権利放棄を内容とする条例の提案権の帰属
2005年夏号94頁【貸付制度に基づく貸付金の法的性質】において、「長提案の条例により、債権放棄の手続を定めることは、議会の権限との関係で問題があります。」との記載がありますが、一定の要件の下に権利放棄をすることを可能にする債権管理条例については、長が提案することはできないのでしょうか。
条例の議会への提案権については、原則として地方公共団体の長(自治法149条1項)及び議員(自治法112条)の双方が有していますが、条例の内容によっては、提案権が長又は議員のいずれかに専属する場合があります。
自治法180条1項の規定による専決処分は、議会の権限に属する軽易な事項については、議決により特に指定したものは、地方公共団体の長において専決処分をすることができるとされていますが、これは、本来議会の権限に属する事項のうち、軽易な事項について、長の専決に委ねるということですから、議会自らが発案し判断すべき事項と考えられます。すなわち、そのように考えないと長のイニシアティブにより、議会の権限を削ることが可能になり、議会の自律権を侵害するおそれがあるからです。「第180条の提案権は、長にもあると思うがどうか。」との問に対する「長は、議長に対して事件を特定して本条の議決を依頼することができる」とする行政実例(昭和30年12月17日)も同様の考え方を前提とするものと思われます。
権利放棄についても、議会の権限に属する事項ですが、自治法96条1項10号によれば「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合」は除外されています。同号に規定する条例の例としては、地方税について条例に定めるところにより減免する場合(地方税法61条、72条の62等)や、分担金、使用料、加入金及び手数料に関する条例で定めて減免する場合(自治法228条1項)があげられています。これらの場合には、法律により必要な事項について条例で定めることができるとされておりますので、原則通り、提案権は、地方公共団体の長及び議員にあると考えられます。
しかし、条例に特別の定めがない場合に、議会の議決で軽易な事項について長の専決により権利放棄することについては自治法180条の規定に基づく専決の決議となり、提案権は議員に専属するものと解されるのに対し、一定の条件による権利放棄を認める条例を法律の委任なく定める場合には、提案権は、原則通り、長及び議員にあるということとなるのでは、均衡がとれないのではないかとも考えられます。
そこで、2005年夏号においては、専決の議決と同様に、権利の放棄に関する条項については、長の提案権を認めるべきではないとしたものです。
この点に関しては、判例行政実例も見あたりませんが、その後の検討により、自治法96条1項10号が「条例に特別の定めがある場合」と規定していることからすれば、条例の中で権利放棄ができる場合を規定することを認めていると考えるのが条文の文理に適合するとの結論に至りました。したがって、長も権利放棄を内容とする条例を提案することができますので、2005年夏号の記載は訂正させてもらいます。
ちなみに、江戸川区の債権管理条例は、区長が提案しています。