男女共同参画条例・ジェンダー平等条例

(令和6年1月19日更新)

【はじめにー条例の制定状況】

〇 本稿では、「男女共同参画に関する条例」を取り上げる。男女共同参画の推進に関して、基本理念、自治体や住民等の責務、基本的な施策等について規定する条例である。

〇 内閣府男女共同参画局「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況」(以下、「内閣府調査」という。)によると、「男女共同参画に関する条例」は、令和5年4月1日時点では、46都道府県、691市区町村で制定されている(内閣府男女共同参画局「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況(令和5年度)」集計表2-1及び2-2)参照)。

〇 内閣府調査では、平成13年度以降、毎年度「男女共同参画に関する条例」の制定状況を調査し、公表しているが、この資料を基に、各年(平成12年から令和4年)4月1日時点での都道府県、市区町村毎の条例数を図表にすると、以下のとおりとなる。

〇 都道府県では、平成12年3月に埼玉県及び東京都、さらに平成12年度中に山口県、三重県、鳥取県、富山県、茨城県及び北海道で制定され、その後、平成16年3月に群馬県及び京都府で制定されるまで、約4年間で46都道府県において制定されている。

 条例を制定していない千葉県は、平成14年9月議会に知事により条例案が議会に提案され、9月議会、12月議会、平成15年2月議会で継続審議となり、その後議員の任期満了により廃案となった(日高昭夫「男女共同参画条例の制定動向(1)ー 自治体政策の波及パターンの分析」(山梨学院大学法学論集51巻(平成16年2月))282頁、283頁)。その後、条例は制定されていない。なお、千葉県は、令和5年12月に「千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例」(令和5年12月26日公布・令和6年1月1日施行)を制定したが、同条例は「男女のいずれもが、性別を理由とする不利益を受けることなく、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画し、共に活躍している社会」(2条2号)の実現を目指すことを基本理念と一つとしている。

 条例名は、46の都道府県のうち、37団体は「男女共同参画推進条例」とするなど合計43団体が「男女共同参画」との用語を使用し、他方、東京都、北海道及び新潟県は「男女平等参画」や「男女平等」との用語を使用(なお、福島県及び岐阜県は、「男女共同参画」と「平等」の両方の用語を使用)している。

〇 指定都市では、平成13年3月に横浜市が制定して以来、平成20年12月の熊本市までで、すべての団体で制定されている。条例名は、20の指定都市のうち、17団体が「男女共同参画」との用語を使用し、川崎市、名古屋市及び堺市が「男女平等参画」や「男女平等」との用語を使用している。

〇 令和5年4月1日時点での46都道府県及び20指定都市の条例名、公布・施行日及び改正日については、次の表(内閣府調査(令和5年度)集計表2-1)のとおりである(なお、横浜市条例の公布日は2001年3月28日(平成13年3月28日)の誤りである)。

〇 市区町村(指定都市を含む)では、平成12年3月に山梨県都留市、長野県塩尻市及び島根県出雲市、さらに平成12年度中に、埼玉県新座市、石川県小松市、山梨県身延町、北海道様似町、、宮城県岩出山町、岡山県倉敷市、島根県江津市、茨城県水戸市、石川県羽咋市、横浜市及び長野県茅野市で制定されている(日高論文261頁、なお、出雲市、身延町及び岩出山町の条例は、その後市町村合併により失効し、それぞれ合併後の出雲市、身延町及び大崎市で新たな条例が制定されている)。平成13年度以降も全国の市区町村で制定が進み、平成20年4月1日時点では397団体が、平成25年4日1日時点では546団体が、平成30年4月1日時点では645団体が制定している。令和5年4月1日時点では691団体が制定している。

 都道府県毎の制定状況を見ると、令和5年4月1日時点で、石川県、鳥取県、岡山県及び大分県は全団体が制定しているのに対して、青森県(40団体中2団体)、山形県(35団体中3団体)及び群馬県(35団体中3団体)は1ケタ%代の制定率となっている。

