指定管理者制度をめぐる諸問題

 ① 当市では、市のスポーツ施設について、A社を5年の期間で指定管理者として指定しました。ところが、1年目の半ばにA社から、B社の子会社になったとの連絡がありました。当市はあくまでA社を指定管理者として指定したのであり、指定期間の途中での「子会社化」は、どこかしっくりこない気持ちです。このような場合に、当市は再度の議決を得て、A社に対する指定をやり直す必要があるでしょうか。
 ② 当市では、すでに指定管理者制度を導入している既存施設に隣接する形で、別の施設の建設が進められています。この新施設についても指定管理者制度を導入するために設置条例を制定する予定ですが、このような場合に既存施設の指定管理者の業務の範囲を広げ、新施設もその指定管理の範囲に含めることは可能でしょうか。また、指定の期間の途中で、そのような範囲の変更を行うことは可能でしょうか。

(結論)
 ① 再度の指定をする必要はありません。
 ② 複数施設を対象に、一括して一つの指定管理者を指定することは可能ですが、その合理性については十分な検討が必要です。また、指定管理期間中に管理する施設の範囲を変更するためには、再度の指定の手続が必要であると考えられます。

(理由)
1 指定管理者制度の留意点
 公の施設の管理・運営について、民間事業者のノウハウを活用することで、より効果的に各施設の設置目的を達成すべく、平成15年に指定管理者制度が施行されました。
 指定管理者は、議会の議決を経ることにより指定され、条例の定めるところにより、自ら使用許可を行うなど地方公共団体に代わって公の施設の管理、運営を行うことが可能です。もっとも、目的外使用許可、使用料の強制徴収といった、法令により地方公共団体の長のみが権限を有する行為については、条例によっても指定管理者に行わせることができないことには注意が必要です。
 指定管理者制度の運用については、既に多くの実例が積み重ねられていますが、法令上は必ずしも明らかでない点もあり、各地方公共団体において、その制度趣旨に照らした適切な運用を検討しなければいけない場面があります。

2 ①について
 一般に株式会社では、出資者である株主が会社運営にかかる議決権を有することになり、この議決権を行使することで、実際に経営を行う取締役の選任など、重要事項の決定を行います。
 そのような株主は個人の場合もあれば、会社である場合もあり、ある会社の多数の株式(原則として過半数)を別の会社が保有している場合に、両会社には親子関係があるといわれることになります。
 本件では、指定管理者に指定したA社が突然に子会社化してしまったとのことで、質問者は、会社の経営方針が変わるなどして、指定管理業務の遂行に影響が生じることを危惧されているのではないかと思われます。
 確かに、先に述べた通り、親会社がその議決権の行使を通じて、子会社の経営に事実上の影響力を及ぼす可能性があることは否定できません。
 しかし、株主が変わったのだとしても、A社の法人格には変更はありませんので、このことによる従前の指定の効力への影響はなく、再度の指定(議決)は不要であるということになります。
 子会社化によってA社の業務に実質的な影響があるのではないかとの懸念については、具体的な事象が生じた場合に、その状況に関する報告を求め、あるいは実地の調査を行うなどした上、是正の指示をすることで対応をするほかありません(自治法244条の2第10項)。そして、そのような方法によっても是正できない支障が生じた場合には、管理業務の停止や指定の取消しを検討することになります(自治法244条の2第11項)。

3 ②について
 法令上、一の指定管理者が管理をする施設の範囲を限定する規定はありませんので、複数の施設を一括して指定管理の対象とすることは可能です。
 例えば、㋐同種の複数の施設や㋑複数の施設が合築された複合施設を対象とするような場合には、一括して指定管理を行うことで、経費の削減やサービスの向上を期待することができます。
 ところで、本件では、既存施設の指定管理者に新施設の指定管理も委ねることが検討されているとのことです。
 指定管理者の選定に当たっては、健全な競争原理が働くことが望ましいと考えられますので、隣接した施設の指定管理者だからという理由で、安易に新施設の管理を委ねることは慎まなければなりません。しかし、前述のようなメリットが見込まれ、新たに新施設の指定管理者を募集するよりも、市民にとってより効果的なサービスの提供につながることが見込まれるのであれば、一括指定を行うことも十分に考えられます。
 ただし、指定管理者の指定に当たっては、管理を行わせる施設の名称及び指定期間を明示して議決を得ることになりますので、この点について変更をするためには、再度の議決を経る必要があると考えられます。

○地方自治法
(公の施設の設置、管理及び廃止)
第244条の2
1~9 略
10 普通地方公共団体の長又は委員会は、指定管理者の管理する公の施設の管理の適正を期するため、指定管理者に対して、当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができる。
11 普通地方公共団体は、指定管理者が前項の指示に従わないときその他当該指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるときは、その指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。