賃借りしている市民集会所の賃貸人による、賃貸借契約の解除の申入れに対する対応

当市においては、20年ほど前から、市民集会所とするため、土地建物を市民から賃借りしているところがあります。ところが、賃貸人たる市民から、市民集会所として利用している建物を取り壊し、当該土地を自分で使いたいので、賃貸借契約を解除したいとの申入れを受けました。ただし、建物を取り壊すので、原状回復は必要ないとのことです。  当市としては、市民集会所の代替建物を探すのは、困難ではありますが、賃貸人の意向を受けて、賃貸借契約の解除に応じようと考えております。
 (1)借地借家法上、建物賃貸借契約の解除には、正当事由があることが必要とされていますが、正当な事由の有無について争わずに、解除に応ずることに何か問題がありますか。
 (2)権利放棄について、地方自治法上、議会の議決事項とされていますが、権利を行使しないことは権利の放棄に当たらないと解されますが、このような考え方で問題はありませんか。
 (3)賃貸借契約の解除に伴って、覚書などで、原状回復義務の免除等の条件を取り決めた場合でも、そのことが「和解」に当たらないと考えてよろしいですか。

(結論)
 (1)について問題はありません。
 (2)について問題はありません。
 (3)について和解には当たりません。

(理由)
(1)について
 貸主が、貸している建物の底地を自己使用するということだと、正当事由が成立する可能性は、若干はありますが、多くの場合、成立しないでしょう。すなわち、自己使用に至る経緯が問題となり、裁判所も借り手の立場を考慮するからです。したがって、貴市が正当事由の存在を争わずに、解除に応じることは、貸主に有利な取扱いになりますが、単に、権利を行使しないことは、権利の放棄には当たりませんから(『逐条地方自治法第5次改訂版』344頁)、法律上の問題とはなりません。
 (2)について
 地方自治法第96条第1項第10号に規定する「権利の放棄」は、前述の通りですから、その考え方で問題はありません。
 (3)について
 自治法第96条第1項第12号に規定する「和解」とは、「民法第695条の規定による民事上の争議の和解、民事訴訟法第89条の訴訟法上の和解及び同法第275条の訴訟提起前の和解のすべてを含む(行実 昭和30、3、13)」(前掲書346頁)とされています。民事上の争議があるわけではないので、覚書等で解除の条件を決めたとしても、和解には当たりません。
○地方自治法
第96条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
 1~9 略
 10 法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること。
 11 略
 12 普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、訴えの提起(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決(行政事件訴訟法第3条第2項に規定する処分又は同条第3項に規定する裁決をいう。以下この号、第105条の2、第192条及び第199条の3第3項において同じ。)に係る同法第11条第1項(同法第38条第1項(同法第43条第2項において準用する場合を含む。)又は同法第43条第1項において準用する場合を含む。)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(以下この号、第105条の2、第192条及び第199条の3第3項において「普通地方公共団体を被告とする訴訟」という。)に係るものを除く。)、和解(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟に係るものを除く。)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。
 13~15 略
2 略