 条例名は、都道府県と同様に、ほとんどの団体で、「男女共同参画」との用語を使用している。「男女平等参画」や「男女平等」との用語を使用しているのは30強の団体(茨城県水戸市、東京都中野区等)であり、また、「男女が共に輝く21世紀のまちづくり条例」(石川県羽咋市)、「男女が共に生きる社会づくり推進条例」(熊本県荒尾市)等とするものもある。

〇 令和5年4月1日時点での全国市区町村(指定都市を含む)の条例制定団体名、都道府県毎の制定団体数等については、次の表(内閣府調査(令和5年度)集計表2-2)のとおりである。なお、日高論文261頁以下は、平成15年8月5日現在での全国の市区町村条例の条例名、公布日・施行日等について一覧表にして掲載している。

 

【男女共同参画社会基本法及びその他関連法】

〇 平成11年6月に、「男女共同参画社会基本法」が制定(平成11年6月23日公布・施行、以下「基本法」という。)された。

 「男女共同参画社会の形成」を「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成すること」(2条1号)と定義づけたうえで、「男女共同参画社会の形成を総合的かつ計画的に推進すること」(1条)を目的としている。

 基本理念として①男女の人権の尊重、②社会における制度又は慣行についての配慮、③政策等の立案及び決定への共同参画、④家庭生活における活動と他の活動の両立、⑤国際的協調の5項目を定める(3条~7条)とともに、国、地方公共団体及び国民の責務(8条~10条)、法制上、財政上の措置等(11条)、年次報告等(12条)、男女共同参画基本計画の策定(国 13条)、男女共同参画計画の策定(都道府県は義務、市町村は努力義務 14条)、積極的改善措置を含む基本的施策(施策の策定等に当たっての配慮、国民の理解を深めるための措置、苦情の処理等、調査研究、国際的協調のための措置、地方公共団体及び民間の団体に対する支援 15条~20条)、男女共同参画会議(21条~28条)を規定している。

 地方公共団体の責務として、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成の促進に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(9条)と規定している。

 基本法の内容、制定経緯等については、内閣府男女共同参画局HP「法律」を参照されたい。

〇 男女共同参画に関連する法律としては、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(昭和47年7月1日公布・施行)、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(平成13年4月13日公布、平成13年10月13日施行)、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年9月4日公布・施行)、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」(平成30年5月23日公布・施行)等がある。

〇 政府における男女共同参画に関する取組み等については、内閣府男女共同参画局HP「男女共同参画とは」、「主な政策」等を参照されたい。

 

【条例の内容ーまず、埼玉県、東京都、都留市及び塩尻市の条例】

〇 「男女共同参画に関する条例」は、いずれの条例も、平成11年6月の基本法の制定の後に、制定されている。そうした中で、全国に先駆けて、平成12年3月に、「埼玉県男女共同参画推進条例」、「東京都男女共同参画条例」、「都留市男女共同参画基本条例」、「塩尻市男女共同参画基本条例及び「男女共同参画による出雲市まちづくり条例」が制定された。

〇 まず、市町村合併により失効した出雲市条例(合併後の出雲市は、平成17年に「出雲市男女共同参画のまちづくり条例」を制定)を除く埼玉県、東京都、都留市及び塩尻市の4条例について、その内容を見てみる。

〇 4条例ともに、基本法の内容や構成等を参考にして制定されていると言え、基本的な考え方や項目等については、基本法と共通する部分が多い。

 基本法で規定されている、基本理念(基本法の5項目をベース)、自治体及び住民の責務、計画の策定、基本的施策として広報、調査研究、支援等並びに審議会の設置等に関しては、4条例ともに規定している。

〇 他方、これらの条例は、あくまでも自主条例であり、住民、関係団体、議会等の意見を聞きながら、各自治体の独自の判断により、様々な工夫をこらして、その内容が定められている。特に、埼玉県及び東京都は、国が基本法の制定の検討を始める前から条例制定の検討を進めていた(橋本ヒロ子「男女平等条例制定の状況とその成果」(都市問題95巻2号(平成16年2月))15頁)とされ、基本法にはない独自の規定が多く見られる。

