公営住宅管理に係る問題
① 当市では市営住宅条例を設けて市営住宅を設置しています。市営住宅条例では入居者の義務として、家賃のほか、共益費(電気料など共用部分の使用に要する費用)を負担しなければならない旨を規定しています。ただし家賃と異なり、共益費の徴収の方法についての規定は特に設けていません。現在、市営住宅の共益費は、市営住宅の入居者から構成される自治会の役員が各入居者から徴収しています。しかし昨今、入居者の高齢化や空き住戸の増加に伴い役員(共益費の徴収者)のなり手が不足しており、自治会側から、市営住宅の共益費の徴収を市で行ってもらえないかという依頼を受けることがあります。共益費を家賃と一括して市が入居者から徴収することはできるのでしょうか。徴収することができる場合、条例に何らかの規定を設ける必要があるでしょうか。
② ①の場合に、市営住宅の入居者で構成される自治会の自治会費を家賃・共益費と併せて徴収することはできるでしょうか。
(結論)
① 入居者が行うべき共用部分の管理業務を市が代行して行う旨の契約を自治会(の代表者)と締結することで、共益費を家賃と一括して入居者から徴収することが可能になると考えます。
② 自治会費は自治体の歳入になり得ませんので、原則として市が徴収することはできないと考えられます。
(理由)
1 市営住宅の共益費の性質
住宅に困窮する低額所得者が健康で文化的な生活を営めるよう、地方自治体は公営住宅を整備し、低廉な家賃で低額所得者に賃貸を行わなければなりません(公営住宅法第3条)。公営住宅の整備や入居者の資格、賃料に関する詳細は各自治体の条例によって定められ、自治体は条例の規定に基づき、毎月、公営住宅の入居者から賃料を徴収することになります。
ところで、市営住宅のような集合住宅には、廊下やエレベーターなど入居者が共同で使用する設備や施設があります。このような共用部分の水道光熱費や修繕費を賄うため、民間の賃貸住宅では家賃とは別に共益費を徴収してこれらに充てることが行われています。
公営住宅法は公営住宅の入居者から敷金を徴収することを認めている一方(公営住宅法第18条第1項)、「公営住宅の使用に関し、その入居者から家賃及び敷金を除くほか、権利金その他の金品を徴収し、又はその入居者に不当な義務を課することができない」とも規定しています(公営住宅法第20条)。しかし、公営住宅法第20条が徴収を禁止しているのは、家賃以外の権利金、礼金などであり、共益費はここにいう徴収を禁止された金品や不当な義務には当たらないと考えられています。
2 徴収の方法
もっとも、自治体が徴収した金員は、債権の担保又は法令の規定に基づき歳入歳出外現金として保管することが認められているもの(地方自治法第235条の4第2項)以外は、全て自治体の歳入として扱わなければなりません。共益費は債権の担保ではなく、またその徴収について法令の規定があるわけでもないので歳入歳出外現金とすることはできず、市が徴収するのであれば、必ず歳入として扱うことになります。この場合、歳入として扱う根拠が問題となります。
多くの自治体では、共益費を徴収する根拠が公営住宅法にないことから、共用部分の使用に要する費用は入居者が負担する旨を条例で規定し、実態として入居者で構成される自治会の役員が共益費の徴収を行っており、本件も同様となっています。この場合、共用部分は自治会(又はその代表者)が個別に水道契約や修繕に関する契約を締結して、徴収した共益費を原資に水道光熱費や修繕費の支払いを行うことになります。
この、自治会が個別に契約を締結して行うべき共用部分の水道光熱費や修繕費の支払いについて、自治会と市との間で委託契約を締結し、これらを市が代行して行う代わりに自治会は市に対して委託料(としての共益費)を支払うこととすれば、市は徴収した金員を歳入として扱うことが可能になります。共益費の徴収は契約に基づいて行うことになりますので、条例に追加の規定を設ける必要はありません。
3 自治会費について
これに対し、自治会費は、地域のイベントやお祭りなどの活動の資金として自治会の会員から徴収される費用です。これらの活動は市営住宅の共用部分の使用に要する費用とは異なり、市が委託を受けて行うのにはなじみませんので、市の歳入とすることはできません。
なお、一部の金融機関では、自治体と協定を締結して自治体が手数料を支払うことで、一括して徴収した金員の送金先を複数の口座に分けるという取扱いを受け付けているようです。この方法を用いて一括して徴収した金員のうち自治会費部分のみを自治会の口座に送金してもらうことができれば、自治会費を家賃や共益費と併せて徴収することも可能と思われます。ただし、自治会は地域住民による住民自治組織であり、任意加入の団体です。家賃や共益費とともに自治会費の徴収を行う場合には、自治会への加入を強要することにならないよう、自治会は任意加入の団体であることや自治会費のみ支払わないことも可能であることの説明を入居者に対して行い、自治会に加入することに合意をした入居者からのみの徴収としなければならないことに注意が必要です。
〇公営住宅法
(公営住宅の供給)
第3条 地方公共団体は、常にその区域内の住宅事情に留意し、低額所得者の住宅不足を緩和するため必要があると認めるときは、公営住宅の供給を行わなければならない。
(敷金)
第18条 事業主体は、公営住宅の入居者から3月分の家賃に相当する金額の範囲内において敷金を徴収することができる。
2・3 略
