地域公共交通に関する条例

(令和6年1月14日更新)

【地域における公共交通問題】

〇 地域における公共交通の維持確保が、自治体にとって取り組むべき重要な課題となって久しい。従前より、マイカーの普及などにより、特に地方部において、公共交通機関の利用者が減少し、その結果、交通事業者が、運行便数を削減し、不採算路線から撤退するなどして、地域の公共交通ネットワークは縮小する傾向にある。そして、地域における過疎化、人口減少の進行が、それに拍車をかけている。一方で、公共交通は、通学、通勤、通院、買い物など住民が地域において生活するうえで重要な移動手段であり、特に自ら運転のできない学生・生徒、高齢者、障害者、妊婦等にとっては不可欠な存在である。そのため、自治体においては、単に交通事業者の採算ベースの経営判断に委ねるだけではなく、交通事業者が運行する赤字路線に対する財政支援を行い、また、交通事業者等との連携も図りながらコミュニティバスやデマンドバス・タクシー等を運行するなどの取り組みを行ってきた。さらに、交通事業者等と協議する場を設け、地域公共交通の維持確保のための計画を作成し、それに基づき総合的な対策を進める自治体も少なくない。今後の急速な高齢化の進展、人口減少を踏まえたコンパクトなまちづくり、インバウンドなどの観光客の受け入れ、地球温暖化対策などを考慮した場合、こうした取り組みは引き続き求められている。

〇 一方で、従前から運輸行政は国の役割として位置付けられ、地域における路線バスやタクシーなどの旅客自動車運送事業の許可をはじめとする交通事業者に対する各種の許認可等の権限は、原則として国が有している。国においても、こうした地域における公共交通を取り巻く状況は看過できない問題であり、これまで、関係法律の改正や新規法律の制定などがなされてきた。まず、そうした動きを時系列的に概観する。

(1)平成12年5月道路運送法の改正

 平成12年5月の道路運送法の改正(平成14年2月施行)により、乗合バス事業について需給調整規制が廃止され、事業への参入が免許制から許可制に変更されるとともに、事業からの退出が許可制から事前届出制に変更される等の規制緩和が行われた。新規事業者の参入、利用者ニーズに応じた運賃、サービスの多様化などが可能となる一方で、交通事業者の意思のみで路線廃止が可能となったため、路線バスの撤退等が進んだとされる。

(2)平成18年5月道路運送法の改正

 平成18年5月の道路運送法の改正(平成18年10月施行)により、自家用自動車による有償旅客運送制度(78条)が創設され、一般旅客自動車運送事業者によることが困難であり、地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため必要であることについて地域の関係者が合意している場合(79条の4第5項、道路運送法施行規則51条の7及び51条の8)において、市町村、NPO等が国土交通大臣の登録を受けたときは、自家用自動車による有償旅客運送が可能となった。また、乗合バス事業の対象範囲が拡大され、コミュニティバスやデマンド交通、乗合タクシー等もすべて乗合バス事業(一般乗合旅客自動車運送事業)に位置づけられる(3条1号イ)とともに、地域公共交通会議(長、自動車運送事業者、住民・旅客等により組織)を設置したうえで、地域のニーズに即した運行形態やサービス水準(ルート、運行頻度等)、運賃等について協議し、決定することができる(9条4項、道路運送法施行規則9条の2及び9条の3)とされた。改正法の内容については、国土交通省「道路運送法等の一部を改正する法律案について」を参照のこと(なお、法律案は原案通り可決されている)。

