性犯罪・性暴力対策条例、子どもを犯罪から守る条例

(令和6年4月9日更新)

【性犯罪・性暴力対策条例―18歳未満の子どもに性犯罪を犯した元受刑者に対する住所等の届出義務制度を規定する条例―】

(大阪府、福岡県及び茨城県の条例)

〇 18歳未満の子どもに性犯罪を犯した元受刑者に対し、刑期を終えてから5年以内は、自治体に対して住所、生年月日、連絡先、罪名等を届出することを義務づける条例がある。次の3条例である。

大阪府

大阪府子どもを性犯罪から守る条例

大阪府子どもを性犯罪から守る条例の一部を改正する条例

平成24年3月28日公布

令和6年3月27日改正公布

平成24年10月1日施行

令和6年3月27日改正施行

福岡県

福岡県における性暴力を根絶し、性被害から県民等を守るための条例

平成31年3月1日公布

令和6年3月29日改正公布

平成31年03月01日施行

令和6年3月29日改正施行

茨城県

茨城県性暴力の根絶を目指す条例

令和4年11月21日公布

令和5年4月1日施行

〇 大阪府条例は子どもを性犯罪から守ることを目的とし、福岡県条例及び茨城県条例は子どもに限らずすべての者への性暴力(性犯罪に加えて、配偶者等暴力、セクシャル・ハラスメント等を含む)を根絶し、被害者を支援することを目的としているが、いずれの条例も、18歳未満の子どもに対して一定の性犯罪を犯した元受刑者を対象として住所等の届出を義務づけている。

〇 元受刑者に対する住所等の届出義務制度の具体的な内容(大阪府条例12条、福岡県条例17条、茨城県条例8条)は、以下の通りである。

 制度の対象となる性犯罪は、強制わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(刑法177条)、監護者わいせつ及び監護者性交等罪(刑法179条)、これらの罪の未遂罪(刑法180条)、不同意わいせつ等致死傷罪(刑法181条)、営利目的等略取及び誘拐罪並びに同罪の未遂罪(わいせつ目的に限る。刑法225条、228条)、強盗・強制性交等及び同致死罪並びに同罪の未遂罪(241条1項、3項、243条)、常習強盗・強制性交等罪(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律4条)、児童ポルノ製造罪(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項)である(なお、以上に加えて、大阪府条例は令和6年3月改正施行により十六歳未満の者に対する面会罪(刑法182条2項)、性的姿態等撮影罪の一部(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項2号~4号)をも対象にし、福岡県条例は児童淫行罪(児童福祉法60条1項)をも対象にし、さらに 令和6年3月改正施行により十六歳未満の者に対する面会要求等罪(刑法182条)、性的姿態等撮影罪等(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条~6条)、卑わいな行為・盗撮行為等(福岡県迷惑行為防止条例6条)及びいん行・わいせつな行為等(福岡県青少年健全育成条例31条、31条の2)をも対象にしている。また、茨城県条例は児童淫行罪(児童福祉法60条1項)及び卑わいな行為禁止罪(茨城県迷惑行為防止条例2条、9条)をも対象としている)。

 これらの性犯罪を犯し刑期の満了の日から5年を経過しない者は、当該府県に住所を定めた場合には、14日以内に、氏名、住所、性別、生年月日、連絡先、届出に係る罪名及び刑期の満了した日を届け出なければならない。また、届出事項に変更を生した場合及び当該府県外に住所を定める場合も届け出なければならない。

 届出をした者に対して、知事は、社会復帰等の支援を行う(大阪府条例13条、福岡県条例18条、茨城県条例8条4項)。

 大阪府条例及び福岡県条例は、届出をせず、又は虚偽の届出をした者には5万円以下の過料を科す(大阪府条例18条、福岡県条例22条)としているが、茨城県条例は罰則規定は置いていない。

 なお、届出により取得した情報は、再犯防止や社会復帰支援の目的以外に使用してはならない(福岡県条例17条4項、茨城県条例8条2項、同旨大阪府条例15条)。

〇 こうした届出制度を最初に規定したのは、大阪府である。大阪府は、条例制定を検討するにあたり、子どもが性犯罪の被害に遭わないための対策の検討を大阪府青少年健全育成審議会に依頼し、同審議会は、平成23年12月に「「子どもを守る」性犯罪対策について(報告書)」を取りまとめた。

