インターネットショッピングの利用に応じて付与されたポイントの利用

当市では、物品(地方自治法( 以下「自治法」といいます。)第239条第1項)等を、インターネットのショッピングサイトを利用して購入しています。当該ショッピングサイトは、購入額に応じて事業者からポイントが付与され、次回の商品購入の際に1ポイント=1円として利用できたり、ポイント数に応じて、事業者が指定する商品の中から、希望する商品と交換できたりする仕組み(以下「ポイントプログラム」といいます。)になっています。
地方公共団体が、このようなポイントプログラムにより、ポイントを次回の物品の購入に利用したり、交換対象の商品から地方公共団体として必要な物品を選んでポイントと交換したりした場合、自治法の財務関係規定や地方財政法の規定との関係で問題になることはないのでしょうか。また、貯まったポイントを利用しないまま、その権利を消滅させても問題はないでしょうか。

(結論)
自治法及び地方財政法との関係で直ちに問題は生じないと考えられますが、その債権にも一定の財産的価値があるため適切に行使すべきでしょう。

(理由)
1 御質問のようなポイントプログラムは、事業者と消費者との間の民法上の契約と評価され、ポイントの権利性や法的性質は当事者間の合意によって決定し、通例としては、事業者が約款等によりその内容を一律に定め、消費者がこれに合意するか否かを選択する、いわゆる附合契約であると解されています(『企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会報告書』(平成21 年1月)28頁)。
 このため、ポイントプログラムの法的性質は、個々の契約ごとに検討する必要がありますが、少なくとも、契約当事者である事業者と消費者との間でポイントに関して共通して有している意思は、ポイント付与の元になった取引とは別の何らかの給付を請求できる権利が付与されたものであるといえることから、対価を支払うことなく給付を受けることができる贈与契約であり、具体的には、何ポイント貯まった段階で、どのような給付を受けるのかにつき、受贈者である消費者の意思表示(特典の請求等)があって初めて贈与契約の目的物が確定するという、受贈者である消費者の意思表示が停止条件として機能し、他方で、約款により、贈与者である事業者は、受贈者からの特典の請求等の意思表示により目的物が確定するまでは、受贈者が選択できる贈与の目的物を変更する権利、さらには贈与契約を解除する約定解除権が与えられていると考えられ、これらをまとめるとポイントプログラム契約により消費者が得る債権(以下「ポイント債権」といいます。)は、受贈者による意思表示という停止条件が成就するまでは、贈与者により行使可能な約定解除権等を付与した停止条件付き贈与契約による債権であると評価されています(上田正勝『企業が提供するポイントプログラムの加入者(個人)に係る所得税の課税関係について』240頁)。 2 ところで、自治法上の「財産」とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいい(自治法第237条第1項)、このうち公有財産は同法第238条第1項各号に列挙されていますが、ポイント債権はそのいずれにも該当しません。
 次に、地方公共団体も、私法上の契約により私法上の債権(債務者に対して特定の行為を請求できる権利)を取得する場合があり、ポイント債権もこれに当たります。しかし、自治法は、「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利」を「債権」(自治法第240条第1項)とし、同法及び同法施行令に管理について規定しているものの、この「債権」に当たらない私法上の債権の管理等についての規定はありません。  そうすると公有財産にも自治法上の「債権」にも該当しない私法上の債権には、自治法上の「財産」や「債権」に関する規制は及ばないことになります。また、地方財政法においても、係る私法上の債権に関する規定は見当たりません。
3 公有財産にも自治法上の「債権」にも該当しない私法上の債権については、自治法及び同法施行令の「契約」に関する関係規定により履行の確保等の適正化を図ることになると考えられます。
 ただ、自治法第234条第1項の「契約」とは、地方公共団体の収入の原因又は支出の原因となる契約をいい(橋本勇『改訂版自治体財務の実務と理論―違法・不当といわれないために』(2019年・ぎょうせい)459頁)、収入とは、地方公共団体の各般の需要を充たすための支払の財源となるべき現金(現金に代えて納付される証券を含む。)の収納をいいます。
 そうすると、ポイントプログラムのような地方公共団体が受贈者となる贈与契約については、自治法の「契約」に関する規定の適用もないと考えられます。
4 以上から、ポイント債権の管理等については、自治法及び地方財政法に規定がなく、地方公共団体による行使について、自治法及び地方財政法との関係で直ちに問題は生じないと考えられます。  もっとも、ポイント債権にも一定の財産的価値があるため、地方公共団体は住民の利益に配慮して適切にこれを行使すべきでしょう。商品購入の際の値引きに利用できるのであれば積極的に利用して地方公共団体の支出を軽減すべきであって、貯まったポイント債権を漫然と消滅させることは不適当と思われます。

〇地方自治法
(財産の管理及び処分)
第237条 この法律において「財産」とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう。
(以下略)
(公有財産の範囲及び分類)
第238条 この法律において「公有財産」とは、普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(基金に属するものを除く。)をいう。
一 不動産
二 船舶、浮標、浮桟橋及び浮ドック並びに航空機
三 前二号に掲げる不動産及び動産の従物
四 地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利
五 特許権、著作権、商標権、実用新案権その他これらに準ずる権利
六 株式、社債(特別の法律により設立された法人の発行する債券に表示されるべき権利を含み、短期社債等を除く。)、地方債及び国債その他これらに準ずる権利
七 出資による権利
八 財産の信託の受益権
(以下略)
(債権)
第240条 この章において「債権」とは、金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利をいう。
(以下略)