改正民法における危険負担の考え方

当市ではこの度の新型コロナウイルスの蔓延状態を受け、業務委託契約の継続が難しくなっています。そこで、契約を解除しようと考えています。
市の委託契約書では「業務内容の変更」という見出しで、委託者である市は、「必要があると認めたときは、業務の内容を変更し、又は業務を一時中止することができるこの場合において、委託料又は委託期間を変更する必要があるときは、委託者、受託者協議して定める。」とされています。この場合の契約解除又は変更について、市に責任があると考えられますが、「協議して定める」とのみの規定ですので、「協議」の基準がありません。そうしますと、民法第536条第2項の適用があるものと考えられます。
民法第536条第2項によりますと、委託者である市は、委託料の支払を拒むことはできませんが、受託者は、業務内容の変更や、業務の一時中止によって節約できた経費があるときは、この経費を市に償還することになっています。
この場合、節約できた経費の額については、委託者である市と受託者との認識の違いから、協議が整わない場合も考えられます。
こうした場合の対応策を御教示ください。

○参考 市委託契約書
(業務内容の変更)
第9条 委託者(市)は、必要があると認めたときは、業務の内容を変更し、又は業務を一時中止することができる。この場合において、委託料又は委託期間を変更する必要があるときは、委託者、受託者協議して定めるものとする。

(結論)
 協議が整わない場合は、市の認識に従って、適正と考える額を控除して支払ってください。受託者側が納得しない場合は、受託者側から請求が行われ、その額を市が適正な価額と認めなければ、受託者は、訴訟上の請求をし、最終的に裁判所が判断します。

(理由)
 改正民法では、危険負担の考え方が債権者主義を廃止することとされ、新たに第536条が全面改正され次のような規定になりました。

(債務者の危険負担等)
第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

 この改正の結果、債権者に責任がある場合は、債権を履行することができなくなったとしても、債権者は反対給付の履行を拒むことができないことになりました。
 これを今回の質問に当てはめて考えた場合、債権者たる市は、業務委託契約の債務を履行せざるを得ないことになります。すなわち、受託者が業務委託契約の債務を履行しなくとも、市が契約を解除又は変更した場合には、受託者は、本来に債務を履行することなく、履行代金の請求をすることができるのです。ただし、受託者が債務の履行を免れた結果、履行費用を免れた場合、その費用を債権者に償還することになります。
 御質問では、契約書上、協議をするとされているところ、市の立場と受託者の立場が異なるため、受託者が免れた費用の額が協議で決まらない可能性があることを心配するものです。
 しかし、協議をしても、債務者が債権者に返還すべき費用の額が定まらなければ、請負代金を支払う立場にある市としては、市が正当な金額と考える金額を控除して支払えば、債務を履行したことになります。この場合、受託者側とすれば、実際に要するものと考えた費用より少ない金額しか支払われないのですから、その差額の支払を求めることとなります。
 この場合、協議は決裂していますから、受託者とすれば、市に対し、自分が免れたと考える費用を控除した金額から、実際に支払われた金額との差額を請求することになります。そして、この差額については、協議の中でも合意に達しなかった金額ですから、多くの場合、市に対して差額の支払を求める訴訟を提起することになります。その結果、判決により、滞納者が支払を免れた金員が確定することになります。
 とは言うものの、委託者である市と受託者が訴訟状態になるということは、好ましい事態ではありません。そこで、協議をしても合意できないときのために、第三者機関を設け、第三者機関による解決を図ることも一つの方法でしょう。
 最後に、今般の新型コロナウイルスの蔓延により、御質問のようなケースが各地方公共団体で発生していると思います。こうした感染症の蔓延により業務委託契約が契約初期内容で行うことができなくなったとき、これを解除したり、変更したりするのは、債権者たる地方公共団体の責任になるのが一般的です。もちろん、受託者側が人員の確保ができなくなる等により、受託者側から解除又は変更の申出がある場合は別です。