未納の修学旅行費の債権者

当市でも、市立小中学校において、毎年、修学旅行を実施していますが、今年、一人の中学生の保護者(一人親)が長期に病気入院していたため、修学旅行費の納入がないまま、その中学生が修学旅行に参加しました。保護者から、退院後必ず、修学旅行費を支払うので、子供を旅行に参加させて欲しいと要望が、病院関係者を通じてあったため、学校長が参加を認めたものです。しかるに、親が退院後も、修学旅行費の支払いを行わないため、学校長が、保護者に対して、文書をもって、支払いの督促をしたところ、弁護士から、市長宛に、保護者について破産申立をする予定であるから、他の債権者に優先して市に修学旅行費を支払うわけにいかないという通知がありました。

修学旅行は、学校教育の一環として行われるものですが、その費用負担については、これを規律する条例・規則はないのが一般的です。そこで、どのような法律関係が発生しているのかを、実態に即して検討する必要があります。一般的には、担任の先生が、生徒から修学旅行費を集め、学校長がこれをとりまとめ、旅行に参加する生徒分の費用を旅行業者に支払っているものと思われます。もちろん、集金の方法には、一括して集金するところも、何回かに分けて集金するところ、あるいは銀行振込により徴収するところもあるでしょうが、そのことによって、法律関係に影響を及ぼすものとは思われません。

このような実態からは、二つの法律構成が可能と思われます。一つは、市が旅行業者と契約を行い、市が生徒の保護者から修学旅行費を徴収し、これを市が旅行業者に支払うという法律関係です。この場合、旅行費用の支払い義務は市に発生します。市の会計処理としては、保護者からの収入と旅行業者への支出ということになりますが、寡聞にして、修学旅行費を歳入予算、歳出予算に組み込んでいるという話は聞いたことはありませんので、このような処理をしている市町村があったとしても、少数であろうと思います。

二つ目は、生徒の保護者と旅行業者との間に契約が成立し、学校長が、保護者を代理して契約を締結し、保護者に替わって、旅行費用をとりまとめ、それを旅行業者に支払っていると構成する方法です。この場合には、契約当事者は、個々の保護者と旅行業者ということになります。したがって、学校長は、他人の金銭を預かっただけで、市の収入になるものではありません。ただ、それでは、学校長や担任の先生が修学旅行費を集金する職務上の義務はないのではないかとの批判も考えられますが、修学旅行も学校教育の一環として行われている以上、旅行業者との契約を円滑に進めるために、学校長、担任の先生が職務として、保護者をとりまとめ、保護者に代わって、契約事務、修学旅行費用に支払い事務をすることも許されるものと考えます。

また、この考え方は、学校を信用して契約している旅行業者に不測の損害を被らせることになります。

いずれの構成が、妥当かということになりますが、契約書において、市が当事者になっていれば、旅行費用については市が債務者となり、この場合には、予算に計上していない歳出歳入があったこととなり、市が保護者に修学旅行費を請求することとなります。ただし、この場合は、予算総計主義に違反することとなります。

契約書に、学校名、ないしは学校長名が記載されているような場合には、契約者が明確ではないものということになり、二つの考え方のいずれも取り得ることとなります。この場合において、2番目の考え方をとれば、市の歳入・歳出としていない実態に即しているものといえます。したがって、2番目の考え方の方、つまり債務者は、個々の保護者であるとする考え方が妥当と考えます。

このように考えると、債権者は旅行業者、債務者は保護者ということになり、保護者に修学旅行費用の請求をした学校長の行為は、修学旅行費のとりまとめ役としての行為に過ぎなくなります。

次に、保護者の要望を学校に取り次いだ病院関係者の責任ですが、単に、入院している保護者の意向を伝えたにとどまる場合には、法的な責任は一切発生しません。保護者の意向を伝えるにとどまらず、保護者の支払い能力を保証したり、万一の場合には、自分が責任を持つというような発言をして、学校長を説得したような場合には、その病院関係者は、修学旅行費用について、保護者の保証人となったと評価できる場合もあり得ます。

ただ、保証人としての責任を追及する場合には、保証契約が成立したことを証明する必要があるため、単なる口頭のみの約束では、証明に困難を来す場合もありますので、そのような場合には、書面で、修学旅行費用に関する保護者の債務を保証する旨の文書を差し入れてもらうべきです。その上で、修学旅行への参加を認めるべきでしょう。