 基本法で規定されていない項目・内容で、4条例に共通するものとして挙げることができるのは、「性別による権利侵害の禁止(セクシャル・ハラスメントの禁止、配偶者等に対する暴力(ドメスティック・バイオレンス)の禁止)」の規定、責務規定における「事業者の責務」の規定である。

〇 また、各条例独自の項目・内容として、埼玉県条例は、「性と生殖に関する健康と権利」の尊重(3条5項)、「公衆に表示する情報に関する留意」(8条)、県の施策の具体的な列挙(9条各号)、県の施策として審議会等においてできる限り委員の男女均衡を図ること(9条4号)、総合的な拠点施設の設置(11条)、苦情処理に関する機関や手続(13条)等をあげることができる。

 また、東京都条例は、条例名を「男女平等参画基本条例」とし、基本理念は「男女一人一人が、自立した個人としてその能力を十分に発揮し、固定的な役割を強制されることなく、自己の意思と責任により多様な生き方を選択することができる社会」(3条2号)等を強調し、「雇用の分野における男女平等参画の促進」の観点から事業者に対する報告聴取・公表・助言(13条)等を規定している。

 都留市条例は公益法人、NPO及び自治会を含む事業者等に対する報告聴取・公表・働きかけ・表彰(11条)等塩尻市条例は施策の推進体制の整備(13条)等を規定している。

 

【平成10年代に制定された条例】

〇 上記の条例に続き、基本法やこれらの先行条例を参考にしつつ、全国の都道府県、市区町村において条例制定が広がっていった。

 平成10年代に制定された条例については、日高論文、大西祥世「地域課題に対応する男女共同参画条例のつくり方 ― 先行自治体を例に」(自治総研345号(平成19年7月))、橋本論文等がその内容を分析し、論考している。これらの論文のうち、日高論文は、平成15年4月1日までに制定された都道府県の条例について、規定事項等を比較し、分析している。大西論文は、平成18年頃までに制定された都道府県と市区町村の条例について、独自の規定や特徴的な規定について、整理したうえで、紹介している。橋本論文は、平成15年末までに制定された都道府県と市区町村の条例について、独自の規定や特徴的な規定について紹介するとともに、平成13年の終わりごろから「男女共同参画を批判する動き、いわゆるバックラッシュ」(15頁)の動きが見られるとしてそうした動きについても論じている。

〇 これらの論文を参考にして、平成10年代に制定された条例に関し、基本法で規定されていない独自の項目・内容について、以下、概観する。「条例名」の後の()内は、条例の制定年月(公布日を基準)を意味する。

 埼玉県条例、東京都条例等の先行条例における独自規定は、自治体によって対応は異なるものの、他の自治体の条例にも引き継がれていると言える。他方、こうした先行条例にはない新たな独自の項目・内容も、後発の条例において盛り込まれている。

(事業者、自治組織、教育関係者の責務)

〇 責務規定について、ほとんどの条例は事業者の責務を規定している。

 また、市区町村条例では自治会、町内会等の自治組織、市民団体、教育関係者の責務を規定するものも少なくない(例えば、(新潟県)「上越市男女共同参画基本条例」(14年3月)7条、「浜松市男女共同参画推進条例」(14年12月)7条、「岡山市男女共同参画社会の形成の促進に関する条例」(13年6月)7条)。

(性別による権利侵害の禁止)

〇 性別による権利侵害の禁止(差別的取扱いの禁止、セクシャル・ハラスメントの禁止、配偶者等に対する暴力(ドメスティック・バイオレンス)の禁止)については、ほとんどの条例で規定されている。

 例えば、「北海道男女平等参画推進条例」(平成13年3月)は、「セクシュアル・ハラスメント」を「他の者に対し、その意に反した性的な言動を行うことにより、当該者の就業等における環境を害して不快な思いをさせること又は性的な言動を受けた者の対応により当該者に不利益を与えること」(2条3号)と定義づけたうえで、「何人も、職場、学校、地域、家庭その他の社会のあらゆる分野において、性別を理由として直接的にも間接的にも差別的な取扱いをしてはならない。」、「何人も、職場、学校、地域、家庭その他の社会のあらゆる分野において、セクシュアル・ハラスメントを行ってはならない。」及び「何人も、職場、学校、地域、家庭その他の社会のあらゆる分野において、男女平等参画を阻害する暴力的行為(精神的に著しく苦痛を与える行為を含む。)を行ってはならない。」(7条)と規定している。

