庁内ネット上における著作権

当市では、庁内のイントラネットシステム上に各課が作成した文書をデータとして保管しており、他課の職員も必要な時に必要な資料を閲覧することができます。そこで、行政上必要な市販の書籍をスキャニングしてイントラネットシステム上に保管し職員が必要に応じて閲覧するようにできたら便利だと考えていますが、このような取り扱いが著作権法上許されますか。また、書籍の全部をスキャニングする場合とその一部をスキャニングする場合とで結論を異にしますか。

著作権制度における最も基本的な権利として複製権があります。複製権とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」をいいます(著作権法2条1項15号)。ご質問の市販の書籍をスキャニングする行為は複製に該当します。著作権者は、その著作物を複製する権利を専有しますから(著作権法21条)、著作権以外の者が、著作物を複製しようとするときは、その都度、著作権者の許諾を必要とします。

著作権法は、一定の場合に限り、著作権者の権利を法律上制限して、著作権者の許諾を得ることなく、著作物を利用する事が可能であると規定しています。行政の目的のために内部資料として必要な場合には、その必要と認められる限度内で、著作権者の許諾なく複製することができるとされています(著作権法42条本文)。この規定は厳格に解釈する必要があれば、いつでも複製できるわけではなく、行政の職務執行上必要不可欠な場合に限られると解されています。したがってご質問のように、必要に応じて閲覧できると便利であるような場合には、これに該当しません。社団法人著作権情報センターが発刊している「著作権ハンドブック」によれば、「官公署職員の執行参考資料として複製する事はできません」と明記されています。

さらに、行政の職務執行上必要不可欠な場合であっても、市販されている書籍の1冊全部をスキャニングすることは、著作権法42条ただし書きの「当該等作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる」場合に該当するものと思われます。

次に、スキャニングする範囲を一部にした場合で、結論を異にするかという点ですが、行政の職務執行上必要不可欠な場合であれば、一部のスキャニングは著作権者の許諾は不要です。しかし、ご質問のように、「必要に応じて閲覧するようにできたら便利」というのでは、そもそも著作権法42条本文の適用外です。また、行政の職務執行上必要不可欠な場合に、市販されている書籍の全部ではないにしても、当該書籍が複数の論文から構成されている場合に、その1つの論文すべてをスキャニングすることは、やはり著作権法42条ただし書きに該当するものと思われます。