水源地域保全条例

(令和6年3月8日更新)

【制定の状況】

〇 北海道などで外国資本が森林等の土地を取得している問題が契機となって、水源地域の土地取引の届出を義務付ける条例が、平成24年から27年にかけて、北海道をはじめ約3分の1の都道府県で制定された。また、平成30年3月に京都府で、令和4年3月に栃木県及び静岡県で制定され、令和6年1月1日時点では20道府県で制定されている。その状況は、以下のとおりである。

北海道

北海道水資源の保全に関する条例

平成24年3月30日公布

平成24年4月1日施行

一部平成24年10月1日施行

埼玉県

埼玉県水源地域保全条例

平成24年3月27日公布

平成24年4月1日施行

一部平成24年10月1日施行

群馬県

群馬県水源地域保全条例

平成24年6月26日公布

平成24年6月26日施行

一部平成24年10月1日施行

茨城県

茨城県水源地域保全条例

平成24年10月3日公布

平成24年10月3日施行

一部平成25年1月1日施行

議員提案
山梨県

山梨県地下水及び水源地域の保全に関する条例

平成24年12月27日公布

平成24年12月27日施行

一部平成25年4月1日施行

山形県

山形県水資源保全条例

平成25年3月22日公布

平成25年4月1日施行

一部平成25年10月1日施行

福井県

福井県水源涵養地域保全条例

平成25年3月22日公布

平成25年4月1日施行

一部平成25年10月1日施行

長野県

長野県豊かな水資源の保全に関する条例

平成25年3月25日公布

平成25年3月25日施行

石川県

水資源の供給源としての森林の保全に関する条例

平成25年3月25日公布

平成25年4月1日施行

一部平成25年10月1日施行

岐阜県

岐阜県水源地域保全条例

平成25年3月25日公布

平成25年4月1日施行

一部平成25年10月1日施行

令和3年1月1日改正施行

富山県

富山県水源地域保全条例

平成25年3月27日公布

平成25年4月1日施行

一部平成25年10月1日施行

徳島県

徳島県豊かな森林を守る条例

平成25年12月19日公布

平成26年4月1日施行

一部平成26年10月1日施行

議員提案
新潟県

新潟県水源地域の保全に関する条例

平成25年12月27日公布

平成25年12月27日施行

一部平成26年7月1日施行

宮崎県

宮崎県水源地域保全条例

平成26年3月17日公布

平成26年3月17日施行

一部平成26年8月20日施行

秋田県

秋田県水源森林地域の保全に関する条例

平成26年3月28日公布

平成26年4月1日施行

一部平成26年10月1日施行

滋賀県

滋賀県水源森林地域保全条例

平成27年3月23日公布

平成27年4月1日施行

一部平成28年1月1日施行

三重県

三重県水源地域の保全に関する条例

平成27年7月10日公布

平成27年7月10日施行

一部平成28年1月1日施行

京都府

京都府森林水源地域の保全等に関する条例

平成30年3月30日公布

平成30年3月30日施行

一部平成30年9月1日施行

栃木県

栃木県水源地域保全条例

令和4年3月23日公布

令和4年4月1日施行

一部令和5年4月1日施行

静岡県

静岡県水循環保全条例

令和4年3月29日公布

令和4年7月1日施行

 

【制定の背景】

〇 全国の都道府県で最初に公布されたのは、北海道条例である。本条例については、①海外資本等による大規模な森林取得が明らかとなり、平成24年4月公表時点で57件、1,039haとなっている(平成23年時点では、全国のうち件数・面積ともに9割超が道内に集中している)、②そのうち、利用目的が「資産保有・転売等目的」、「未定」及び「不明」であるものが31件(72%)となっている、③道内の半数の市町村において水源地周辺に民有地を含んでおり、9割以上の市町村が、行政が関与できないまま水源地が売買されることを懸念している、ことなどから、水資源の保全のあり方等について道議会で議論がなされるとともに、庁内の横断的組織においても検討が進められ、土地利用規制など法令により既に規制がある事項や安全保障等都道府県の権限の範囲を超える事項については、国に法令改正や具体的な対応を求め、水源周辺の土地所有実態の把握など水資源の保全のための取組については、条例制定により対応することとした(北海道水資源の保全に関する条例逐条解説2頁)とされている。

〇 次に公布されたのが埼玉県条例であるが、県議会においてこの外国資本等による森林買収問題が議論となり、当時埼玉県内においては買収の実態は確認されていないものの、知事が「国家安全保障上、国が真剣に本来は検討すべきものだが、まず実態が先手を打って、国に強いメッセージを伝えて県民の不安を取り除く必要があるため、条例化の検討を進める」との答弁を行い、これを受けて条例制定作業が進められた(自治体法務研究2012年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「埼玉県水源地域保全条例」参照)とされている。