(性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ))

〇 「性と生殖に関する健康と権利」に関して規定する条例は多い。例えば、埼玉県条例は、「男女共同参画の推進は、生涯にわたる性と生殖に関する健康と権利が尊重されることを旨として、行われなければならない。」(3条5項)と規定している。

 条例によっては、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」との表現を使用しているものもある。例えば、(東京都)「日野市男女平等基本条例」(平成13年12月 令和5年4月改正施行により「日野市すべての人の性別等が尊重され多様な生き方を認め合う条例」)は、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を「平成6年にエジプトのカイロで開催された『国際人口開発会議』で確認、提唱された、女性の性と生殖に関する健康及び権利であり、個人が自分の体や健康について正確な情報及び知識を持ち、出産する子どもの人数、出産時期、避妊の方法等を自分の意思で選択する自己決定権利」(2条4号)と定義づけたうえで、基本施策の一つとして「男女が互いの性を理解し、真のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを理解し、互いに尊重するとともに、対等な関係のもとで、妊娠や出産についても自己決定することができるよう啓発する。」(9条5号)と規定している。

(公衆に表示する情報に関する留意)

〇 埼玉県条例で規定された「公衆に表示する情報に関する留意」についても、規定する条例は多い。埼玉県条例は、「何人も、公衆に表示する情報において、性別による固定的な役割分担及び女性に対する暴力等を助長し、及び連想させる表現並びに過度の性的な表現を行わないように努めなければならない。」(8条)と規定している。

(情報を読み解く能力の向上(メディア・リテラシー))

〇 「情報を読み解く能力の向上(メディア・リテラシー)」について規定する条例がある。例えば、「神奈川県男女共同参画推進条例」(平成14年3月)は、「県は、県民が、男女共同参画の推進を阻害するおそれがある表現に関し、提供される情報を主体的に解釈し、及び評価するための能力の向上を図ろうとする取組に必要な施策を講じるものとする。」(9条)と規定している。

 条例によっては、「メディア・リテラシー」との表現を使用しているものもある。例えば、(愛知県)「日進市男女平等推進条例」(平成19年4月)は、「メディア・リテラシー」を「多様な情報から主体的に情報の送り手の意図を読み解き、自らの意思に基づき情報を発信する能力」(2条6号)と定義づけたうえで、「市は、社会的、文化的につくられた性別(ジェンダー)の再生産や性の商品化による人権侵害をなくし、男女平等を推進するため、すべての人が、メディア・リテラシーを身につけることができるよう、市民、事業者及び教育関係者に対し必要な情報を提供するとともに、その普及に努めます。」(11条2項)と規定している。

(審議会等における男女比率(クオータ制))

〇 積極的改善措置の一つとして、審議会等附属機関における委員の男女均衡を図ることについて規定する条例は多い。基本法は、男女共同参画会議の議員については、学識経験者の中から任命されるもののうち「男女のいずれか一方の議員の数は、同号に規定する議員の総数の十分の四未満であってはならない。」(25条3項)と規定しており、自治体の条例でも、男女共同参画に関する審議会については同様の規定を置くものがある(例えば、東京都条例16条2項)が、埼玉県条例をはじめ多くの条例では、当該自治体における審議会等付属機関全般にわたり、委員の男女均衡を図ることについて、規定している。