(3)平成19年5月地域交通活性化再生法の制定

 平成19年5月に地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(地域交通活性化再生法)が制定(平成19年10月施行)された。同法は、①地域が主体となって公共交通の活性化に向けた取り組みが行われるように、市町村、交通事業者等の関係者による協議会を設置し(6条)、②同協議会で、「地域公共交通総合連携計画」を作成し、③特に重点的に取り組むことが期待される事業については、国の認定を受けたうえで、関係法律の特例による支援措置が講じられることが可能になった。同法は、地域公共交通を「地域住民の日常生活若しくは社会生活における移動又は観光旅客その他の当該地域を来訪する者の移動のための交通手段として利用される公共交通機関」(2条1号)と定義づけている。同法の内容については、国土交通省HP「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律について」を参照のこと。

(4)平成25年12月交通政策基本法の制定

 平成25年12月に交通政策基本法が制定(平成25年12月施行)された。同法は、交通政策に関する基本理念やその実現に向けた基本的施策、国や地方公共団体の責務などを定めるとともに、国に交通政策基本計画の策定を義務づけている。地方公共団体については、「交通に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(9条1項)とするとともに、「交通に関する施策を、まちづくりその他の観点を踏まえながら、・・・総合的かつ計画的に実施するものとする。」(32条)としている。同法の内容については、国土交通省HP「交通政策基本法について」を参照のこと。

(5)平成26年5月地域交通活性化再生法の一部改正

 平成26年5月に地域交通活性化再生法が一部改正(平成26年11月施行)された。「従来の制度に基づく取組は、①まちづくりや観光振興など地域戦略との一体的な取組が不十分である、②総合的な交通ネットワークの計画づくりに欠け、局所的・個別的な取組にとどまっているなどの指摘がなされた」(自治体法務研究2016年春号特集手嶋一了「地域交通活性化再生法の一部改正」7頁)ことを踏まえ、①地方公共団体が中心となり、コンパクトなまちづくりと連携して、面的な公共交通ネットワークの再構築を図るため、従前の地域公共交通総合連携計画を「地域公共交通網形成計画」に改め、まちづくり施策との連携等も計画事項に位置づけることとし、②バス路線の抜本的見直しなど、地域全体の公共交通ネットワークを再編するための「地域交通再編実施計画」を作成し国の認定を受けた場合は、個別事業法上の特例を受けることができるとされた。改正法の内容については、国土交通省HP「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律について」を参照のこと。

(6)令和2年6月地域交通活性化再生法の一部改正

 地域交通活性化再生法は令和2年6月にさらに改正された(令和2年11月27日に改正施行)。「地方公共団体が、交通事業者等と連携して、①公共交通を中心に地域の輸送資源を総動員する交通計画を作成、②最新技術等も活用しつつ、既存の公共交通サービスの改善・充実を徹底するとともに、国が予算面とノウハウ面から支援を行うことで、持続可能な地域公共交通を実現」(国土交通省資料「令和2年度改正法概要」参照)することをねらいとし、①地方公共団体による「地域公共交通計画」の作成を努力義務とし、従来の公共交通サービスに加え、地域の多様な輸送資源(自家用有償旅客運送、福祉輸送、スクールバス等)も計画に位置づけること、②路線バス等の維持が困難と見込まれる段階で、地方公共団体が、関係者と協議してサービス継続のための実施方針を策定し、公募により新たなサービス提供事業者等を選定する「地域旅客運送サービス継続事業」を創設すること、③鉄道や乗合バス等における貨客混載を行う「貨客運送効率化事業」を創設すること、③等間隔運行、定額制乗り放題運賃、乗継ぎ割引運賃(通し運賃)等のサービス改善を促進する「地域公共交通利便増進事業」を創設すること、④MaaS(Mobility as a Service)に参加する交通事業者等が策定する「新モビリティサービス事業計画」の認定制度を創設することなどが盛り込まれている。改正法の内容については、国土交通省HP「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律について」及び山越伸浩「令和2年改正法による地域公共交通の活性化と再生ーコロナ禍からの復旧・復興への対応も含めた考察ー」(立法と調査 2020.7 No.426) を参照のこと。