〇 平成30年に制定された京都府条例についても、「現在、府内では、農山村地域での大規模な取水や目的が不明確な外国資本による森林買収はないが、大規模な取水等は、府民の生活・農業・産業用水の確保や環境への影響が懸念され、一定の法的規制等の検討が必要」として、条例制定の検討が進められ(京都府水源地域等の保全のあり方検討専門家会議第1回会議(平成29年8月3日)資料1「水源地域等の保全のあり方検討の進め方について」参照)、制定に至っている。

〇 令和4年に制定された栃木県条例は、「国において本年6月に制定された重要土地等調査法の検討過程において、森林については、現行の法制度や地域の条例による管理を行うことにより、不適切な土地の利用を防止する効果が期待できるとの整理がなされ、同法に基づく所有権移転の事前届出等の制度の対象外とされた。こうした中、本年6月、栃木県議会において、知事から、水源地域の森林の重要性を県民と共有し、健全な姿で次の世代に引き継いでいくために必要な取組等を盛り込んだ「水源地域保全条例」(仮称)の本年度中の制定を目指す旨が表明された」ことを踏まえ、「水源地域保全条例(仮称)検討有識者会議」が設置され、検討が進められ(同有識会議「提言」(令和3年10月19日)はじめに)、制定された。

〇 また、令和4年に制定された静岡県条例の制定理由は、「地球温暖化に伴う気候変動や開発行為等の社会経済活動などが水循環に変化を生じさせ洪水、渇水、生態系への影響など様々な問題が顕在化しております。本県においては、伊豆半島における太陽光発電所の建設や熱海市伊豆山地区で発生した土石流災害などを契機として開発行為による水環境への影響を危惧する声が高まっております。こうした県民の皆様の不安を払拭するため、静岡県水循環保全条例を制定し健全な水循環を維持回復するための施策を流域全体で効果的に推進いたします。」(令和4年2月静岡県議会定例会「知事提案説明 」)とされている。令和3年7月に発生した熱海市土石流災害を踏まえ、水源保全地域内の土地取引や開発行為を事前に把握し、事業者への対応を的確に行うことができるようにすることをねらいとしている。

〇 なお、政府は、安全保障上の観点から防衛施設等の重要施設周辺や国境離島等における土地等の利用状況調査と利用規制を行うため、令和3年6月に「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(令和3年6月23日公布、公布から1年3か月以内に全面施行)を制定した。同法は、特別注視区域内における土地取引の届出を義務づけている。同法の内容等については、内閣府HP「重要土地等調査法」を参照されたい。

 

【条例の内容】

〇 上記20条例は概ね、水源地域等を指定し、当該地域内における土地の所有権の移転等を土地所有者等に事前に届出を義務づけ、必要な場合には、知事が助言、勧告を行い、勧告に従わない場合は、その旨公表できることを規定している。

 全ての条例は届出制としているが、許可制ではなく届出制としていることについて、「土地取引は、本来、買い手と売り手との合意があれば契約が成立する。この点については、民法上の原則とされ、また、憲法においても、個人の財産権や、土地取引などの経済活動の自由が保障されている。許可制については、全ての取引を一旦停止させることとなり、過度な私権制限と捉えられるおそれがある。」(前記自治体法務研究「埼玉県水源地域保全条例」参照)とされている。

 届出は、事前届出とし、土地の所有権の移転等に関する契約締結の一定前(30日前とするものが多いが、3月前、2月前、6週間前とするものもある)までに、知事に届けなければならないとしている。

〇 届出の対象となる地域は、知事が指定(石川県条例は、地域森林計画対象の民有林を対象としており、知事による指定行為はない)することとしているが、北海道条例、山形県条例及び岐阜県条例は水源の取水地点を中心とする区域及びその周辺区域に限定しているのに対し、他の条例は水源かん養機能を担う森林の存する区域等を広域的に対象としている。

〇 半数を上回る条例は、届出をせず、又は虚偽の届出をした者等には、5万円以下の過料に処するとしている(山梨県、山形県、福井県、岐阜県、富山県、岐阜県、徳島県、新潟県、滋賀県、三重県、京都府及び栃木県の条例。なお、福井県条例は3万円以下の過料、静岡県条例は命令違反に対して5万円以下の過料、徳島県条例は命令違反の場合には50万円以下の罰金)。