 例えば、埼玉県条例は、県の施策として「審議会等における委員を委嘱し、又は任命する場合にあっては、積極的格差是正措置を講ずることにより、できる限り男女の均衡を図ること。」(9条4号)と規定しており、「男女均衡」を努力義務としている。他方、「10分の4」を努力義務とするものもある。例えば、(福岡県)「行橋市男女共同参画を推進する条例」(平成15年12月)は、「市は、政策の決定過程への女性の参画を高めるため、市の審議会等の委員選出に当たっては、男女いずれか一方の委員の数が委員の総数の十分の四未満とならないよう努めなければならない。」(11条)と規定している。なお、「岡山市男女共同参画社会の形成の促進に関する条例」(13年6月)は、「市長その他の執行機関は,附属機関として設置する審議会等の委員を任命し,又は委嘱するときは,男女いずれか一方の委員の数が,委員の総数の10分の4未満とならないよう選任しなければならない。」(19条1項)と、原則として「10分の4」を義務づけている。

〇 また、自治体職員についても、男女の構成比に配慮すべきことなどを規定する条例もある。例えば、「和歌山県男女共同参画推進条例」(平成14年3月)は、「県は、政策決定過程等における男女共同参画を率先して推進するため、職員の任用に当たっては、本人の意欲と能力に基づく実質的な男女平等を確保するとともに、職員である男女の職域の拡大、能力開発その他職場環境の整備に努めるものとする。」(9条2項)と規定している。

〇 なお、(新潟県)「上越市男女共同参画基本条例」(14年3月)は、「クオータ制」との用語を取り入れている。「クオータ制」を「市の政策又は事業者若しくは地縁による団体その他の団体(以下「地縁団体等」という。)の方針の立案及び決定に参画する男女の構成比について、あらかじめ目標を定める制度」(2条2号)と定義づけたうえで、「市におけるクオータ制の実施等」として「市長は、地方自治法(・・・)第180条の5第1項及び第3項に規定する執行機関として置かなければならない委員及び委員会(以下「執行機関」という。)の委員を選任するときは、委員が男女同数(定数が奇数であるときは、男女の数の差が1人であることをいう。以下同じ。)となるよう配慮しなければならない。」(13条1項)、「市長及び執行機関は、それらの附属機関の委員その他の構成員を委嘱し、又は任命するときは、委員その他の構成員が男女同数となるよう配慮しなければならない。」(13条2項)、「任命権者(地方公務員法(・・・)第6条第1項に規定する任命権者をいう。以下同じ。)は、職員を任用するときは、職員の男女の構成比に配慮するものとする。」(13条5項)等と規定している。付属機関のみならず、執行機関としての委員及び委員会についても「10分の4」を努力義務としている。また、「市は、女性の政治活動への参画が促進されるよう社会環境の整備に努めるものとする。」(14条1項)と、政治分野の男女共同参画についても言及している。

(雇用の分野、自営の商工業や農林水産業における男女共同参画)

〇 雇用分野における男女共同参画の促進の観点から、事業者に対する報告徴収に関する規定を置く条例は多い。例えば、東京都条例は、「知事は、男女平等参画の促進に必要と認める場合、事業者に対し、雇用の分野における男女の参画状況について報告を求めることができる。」(13条2項)と規定している。そのうえで、知事は「報告により把握した男女の参画状況について公表するものと」し(13条3項)、報告に基づき、「事業者に対し、助言等を行うことができる。」(13条4項)としている。

 事業者に対して届出を義務づける条例(「神奈川県男女共同参画推進条例」(平成14年3月)10条)や事業者と協定を締結することを規定する条例(兵庫県「男女共同参画社会づくり条例」(平成14年3月)13条)もある。

 また、自営の商工業や農林水産業における男女共同参画の推進に関して規定する条例も少なくない。例えば、(岡山県)「倉敷市男女共同参画条例」(平成12年12月)は、「市は、家族経営等による自営の商工業又は農林水産業に携わる男女が経営又は地域社会に参画する機会を等しく確保することができるよう、情報の提供その他の支援に努めるものとする。」(20条)と規定している。これらの条例の中には、「家族経営協定」について規定するものもある(例えば、(茨城県)「つくば市男女共同参画社会基本条例」(平成16年3月)12条2号)。

(苦情処理に関する組織・手続)

