定土地利用における手続及び基準等に関する条例」を参照されたい。
〇 川崎市は、指導要綱として全国に先駆けて昭和40年に「川崎市団地造成事業施行基準」を制定したが、平成8年に抜本的に見直し「川崎市住宅・宅地事業調整要綱」を制定し、さらに平成15年にこの要綱を条例化するともに適用対象を拡大し、本条例を制定した(内海論文②113頁以下参照)。面積が500㎡以上の事業区域で行なわれる建築行為又は開発行為を対象とし、事業者に対して、建築確認申請又は開発許可申請の前に、周辺住民への説明、公共施設管理者との協議、市長への承認申請等を義務づけている。
公益施設用地の譲渡・公園又は緑地の整備(2章)、対象事業に係る手続(3章 事前届出、標識の設置、近隣関係住民への計画、要望書の提出、見解の通知、意見書の提出、公共施設の管理者等との協議等)、対象事業の承認等(4章 承認申請、承認基準、承認の通知等)、対象事業の実施等(5章 工事の着手制限、工事に関する協定等)、雑則(6章 勧告・命令等)、罰則(7章 命令違反に対する懲役・罰金)等を規定している。
本条例については、川崎市HP「建築行為及び開発行為に関する総合調整条例の手続きについて」を参照されたい。
〇 横浜市は、昭和43年に制定された「横浜市宅地開発要綱」を条例化するとともに適用対象や公共公益施設の整備基準の見直しを行い、平成16年に本条例を制定した(横浜市HP「横浜市開発事業の調整等に関する条例の概要」参照)。「開発行為、大規模な共同住宅の建築その他の開発事業を行う場合において、開発事業者が行うべき開発事業の構想の周知及び住民の意見の聴取に関する手続、地域まちづくり計画及び周辺環境への配慮等に関する横浜市との協議、開発事業に伴い整備すべき施設等の基準等を定めるとともに、都市計画法(・・・)による開発許可の基準等を定め」(1条)ている。
開発事業に関する手続(2章 開発構想に関する標識の設置・住民への説明、意見書の提出、開発事業計画書の提出、再意見書の提出等)、公共施設管理者等への説明、開発事業計画に関する協議、開発事業計画の同意、同意基準、工事着手制限等)、都市計画法に基づく開発許可の基準等(3章 都市計画法33条3項の規定による制限の強化、都市計画法施行令23条の3ただし書の規定による開発行為の規模、都市計画法33条4項の規定による予定される建築物の敷地面積の最低限度、都市計画法33条5項の規定による景観計画に定められた開発行為についての制限)、雑則(4章 指導・助言、勧告、公表、命令、報告徴収・立入検査等)、罰則(5章 命令違反に対する懲役・罰金、虚偽報告等に対する罰金)等を規定している。
本条例については、横浜市HP「開発事業の調整等に関する条例」を参照されたい。
〇 宝塚市条例は、平成17年に制定された。開発事業者に対して、構想段階での市長への届出、500㎡以上の開発事業等については住民に対する説明等、市長との開発協議等を義務づけるとともに、地区住民により策定された「まちづくりルール」の認定、紛争のあっせん・調停等を定めている。なお、宝塚市は、市街化調整区域については、都市計画法34条12号及び同法施行令36条1項3号ハの規定に基づき、「宝塚市市街化調整区域における開発行為及び建築物の新築等に関する条例」(平成30年)を制定している。
開発ガイドラインの策定(2章)、開発構想に関する手続(3章 開発構想届、指定確認検査機関への通知)、特定開発事業に関する手続(4章 標識の設置、開発構想についての住民への説明・要望書の提出、特定開発事業計画の策定・報告書の提出・意見書の提出等、開発協議、開発協定、工事の着手制限、工事協定等)、地区まちづくりルール(5章 まちづくり活動団体の認定、まちづくりルールの策定、地区まちづくりルールの認定、地区計画への要請等)、まちづくり専門委員及びまちづくり相談員(6章)、特定開発事業における紛争の解決(7章 あっせん、調停等)、雑則(8章 指導・助言、公表、報告徴収・立入検査等)、罰則(9章 虚偽報告等に対する罰金)等を規定している。