 同報告書は、「諸外国の対応を見ると、日本は性犯罪者の処遇や対策、性犯罪及び再犯等の実情把握などにおいて、大きく立ち遅れて」いる(6頁)とし、「子どもを守るための性犯罪対策として、国の動きを待つのではなく、大阪府として『社会全体で次世代を担う子どもを守るという』観点から、条例化すべき事項について検討を行った。」(7頁)としたうえで、「性犯罪刑期終了者に対する対応としては、何らかの相談の仕組みが必要であり、大阪府として刑期終了者をサポートする仕組みを構築するべきと考える。」、「社会復帰支援の取組みを導入するためには、対象者と連絡をとることのできる環境を整える必要があり、居住地等を届けてもらう必要がある(届出義務化の制度創設)。」(12頁)としている。また、対象性犯罪の対象年齢については、「子どもを守るという視点から、児童福祉法、大阪府青少年健全育成条例等を参考に18歳未満とすべきと考える。」(12頁)としている。

〇 大阪府条例は知事提案により、福岡県条例及び茨城県条例は議員提案により制定されている。 

 大阪府条例は、元受刑者に対する住所等の届出義務制度のほか、子どもを性犯罪から守るための府、事業者及び府民の責務(3条~5条)、啓発活動等(7条)等を規定し、併せて13歳未満の子どもに対して不安を与える行為(8条)及び威迫する行為等(9条)を禁止し、違反した者には30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料を科す(8条の違反行為に関しては常習者に限る 17条)としている。大阪府条例の内容、制定経緯、運用状況等については、大阪府HP「子どもを性犯罪から守る条例」を参照されたい。

 福岡県条例は、元受刑者に対する住所等の届出義務制度のほか、性暴力を根絶し、被害者を支援するための基本理念(3条)、基本方針及び配慮事項(4条)、県、県民、事業者及び市町村の責務(5条~8条)、行動規範(9条)、率先垂範(10条)、教育活動、研修及び広報・啓発(11条~13条)、総合窓口の設置、相談等(14条、15条)、加害者等からの相談等(19条)、医療機関の取組(20条)、被害者支援に関する特則(21条)等を規定している。福岡県条例の内容等については福岡県議会HP「「福岡県における性暴力を根絶し、性被害から県民等を守るための条例」が制定されました」、福岡県の性暴力対策の取組みについては福岡県HP「性暴力対策」を参照されたい。

 なお、福岡県条例は令和6年3月に改正され、盗撮行為、わいせつ行為等も性犯罪に含め(改正後2条1項6号、7号)、被害者が同意していない性的行為も性暴力であることを明記する(改正後2条2項4号)とともに、学校、スポーツ施設、公共交通機関等での性的な意図による盗撮による性被害を防止するため、施設等の管理、運営等に関わる者は広報、啓発等の措置を講ずる必要がある(改正後4条2項5号)としている。条例改正の内容等については、福岡県議会HP「令和6年3月22日「福岡県における性暴力を根絶し、性被害から県民等を守るための条例」が改正されました」を参照されたい。

 茨城県条例は、元受刑者に対する住所等の届出義務制度のほか、性暴力を根絶し、被害者の心身に受けた影響からの回復を支援するための基本理念(3条)、県の責務・役割(4条)、総合的な相談体制の整備等(5条)、被害者の支援(6条)、再発防止・社会復帰の支援(7条)、理解促進・広報啓発等(9条)、人材の育成(10条)、県民、市町村、医療機関及び事業者の役割(11条~14条)、デジタル性暴力の根絶(15条)、総合的な教育の推進等(16条)等を規定している。

 なお、茨城県条例の原案は茨城県議会自民党が作成している。当初の案では、元受刑者が住所等の届出をせず、又は虚偽の届出をした場合には、大阪府条例や福岡県条例と同様に過料を科すこととしていたが、意見募集結果を踏まえて、「届出制度は監視を目的としたものではなく、あくまで届出者の更生支援の目的のため、本人か ら情報の提供を求めるものです。御指摘の罰則をもって届出を強制することに対する懸念等を踏まえ、過料の規定を削除いたします。」(自民党茨城県連HP「「(仮称)茨城県性暴力根絶条例(案)」についての意見募集結果」)として、過料の規定は削除している。なお、茨城県弁護士会は、元受刑者に対する住所等の届出義務制度について、「前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する(最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決、同平成6年2月8日第三小法廷判決)」として、反対意見を表明している(茨城県弁護士会「「茨城県性暴力根絶条例」案に関する会長談話」(令和4年8月18日)及び「「茨城県性暴力根絶条例」修正案に関する会長談話」(令和4年11月2日))。

