指定公金事務取扱者(地方自治法第243条の2)の従業員を「出納員その他の会計職員」とすることの可否

 当町では、町役場の総合窓口に町税を含む公金の支払いが可能なセミセルフレジを設置するに当たり、当該窓口に配置されている指定公金事務取扱者の従業員が、セミセルフレジから発行された領収書(レシート)に、当町のインボイス番号が印字されたものを交付(代理交付)し、又は当町の出納員若しくはその他の会計職員の領収印を押印することを検討しています。
 この点、地方自治法(以下「自治法」という。)第171条第2項は、「出納員その他の会計職員は、普通地方公共団体の長の補助機関である職員のうちから、普通地方公共団体の長がこれを命ずる。」と、また同条第4項は、「普通地方公共団体の長は、会計管理者をしてその事務の一部を出納員に委任させ、又は当該出納員をしてさらに当該委任を受けた事務の一部を出納員以外の会計職員に委任させることができる。」と定めていますが、当町の規則等で「収納の委託をする場合であって、町長が必要と認めるときは、指定公金事務取扱者を出納員等とみなすことができる」と定めることにより、指定公金事務取扱者の従業員を当町の「出納員その他の会計職員」とすることができるでしょうか。

(結論)
 町の規則等により、指定公金事務取扱者及びその従業員を「出納員その他の会計職員」とみなすことができる旨を定めることはできません。
(理由)
1 指定公金事務取扱者制度
 私人への公金の取扱事務の委託については、地方自治法の一部を改正する法律(令和5年法律第19号)により指定公金事務取扱者制度に改められ、これに伴う政省令の改正が行われました。
 指定公金事務取扱者制度は、普通地方公共団体の長が、公金の徴収若しくは収納又は支出に関する事務(公金事務)を適切かつ確実に遂行することができる者として政令で定める者のうち当該普通地方公共団体の長が指定するもの(指定公金事務取扱者)に、公金事務を委託することができる制度であり(自治法第243条の2第1項)、これにより原則として全ての歳入等の収納事務について、長の判断により指定公金事務取扱者への委託ができることになりました。この指定公金事務取扱者に歳入を納付したときに、納入義務者は、当該歳入の納入義務を履行したことになります(同法第243条の2の4第3項)。 適格請求書(インボイス)については、地方公共団体が私人への収納事務委託をした場合、商品やサービスの販売者である地方公共団体が発行すべきであるところ、媒介者交付特例(委託を受けた私人の名称と登録番号でインボイスを交付)又は代理交付(地方公共団体の名称と登録番号を記載したインボイスを交付)により、委託を受けた私人がインボイスを交付することが可能であるとされています(総務省『【令和6年8月29日版】地方公共団体におけるインボイス対応Q&A』Q65)。
2 出納員その他の会計職員
 出納員その他の会計職員は、会計管理者の事務を補助するものであり、普通地方公共団体の長が、補助機関である職員のうちから任命するものとされています(自治法第171条第2項)。この「補助機関である職員」とは、自治法第172条第1項に定められた、普通地方公共団体の長が任免権を有する職員のことをいいます。
 長は、会計管理者をしてその事務の一部を出納員に委任させ、又は当該出納員をしてさらに当該委任を受けた事務の一部を出納員以外の会計職員に委任させることができるとされています(171条第4項)。この委任を受けた出納員又は会計職員は、自己の名と責任において当該委任を受けた事務の権限を行使することになります(松本英昭『新版逐条地方自治法第9次改訂版』(2017年・学陽書房)597頁)。よって、この委任に係る収納に関する領収書は、当該委任を受けた出納員又は会計職員の名義で発行することになります。質問されている町では、財務会計規則において、領収書に出納員又は会計職員が押印することが定められているものと思われます。
3 質問の検討
 質問では、町の規則等で、指定公金事務取扱者の従業員を「出納員その他の会計職員」とみなすことができる旨を定めることの可否が問われていますが、前記のとおり、自治法は出納員その他の会計職員を補助機関の職員から任命すると定めています。指定公金事務取扱者及びその従業員は補助機関の職員ではありませんので、規則等で指定公金事務取扱者及びその従業員を出納員その他の会計職員とみなすことができる旨を定めることは、自治法の規定に反するためできないと考えられます。よって、質問で想定されている、指定公金事務取扱者の従業員が、領収書(レシート)が発行される都度、町の出納員又はその他の会計職員の領収印を押印する対応はできないと考えられます。
 インボイスの交付については、前述のとおり媒介者交付特例又は代理交付によることができます。指定公金事務取扱者の従業員が町の出納員又はその他の会計職員の領収印を押印する対応はできない以上、インボイスとしての領収書は、媒介者交付特例により指定公金事務取扱者が発行し、交付することになると考えられます。

〇地方自治法
〔出納員その他の会計職員〕
第171条 会計管理者の事務を補助させるため出納員その他の会計職員を置く。ただし、町村においては、出納員を置かないことができる。
2 出納員その他の会計職員は、普通地方公共団体の長の補助機関である職員のうちから、普通地方公共団体の長がこれを命ずる。
3 出納員は、会計管理者の命を受けて現金の出納(小切手の振出しを含む。)若しくは保管又は物品の出納若しくは保管の事務をつかさどり、その他の会計職員は、上司の命を受けて当該普通地方公共団体の会計事務をつかさどる。
4 普通地方公共団体の長は、会計管理者をしてその事務の一部を出納員に委任させ、又は当該出納員をしてさらに当該委任を受けた事務の一部を出納員以外の会計職員に委任させることができる。この場合においては、普通地方公共団体の長は、直ちに、その旨を告示しなければならない。
5 略
(指定公金事務取扱者)
第243条の2 普通地方公共団体の長は、公金の徴収若しくは収納又は支出に関する事務(以下この条及び次条第1項において「公金事務」という。)を適切かつ確実に遂行することができる者として政令で定める者のうち当該普通地方公共団体の長が総務省令で定めるところにより指定するものに、この条から第243条の2の6までの規定の定めるところにより、公金事務を委託することができる。
2~10 略