本条例については、宝塚市HP「開発事業における協働のまちづくりの推進に関する条例(開発まちづくり条例)」を参照されたい。
〇 横須賀市は、土地利用調整関連条例として、「『横須賀市土地利用基本条例』(平成17年)と、その趣旨に基づく幾つかの個別条例に分けて体系的に整備しました。」(横須賀市HP「土地利用調整関連条例の体系」としている。個別条例としては、自主条例である「適正な土地利用の調整に関する条例」(平成17年)及び「特定建築等行為に係る手続き及び紛争の調整に関する条例」(平成14年、平成17年改正)が、法律委任・執行条例としては「都市計画決定等に係る手続きに関する条例」(平成17年)、「開発許可等の基準及び手続きに関する条例」(平成17年)、「宅地造成に関する工事の許可の基準及び手続きに関する条例」(平成18年)等がある(出石稔編著「条例によるまちづくり・土地利用政策ー横須賀市が実現したまちづくり条例の体系化ー」(第一法規 平成18年)34頁)。
「横須賀市土地利用基本条例」は、土地利用の基本原則(3条)、土地利用の調整に関する基本方針(4条)、土地利用の調整に関する指針の策定(7条)、大規模土地利用行為の協議(9条)等を規定している。罰則規定は置いていない。
また、「適正な土地利用の調整に関する条例」は、土地利用調整基準(2章 土地利用行為の遵守基準、土地利用行為の指導基準、市街化調整区域内の土地利用行為の基準等)、地区土地利用協定の締結(3章)、土地利用行為に係る手続き(4章 土地利用行為の承認等、行為着手の制限、勧告、命令、審査請求、地区土地利用協定区域内の土地利用行為の届出等)、雑則(5章 報告、立入調査等)、罰則(6章 命令違反に対する懲役・罰金、手続違反に対する罰金等)等を規定し、「特定建築等行為に係る手続き及び紛争の調整に関する条例」は、住民への周知(2章 標識の設置、住民への説明等)、特定建築等行為に係る手続き(3章 特定建築等行為の承認、行為着手の制限、勧告、命令、審査請求等)、紛争調整(4章 あっせん、調停、行為着手の延期等の要請、公表等)、特定建築等行為紛争調整委員会の設置(5章)、雑則(6章 報告、立入調査等)、罰則(7章 命令違反に対する懲役・罰金等)等を規定している。
これらの条例については、横須賀市HP「土地利用調整関連条例」を参照されたい。
(同一条例で総合的にまちづくり・土地利用規制を定める条例)
〇 概ね一つの条例で、まちづくり・土地利用の基本理念、行政、住民及び事業者の役割と連携、基本計画の作成、地区計画の作成手続等の地区レベルでのまちづくりの推進、住民参加の手続、土地利用の調整・規制、開発事業の基準、紛争の調整等を規定する条例(地区計画の作成手続、開発事業の基準等は、法律の委任事項を含む)について、その具体例をいくつか紹介する。
様々な内容を一つの条例で規定するため、条文数は多くなる傾向にあり、例えば、国分寺市条例は9章100章、練馬区条例は9章153章から構成されている。
神奈川県大磯町 | 平成13年9月28日公布 | 平成14年4月1日施行 | |
神奈川県逗子市 | 平成14年3月6日公布 | 平成14年7月1日施行 | |
東京都狛江市 | 狛江市まちづくり条例 | 平成15年3月31日公布 | 平成15年10月1日施行 |
東京都国分寺市 | 国分寺市まちづくり条例 | 平成16年6月24日公布 | 平成17年1月1日施行 |
東京都練馬区 | 平成17年12月16日公布 | 平成18年4月1日施行 | |
東京都東大和市 | 平成22年6月22日公布 | 平成22年10月1日施行 | |
京都府綾部市 | 平成28年3月28日公布 | 平成28年5月10日施行 | |
東京都国立市 | 平成28年3月31日公布 | 平成28年10月1日施行 | |
神奈川県海老名市 | 平成30年2月1日公布 | 平成30年4月1日施行 |