(政府の対応)

〇 平成16年奈良県において小学生女児誘拐殺人事件が発生したが、その犯人が幼児に対する性的犯罪の前歴を有することが判明したことから、子どもを対象とする性犯罪者が出所した場合に、その情報が法務当局と警察との間で共有されていないことに対する強い批判が警察等に対して寄せられたことなどを踏まえ、警察は、平成17年から、13歳未満の子供に対して強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役し出所した者について、法務省から情報提供を受け、各都道府県警察において、出所後の所在確認及び継続的な所在確認を行うこととし、さらに、平成23年4月からは、必要に応じて、対象者の同意を得た上で、面接及び面談を行い、助言指導、相談等支援も併せて行っている(上記大阪府青少年健全育成審議会報告書5頁以下、横山潔「性犯罪前歴者に対する性犯罪の再犯防止に向けた取組み–我が国とイギリスの対応」(八洲学園大学紀要第6号(平成22年)51頁以下)、平成29年7月13日付警察庁生活安全局長・刑事局長通達「子供対象・暴力的性犯罪の出所者による再犯防止に向けた措置の実施について」参照)。

 法務省は、平成18年から法務省が所管している全国の刑事施設及び全国の保護観察所で性犯罪者処遇プログラムを実施し、また、令和4年から性犯罪再犯防止プログラムを実施している(上記大阪府青少年健全育成審議会報告書4頁以下、法務省HP「性犯罪者処遇プログラム検討会報告書」(令和2年10月)、法務省HP「保護観察所における性犯罪再犯防止プログラムについて」参照)。

 政府は、令和2年6月11日に「性犯罪・性暴力対策強化の方針」(性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議)を取りまとめた。「性犯罪・性暴力の根絶は、待ったなしの課題である。その根絶に向けて、誰もが、性犯罪・性暴力の加害者にも、被害者にも、傍観者にもならないよう、社会全体でこの問題に取り組む必要があることを自覚し、令和2年度から4年度までの3年間を、性犯罪・性暴力対策の『集中強化期間』として、刑事法の在り方の検討はもとより、被害者支援の充実、加害者対策、教育・啓発の強化等の実効性ある取組を速やかに進めていく。」(1頁)としてとしている。出所者情報については、「刑事施設において、地方公共団体の求めに応じて、子供を被害者とする性犯罪者に対する再犯防止施策を行うために必要な情報の提供を行っている事例があることを踏まえつつ、必要な体制ができた地方公共団体に対しては、出所者に関する情報を含め、必要な情報提供ができることを、法務省から地方公共団体に明示する」(3頁)とし、これを受けて、令和3年3月に法務省から地方公共団体に対して執務参考資料として「地方公共団体における再犯防止等施策に必要な情報の提供について」が示されている。

 令和3年6月に議員立法で「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(令和3年6月4日公布・令和5年4月1日施行)が制定された。児童生徒性暴力等の禁止、基本理念、国、地方公共団体、任命権者等、学校の設置者、学校及び教育職員等の責務、児童生徒性暴力等を理由として教員免許状が失効した者のデータベースの整備、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止・早期発見・対処に関する措置等が規定されている。同法の内容等については、文部科学省HP「児童生徒等に対し性暴力等を行った教員への厳正な対応について」を参照されたい。

 さらに、政府は、令和5年3月30日に「性犯罪・性暴力対策の更なる強化の方針」(性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議決定)を取りまとめ、日本版DBSの導入に向けた検討として 「教育・保育施設等やこどもが活動する場(放課後児童クラブ、学習塾、スポーツクラブ、部活動など)等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入に向けた検討を加速し、こどもを性暴力等から守る環境整備を進める。」(5頁)とし、令和5年7月26日に「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」(性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議・こどもの性的搾取等に係る対策に関する関係府省連絡会議)を取りまとめ、日本版DBSの導入に向けた検討の加速として「教育・保育施設等やこどもが活動する場等において働く際に性犯罪歴等について証明を求める仕組み(いわゆる日本版DBS)の導入に向け、「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」を開催しながら、早期の法案提出を目指して検討を加速する。(こども家庭庁)」とした。政府における性犯罪・性暴力対策の取組みについては、内閣府男女共同参画局HP「性犯罪・性暴力対策」を参照されたい。