(6)令和5年4月地域交通活性化再生法の一部改正

 地域交通活性化再生法は令和5年4月に改正された(令和5年4月28日改正公布、令和5年10月1日改正施行)。①地域の関係者の連携と協働の促進(法律の目的規定に「地域の関係者」の「連携と協働」を追加等)、②ローカル鉄道の再構築に関する仕組みの創設・拡充(地方公共団体又は鉄道事業者からの要請に基づき、国土交通大臣が組織する「再構築協議会」制度を創設し、協議会において「再構築方針」を作成等)、③バス・タクシー等地域公共交通の再構築に関する仕組みの拡充(地方公共団体と交通事業者が、一定の区域・期間について、交通サービス水準、費用負担等を定めた協定を締結して行うことができるよう「地域公共交通利便増進事業」を拡充等)、④鉄道・タクシーにおける協議運賃制度の創設(鉄道・タクシーについて、地域の関係者間の協議が調ったときは、国土交通大臣への届出により運賃設定を可能とする協議運賃制度を創設)等を内容としている。改正法の内容については、国土交通省HP「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律について」及び大嶋満「ローカル鉄道を始めとする地域公共交通の再構築-地域公共交通活性化再生法等改正案-」(立法と調査 2023.4 No.455) を参照のこと。

〇 地域公共交通の維持確保のため、独自に、また、上記の法律の制定・改正等を踏まえて、条例を制定している自治体がある。こうした条例は、大きく3つに分けることができる。

 まず、地域公共交通に関する基本条例・総合条例である。基本的には自治体の独自条例である。自治体の地域公共交通の政策に関して、基本理念、自治体や交通事業者等の責務や役割、基本的施策の方向等を定める基本条例としての性格を有するものと、これらの理念的規定に加えて、具体的な施策を定める総合条例としての性格を有するものがある。

 次に、コミュニティバス・デマンドバス等の運行条例である。自治体が、公営企業として自動車運送事業を経営する場合以外に、交通空白地域や不便地域の解消等を図るため、コミュニティバス、生活交通バス、デマンドバス、乗合タクシー等を運行することが多くみられる。この場合、市町村自らが道路運送法78条に基づき有償旅客運送事業として運行する方法と道路運送法第4条により許可を受けた一般乗合旅客自動車運送事業者に委託して運行する方法がある。前者の場合は、バス等は地方自治法244条の公の施設と考えられるため、条例を制定しその運行や使用料等について定めることが必要となる。後者の場合でも、条例を制定している事例が見られる。

 さらに、地域公共交通に関する会議や協議会等の設置条例である。道路運送法9条4項、同法施行規則9条の2及び9条の3条に基づく地域公共交通会議、道路運送法79条の4第5項、同法施行規則51条の7及び51条の8に基づく運営協議会、地域交通活性化再生法6条に基づく協議会等を設置する場合、また、これらの法令で定められた会議や協議会の機能に加えて独自の機能を持たせるものを設置する場合において、自治体の附属機関としてその所掌事務、組織等を条例で定めているものがある。

 以下、これらの条例について、それぞれのタイプに分けて、紹介する。

〇 なお、自治体法務研究は、地域公共交通問題を2回にわたり特集として取り上げている(2010年春号特集「地域公共交通問題-自治体が取り組む交通整備-」及び2016年春号特集「地域公共交通の課題と自治体の対応」)ので、参照されたい。また、「人口減少時代における地域公共交通のあり方 ―都市自治体の未来を見据えて―」(都市センター2015年3月)は、都市自治体の交通政策と地域公共交通のあり方に関する調査報告書であり、特に同報告書第5章「地域公共交通における条例の意義と課題」(駒澤大学法学部内海麻利)は、地域公共交通に関わる条例について詳しく論じている。

 