〇 大磯町条例は、昭和54年に制定された「大磯町開発指導要綱」を見直し、平成13年に制定された。指導要綱には住民同意条項があったが、行政手続法との関係で問題視され、条例化に当たって「同意制を用いず、個々の開発事業等に住民の意向を反映させる方策をつくり出すことが課題とされた」、また、「条例制定過程では、町民の思い(町民の意向の総体)として表現された『大磯らしさ』を実現することが条例の目的となった」(内海論文②100頁)とされる。
全11章66条から構成され、まちづくり基本計画(2章 計画の策定、策定手続)、まちづくり審議会(3章)、自治によるまちづくり(4章 まちづくり団体、地区まちづくり協議会、地区まちづくり計画等)、協働によるまちづくり(5章 推進地区の指定、地区まちづくり事業等)、秩序あるまちづくり(6章 都市計画の案の作成手続、地区計画等の案の作成手続、都市計画の決定等の手続等)、協調によるまちづくり(7章 開発構想の届出・周知、開発事業の事前協議・公開・周知・意見書の提出・公聴会の開催・助言提案・指導書の交付・申請・審査、行為着手等の制限等)、開発事業の基準(8章 開発事業の基準の遵守、都市計画法に定める開発許可の基準、建築基準法に定める建築物の構造に関する制限)、開発事業に係る紛争調整(9章 あっせん、調停等)、雑則(10章 是正命令、立入検査、公表、許可等への配慮、表彰等)、罰則(11章 命令違反に対する懲役・罰金)等を規定している。
本条例については、大磯町HP「まちづくり条例について」を参照されたい。
〇 逗子市条例は、従前制定されていた指導要綱を見直し、平成14年に制定された。それまで指導要綱による開発規制については「政治的な要因により一変する政策や、代表制という点で疑問が残る反対運動や陳情による事業計画の変更など、立場が異なる主体が抱く相異なる都市像の下で開発規制が変化し、都市を変容させてきた」とされ、条例策定プロセスでは「都市像を合理的根拠とするための計画の策定及び変更の手続、住民による公共的意思や活動を保障し支援する手続、これらの手続による規制の実効性を高める義務履行確保のための手続が必要であると考えられた」(内海論文②87頁)とされる。
本条例の制定と同時に「逗子市地区計画等の案の作成手続に関する条例」(平成10年)及び「逗子市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整に関する条例」(平成12年)が廃止されている。なお、逗子市は、平成4年に「逗子市の良好な都市環境をつくる条例」を制定し、一定の開発行為を「環境アセスメント的手続」によって規制している。
全8章65条から構成され、計画的なまちづくりの推進(2章 まちづくり基本計画の策定・手続、推進地区基本計画の策定・手続・実施)、市民によるまちづくりの推進(3章 地区まちづくり協議会の認定、地区まちづくり計画の策定・提案、地区まちづくり協定の締結・遵守、テーマ型まちづくり協議会の認定、テーマ型まちづくりの策定・提案等)、地区計画等の案の作成手続等(4章)、建築基準法に基づく基準(4章の2)、開発事業の手続等(5章 適用対象、構想の届出・周知、事前相談申出書の提出、説明会の開催、事前協議、協定の締結、行為着手等の制限、公聴会の開催、報告書の作成・不服申出、開発事業の基準等、土地取引行為の届出、小規模開発事業の手続等)、紛争調整(6章 あっせん、調停、紛争調停委員会等)、雑則(7章 まちづくり審議会、是正命令、立入検査、公表、条例不履行に対する措置、表彰等)、罰則(8章 命令違反に対する懲役・罰金)等を規定している。
本条例については、逗子市HP「逗子市まちづくり条例」を参照されたい。
〇 狛江市条例は、都市計画マスタープラン(平成13年策定)を受け、平成15年に制定されている(狛江市HP「まちづくり条例について教えてください」)。開発等事業の基準等は規定せず、開発等事業について合意形成を図るため、事業者、住民、行政の出席による協議会(50条)を設けることに特徴がある(黒崎晋司「狛江市まちづくり条例における開発調整システム」(季刊まちづくり30号 平成23年)52頁以下)参照)とされる。
