行政不服審査法に基づく審査請求と第三者機関への諮問の要否

当市に対して、特定の住民から、ある地方税の賦課処分の取消しを求める行政不服審査法に基づく審査請求が、数年度にわたり提起されています。これまでに提起された審査請求で、当該住民は、ほぼ同じ手続上の瑕疵を主張して賦課処分の取消しを求めています。なお、これまでの各審査請求に対する審理員意見、第三者機関である行政不服審査会の答申及び審査庁の裁決は、いずれも手続上の瑕疵は認められず棄却という結論でした。
そうしたところ、行政不服審査会から、「当該住民が、これまでに提起した審査請求と同様の違法事由を主張して当該地方税の賦課処分の取消しを求める審査請求について、審理員意見が棄却である場合には、行政不服審査法(以下「行審法」という。)第43条第1項第5号に基づき、審査庁から行政不服審査会への諮問を要しないものとする。」との見解が示されました。
今後は、この見解に従って、行政不服審査会への諮問をしないとすることに問題はないでしょうか。

(結論)
当該見解によって諮問不要とする取扱いはすべきでないと考えられます。

(理由)
1 行審法第43条第1項は、第三者機関への諮問手続について定めており、審理員から審理員意見書の提出を受けたときは、審査庁が地方公共団体の長である場合には、原則として、行審法第81条第1項又は第2項の機関に諮問しなければならないとされています。お尋ねのケースでは、第三者機関として行政不服審査会が設置されているようですので(行審法第81条第1項)、以下その前提で回答します。
この諮問を義務付ける趣旨は、審理員が行った審理手続の適正性や、法令解釈を含めた審査庁の審査請求についての判断の妥当性を第三者の立場からチェックし、判断が公正かつ慎重に行われる手続を整備することにより、裁決の客観性・公正性を高めることにあります(IAM『逐条解説行政不服審査法(新政省令対応版)』(2016年・ぎょうせい)231頁)。
2 この諮問手続を要しない例外の一つとして、「審査請求が、行政不服審査会等によって、国民の権利利益及び行政の運営に対する影響の程度その他当該事件の性質を勘案して、諮問を要しないものと認められたものである場合」(行審法第43条第1項第5号)があります。この場合に諮問が不要とされるのは、行政不服審査会等が調査審議を行なっても審査請求に対する結論が変わることがおおよそ想定し難い事案についてまで行政不服審査会等への諮問を義務付けることは、裁決までの期間が長期化するのみであり、その実質的な意義に乏しいためとされます(小早川光郎ほか『条解行政不服審査法(第2版)』(2020年・弘文堂)228頁)。
行政不服審査会等は、「国民の権利利益及び行政の運営に対する影響の程度その他当該事件の性質を勘案」して諮問が不要であると定める必要があります。この判断をする具体的な方法としては、個々の審査請求事件ごとに判断する方法のほか、裁決の蓄積等を踏まえて類型的に定める方法があります。ただし、後者の場合には、諮問の要否について審査庁の裁量的判断の余地を生じさせるのは適当でなく、その範囲を明確に定める必要があるとされます(前掲条解228〜229頁)。
3 想定される類型としては、①原処分の要件が法令において数量的指標等により明確・客観的に定められており、当該要件の適合性が客観的に判断される処分である場合、②他の法令の規定により原則として第三者機関の諮問が義務付けられているものの、軽微である、形式的・機械的に判断し得る等の理由から、当該第三者機関が諮問不要と認めた場合、③行政不服審査会等において類似の事案についての先例が蓄積され、調査審議をしても同じ結果になると当該行政不服審査会等が認める場合等が挙げられます(前掲条解228頁。その他の類型について前掲逐条解説243頁)。
4 お尋ねのケースでは、行政不服審査会から、①当該住民が、②これまでに提起した審査請求と同様の違法事由を主張して当該地方税の賦課処分の取消しを求める審査請求について、③審理員意見が棄却である場合は諮問不要との見解が示されています。
前記のとおり、諮問不要とする場合を類型化して示す場合には、諮問の要否について審査庁に裁量的判断の余地を生じさせないよう、その範囲を明確に定める必要があります。この点、②については、違法事由の主張が従前の審査請求のコピー&ペーストであるような場合は格別、そうでない場合には、主張の同一性について審査庁に裁量的判断の余地が生じる可能性があります。
また、①については、「当該住民」による審査請求という属人的な要件の妥当性に疑問があります。前記の想定される類型は、処分の性質(指標の明確性・客観性、軽微性、機械的・形式的判断)や事案の類似性に着目しており、審査請求人が誰かという点を取り上げるものではありません。属人的な要件を定めることは、行政不服審査会に諮問され、第三者の立場からのチェックを受けるという審査請求人の利益について、審査請求人を区別して取り扱うことになりますが、そのような区別をする実質的合理性の説明は困難と思われます。
さらに、③について、審理員意見が棄却である場合、審査請求人としては、行政不服審査会への諮問によってこれが覆る可能性を期待するのが通常であることからすると、やはり要件として疑問があると言わざるを得ません。
5 審査庁としては、かかる類型化により諮問不要との取扱いはできないと判断し、行政不服審査会へ諮問すべきです。諮問を受けた行政不服審査会は、案件ごとの個別判断として諮問不要とする対応をとることになります。
 

〇行政不服審査法
第43条 審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、審査庁が主任の大臣又は宮内庁長官若しくは内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法第3条第2項に規定する庁の長である場合にあっては行政不服審査会に、審査庁が地方公共団体の長(地方公共団体の組合にあっては、長、管理者又は理事会)である場合にあっては第81条第1項又は第2項の機関に、それぞれ諮問しなければならない。
一〜四 略
五 審査請求が、行政不服審査会等によって、国民の権利利益及び行政の運営に対する影響の程度その他当該事件の性質を勘案して、諮問を要しないものと認められたものである場合
以下略
第81条 地方公共団体に、執行機関の附属機関として、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するための機関を置く。
2 前項の規定にかかわらず、地方公共団体は、当該地方公共団体における不服申立ての状況等に鑑み同項の機関を置くことが不適当又は困難であるときは、条例で定めるところにより、事件ごとに、執行機関の附属機関として、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するための機関を置くこととすることができる。
3・4 略