〇 苦情処理や相談については、ほとんどの条例で何らかの形で規定されているが、埼玉県条例のように苦情処理に関する組織や手続を規定する条例も一定程度ある。

 埼玉県条例は、「知事は、県が実施する男女共同参画の推進に関する施策若しくは男女共同参画の推進に影響を及ぼすと認められる施策についての苦情又は男女共同参画の推進を阻害する要因によって人権が侵害された場合の事案について、県内に住所を有する者又は在勤若しくは在学する者(次項において「県民等」という。)からの申出を適切かつ迅速に処理するための機関を設置するものとする。」(13条1項)としたうえ、申出、説明聴取・記録の閲覧・提出要求、勧告、助言・是正の要望等(13条2項~4項)の規定を置いている。

 苦情処理の組織等については、自治体によって異なる。例えば、(「北海道男女平等参画推進条例」(平成13年3月)は苦情処理委員(19条~22条)を設置し、(茨城県)「水戸市男女平等参画基本条例」(平成13年3月)は苦情処理委員会(18条~18条の6)を設置することしている。また、川崎市「男女平等かわさき条例」(平成13年6月)は、人権オンブズパーソンが相談・救済に当たることとしている(7条)。

(その他)

〇 各条例における上記の記したもの以外の独自の規定や特徴的な規定については、上記論文(特に、大西論文87頁等)を参照されたい。

 

【平成20年代に制定された条例】

〇 平成20年代に入っても、全国の市区町村で、毎年度20~40程度の条例がコンスタントに制定されている。これらの条例は、平成10年代に制定された先行条例を参考にしつつ、制定されており、上記で見たような独自の項目・内容のうち、どの程度取り入れるかは、自治体の判断により異なるが、男女共同参画の推進に積極的な自治体では、これらの項目・内容の多くは、新たに制定する条例において規定されている。

 他方、社会の状況の変化等により、平成20年代に入って、新たに規定される項目・内容も出てきた。その主なものとして、次のようなものをあげることができる。

(ワーク・アンド・バランス(仕事と生活の調和))

〇 ワーク・アンド・バランス(仕事と生活の調和)に関する規定を置く条例が、制定されるようになった。例えば、(栃木県)「日光市男女共同参画推進条例」(平成21年3月)は、「ワーク・ライフ・バランス」を「仕事と生活の調和をいい、誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発その他の活動について、自らの希望に沿った形で展開できる状態」(2条7号)と定義づけたうえで、「事業者は、その事業活動を行うに当たっては、基本理念にのっとり、男女が職場における活動に対等に参画する機会の確保及びワーク・ライフ・バランスに配慮し、男女共同参画の推進に積極的に取組むよう努めなければならない。」(6条1項)と規定している。

 なお、平成19年12月に、政府の「仕事と生活の調和推進官民トップ会議」は、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定している。ワーク・アンド・バランスについての政府の考え方、取組み等については、内閣府男女共同参画局HP「 「仕事と生活の調和」推進サイト」を参照されたい。

(防災や災害復興分野における男女共同参画の推進)

〇 中越地震(平成16年10月)、東日本大震災(平成23年3月)等の災害時に、避難や復旧等に際して必ずしも女性のニーズが十分に反映されていないことが明らかとなり、防災や災害復興の意思決定過程での女性の参画が必要不可欠であると認識されるようになった。

 こうしたことを踏まえ、防災や災害復興分野における男女共同参画の推進に関する規定を置く条例が、制定されている。例えば、(新潟県)「長岡市男女共同参画社会基本条例」(平成22年12月)は「市は、災害復興を含む防災の分野において、男女共同参画社会の形成が促進されるよう必要な措置を行うものとする。」(12条)と規定し、(宮城県)「柴田町男女共同参画推進条例」(平成24年1月)は「町は、防災及び復興分野で、男女共同参画の視点を踏まえた防災、被害者支援及び災害対応を推進するために必要な施策を講ずるよう努めます。」(15条)と規定している。

 男女共同参画の視点からの防災・復興に関する政府の考え方、取組み等については、内閣府男女共同参画局HP「災害対応力を強化する女性の視点」を参照されたい。

(性的指向や性自認に起因する差別的取扱いの禁止)