全6章81条から構成され、まちづくりの施策等(2章)、狛江市まちづくり委員会(3章)、まちづくりの推進(4章 まちづくりグループの登録、地区まちづくり協議会の認定、地区まちづくり構想の提案、地区まちづくり計画の作成・決定・推進、テーマ型まちづくり協議会の認定、テーマ型まちづくり構想の提案、地区計画の作成手続等)、開発等協議(5章 適用範囲、開発等事業の届出、標識板の設置、説明会の開催、事前協議、開発等事業に対する意見、協定の締結、行為着手の制限、調整会の開催要請・事前協議会の開催、調整会の開催・報告、大規模土地取引の届出等、大規模開発等事業構想手続、小規模開発等事業手続等)、雑則(6章 表彰、勧告、公表、命令、罰則(命令違反に対する懲役・罰金)等)等を規定している。
本条例については、狛江市HP「まちづくり条例」を参照されたい。
〇 国分寺市条例は、都市マスタープラン(平成12年3月策定)の内容を実現するための一つの方策として、平成16年に制定されている(国分寺市資料「国分寺市まちづくり条例のあらまし(協働のまちづくり及び秩序あるまちづくり) 」)。「3年余の広範な市民参画と徹底した情報公開により策定された分権志向の高い総合的なまちづくり条例である」(松本昭「まちづくり条例の改正動向からその本質を考える」(季刊まちづくり30号 平成23年)32頁)とされる。本条例の制定と同時に「国分寺市地区計画等の案の作成手続に関する条例」(昭和57年)が廃止されている。
全9章100条から構成され、まちづくり基本計画等(2章 まちづくり基本計画、施策の推進、国分寺崖線の保全及び再生のまちづくり)、まちづくり市民会議(3章)、協働のまちづくり(4章 まちづくり計画、まちづくり協議会の認定、地区まちづくり計画の案の策定、テーマ型まちづくり計画の案の策定、都市農地まちづくり計画の案の策定、地区まちづくり計画等の決定、実施計画の策定、まちづくり推進地区の指定、推進地区まちづくり協議会、推進地区まちづくり計画の策定、開発事業におけるまちづくり計画の尊重、協定の締結等)、秩序あるまちづくり(5章 都市計画の提案手続・案の作成手続・決定手続、地区計画の案の作成手続・決定手続等)、 協調協議のまちづくり(6章 開発事業の基本原則、建築確認申請等に係る届出等、開発基本計画の届出・周知、開発事業の事前協議、近隣住民等への説明、意見書の提出、調整会の開催、指導書の交付、開発事業の申請、開発基準の適合審査、協定、大規模土地取引行為の届出等、大規模開発事業の特例、開発事業の基準、都市計画法に定める開発許可の基準、紛争調整(あっせん、調停、調停委員会)、建築基準法の活用等)、まちづくりの支援等(7章)、補則(8章 報告、立入検査、勧告、是正命令、公表等)、罰則(9章 命令違反に対する懲役・罰金)等を規定している。
本条例については、国分寺市HP「まちづくり条例と関連基準」を参照されたい。
〇 練馬区条例は、都市マスタープランの策定後、3年間住民参加により条例が検討され、平成17年に制定されている(室地隆彦「練馬区まちづくり条例の展開」(季刊まちづくり30号 平成23年) 46頁以下)参照)。大規模建築物、特定用途建築物、宅地開発事業、墓地等及び自動車駐車場等の5つの開発事業ごとに詳細な手続を定めている。本条例の制定と同時に「練馬区建築協定条例」(昭和50年)、「練馬区地区計画等の案の作成手続に関する条例」(昭和58年)等は廃止されているが、「練馬区中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」(昭和53年)は引き続き施行されている。
全9章153条から構成され、まちづくりの計画(2章)、都市計画等の決定等における住民参加(3章 都市計画の決定等に関する手続・法定提案手続・まちづくり提案手続、地区計画等の決定等に関する手続)、地区まちづくり・テーマ型まちづくり等の推進(4章 総合型地区まちづくり計画、施設管理型地区まちづくり計画、テーマ型まちづくり提案、重点地区まちづくり計画、建築協定)、開発調整の仕組み(5章 まちづくりへの配慮、土地取引の届出、開発事業に係る届出、大規模建築物の建築手続等、特定用途建築物の建築手続等、宅地開発事業の手続、墓地等の開発調整の手続、自動車駐車場等の開発調整の手続、開発事業に係る紛争調整、開発事業に関する工事の手続等、開発協議の基準等、都市計画法に定める開発許可の基準、公共施設等の整備促進に関する協力)、まちづくりの支援等(6章)、組織(7章)、補則(8章 報告、立入検査、工事着手の制限、勧告、是正命令、公表等)、罰則(9章 命令違反に対する懲役・罰金)等を規定している。