〇 上記20条例のうち、埼玉県、群馬県、茨城県、長野県、石川県、富山県、新潟県、宮崎県、秋田県、滋賀県及び栃木県の条例は、主として水源保全地域等の土地の取引の事前届出に関する事項を規定し、それに加え、北海道、山形県、福井県、徳島県、三重県及び岐阜県条例は水資源保全に関する施策等に関する事項を規定し、また、山梨県、福井県及び京都府条例は地下水の採取の規制に関する事項も併せて規定している。岐阜県条例は、令和3年1月1日改正施行により、水源地域内において開発行為を行う場合にも、知事への事前届出を義務づけて(岐阜県HP「岐阜県水源地域保全条例について」参照)、静岡県条例は、水循環の保全に関する県本部の設置、計画の策定、基本的施策等を規定するとともに、水源保全地域における土地取引及び開発行為の事前届出を義務づけている。

〇 市町村との関係については、地域指定に当たっては市町村長の意見を聞く(北海道条例は市町村長の提案等により指定、徳島県条例は市町村長の要請による指定も可、三重県条例は市町村長の提案による指定も可、京都府条例は市町村長の同意により指定)こととし、また、届出があった場合は、市町村長に通知し、意見を求めるなどの規定を置いている。

〇 林健一「水源地域の保全に向けた地方自治体の対応とその課題―水源地域保全条例の規定内容を中心にー」(中央学院大学社会システム研究所紀要15巻2号, 2015年3月)が、北海道条例から秋田県条例までの条例内容の詳しい分析をしている。

 また、栃木県水源地域保全条例(仮称)検討有識者会議第1回会議(令和3年7月19日)「資料」は、北海道条例から京都府条例までの条例について、規定項目比較表を掲載している。

 なお、北海道条例の内容、運用状況等については北海道HP「北海道水資源の保全に関する条例について」を、長野県条例の内容、運用状況等については長野県HP「長野県豊かな水資源の保全に関する条例」を参照されたい。

 

【市町村の条例】

〇 この水源地域保全条例については、主として都道府県において制定されている。北海道ニセコ町が、こうした外国資本による森林買収問題に対応するため全国で最初に水源保全条例を制定したと言われることがある。しかし、ニセコ町担当者は、「『外国人が水源林を買いあさり、それに対抗するためにニセコ町は条例を作った』というのが一部マスコミによる報道である。しかしニセコ町においてそのような売買事例は無いのが事実である。」(自治体法務研究2011年冬号CLOSEUP先進・ユニーク条例「ニセコ町水道水源保護条例・ニセコ町地下水保全条例」参照)としている。ニセコ町では、23年4月にニセコ町水道水源保護条例及びニセコ町地下水保全条例を制定しているが、これらの条例は、規制対象施設の設置の禁止や事前協議、地下水採取の許可について規定しているものの、土地取引に関しては規定を置いていない。

 なお、「水道資源保護条例」及び「地下水保全条例」については、別項で概観する。

〇 市町村条例において、水源地域の土地取引の届出を義務づけているもので確認できるものとしては、

岐阜県東白川村

東白川村水道水源保護条例

平成10年12月21日公布

平成11年4月1日施行

福井県大野市

大野市森・水保全条例

平成24年9月21日公布

平成25年4月1日施行

福井県鯖江市

鯖江市森林・里山保全条例

平成25年3月28日公布

平成25年4月1日施行

などがある。

〇 東白川村条例は、主として水源保護地域(村の水道の取水に係る水源地域で、村長が指定する区域)等における一定の事業所の設置を規制するものであるが、「水源保護地域内の土地所有者は、水源保護地域内の土地について土地売買等の契約を締結しようとする場合は、あらかじめ村長に届け出なければならない。」(16条1項)との規定を置いている。また、村長は、前項(16条1項)の届出のあったものの中で、東白川村に住所を有しない者に土地の権利を移転するものに限って、第1条の目的(村の水道の水源に係る水質の汚濁を防止し、清浄な水を確保するため、その水源を保護し、もって村民の生命及び健康を守ること)を遵守するため、条件を付することができる(16条2項)としている。

〇 大野市条例は、水源地域(山林又は保安林である地域)の保全を目的とするものであるが、1000㎡以上の土地売買等の契約契約を締結する場合は、30日前までに市長に届け出なければならない(8条1項)としている。また、市長は、届出に係る土地の利用について、水源地域の保全を図るために必要な助言を行う(11条1項)としている。

〇 鯖江市条例は、水源涵養機能を持つ森林・里山地域(山林又は保安林である地域)の保全を目的とするものであるが、1000㎡以上の土地売買等の契約契約を締結する場合は、30日前までに市長に届け出なければならない(8条1項)としている。また、市長は、届出に係る土地の利用について、水源地域の保全を図るために必要な助言を行う(11条1項)としている。



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