市民が企画したイベント情報の市報への掲載をめぐる対応

当市発行の市報には、市の事業紹介や市が主催のイベントのお知らせのほかに、市民が、自分が企画したイベント情報を発信できる「みんなの広場」というコーナーがあります。掲載基準として、市民を対象にしたイベントであること、参加費が安価であること、政治・宗教・営利目的ではないこと等を定めてホームページ等で公表しています。実際の運用として、掲載希望が多かった場合には紙面の都合上という理由でお断りすることもあります。
この度、ある市民から「A公園廃止を阻止するための決起集会」を「みんなの広場」に掲載してほしいとの申出を受けました。A公園とは、当市が設置管理している公園ですが、近隣住民からの苦情や地権者との関係で、近く廃止予定です。
イベント名から「(市政に関する)政治目的のイベント」と判断し、掲載をお断りしたところ、「都市公園のあり方をみんなで考える会」と名を変えて再度掲載の申出をしてきました。内容としては同じイベントのようなので「政治目的」と判断して掲載拒否をしてもよいのでしょうか。また、掲載拒否は、表現の自由を侵害する差別的取扱いである、などと反論された場合、どう答えればよいのでしょう。

(結論)
掲載するかしないかは、編集権を持つ貴市が判断すべきものであり、どちらの結論も考えられます。

(理由)
 参考裁判例として、平成30年5月18日東京高裁の「九条俳句不掲載損害賠償請求事件」を紹介します。公民館利用団体が提供した俳句を公民館だよりに掲載することが恒例となっていたところ、「梅雨空に「九条守れ」の女性デモ」という句について、「政治的な内容が含まれているので、公平中立の立場であるべき公民館だよりへの掲載は適切ではない」という理由で、掲載を拒否した事案です。
 裁判では、公民館だよりを編集していた職員に国家賠償法上の違法を認め、第一審(さいたま地裁平成29年10月13日)では慰謝料5万円、控訴審では慰謝料5000円を認定しました。平成30年12月21日、最高裁が上告を棄却したため、控訴審が確定しました。
 原告は、不掲載取扱いによって表現の自由が侵害された旨主張しましたが、裁判では「特定の媒体による表現行為を制限されたにすぎず、同人誌やインターネット等の様々な媒体による表現行為そのものが制限されたわけではない上」に、そもそもこのような掲載拒否が表現の自由を侵害する、というためには、表現者が、当該表現利用権(ここでは「公民館だよりへの掲載請求権」)を有することが必要と解されるところ、公民館だよりは「(編集権限を持つ職員が)公民館だよりの紙面を彩るために有効であると掲載することを決めた場合、俳句を掲載するというものに過ぎなかった(掲載請求権を有するとはいえない)」として表現の自由の問題にはならない、と判断しています。
 違法と判断されたのは、公民館の職員は、公民館が住民の教養の向上、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与する目的・役割を果たせるように、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の実現につき公正に取り扱うべき職務上の義務を負うにもかかわらず、住民の学習成果の発表行為につき、思想、信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをした、という点です。
 この裁判で示された考え方を、本件に照らし合わせてみましょう。
 「みんなの広場」というコーナーは、掲載基準に沿った内容について、紙面の都合がつけば掲載する、という運用をしています。また、たとえ市報に掲載されなくても、別の媒体でイベントの周知をすることは自由です。たとえ掲載拒否をしたとしても、そもそも市報への掲載請求権が認められない以上、表現の自由を制限した、という問題にはならないと思われます。
 では、掲載拒否した場合、「国家賠償法上違法な差別的取扱い」に該当するでしょうか。
 裁判例では、社会教育法及び地方自治法第244条第3項を根拠に、公民館という公の施設(※前号の「自治体法務Q&A」参照)の役割を認定し、その職員に、「公民館が住民の教養の向上、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与する目的・役割を果たせるように、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の実現につき公正に取り扱うべき職務上の義務」を認定した上で、特定の俳句の掲載拒否をしたことについて「住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、その思想、信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをした」と判断しています。
 しかし、市報の発行に関しては、特に法律の定めはありません。市報は市の事業紹介や市が主催のイベントのお知らせのために発行するものであり、「公民館だより」よりも市報の方が編集者の編集権の裁量は広いものと考えられます。
 このように、市側に市報の編集権があることを前提にした上で、どのように対応するのが望ましいでしょうか。
 「イベント内容の詳細は各団体に直接お問い合わせください」等、市主催のイベントと混同されないように注記の上で、イベント情報を掲載するという対応が考えられます。
 「市報に、市の政策に関する民間イベント情報を掲載することは、読者に、市が当該イベントに賛同して情報提供しているとの誤解を招くおそれがある」として、市報の中立性、ひいては公務の円滑な遂行を維持する目的で掲載を拒否するという対応も考えられます。
 また、ある自治体の市報では、市民からの情報掲載コーナーが存在しないものもあります。
 市報の編集は、自治体ごとに異なっていて当然です。貴市の発行する市報の目的や役割等を踏まえ、また、掲載申出に対する対応が「不公正」と見られるようなものになっていないか注意の上、どのように対応するのが望ましいか、考えてみてください。

〇地方自治法
(公の施設)
第244条 略
 2 略
 3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。