本条例については、練馬区HP「まちづくり条例」を参照されたい。
〇 東大和市条例は、平成22年に制定された。本条例の制定と同時に「東大和市地区計画等の案の作成手続に関する条例」(昭和60年)が廃止されている。
全6章45条から構成され、協働による街づくり(2章 地区の街づくり、分野別の街づくり)、都市計画による街づくり(3章 都市計画の決定等の提案に関する手続等、都市計画の案の作成及び決定等の手続、地区計画等の案の作成手続)、協調による街づくり(4章 大規模土地取引行為の届出等、開発事業基準の制定、開発事業の手続、大規模開発事業の手続、勧告、公表等)、街づくり審査会(5章)等を規定している。罰則規定は置いていない。
本条例については、東大和市HP「東大和市街づくり条例」を参照されたい。
〇 綾部市条例は、平成28年に制定された。本条例の制定と同時に「綾部市地区計画等の案の作成手続に関する条例」(平成6年)が廃止されている。
全6章61条から構成され、まちづくり計画等(2章 まちづくり計画、地区まちづくり協議会の認定、地区まちづくり計画の認定等、地区計画等の決定等に関する手続、建築協定、まちづくりの推進及び支援等)、開発事業等に関する手続(3章 開発基本計画の届出、標識の設置、住民等への説明、意見書の提出等、開発協議、開発協定、工事協定、建築確認申請等に係る届出、開発協議の基準)、開発事業における紛争の解決(4章 あっせん、調停、紛争調整委員会等)、補則(5章 状況報告、立入検査、勧告、是正命令、公表等)、罰則(6章 命令違反に対する罰金)等を規定している。
本条例については、綾部市HP「綾部市まちづくり条例による開発協議の手引き」を参照されたい。
〇 国立市条例は、平成28年に制定された。
全7章61条から構成され、市民参加によるまちづくりの推進(2章 地区まちづくり計画、地区まちづくり協議会の認定、計画素案の提案・公表、地区まちづくり計画(案の作成・縦覧、決定等))開発事業の手続(3章 開発事業の基本原則、大規模土地取引行為に関する手続、大規模開発事業に関する手続(届出、標識の設置、近隣住民への説明、指導等)、開発事業に関する手続(事前協議、標識の設置、近隣住民への説明、指導、承認申請書の提出、承認、協定の締結等))、事前調整制度(4章 大規模開発事業における事前調整制度、開発事業における事前調整制度、調整会等)、開発事業の基準(5章 都市計画法に基づく基準、市の承認基準等)、まちづくり審議会(6章)、補則(7章 勧告、公表等)等を規定している。罰則規定は置いていない。
本条例については、国立市HP「国立市まちづくり条例について」を参照されたい。
〇 海老名市条例は、平成30年に制定された。
全6章89条から構成され、 市民によるまちづくり(2章 まちづくり重点計画(まちづくり重点地区推進協議会、案の作成、認定等)、まちづくり市民活動計画(市民活動グループ、案の作成、認定等)、提案型地区計画制度(地区計画等の素案、素案、市の原案等)、都市計画の決定又は変更の提案制度、まちづくりに対する支援等)、市の発意によるまちづくり(3章 まちづくり重点地区の決定、市のまちづくり重点計画の策定等)、地域へ配慮するまちづくり(4章 開発事業に伴う地区計画及び建築協定、大規模土地取引行為の届出・協議等、特定開発事業構想届、特定開発事業と大規模開発事業の開発基本計画書の手続等、通常の開発事業の開発基本計画書の手続等、開発事業事前協議書の手続等、開発事業の基準、都市計画法に定める開発許可の基準、公共施設等の整備促進に関する基準等)、雑則(5章 勧告、是正命令、立入検査、公表等)、罰則(6章 命令違反に対する過料)等を規定している。「海老名市地区計画等の案の作成手続に関する条例」(昭和61年)は、引き続き施行している。
