2006年 冬

住宅使用料の延滞債権放棄に関する議会の議決

Question

公営住宅の使用料に関する消滅時効は、民法169条によるべきであり、時効完成前、又は援用がない場合の欠損処分は、権利の放棄に当たることになりますが、住宅使用料の延滞債権について、自治法施行令171条の7の規定中「当初の履行期限から10年を経過した後において」の規定は、債権管理の実務面から現実性がないため、これを一般公法債権の時効消滅の5年間を参考に、5年程度経過したものについて、免除規定に当てはめを行い、実質的な債権放棄を行うこととし、自治法施行令171条の7第3項の規定を適用して議会の議決を不要と考えることは可能ですか。このように考えることは、東京都江戸川区が制定した「債権管理に関する条例」の考え方と同じと考えていいですか。

Answer

結論としては、このような取扱いはできません。

1 地方公共団体が有する債権を放棄することができるのは、法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合と、議会の議決がなされた場合に限られます(自治法96条1項10号)。法律若しくはこれに基づく政令の定めの1つとして、自治法施行令171条の7があります。なお、債務の免除は、債権を無償で消滅させる債権者の行為ですから、債権の放棄と同義です。

自治法施行令171条の7により、債務を免除するための要件は次のとおりです。

債務者が無資力又はこれに近い状態にあるため履行延期の特約又は処分した債権であること。
当初の履行期から10年を経過したこと。
10年を経過して後の債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、かつ、弁済することができる見込みがないことが認められること

以上でご理解いただけると思いますが、自治法施行令171条7において規定される10年間という期間は消滅時効期間とは関係がありません。そのため、地方公共団体の有する債権が、水道使用料債権のように短期消滅時効(2年間)の適用のある債権でも時効の援用がない限り、当初の履行期から10年経過しなければ免除の対象とはなりません。それにもかかわらず、当初の履行期から5年で免除すれば、明文規定に違反する違法行為となります。

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2 江戸川区の債権条例は、本号の連載「地方公共団体弁護士活用術」をご覧いただくと分かるとおり、東京弁護士会業務改革委員会が条例立案に関与したものです。条例は私債権のみを対象として債権管理に関する規定を置いたものです。その中で、免除の規定は自治法施行令171条の7と同趣旨のものです。同条例の特徴の1つは、債権放棄の規定にあります。すなわち、自治法96条1項10号に規定する「条例に特別の定めがある場合」として、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該債権及び損害賠償金等を放棄することができると規定し、議会の議決を受けずに債権を放棄することができるとしました。

債務者が著しい生活困窮状態(生活保護法の適用を受け、又はそれに準じる状態)にあり、資力の回復が困難であると認められるとき。
破産法その他の法令の規定により、債務者が当該債権につきその責任を免れたとき。
当該債権について消滅時効が完成したとき(債務者が時効の援用をしない特別の理由がある場合を除く。)。
強制執行の手続をとっても、なお完全に履行されない当該債権について、強制執行等の手続が終了したときにおいて債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、弁済する見込みがないと認められるとき。
徴収停止の手続をとった当該債権について、徴収停止の措置をとった日から相当の期間を経過した後においても、なお、債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、弁済の見込みがないと認められるとき(なお、相当な期間は同条例施行規則により1年間と定められています。)。

これらの事由があるときは、債権の回収を図ることが極めて困難であることが明らかといえますから、あえて議会の議決を経なくても、条例により区長の判断で債権放棄ができるものとし、いたずらに回収の見込みのない債権を管理する必要がなくなるようにしたのです。

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3 自治法施行令の債権管理に関する法律は、質問にあるとおり、「債権管理の実務面から現実性がない」もので、極めて使い勝手の悪い規定です。しかし、債権の管理を厳格にし、安易に債権放棄、免除を認めないという趣旨は尊重すべきです。したがって、自治法施行令171条の7の規定の解釈により、免除の要件を緩和することは許されないものと考えます。回収見込みがない債権の管理を整理するのであれば、江戸川区のように明らかに回収見込みのない債権の種類を条例上明記し、債権放棄をすることができる旨の規定をおく必要があるものと考えます。同時に、条例で定めることにより、議会の議決権限を侵害することもなくなります。

なお、2006年春号91頁において、市営住宅使用料について「消滅時効の期間は、民法167条1項により、10年となる」と回答いたしましたが、消滅時効の期間は、民法169条が適用され、5年となるとするが正しい回答です。お詫びして、訂正させていただきます。

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