(家賃等以外の金品徴収等の禁止)
第20条 事業主体は、公営住宅の使用に関し、その入居者から家賃及び敷金を除くほか、権利金その他の金品を徴収し、又はその入居者に不当な義務を課することができない。
〇地方自治法
(現金及び有価証券の保管)
第235条の4
2 債権の担保として徴するもののほか、普通地方公共団体の所有に属しない現金又は有価証券は、法律又は政令の規定によるのでなければ、これを保管することができない。
1・3 略
① 入居者が行うべき共用部分の管理業務を市が代行して行う旨の契約を自治会(の代表者)と締結することで、共益費を家賃と一括して入居者から徴収することが可能になると考えます。
② 自治会費は自治体の歳入になり得ませんので、原則として市が徴収することはできないと考えられます。
(理由)
1 市営住宅の共益費の性質
住宅に困窮する低額所得者が健康で文化的な生活を営めるよう、地方自治体は公営住宅を整備し、低廉な家賃で低額所得者に賃貸を行わなければなりません(公営住宅法第3条)。公営住宅の整備や入居者の資格、賃料に関する詳細は各自治体の条例によって定められ、自治体は条例の規定に基づき、毎月、公営住宅の入居者から賃料を徴収することになります。
ところで、市営住宅のような集合住宅には、廊下やエレベーターなど入居者が共同で使用する設備や施設があります。このような共用部分の水道光熱費や修繕費を賄うため、民間の賃貸住宅では家賃とは別に共益費を徴収してこれらに充てることが行われています。
公営住宅法は公営住宅の入居者から敷金を徴収することを認めている一方(公営住宅法第18条第1項)、「公営住宅の使用に関し、その入居者から家賃及び敷金を除くほか、権利金その他の金品を徴収し、又はその入居者に不当な義務を課することができない」とも規定しています(公営住宅法第20条)。しかし、公営住宅法第20条が徴収を禁止しているのは、家賃以外の権利金、礼金などであり、共益費はここにいう徴収を禁止された金品や不当な義務には当たらないと考えられています。
2 徴収の方法
もっとも、自治体が徴収した金員は、債権の担保又は法令の規定に基づき歳入歳出外現金として保管することが認められているもの(地方自治法第235条の4第2項)以外は、全て自治体の歳入として扱わなければなりません。共益費は債権の担保ではなく、またその徴収について法令の規定があるわけでもないので歳入歳出外現金とすることはできず、市が徴収するのであれば、必ず歳入として扱うことになります。この場合、歳入として扱う根拠が問題となります。
多くの自治体では、共益費を徴収する根拠が公営住宅法にないことから、共用部分の使用に要する費用は入居者が負担する旨を条例で規定し、実態として入居者で構成される自治会の役員が共益費の徴収を行っており、本件も同様となっています。この場合、共用部分は自治会(又はその代表者)が個別に水道契約や修繕に関する契約を締結して、徴収した共益費を原資に水道光熱費や修繕費の支払いを行うことになります。
この、自治会が個別に契約を締結して行うべき共用部分の水道光熱費や修繕費の支払いについて、自治会と市との間で委託契約を締結し、これらを市が代行して行う代わりに自治会は市に対して委託料(としての共益費)を支払うこととすれば、市は徴収した金員を歳入として扱うことが可能になります。共益費の徴収は契約に基づいて行うことになりますので、条例に追加の規定を設ける必要はありません。
3 自治会費について
これに対し、自治会費は、地域のイベントやお祭りなどの活動の資金として自治会の会員から徴収される費用です。これらの活動は市営住宅の共用部分の使用に要する費用とは異なり、市が委託を受けて行うのにはなじみませんので、市の歳入とすることはできません。
なお、一部の金融機関では、自治体と協定を締結して自治体が手数料を支払うことで、一括して徴収した金員の送金先を複数の口座に分けるという取扱いを受け付けているようです。この方法を用いて一括して徴収した金員のうち自治会費部分のみを自治会の口座に送金してもらうことができれば、自治会費を家賃や共益費と併せて徴収することも可能と思われます。ただし、自治会は地域住民による住民自治組織であり、任意加入の団体です。家賃や共益費とともに自治会費の徴収を行う場合には、自治会への加入を強要することにならないよう、自治会は任意加入の団体であることや自治会費のみ支払わないことも可能であることの説明を入居者に対して行い、自治会に加入することに合意をした入居者からのみの徴収としなければならないことに注意が必要です。
〇公営住宅法
(公営住宅の供給)
第3条 地方公共団体は、常にその区域内の住宅事情に留意し、低額所得者の住宅不足を緩和するため必要があると認めるときは、公営住宅の供給を行わなければならない。
(敷金)
第18条 事業主体は、公営住宅の入居者から3月分の家賃に相当する金額の範囲内において敷金を徴収することができる。
2・3 略
(家賃等以外の金品徴収等の禁止)
第20条 事業主体は、公営住宅の使用に関し、その入居者から家賃及び敷金を除くほか、権利金その他の金品を徴収し、又はその入居者に不当な義務を課することができない。
〇地方自治法
(現金及び有価証券の保管)
第235条の4
2 債権の担保として徴するもののほか、普通地方公共団体の所有に属しない現金又は有価証券は、法律又は政令の規定によるのでなければ、これを保管することができない。
1・3 略