本条例については、海老名市HP「海老名市住みよいまちづくり条例について」を参照されたい。
(都道府県による土地利用規制条例)
〇 都道府県による土地利用規制条例について、具体例をいくつか紹介する。都道府県の自主条例で、土地利用規制に特化した条例は必ずしも多くなく、その代表例は以下のような条例である。
なお、自然環境保全条例等において特定の開発行為を規制する条例は多い(例えば、「北海道自然環境等保全条例」(昭和48年)、「東京における自然の保護と回復に関する条例」(平成12年)、香川県「みどり豊かでうるおいのある県土づくり条例」(平成14年)等」)。
千葉県 | 宅地開発事業の基準に関する条例 | 昭和44年10月15日公布 | 昭和45年1月1日施行 |
三重県 | 三重県宅地開発事業の基準に関する条例 | 昭和47年10月6日公布 | 昭和48年2月1日施行 |
岡山県 | 昭和48年3月27日公布 | 昭和48年5月1日施行 | |
山梨県 | 山梨県ゴルフ場等造成事業の適正化に関する条例 | 昭和48年7月9日公布 | 昭和48年8月15日施行 |
群馬県 | 昭和48年7月10日公布 | 昭和48年9月10日公布 | |
沖縄県 | 沖縄県県土保全条例 | 昭和48年7月23日公布 | 昭和48年10月1日施行 |
兵庫県 | 平成6年3月29日公布 | 平成7年3月28日施行 | |
神奈川県 | 平成8年3月29日公布 | 平成8年10月1日公布 | |
高知県 | 平成13年12月25日公布 | 平成14年4月1日公布 |
〇 千葉県条例及び三重県条例は、いずれも「宅地開発事業の基準に関する条例」であり、千葉県条例は昭和44年に、三重県条例は昭和47年に制定されている。
都市計画区域及び準都市計画区域以外の区域における、都市計画法に基づく開発許可の対象とならない一定規模の開発行為について、条例で定める基準の適合と知事の確認を義務づけている。千葉県条例は5000㎡以上(区域により3000㎡以上又は1000㎡以上)1ha未満を、三重県条例は3000㎡以上1ha未満を対象にしている。両条例ともに、罰則規定を置いている。
千葉県条例については千葉県HP「開発行為等の規制」を、三重県条例については三重県HP「開発手続等一覧」及び「宅地開発条例」を参照されたい。
〇 岡山県条例、群馬県及び沖縄県条例は、いずれも昭和48年に制定されており、一定規模以上の開発行為に対する事前協議制及び許可(承認)制を定めている。
岡山県条例は、10ha以上の開発行為をする事業者は、土地売買等の契約の締結前に知事と協議しなければならず、知事は、市町村長に対して事業主との間で開発協定を締結することを要請しなければならない(4条)とするとともに、1ha以上の開発行為をする事業者は、知事の許可を受けなければならない(5条)としている。
群馬県条例は、5ha以上の開発行為をする事業者は、土地売買等の契約の締結前に知事と協議しなければならず(7条)、知事は審査し、異議の有無を通知するものとする(10条)とともに、5ha以上の開発行為をする事業者は、知事の承認を受けなければならない(14条)としている。
沖縄県条例は、3ha以上の開発行為をする事業者は、土地売買等の契約の締結前に知事と協議し、同意を得なければならず(4条)、知事は、事業者村に対して市町村長との間で開発協定を締結することを要請することができる(5条)とするとともに、3000㎡以上の開発行為をする事業者は、知事の許可を受けなければならない(6条)としている。
これらの条例はいずれも、罰則規定を置いている。
岡山県条例については岡山県HP「岡山県県土保全条例」を、群馬県条例については群馬県HP「大規模土地開発事業に係る規制等について」を、沖縄県条例については沖縄県HP「沖縄県県土保全条例に基づく開発許可等について」をそれぞれ参照されたい。