【地域公共交通に関する基本条例・総合条例】

〇 地域公共交通に関する基本条例・総合条例として、令和6年1月1日時点で確認できるものとして、以下のようなものがある。

石川県金沢市

金沢市における公共交通の利用の促進に関する条例

平成19年3月23日公布

平成19年4月1日施行

福岡市

公共交通空白地等及び移動制約者に係る生活交通

の確保に関する条例

平成22年3月29日公布

平成22年12月28日施行

石川県加賀市

加賀市地域交通基本条例

平成23年3月17日公布

平成23年4月1日施行

新潟市

公共交通及び自転車で移動しやすく快適に歩ける

まちづくり条例

平成24年7月2日公布

平成24年12月1日施行

熊本市

熊本市公共交通基本条例

平成25年3月27日公布

平成25年4月1日施行

奈良県

奈良県公共交通条例

平成25年7月17日公布

平成25年7月17日施行

香川県高松市

高松市公共交通利用促進条例

平成25年9月27日公布

平成25年9月27日施行

京都府長岡京市

長岡京市公共交通に関する条例

平成25年12月26日公布

平成26年4月1日施行

岐阜県岐阜市

岐阜市みんなで創り守り育てる地域公共交通条例

平成27年9月30日公布

平成27年11月1日施行

愛知県半田市

半田市地域公共交通条例

平成28年5月18日公布

平成28年5月18日施行

愛知県豊橋市

豊橋市の公共交通をともに支え育む条例

平成29年3月29日公布

平成29年4月1日施行

静岡県富士市

富士市公共交通利用促進条例

令和元年6月28日公布

令和元年7月1日施行

岐阜県白川町

みんなで創り・守り・育てる白川町地域公共交通条例

令和3年9月21日公布

令和3年9月21日施行

東京都北区

東京都北区地域公共交通基本条例

令和4年10月7日公布

令和4年10月7日施行

栃木県宇都宮市

宇都宮市みんなでつなげる公共交通基本条例

令和5年3月23日公布

令和5年4月1日施行

〇 金沢市条例は、「おそらく全国でも初めて、マイカーから公共交通への転換等による公共交通の利用促進を前面に打ち出した条例」(自治体法務研究2010年春号条例制定の事例CASESTUDY「金沢市における地域公共交通施策の取り組み」)とされる。金沢市は、非戦災都市であり、藩政時代からの街並みが残っている一方で、道路が狭く、慢性的な交通渋滞が発生しているため、歩行者と公共交通を優先するまちづくりを進めることとし、平成15年に「金沢市における歩けるまちづくりの推進に関する条例」を制定して、市民が身近な生活道路や商店街等を安全・快適に歩くことができるまちづくりを進め、平成18年には「金沢市における駐車場の適正な配置に関する条例」を制定して、中心市街地の駐車場の新増設を届出制にするとともに近郊においてパーク・アンド・ライド駐車場を計画的に配置することとした。さらに、自家用車から公共交通への転換によって公共交通の利用を促進するため、平成19年に制定されたのが、本条例である。

 基本理念(3条)並びに市、市民、事業者及び公共交通事業者の責務(4条~7条)を定めるとともに、基本的施策として、公共交通体系の実現、まちなか区域における公共交通の利用の促進、公共交通重要路線の利便性・利用促進及びパーク・アンド・ライドの利用促進(8条~11条)、具体的施策として、交通不便地域における地域交通計画の策定及び地域交通協定の締結(12条)、公共交通利用促進協定の締結(13条)、表彰(17条)等を規定し、併せて公共交通利用促進市民会議を設置する(18条)ものとしている。

〇 福岡市条例は、議員提案により制定されている。「福岡市においても,自動車に依存したライフスタイルの進展や需給調整のための規制の緩和により,乗合バスの不採算路線の廃止や縮小が相次ぎ,地域公共交通の衰退が現実のものとなっている。このことは,高齢者や障がい者の通院及び買物,子どもたちの通学などの日常生活に必要な移動の手段を奪うことになりかねず,ひいては地域社会の衰退を引き起こすことが懸念される」(前文)としたうえで、「公共交通空白地等及び移動制約者に係る生活交通の確保を図るため,市民,市民団体,市及び公共交通事業者の役割を明らかにし,生活交通の確保に関する施策を定めるとともに,市民,市民団体及び公共交通事業者による主体的な取組を促進する」(1条)ことを目的としている。