 こども家庭庁に設置された「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」は、令和5年9月12日に「「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」報告書」を取りまとめている。これを踏まえ、せいふぃは、令和6年通常国会に、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案」(概要法律案)を提出している。

(長野県の条例)

〇 なお、上記3条例のほか、子どもを性被害から守ることを目的とする条例がある。

長野県

長野県子どもを性被害から守るための条例

平成28年7月7日公布

平成28年7月7日施行

一部平成28年11月1日施行

 である。

 この長野県条例は、18歳未満の子どもに対する威迫等による性行為・わいせつ行為を禁止する(17条)とともに、深夜外出の制限について定めている(18条)が、元受刑者に対する住所等の届出義務制度は規定していない。

 18歳未満の者に対する性行為・わいせつ行為の禁止や深夜外出の制限は、他の都道府県ではいわゆる青少年保護育成条例で規定している。長野県は、都道府県において唯一青少年保護育成条例を制定していない(「青少年保護育成条例」参照)。

 長野県条例の内容等については、長野県HP「長野県子どもを性被害から守るための条例について」を参照されたい。

 

【子どもを犯罪から守る条例―13歳未満の子どもに対し不安を与え又は威迫する行為を禁止する条例―】

〇 大阪府条例は、13歳未満の子どもに対する不安を与える行為(8条)及び威迫する行為等(9条)を禁止し、違反行為に対して罰則規定を置いているが、同様の規定を置いているのは、大阪府条例も含めて、以下の4条例である。

 4条例ともに、知事提案により制定されている。

 奈良県、大阪府、栃木県、宮城県は、それぞれ青少年保護育成条例を制定し、18歳未満の青少年に対するみだらな性行為やわいせつ行為等を禁止し、違反行為に対して罰則規定を置いている(奈良県青少年の健全育成に関する条例34条等、大阪府青少年健全育成条例39条等、栃木県青少年健全育成条例42条等、宮城県青少年健全育成条例31条等)。4条例は、これらの条例とは別個に制定されている。青少年保護育成条例については「青少年保護育成条例」を参照されたい。

奈良県

子どもを犯罪の被害から守る条例

平成17年7月1日公布

平成17年7月1日施行

一部平成17年10月1日施行

大阪府

大阪府子どもを性犯罪から守る条例

平成24年3月28日公布

平成24年10月1日施行

栃木県

栃木県子どもを犯罪の被害から守る条例

平成25年3月25日公布

平成25年7月1日施行

宮城県

子どもを犯罪の被害から守る条例

平成27年7月10日公布

平成28年1月1日施行

〇 最初に制定されたのは、奈良県条例である。

 奈良県は、「本県でも、平成16年11月17日に奈良市内で帰宅途中の小学1年生の女子児童が誘拐され、殺害されるという悲惨な事件が発生するなど、子供を取り巻く治安情勢は非常に深刻な状況にあります。また、学校周辺や通学路等における児童の安全確保が重要視され、保護者、地域住民や学校関係者と警察官が連携した登下校時の『見守り活動』や、パトロール等のさまざまな防犯対策が、各地で、従来にも増して積極的に行われています。しかしながら、子供が気に入るようなことを言って誘い込もうとしたり、嘘を言って近づいたりするなど『子供に不安を与える事案』は、依然として多発しており、いつ、次の凶悪犯罪が発生するともしれません。そこで、子供の安全を確保するための手立ての一つとして、この条例を制定しました。」(奈良県警察HP「子どもを犯罪の被害から守る条例」)としている。

 13歳未満の子どもを犯罪の被害から守ることを目的とし、県、県民及び事業者の責務(4条~6条)、推進体制の整備等(7条)、助言その他の必要な支援(8条)、学校、通学路等における安全の確保(9条、10条)を規定したうえで、公共の場所や公共の乗り物において保護監督者が直ちに危害を排除できない状態にある13歳未満の子どもに対して、正当な理由なく、子どもに不安を与える行為(甘言を用いて惑わし、又は虚言を用いて欺くこと 11条)及び子どもを威迫する行為(言いがかりをつけ、すごみ、又は卑わいな事項を告げること、身体又は衣服等を捕らえ、道路に立ちふさがり、又はつきまとうこと 12条)を禁止し、違反行為を発見した者に警察官等に通報する努力義務を課し(13条)、「子どもを威迫する行為」の禁止(12条)に違反した者に30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料を科す(14条)としている。