〇 平成20年代半ば以降、性的指向や性自認に起因する差別的取扱いを禁止する規定を置く条例が制定されてきている。例えば、「多摩市女と男の平等参画を推進する条例」(平成25年9月)は、「性的指向」を「人の恋愛感情や性的な関心がいずれの性別に向かうかの指向(この指向については、異性に向かう異性愛、同性に向かう同性愛、男女両方に向かう両性愛等の多様性があります。)」(2条6号)、「性自認」を「自分がどの性別であるかの認識(この認識については、自分の生物学的な性別と一致する人もいれば、一致しない人もいます。)のこと」(2条7号)と定義づけたうえで、「市、市民、事業者及びその他の団体は、社会のあらゆる場において、性別による差別的取扱い並びに性的指向及び性自認による差別を行ってはなりません。」(7条1項)と規定している。

 これらの条例の中には、パートナーシップ制度について規定する条例もある。例えば、(東京都)「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(平成27年3月)は、「パートナーシップ」を「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である2者間の社会生活関係」(2条8号)と定義づけたうえで、「区長は、第4条に規定する理念に基づき、公序良俗に反しない限りにおいて、パートナーシップに関する証明(以下「パートナーシップ証明」という。)をすることができる。」(10条1項)等と規定している。

 また、アウティング(本人の意思に反して第三者が性的指向又は性自認を公表すること)の禁止について規定する条例をある。例えば、(東京都)「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」(平成29年12月)は、「何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない。」(8条2項)と規定している。

 なお、「性的指向」の用語については、(東京都)「小金井市男女平等基本条例」(2条6号 平成15年6月)等において使用されていたが、差別禁止の規定までは置かれていない。また、「性同一性障害」の用語については、「堺市男女平等社会の形成の推進に関する条例」(3条6号 平成14年3月)等で使用されている。

 これらの条例の詳しい内容については、「性の多様性に関する条例」を参照されたい。

 

【令和に入って制定された条例】

〇 令和の時代に入っても、制定ペースは落ちているものの、毎年度コンスタントに新規の条例が制定されている。市区町村については、全国の6割の団体は条例を制定していないため、未制定の団体が制定していることとなる。なお、既存条例を改正している団体も見られる。

 令和に入って新規に制定された条例としては、(岩手県)「盛岡市男女共同参画推進条例」(令和元年6月)、(沖縄県)「久米島町男女共同参画推進条例」(令和元年7月)、(愛知県)「刈谷市男女共同参画推進条例」(令和元年9月)、(宮崎県)「門川町男女共同参画推進条例」(令和2年3月)、(宮崎県)「五ヶ瀬町男女共同参画社会づくり推進条例」(令和2年3月)、(宮崎県)「高鍋町男女共同参画推進条例」(令和2年3月)、(宮城県)「田村市男女共同参画推進条例」(令和2年3月)、(茨城県)「利根町男女共同参画推進条例」(令和2年12月)、(鹿児島県)「枕崎市男女共同参画推進条例」(令和2年12月)、(奈良県)「宇陀市男女共同参画推進条例」(令和2年12月)、(兵庫県)「宍粟市誰もが自分らしく生きる共同参画社会づくり条例」(令和3年3月)、(鹿児島県)「阿久根市男女共同参画推進条例」(令和3年3月)、(沖縄県)「宜野湾市男女共同参画推進条例」(令和3年3月」(鹿児島県)「南さつま市男女共同参画推進条例」(令和3年7月)、(長野県)「御代田町男女共同参画推進条例」(令和3年10月)、(長野県)「朝日村男女共同参画社会推進条例」(令和3年12月)、(富山県)「立山町男女共同参画推進条例」(令和3年12月)、(長崎県)「雲仙市男女共同参画推進条例」(令和3年12月)、(宮崎県)「国富町男女共同参画推進条例」(令和4年3月)、(兵庫県)「加西市誰もが性差にとらわれず共に生きる社会づくり条例」(令和4年3月)、(東京都)「江戸川区性の平等と多様性を尊重する社会づくり条例」(令和4年3月)、(沖縄県)「南風原町男女共同参画推進条例」(令和4年3月)、(神奈川県)「逗子市男女平等参画及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(令和4年6月)、(宮崎県)「新富町男女共同参画推進条例」(令和4年12月)、(東京都)「八王子市男女共同参画推進条例」(令和4年12月)、(鹿児島県)「志布志市ひとがともに輝くまちづくり条例」(令和4年12月)、(三重県)「明和町男女共同参画推進条例」(令和4年12月)、(兵庫県)明石市「あかしジェンダー平等の推進に関する条例」(令和4年12月)、(熊本県)「あさぎり町男女共同参画推進条例」(令和5年3月)、(福岡県)「篠栗町男女共同参画推進条例」(令和5年3月)、(栃木県)「上三川町男女共同参画推進条例」(令和5年3月)、(東京都)「中央区男女の平等及び共同参画による社会づくりに関する基本条例」(令和5年3月)、(千葉県)「木更津市彩り豊かな個性が集う共生社会づくり条例」(令和5年3月)、(埼玉県)「羽生市男女共同参画推進条例」(令和5年3月)、(埼玉県)「白岡市男女共同参画推進条例」(令和5年3月)、(宮城県)「大衡村男女共同参画推進条例」(令和5年6月)、(埼玉県)「横瀬町男女共同参画推進条例」(令和5年6月)、(東京都)「品川区ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例」(令和6年3月)等が確認できる。