 市民の権利等(3条)、市及び公共交通事業者の役割(4条、5条)等を規定したうえで、公共交通空白地等に関する施策として、特別対策区域を指定して(9条)、必要な支援を行う(10条)とともに、移動制約者に関する施策を行う(11条)こととし、併せて福岡市地域公共交通会議を設置する(12条)ものとしている。本条例については、自治体法務研究2011年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「福岡市における生活交通の確保について ~公共交通空白地等及び移動制約者に係る生活交通の確保に関する条例~」を参照されたい。

〇 加賀市条例は、地域交通の確保に関する基本条例として制定されている。基本的な理念として、安全で円滑な地域交通の提供、地域交通の確保のための協働及び地域交通の総合的整備(3条~5条)を定め、市、地域交通事業者及び市民の責務(6条~8条)、財源の確保(9条)、地域交通基本計画の策定(10条)等を規定している。

〇 新潟市条例は、公共交通及び自転車で移動しやすく快適に歩けるまちづくりに関し、基本理念(3条)、市、市民、事業者及び公共交通事業者の責務(4条~7条)、施策推進の基本方針(8条)並びに基本計画の策定(9条)を定めるとともに、主要な施策(10条~21条)について規定している。施策として、歩行、自転車及び公共交通の3つの交通手段に関し、交通環境の整備、利用促進及び関係団体(まち歩き団体、自転車利用推進団体及び地域交通団体)の連携・協働について、具体的な規定を置き、まち歩き計画の実施に当たり市が区域内の住民・団体と協定を締結すること(11条2項)、パークアンドライドの利便性向上に関し市が事業者等と協定を締結すること(17条2項)、エコ通勤の推進に関し市が事業者と協定を締結すること(19条)等についても規定している。本条例については、新潟市HP「公共交通及び自転車で移動しやすく快適に歩けるまちづくり条例」を参照されたい。

〇 熊本市条例は、公共交通の維持・充実に関する基本条例として制定されている。熊本市は、「公共交通に特化した条例としては全国初」(熊本市HP「パンフレット「みんなで支える公共交通」」としている。市,公共交通事業者、事業者及び市民の責務(3条~6条)を定め、施策の基本方向として、公共交通ネットワークの強化、公共交通の利用の促進及び公共交通空白地域等への対応(7条~9条)を規定し、熊本市公共交通協議会を設置する(13条)ものとしている。

〇 奈良県条例は、議員提案により制定された、公共交通に関する基本条例である。地域公共交通に関する基本条例・総合条例としては、唯一の都道府県条例である。基本理念(2条)、県の責務(3条)、市町村との連携(4条)、公共交通事業者等の役割(5条)及び県民の役割(6条)を定め、公共交通基本計画の策定(7条)について規定している。本条例については、自治体法務研究2016年春号条例制定の事例CASESTUDY「奈良県公共交通条例」を参照されたい。

〇 高松市条例は、公共交通の利用促進に関する基本条例として制定されている。基本理念(3条)、市、公共交通事業者、市民及び事業者の責務(4条~7条)、利用促進施策の基本方針(8条)、公共交通利用促進計画の策定(9条)、実施状況等の公表(12条)等を規定している。本条例については、自治体法務研究2016年春号条例制定の事例CASESTUDY「高松市公共交通利用促進条例ー公共交通利用促進に向けた取組ー」を、高松市の公共交通施策の取り組みについては、高松市HP「地域公共交通の強化・推進」を参照されたい。