 奈良県は、「子どもを威迫する行為」を禁止する(12条)こととしたのは、「子どもを狙った『略取および誘拐』、『強制わいせつ』、『強姦』、『逮捕および監禁』などの重要凶悪犯罪の多くが、これらの行為をきっかけとして行われていることから」であるとし、また、「子どもに不安を与える行為」の禁止の規定(11条)によって、「日常行われている子どもに対する挨拶や見守り活動における声かけなどと、犯罪のきっかけとして行われる行為が明確に区別されること」となる(奈良県警察HP「子どもを犯罪の被害から守る条例」)としている。

 なお、奈良県条例は、制定当時、児童ポルノの単純所持を禁止し、違反した者に罰則を科していたが、平成26年6月に「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」が改正され「自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等」について罰則規定が設けられたため、平成27年7月15日改正施行のより、当該規定は削除されている(奈良県警察HP「子供の安全対策」参照)。

〇 奈良県条例に続いて、同旨の規定を置いたのは、大阪府条例である。大阪府条例は、13歳未満の子どもを対象に、子どもに不安を与える行為(8条)及び子どもを威迫する行為等(9条)を禁止し、奈良県条例と同様に「子どもを威迫する行為等」の禁止(9条)に違反した者に罰則を科している(17条2号)が、常習として「子どもに不安を与える行為」の禁止(10条)に違反した者についても罰則を科している(17条1号)。このことに関し、上記大阪府青少年健全育成審議会報告書は「奈良県では、声かけ違反者に対して罰則規定はないが、条例制定から約6年を経過した現在においては、常習的に声かけを行う者に対する対応について、懸念があるとの報告がある。 通常、常習者は行為の確認の都度、警察から指導や警告の措置を受けており、条例に反する行為であるとの認識のもと行為を繰り返していることから、子どもに対する危険性はより高く、処罰の対象とすべきであると考える。」(9頁)としている。なお、同報告書は、こうした規定が13歳未満の子どもを対象としていることについて、「本来、一定の年齢をもって一線を画することは困難であるが、13歳未満の子どもは、一般的に判断能力が未熟であり、身体的にも発達途上であることから、自ら危険を回避する防衛能力も低いと考えられ、犯罪の被害に遭いやすいと考えられる。地域社会においても、小学生の登下校を中心とした地域住民による子どもの安全見守り活動をはじめとする防犯活動が盛んに行われている状況なども踏まえると、保護年齢を13歳未満とすることが妥当であると考える。」(8頁、9頁)としている。

 栃木県条例も、13歳未満の子どもを対象に、子どもに不安を与える行為(6条)及び子どもを威迫する行為(7条)を禁止し、奈良県条例と同様に、「子どもを威迫する行為」の禁止(7条)に違反した者に対して罰則(30万円以下の罰金)を科している(10条)。なお、栃木県条例も制定当時児童ポルノの所持に関する規定を置いていたが、平成26年10月15日改正施行により、当該規定は削除されている(栃木県警察HP「「栃木県子どもを犯罪の被害から守る条例」について」参照)。

 宮城県条例は、13歳未満の子どもを対象に、「子どもの生命又は身体に危害を及ぼす犯罪に発展するおそれのある行為」として、甘言又は虚言を用いて惑わし、又は欺くような言動をすることにより、人目につかない場所又は人気のない場所へ誘い出し、又は誘い込もうとすること(7条1号)、義務のない行為を行うことを要求すること(同条2号)、言い掛かりをつけ、又はすごむこと(同条3号)、身体、衣服、所持品等をつかみ、進路に立ちふさがり、又はつきまとうこと(同条4号)を禁止している。罰則(30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)の対象は、他の条例の「子どもを威迫する行為」に相当する7条3号及び4号の行為の禁止に違反した者に限定している(9条)。宮城県条例の内容等については、宮城県HP「子どもを犯罪の被害から守りましょう」を参照されたい。



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