〇 山梨県条例も、岡山県条例、群馬県及び沖縄県条例とともに、昭和48年に制定されている。5ha以上のゴルフ場等の造成について、知事と事前協議をし、同意を得なければならない(4条)としている。罰則規定を置いている。
〇 兵庫県条例は、「バブル経済当時のゴルフ場開発やリゾート開発等が土地利用の問題として顕在化したことを背景に」(内海論文②234頁)、平成6年に制定されている。
「都市計画法により市街化区域と市街化調整区域とに区分された線引き都市計画区域以外の地域において、適切な土地利用の推進、森林・緑地の保全、緑化の推進、優れた景観の形成の観点から開発行為を適正に誘導することにより、緑豊かな地域環境の形成を図ろうとするもの」であり、「施行地域では、1000平方メートル以上(一部の区域は500平方メートル以上)の規模の開発行為を行おうとする場合は、市町や県との協議・協定、届出等の手続が必要」である(兵庫県HP「緑豊かな地域環境の形成に関する条例(緑条例)」)としている。
緑豊かな環境形成地域(2章 指定、地域環境形成基本方針)、環境形成区域(地域の区分、環境形成区域の案の作成、公聴会の開催等、環境形成区域の指定、地域環境形成基準等)、開発行為の許可(許可、許可基準等)、開発行為の協定(5章 協議、環境形成協定の締結)、開発行為の届出(6章)、計画整備地区(7章 市町による地区整備計画の作成・認定申請、認定、認定の基準等)、雑則(8章 土地等の買取りの希望の申出、勧告、命令、支援、立入検査等)、罰則(9章)等を規定している。
本条例については、兵庫県HP「緑豊かな地域環境の形成に関する条例(緑条例)」を参照されたい。
〇 神奈川県条例は、平成8年に制定されている。それまでは各種の指導基準を定め、市街化調整区域などにおける開発は抑制するという方針をとるとともに、開発や埋立を行う場合には、法令に基づく許認可の前に土地利用に関する調整を行ってきたが、平成7年の行政手続条例の制定等伴い、これまでの土地利用調整の手続について必要な見直しを行い、条例上に根拠づけた(神奈川県資料「限りある県土を大切にー神奈川県土地利用調整条例のあらまし」及び礒崎初仁「神奈川県土地利用調整条例の制定と運用ー行政指導の『法制度化』は何をもたらしたかー」(法学新報123巻7号 平成29年)623頁以下」参照)。
事業者が市街化調整区域などにおける1ha以上(一部、3000㎡以上)の開発行為等を行う場合、法令に基づく許認可の前に県知事と協議を行い、知事は審査指針に基づき審査する等の調整手続を定めている。
開発計画の調整に関する手続き等(2章 開発計画の協議、関係者への周知、開発計画の審査、審査指針の作成、行為着手等の制限等)、雑則(3章 国土利用計画審議会、命令、公表、立入検査、許可等への配慮、市町村条例との関係等)、罰則(4章 罰則)等を規定している。
本条例については、神奈川県HP「神奈川県土地利用調整条例」を参照されたい。
〇 高知県条例は、平成13年に制定されている。「当時地域で問題となった採石場の開発と指導行政の課題を契機に、土地基本法にある土地についての『公共の福祉優先』(土地基本法2条)を地域の内実を踏まえて基本理念に掲げ制定された。」(内海論文③108頁)とされる。
土地に関する基本理念を定めるほか、10ha以上(ゴルフ場建設に係るものは5ha以上)の開発事業について、事業者に対して、個別法に基づく許認可等申請手続きに先立ち、知事への開発計画書の提出、地域住民等への説明、知事との事前協議等を義務付けている。また、県は開発計画について関係市町村に意見を求め、これを尊重するものとしている。
総則(1章 基本理念等)、基本的施策(2章)、開発計画の調整に関する手続等(3章 開発計画の提出・周知、関係市町村長の意見の聴取・尊重、開発計画の協議、協議後開発計画の届出、関係市町村長の意見の聴取、協議後開発計画に係る命令、開発協定の締結、開発行為の着手の制限等)、雑則(4章 開発行為の停止等の命令、報告等・立入検査、勧告・公表、市町村条例との関係、損失補償等)、罰則(5章)等を規定している。
本条例については、高知県HP「土地基本条例」を参照されたい。