〇 長岡京市条例は、公共交通に関する基本条例として制定されている。市、市民、事業者及び公共交通事業者の責務(3条~6条)を定めるとともに、地域公共交通ビジョンの策定(7条)、公共交通の環境整備(8条)、意識の高揚等(9条)、表彰(10条)等を規定し、併せて、道路運送法施行規則9条の2に規定する地域公共交通会議の設置及び組織(12条、13条)に関する規定を置いている。本条例については、自治体法務研究2017年夏号条例制定の事例CASESTUDY「長岡京市公共交通に関する条例」を参照されたい。

〇 岐阜市条例は、地域公共交通に関する基本条例として制定されている。基本理念(3条)、市の責務(4条)、市民、事業者及び公共交通事業者の役割(5条~7条)、地域公共交通に関する基本施策(8条)等を規定している。なお、岐阜市は、平成26年5月の地域交通活性化再生法一部改正法に基づき、「地域公共交通網形成計画」を平成27年3月に策定し、また全国第1号となる「地域公共交通再編実施計画」を平成27年7月に策定している。これを踏まえ、市は「地域公共交通網形成計画に従い、基本施策を推進するものとする。」(9条1項)としている。岐阜市の公共交通については、岐阜市HP「公共交通」を参照されたい。

〇 半田市条例、豊橋市条例、富士市条例、白川町条例、北区条例及び宇都宮市条例は、公共交通又は地域公共交通に関する基本条例として制定されている。基本理念、自治体、住民、事業者、公共交通事業者等の責務や役割、基本施策等を規定している。

 このうち、半田市条例は、議員提案により制定され、道路運送法及びの地域交通活性化再生法に基づき設置される地域公共交通会議の開催(9条)についても規定し、豊橋市条例は、市職員の責務として「業務に伴う移動又は通勤においては、過度に自動車に頼ることなく、公共交通を積極的に利用するよう努める」(9条)との規定を置き、富士市条例は、基本計画の策定(8条)についても定めている。

 北区条例は、議員提案により制定されており、地域公共交通計画の策定(4条1項、8条)及び地域公共交通会議の設置・組織(15条、16条)についても定めている。また、地域公共交通の導入として、「区は、地域公共交通機能の向上を要する箇所については、公共交通事業者に協力を求めるとともにコミュニティバス、小型乗合交通・タクシー等(デマンド型等)(以下「コミュニティバス等」という。)を導入し、当該箇所の交通手段が確保されるよう努めるものとする。」(10条1項)、「区におけるバス等の交通体系は路線バスを基本とし、コミュニティバス等はこれを補完するものとする。」(10条2項)等を規定している。

 宇都宮市条例は、議員提案により制定されており、計画の策定(11条1項)についても定めている。また、「ネットワーク型コンパクトシティ」を「将来にわたって市民生活の質を維持し、及び向上し、安全かつ安心で持続的に発展できるまちを実現するため、市が独自に目指す、都市拠点、地域拠点、産業拠点、観光拠点等にまちの 機能を集約し、それらを利便性の高い公共交通等で連携した都市」、「階層性のある公共交通ネットワーク」を「都市拠点と各拠点の間を結ぶ放射状の基幹公共交通及び幹線公共交通を軸に、支線公共交通等が効率よく連携した階層性を有する公共交通ネットワーク」と定義づけた(2条6号、7号)うえで、公共交通の維持及び充実並びに利用の促進に関する基本理念の一つとして「階層性のある公共交通ネットワークの構築によるネットワーク型コンパクトシティの形成に必要不可欠であるとの認識の下に行われること」(3条2号)を掲げている。

〇 なお、南聡一郎「条文比較分析からみる公共交通条例の含意」(交通科学45巻2号2014年)及び香川正俊「公共交通の維持・利用促進に係る地方自治体の「基本条例」と各種政策」(産業経営研究35号2016年3月)は、金沢市条例から長岡京市条例までの各条例を分析し、解説している。

 