 条例で規定す項目・内容については、自治体のよって異なるが、ワーク・アンド・バランス、防災や災害復興、性的指向や性自認に関して規定するものも少なくない。

(ジェンダー平等)

〇 以上の条例のうち、(兵庫県)明石市「あかしジェンダー平等の推進に関する条例」(令和4年12月)は、全国で初めて、条例名に「ジェンダー」との用語を使用している。「ジェンダー平等」を「市民一人ひとりが、社会的・文化的に形成された性別並びに性自認、性的指向及び性表現にかかわりなく、等しく権利、資源、機会、責任等を有し、その個性及び能力を十分に発揮できる状態」(2条1号)と定義づけたうえで、条例名を「ジェンダー平等の推進に関する条例」としている。また、「市は、ジェンダー主流化の観点から、あらゆる施策の検討及び実施に当たっては、ジェンダー平等の視点に立って行わなければならない。 」(4条2項)と規定し、「ジェンダー主流化」との表現も見られる。明石市条例の内容、制定経緯等については、明石市HP「あかしジェンダー平等の推進に関する条例(2023年4月1日施行)」及び自治体法務研究2023年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「あかしジェンダー平等の推進に関する条例」を参照されたい。

 (東京都)「品川区ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例」(令和6年3月)も、条例名に「ジェンダー」との用語を使用している。「ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会」を「すべての人が、性別等に起因した差別や暴力を受けることなく、多様な個人として尊重され、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に平等に参画する機会が確保され、その個性と能力を十分に発揮して、自分らしく生きることのできる社会」(2条1号)と定義づけたうえで、条例名を「ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例」としている。品川区条例の内容等については、品川区HP「品川区ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例」を参照されたい。

 なお、「ジェンダー」の用語は、条例本文では、(茨城県)「水戸市男女平等参画基本条例」(2条5号等 平成13年3月)、(石川県)「羽咋市男女が共に輝く21世紀のまちづくり条例」(2条4号等、平成13年3月)等で使用されている。

(副市長の男女同数)

〇 また、(兵庫県)明石市「あかしジェンダー平等の推進に関する条例」(令和4年12月)は、、これまでの他の自治体の条例にない規定として、「市長は、定数が2名以上である特別職(地方公務員法(・・・)第3条第3項第1号に掲げる職のうち、市長が選任又は任命の権限を有するものをいう。)の選任又は任命に当たっては、当該特別職を占める者が男女同数(当該特別職の定数が奇数であるときは、男女の人数の差が1人であることをいう。)となるよう努めるものとする。」(10条)と規定し、副市長について男女同数とすることを努力義務としている。



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