【コミュニティバス・デマンドバス等の運行条例】

〇 自治体が道路運送法78条に基づき有償旅客運送事業として運行するコミュニティバスやデマンドバス等の運行条例は、数多く制定されている。そのうち、いくつかの条例を紹介する。

愛媛県宇和島市

宇和島市コミュニティバスの設置及び管理運営等に

関する条例

平成17年8月1日公布

平成17年8月1日施行

岡山県美作市

美作市デマンドバス運行事業に関する条例

平成20年10月1日公布

平成20年10月1日施行

山口県岩国市

岩国市生活交通バス条例

平成20年12月25日公布

平成21年4月1日施行

宮崎県延岡市

延岡市コミュニティバス条例

平成23年12月26日公布

平成24年4月1日施行

高知県香美市

香美市地域公共交通事業に関する条例

平成25年12月20日公布

平成26年4月1日施行

大阪府太子町

太子町コミュニティバス運行に関する条例

令和2年2月23日公布

令和2年6月1日施行

である。

 運行するバスの名称は、コミュニティバス、生活交通バス等であり、運行形態によって、定時定路線バス、デマンド(予約乗合)バス等となっている。いずれの条例も、運行路線(運行区間)、使用料(利用料)、使用料(利用料)の減免、使用(利用、乗車)の制限(禁止)、損害賠償などについて規定している。宇和島市、岩国市、延岡市及び香美市の条例は委託について規定し、宇和島市条例は地方自治法244条の2第3項に基づく指定管理者による管理運営(15条)についても規定している。また、延岡市条例は「地方自治法・・・第244条の2第1項の規定に基づき、必要な事項を定めるものとする。」(1条)としており、公の施設として条例を制定する旨明確にしている。

 なお、美作市条例については、自治体法務研究2010年春号条例制定の事例CASESTUDY「美作市デマンドバス運行事業に関する条例」を参照のこと。

〇 道路運送法第4条により許可を受けた一般乗合旅客自動車運送事業者に委託して運行するコミュニティバスやデマンド型乗合タクシー等の運行条例としては、例えば、以下のようなものがある。

福岡県鞍手町

鞍手町コミュニティバス等運行条例

平成23年6月17日公布

平成23年10月1日施行

北海道下川町

下川町コミュニティバスの運行に関する条例

平成26年6月20日公布

平成26年10月1日施行

大分県豊前市

豊前市デマンド型乗合タクシーに関する条例

令和2年2月25日公布

令和2年4月1日施行

 これらの条例も、運行路線(運行区間)、使用料(運賃、料金)、使用料(運賃、料金)の減免、利用の制限などについて規定している。

 

【地域公共交通の会議・協議会等の設置条例】

〇 地域公共交通に関する会議や協議会等の設置条例としては、例えば、以下のようなものがある。

千葉県いすみ市

いすみ市地域公共交通会議設置条例

令和元年12月20日公布

令和2年4月1日施行

北海道津別町

津別町地域公共交通活性化協議会設置条例

令和2年3月23日公布

令和2年4月1日施行

北海道積丹町

積丹町福祉有償運送運営協議会条例

令和2年3月27日公布

令和2年4月1日施行

山梨県笛吹町

笛吹市地域公共交通会議設置条例

令和2年3月27日公布

令和2年4月1日施行

 いすみ市条例は道路運送法に基づく地域公共交通会議、津別市条例は地域交通活性化再生法6条に基づく協議会、積丹町条例は道路運送法に基づく福祉有償運送運営協議会、笛吹町条例は道路運送法及び地域公共交通活性化再生法律に基づく地域公共交通会議である旨を規定している(それぞれ1条)。また、いすみ市条例及び積丹町条例は、地方自治法第138条の4第3項の規定に基づく附属機関として設置するものであることを条例上明記している(いすみ市条例は2条、積丹町条例は1条)。

 いずれの条例も、所掌事務(協議事項)、組織(構成員)、任期、会長等、会議などを規定している。



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